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転・天誅撃滅




 その夜。三人は揃って、『夕餉のカマド』亭へと赴いていた。


「いらっしゃ……あ」


 硬い表情をした三人を出迎えたエラが、声を潜めて囁く。


「――いらっしゃい。奥の個室で、あの人達待ってるわよ」

「ありがとう、エラ」


 ――あれから、彼らはベラと名乗る女ともアーシュを待ち伏せた男とも接触していない。

 というのも、野郎部屋にメモが挟まっており、今夜この場へ来るよう記されていたのである。

 彼女に礼を述べ、示された先の廊下を通って個室の前へたどり着いた。


 こんこんっ。


「失礼。遅くなりました」


 扉を開けば、そこは窓のない密閉された空間だった。

 中央には丸いテーブルがあり、その周囲を沿うような形で柔らかそうなソファが据えられている。

 テーブル上には、すでに注文された品々――主に酒とつまみ――が並んでいた。

 密談には最適であると同時に、逃げ道はひとつしかない。

 一般の利用客にはあまり知られていないが、こういった部屋は珍しい存在ではなかった。

 関係のない他者に聞かれては困るくせに、その手の話を外でしたがる客は多いのだ。

 そんな客のニーズに応えるため、こういった離れの部屋を用意し、特別料金で貸し出す食堂、料亭は珍しくない。三人とて、存在は知っていても利用するのは初めてだった。

 中にいたのはベラと、三人は顔を知らない亜麻色の髪の男である。

 アーシュの話からは想像し切れなかったが、かなり大柄だ。

 ジェンドだけが顔を知っている三人の男と一人の女の姿はない。


「紹介するわね、あなたたち。こっちはエド。私の相棒よ」


 ベラの紹介を受けて、エド、というらしい亜麻色の髪の巨漢はぞんざいに、座ったまま一礼した。


「初めまして。レイルズです。こっちの緑髪が狩人のジェンド、こっちが治療師のキャロルです」

「――狩人がいるのか。そいつは丁度いい」


 レイルズの握手に力いっぱい応じながら、エドは豪快に笑っている。

 交渉の席だというのに、どうやらすでに出来上がっているらしい。

 通りで、テーブルの下に空き瓶が散らかっているわけだ。

 昼間のベラの言を思い出したのか、わずかにレイルズが顔をしかめた。

 彼は、それが強く握りすぎたと受け取ったらしい。

 悪ぃ悪ぃ、と明らかに悪く思っていない態度で彼の手を離した。


「すまねぇな。やっとあの女狼の尻尾を掴んだかと思うと、嬉しくてよ」

「――女狼?」

「今はアーシュ、とか名乗ってたか? あのハーフエルフのことだ」

「奴の通り名は灰色狼だから、女狐ならぬ女狼ってわけ」


 わかりやすいでしょ? と陽気に笑いかけるベラの頬も、うっすらではあるが赤みがさしている。


「さて……それで、その女狼捕獲作戦についてなんだけど……」

「――あなた方は、何故アーシュを捕まえようとしているんですか?」


 ベラの口上を遮り、それを尋ねたのはキャロルだった。

 白のブラウスにチェックのスカート。

 いつもの格好ではあるものの、その頭には見慣れぬキャスケットがあるため木の実型の眼は見えない。


「捕まえよう、というよりは……奴の持っている地図が欲しいのよ」


 交渉の席にして室内にも関わらず、大きめのキャスケットを取らない少女に、普段なら何か違和感を覚えていたかもしれない。

 だが、今の二人は前祝とばかりにアルコールを摂取している。

 ぼんやりとした思考で他人のファッションを気にするほど、敏感ではなかった。


「あの地図は、あなたたちのものだったから、ですか?」

「それを聞かれると言いにくいけど、違うわ。もともと私たち、灰色狼に憧れてトレジャーハンターを志した者同士なのよ」


 そこで言葉を切り、手にしたタンブラーの中身を飲み干す。

 タイミングよく、彼女の隣を陣取ったキャロルが酒瓶を取り上げ、酌をした。

 ありがと、と呟き、ベラの話は続く。


「生まれ育った街の広場とかでね、よく吟遊詩人たちが彼女を題材にして謳っていたの。数々の富を得し、名を上げ、孤高を貫く儚き妖精、アシュリー・プシュケ・アージェント……あたしがあなたくらいの頃だったかしら」

