第七話 勇者召喚とモブキャラ【001,002】
001.
春のまだ少し冷たい風が、僕の身体を冷やす。
モブ職の朝は早い。
今日は、勇者の召喚が行われる日だ。そのため、召喚が行われる前に様々な用意を行わなければならない。そのため、モブは朝日が顔を出さない時間から作業を行うのだ。
僕は今、はじまりの村の中心部に位置する噴水の石垣に座っている。本当はもっと寝ようと思っていたのだが、緊張のせいか早くに起きてしまったため、30分くらい前から村を眺めて皆を待っている。村は静寂に包まれ、まるで時が止まったかのように思える程だ。
暫くすると、続々とモブ職の仲間が集まって来た。
「おはよ~よく眠れた?」
あくびをしながら僕の方に歩いてきたのは、茜音さんだ。後ろには俯きながら、エレナさんがついてくる。
そして順々に、ルドルフさんやネビルさん、秋月さんが集合してくる。
「みんな集まったようだね。今日も一日、元気に怪我無く頑張ろうね。」
そう言ったのは秋月さんだ。
「今日はいよいよ勇者が召喚される日だ。勇者が最初に目覚める場所はこの噴水の正面右、丁度ネビルが今立っているところだ。」
そうルドルフさんは言い、ネビルさんの方を指さす。
「勇者がここに召喚されるのは朝の7時の予定で今5時だから、今からの二時間でまずこの村のギルド会館に行って食事の用意と会場の設営をしよう。それが終わったら、冒険者をかき集めてギルドに活気を出す仕事をしよう。じゃあ、まずはギルド会館に行くぞ。」
皆、ネビルさんの音頭でギルド会館に向かうことにした。
002.
「懐かしいねぇ。最後にここに来てから何年経つんだろうね。」
そう言って秋月さんは懐かしそうに建物を見上げる。
「秋月さん、このギルド会館ってなんなんですか?」
僕は今まで、この村に「ギルド会館」なるものがあるということを知らなかった。
自分の記憶が間違いなければ、巷でもあまり有名ではないと思う。
そもそも「ギルド」というのは冒険者が誰かからの依頼を受けて解決する代わりに、依頼主から報奨金を徴取する場所であり、酒場でもあり、多くの冒険者たちが集うある種のサロンである。
そのためその規模は必然的に大きくなり、人が集まらない場所には建つこと自体が稀有なのである。
この村は総人口が100人程度の規模が小さな村であり、魔王の棲む魔王城から最も遠いことも相まって「はじまりの村」と名付けられた、冒険初心者の多く集まる村である。そのため、大規模な施設が存在するのは不自然であるのだ。
「なんでこの村にはこんなに大きなギルド会館があるんですか?しかも僕、普段冒険者がこの施設を使っている姿を見たことがないんです。」
そう言うと秋月さんは少し笑いながら言う。
「この施設はね、勇者が召喚されるこの日、この行事のためにだけあるんだよ。」
僕は何故そんなもののためにこんな大きな施設が必要なのか、理由がわからずに首を傾げた。
「そもそも、なんでこの行事のためだけにこんな大きな施設を作る必要があるんですか?」
「だって、勇者は召喚された直後になんの道標もないまま、人っ子一人いないような場所に投げ出されたら困るでしょ?でも逆にあんまり魔王城に近い場所に召喚するとまだこの世界に慣れていない勇者には厳しすぎるし、魔王にもばれてしまう。だから、普段は人がいないこの村に召喚するのよ。」
茜音さんは僕にそう説明する。
このランド・パシフィコという村は、通称はじまりの村と呼ばれている。この町は魔王城から最も遠いため、魔王の率いる軍勢が非常に弱く、少ない。そのため、それらの魔物を討伐することで収益を上げている冒険者にとっては商売上がったりなのである。
この理由から、この町にはなかなか人が集まらず、この国の中でも人口が少ない町となっている。
そのため、もし何も準備しないまま勇者を召喚すると、召喚された勇者は異世界の、それも人っ子一人いない閑散とした町に突如として投げ出されることになってしまうのだ。それを防ぐためにも、村に多くの人を集めて活気を演出することは重要なのである。
「そしたら私とルドルフさんで食堂のおばちゃんを呼びに行って来るから、ここの会場の設営を頼むね。」
茜音さんは僕に指示を出し、僕は残った人たちとギルド会館の設営を行うことになった。
暫くして僕たちは、無事ギルド会館の設営を終えた。一方、茜音さんたちが呼んできた食堂のおばさんたちは裏で食事の準備を始めていた。
村や近隣の村から、秋月さんが連れてきた冒険者たちはそのギルド会館に続々と入場し、段々とそれは本来《・・》の活気を取り戻していった。




