冒頭文
私が書斎を漁っていると、それは飾り気の無い、しかし高級な事が見て分かる装丁の、妙に惹かれる本を見つけた。
題名は、戦争の記憶。 とても簡素なタイトルだ。
何故、この本に惹かれたのか、私の心にその答えを見出す事は出来ないが、今日はこれを読む事にしよう。
書斎机に本を置き、踊る心を押さえつけながら、表紙を開く。
最初のページには、冒頭文が書かれてた。
その内容はこうだ。
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終戦から、どれだけの時間が経っただろうか。
城下を行き交う人々には、活気があり、いつか見た鬱屈とした雰囲気は、過去のものとなって行く日々を感じる。
戦争の記憶は薄れつつある。
運命の神が、次はいつ気まぐれを起こすのか。
それを予見することは出来ないが、しばしの間、この平和と安寧を享受出来る事を願う。
家族、友人、仲間
かけがえのない人達を失った事に、後悔の念は絶えず、この虚しさを前にして勝利の喜びに浸った事は無い。
それでも生き続けなければならない、戦争を生き延びた者として。
平和の礎となって散って行った、老いも若きも、男も女も、敵も味方も
彼らの犠牲の上に、私達が立っていると言う事を忘れてはならない。
自戒として、そして彼らへの葬いとして、悲劇の戦争と、そこへ至る歴史を、私の知る限りで記し、これを後世に残したいと思う。
どうか、後の世に平和があらん事を。
そして、いつの日か、人々が戦争を克服する事を願って。
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ページの最後に、著者の名前がある。
その名前は・・・