「半妖精かどうかは、実際この眼で確かめるまで眉唾だったがな。吟遊詩人が歌を人に聞いてもらうため、そういった誇張をやらかすのはよくある話だからよ」


 いわく、彼女はどこからともなくトレジャーマップを入手し、必ずといっていいほど財宝を手にした。

 そして、手に入れた財宝を大々的に宣伝、それらを公に好事家の金持ちや学者などに売りつけているのだという。

 めぼしい財宝を優先的に売ってもらうため、彼女と契約を結びたがる者が出現した。

 結果、トレジャーハンターとして他に類を見ない成功者と謳われることになる。


「そういや、結構前に噂で聞いたな。どっかのトレジャーハンターが大成功したから、そいつに憧れてトレジャーハンターが急増したって……」

「誰もが、そんな成功するわけないのにね」


 ジェンドの言葉に、ベラは自嘲的な笑みを零した。


「若さって怖いわね。そんな簡単なことにも気づけないんだもの。あたしも彼女のようになりたいと夢見て、親の反対を押し切りトレジャーハンターになったわ。だけど……そこまでだった」


 地図を手に入れるにも、けして安くない経費がかかる。

 そして何か収益があればどうにかとんとんにはなるものの、それが偽物であったり、すでに採掘された後であったり。

 そんなことはザラにあった。

 気づけば軍資金は底を尽き、食うや食わずの生活を強いられることになったのである。


「冒険者ならわかるでしょ? ただ冒険をするだけでは生きていけない……どんな価値があるかも、もしかしたらすでになくなっているかもしれない財宝を探すだけで生きていけるとは、確かに思わなかったわ。だけど、まさかトレジャーハンターを続けるためだけに稼がないといけないなんてね……」


 流れのトレジャーハンターにできる仕事など、低賃金のアルバイトか空き巣万引き引ったくりといったせせこましい犯罪しかない。

 食うにも困る生活の中、数少ないコネを確保するために各地を流れた分だけ故買商に頭を下げた。

 頭を下げるだけならまだいい。しかし、地図から得た分け前を半分寄越せだの、ふざけたことを宣う輩は多かった。

 優先的に仕事を回すかわりと、肉体関係を迫ってくる人間もいなかったわけではない。

 そしてとうとう――限界がやってきた。


「ある日ね、『手持ちの地図が尽きたから』ってお払い箱にされたのよ。珍しいことじゃなかったけど、手持ちがちょうどないときに食い扶持を失って、とぼとぼ歩いてたら――大通りの真ん中で、灰色狼に詰め寄るエドを見かけたの」


 初めは、暴漢がか弱い少女に因縁をつけて恐喝しているように見えたという。

 ところが。


『アシュリー・プシュケ・アージェントだな? 命が惜しけりゃ、お前の持つトレジャーマップをあるだけ寄越せ!』


 まるで熊が人語を話しているかのような銅鑼声で、彼と対峙する華奢な少女が『かの有名な』灰色狼であることをベラは知ったのだ。

 灰色、と呼ばれるからには、何かしらその色とかかわりがあるのかと思っていた。

 だが、当の本人の格好は白銀色の髪に質素ではあるがしっかりとした外套というもの。

 かろうじて灰色だったのは、頭部と耳のガードを努めるキャスケットだけだった。

 更に、吟遊詩人の謳う他者を寄せ付けない雰囲気も、実際の言動は程遠いものだと判明する。


『……のう、おぬし。自分が何をしているか、わかっておるのか? それは俗に強盗と呼ばれる行為じゃぞ』

『ウダウダ抜かすな! こっちはてめえのせいで失業してんだ、さっさと寄越せ!』

『妾が何をしたと?』

『今日、てめえはダルト家と契約しただろうが! あそこは俺の雇い主だったんだよ!』

『ほお。じゃが、あれはダルト家当主たっての希望じゃ。妾が媚を売った記憶はない』

『そんなもの知るか! てめえのせいで、こっちは明日からおまんま食い上げなんだよ! つべこべ言ってねえで……!』

『そのまま返そう。妾が知ったことではない。妾には何もできん』

『……!』


 正論、だった。だが同時に、認めがたく抱くのも苦々しい感情を覚える。

 それでも頭は、これが彼女に対する嫉妬だとはっきり認識していた。


『気持ちがわからぬでもないが、素直に強盗されるわけにはゆかぬ』


 気持ちがわからない、わけじゃない?


『成功しか知らねえてめえに、この苦しさがわかってたまるか!』


 恫喝と共に、白々とした刃が牙を剥く。

 ベラの抱いた思いをそのまま代弁したエドを嘲笑うかのように、灰色狼はわざとらしい『絹を引き裂いたような』悲鳴を上げた。

 我慢の限界を越えたエドが、腰の剣を抜き放ったのを見て、だ。


『助けてー!』


 予想外の展開に棒立ちとなったエドの隙を見逃さず、灰色狼は脱兎の勢いで駆け去った。

 そして抜き身の刃を携えたエドは、悲鳴を聞いて駆けつけた警邏隊に取り押さえられる。


『何をしている!?』

『お、俺は……!』


 商売敵に因縁をつけて、持ち物を強奪しようとした。

 そのまま正直に話すわけにもいかないエドを見て、気づけばベラは男と警邏隊の間に立っていたという。


『すみません。この人酔うと見境がなくって……ほんと、すいません』


 適当なことをでっち上げ、見知らぬ女性の出現に呆然としたままのエドを引っ張りその場を去った。

 戸惑いながらも礼を述べたエドに対し、ベラは奢りの酒をあおりながら談笑、そして身の上を話すに至り――意気投合したという。


「あたしたちがトレジャーハンターになったのは、確かに灰色狼に憧れたから。赤貧にあえいでいるのは、あの女のせいじゃないわ。でも――どうやって地図を手に入れているかくらい、教えてくれてもいいじゃない」


 それからは、二人で彼女の後を追い回した。

 どうやって地図を得るのか、その方法を知るため秘密裏に動向を探ったのだが、灰色狼はしっかりと感づいていたらしい。

 二人の張り付いた期間中、地図の仕入れは勿論のこと、探索にすら出かけなかったという。

 金に物を言わせて豪遊こそしていなかったが、路銀に余裕のない彼らを尻目に高級な宿を取るは、腰を落ち着けて食事を摂ることなく観光客向け――つまるところ普通の食堂より割り増し料金である各街の名物を食べ歩いて見せるは、およそトレジャーハンターらしくない生活ぶりしか観察できなかった。

 そして、彼女と自分たちのあまりの違いに、羨望や嫉妬をあっさり通り越した怒りが抑えようもなく湧き上がる。

 汚い安宿にしか入れない自分たちに比べ、清潔で安全な宿に泊まっているアシュリーは持ち前の整った造詣に加えて滑らかな肌、艶やかな髪を備えていた。正しい食生活にきちんと睡眠を取っている証だ。

 身綺麗にしているためか、化粧をせずとも見目麗しい。それに比べて、自分は?

 トレジャーハンターとしてどんなところにでも潜れるよう、腰まであった金髪をばっさりと切った。そのせいで、男に間違えられたことすらある。

 成功したいとの一心で体をしぼり、可能な限り肉体を鍛え上げた。

 それが女性的な魅力を捨てることだと承知して、女を捨てたのだ。

 でもアシュリーは、自分の目指したあの女は、種族特徴だけでその美しさ、若さを維持し続けている。

 それでいて、身のこなしは軽やかだった。

 ベラにはない戦闘能力も、見かけに相反して卓越したものである。

 仕事を奪った灰色狼を恨むエドにくっついて彼女を追ったのは、単なる興味本位だったはずなのに。

 気づけばベラは、積極的にアシュリーを追うようになっていた。

 彼女を知るごとに、感情は灯油を注がれた炎の如く膨れ上がる。

 その炎を消す術も見つけられず、ただ彼女を追い続け――


「ある日ね、珍しくアシュリーは食堂で食事してたの。彼女を張ってたら、どうも誰かと待ち合わせていたらしくて。もしかしたらこの相手から地図を仕入れているのかも、と思って見張ってたら……」


 そして現れたのは、一抱えはあるトランクケースを携えた老紳士だった。

 ひそひそと密談を交わし、アシュリーが包みを広げ、老紳士がトランクを開く。

 その中に入っていたのは。


「驚いたわ。片や純銀の女神像に、片やトランクケースに金貨がぎっしり詰まってたのよ。一瞬だけしか見えなかったけど、その光景だけは眼に焼きついたわ」


 それから二人は示しあって個室に向かってしまったため、詳細は不明ではあるがおそらく品と金を交換したのだろう。

 二人が戻ってきたとき、アシュリーの手に包みはなく、老紳士の持つトランクケースは老紳士のお付きによって丁重に護られていた。


「ありがとうございました。お話通り、素晴らしい品で……次回の探索が終わりましたら、またご連絡ください」


 その取引が街一番の名士、ディスト家との間に行われたものだと知ったのは、数日後のことである。

 これには――思い知らされた。


「あたしたちはその辺のチンケな故買商に頭を下げてどうにか見つけたものを買ってもらうのに、あの差は何なの!? 灰色狼とあたしたちと、一体何の差があるっていうのよ!?」


 摂取したアルコールが影響しているらしい。

 あおったタンブラーを感情に支配されるまま、勢いよくテーブルに叩きつける。

 木と木の奏でる激しき調べに、レイルズの酌によってとうに潰れテーブルに伏せていたエドがぴくりと反応した。

 だが、起き上がる気配はない。


「差なんて……ちゃんとした地図が手に入ること、灰色狼が人間じゃないこと、それだけじゃない! どうせ人間じゃないから、普通はグループ組むのに苦労してるんだと思って、声をかけたのにあの女は……!」

『必要はない。仲間になってあげましょうか? とな……見くびられたものじゃのう。この外見ではせん無きことか。基本的に必要がないのじゃ。人手が必要なときは雇う、でなければ精霊たちに助力を乞う』


 精霊?


「精霊に頼むって、どういうことですか?」

「万物に宿る属性エレメントのことは知ってるわよね?」

「…………し、森羅万象のすべてには属性があり、その属性を司る命なき精神体のことですよね?」


 正常な意識の持ち主なら、間違いなくおかしいと感じ取れる妙な沈黙の後にキャロルはあわてて言い繕った。

 度忘れしちゃって、とわざとらしい彼女の言い分を、すでに思考が酩酊状態へと移行しているベラは、すっかり信じたらしい。


「ええ、そうよ。あんまり詳しいことは知らないけど、エルフはそれと意思疎通、場合によっては使役することもできるらしいの。灰色狼もそのクチらしいのよ。まるで御伽噺の精霊使いだわ」


 今はそれも忘れているみたいだけど、と嘲笑い、彼女は再びタンブラーをあおった。


「灰色狼がディスト家と取引してから、私たちすっかり頭に血が上っちゃってね。地図を二人がかりで奪おうとして、返り討ちにあったわ。青空の下でいきなり雷に打たれそうになるわ、炎が飛んでくるわ、最後には氷漬けにされて放置よ。死ぬかと思ったわ」

「こ、氷漬け!? よく生きてましたね」


 レイルズがすっとんきょうな声を上げる。

 リアクションが大きかったことに満足したのか、ベラは紅潮した顔を彼へ向けて笑みを零した。


「私は首から下だけだったから、呼吸はできたのよ。氷の層も薄かったから、その気になればもがいて割ることもできたのだけど……『暴れれば、傷が増えるぞ。素直に体温と太陽を頼れ』なんて言い残して、悠々立ち去ったのよ。ようやく動けるようになった時エドを見たら、全身を厚い氷に閉じ込められていたわ。どうにか蘇生はしたけど、灰色狼はエドの顔を覚えていたのね。本気で返り討ちにしようとしたんだわ」


 その日が曇りだったら、きっと彼は死んでいた。

思いの他早く融け始めた氷を叩いて落とし、手早く氷を除去。息こそ吹き返したものの、全身に及ぶ凍傷を治す方法など知らず、応急処置でどうにか乗り切らせた。

 満身創痍のエドを動かせる範囲で街や村がなかったわけではない。しかし、よしんば診てもらったところで、治療費が払える保証がなかったのだ。

 それほど二人は切迫していた。


「それから、どうしたんですか?」

「エドが完治してから、灰色狼を追ったわ。もうそれしかすることがなかったんだもの。幸いあの容姿でしょう? 雲隠れされる前に見つけて、後を追い回して――その時は嫌がらせになればいい、くらいしか考えてなかったけど、あわよくば誰から地図を仕入れるのか、でなければ偶然を装って探索に同行できればいいと思っていたの」


 つまり、金魚のフンになってお零れを預かろうとしていたのか。

 酒には手をつけず、それまで自分で注文した料理に舌鼓を打っていたジェンドはそう思ったが、余計な口出しはするまいとサラダをかきこんだ。


「もちろん、現実はそんなに甘くなかったけどね。私たちを追っ払った灰色狼はその間に探索を済ませたらしくて、街道を逆戻りしながら財宝をいくつか売り捌いていたの。前と違ってのんびりとした行程だったから、こちらもそれほど切迫しないですんだわ。それからは、気ままに優雅に一人旅。探索にも地図の仕入れにも行かなかったから、多分私達のことに気づいていたと思う」

「……あの、少なくともあなたはアーシュが記憶喪失だって知って、全然驚いていませんでしたよね? アーシュの記憶喪失には、あなたたちが関係しているんですか?」


 アルコールが入っているからだろうか。

 初対面の印象が随分薄れているへべれけの彼女を介抱しながら、キャロルはぽつりとそれを質問した。


「関係……ねえ。していると言えば、しているわ」

「アーシュの頭を殴って、ですか? うまく行き過ぎると思うんですけど」

「カラクリを教えてあげてもいいけど、条件があるわ。私たちと灰色狼の関わりは話したわよ。これであなたたちがあの女の捕獲に協力してくれるのか否か、はっきり答えてくれないかしら」


 火照る顔を涼ませるように、手団扇で自分を仰ぐ。

 ここで初めて、三人は顔を見合わせた。


「ほら、エド起きなさい! たったこれだけで酔い潰れるなんて情けないわよ!」

「……うぷっ」

「吐き出さないでもったいない!」


 ベラがぐでんぐでんになったエドに気を取られている間に、ジェンドがレイルズを顎で指し、髪をキャスケットに閉じ込め、目元の見えないキャロルがこくん、と頷く。

 それだけで、内輪会議は終了した。


「わかりました、協力しましょう。それで、僕らは何を……」

「その前に」


 吐くもの吐いてすっきりしたのか、起き上がったエドはピッ、と人差し指を向けている。

 指されたのは、キャロルだ。


「お嬢ちゃん、キャロル……って言ったか? その帽子、ここでそいつは暑いだろう」

「あ、だっ、大丈夫です。気にしないでください。お気に入りなので……」


 これまで何も言われなかったのに、いきなり指摘されて驚いたのだろうか。少女は明らかな狼狽を見せている。

 これに何を感じたのか、ベラは更に深く追求した。


「初めて会ったときには、着けてなかったわよね?」

「あ、あの時は、依頼人さんのところへ行くときでしたから。依頼人さんに顔を隠すのは、失礼であって……」

「なら、私たちもあなたたちを雇おうとしている依頼人だわ。顔を見せないのは、失礼でなくて?」


 揚げ足を取られぐっ、と言葉に詰まる。

 助けを求めるように二人を見たが、助け舟らしいものはこない。


「そういえばあなた、灰色狼とそれほど身長は変わらないみたいね。そうやって耳を隠していると形もわからないし、あんなに綺麗な髪をどうして隠してしまったの?」

「……私の声は、アーシュに似ていますか?」

「確かに違うと思うわ。だけどね、灰色狼に声帯模写ができないとは限らないのよ」


 明らかに、ベラ達はキャロルが本人であるかを疑っていた。


「私たちはあれからアーシュと会っていません。私たちの依頼人もアーシュに用があったので探していたのですが、見つからなかったんです。今から彼女と接触できるわけないでしょう」

「あなたがその帽子を取ってくれれば、解決するわ。いつまでもゴネてると、こっちにも考えがあるわよ」


 頑なに要求を拒むその態度が気に触ったのか、ベラは瞳を鋭くしてキャロルを睨んでいる。

 そこでようやく、香草焼きを片付けたジェンドが「キャロル!」と声を上げた。


「そいつが気に入ってる、ってことは俺たちも知ってるけどな、ここは取っとけ。俺もアーシュがどうして記憶喪失になったのかには興味あるからな。敵に回して得する連中じゃねえよ」


 ジェンドの言葉を受け、それにレイルズが頷く様を見て。キャロルはしぶしぶキャスケットを外した。

 グレーの癖毛が肩を、背中を撫でていく。キャスケットに隠されていた木の実型の瞳は髪と同じグレーの色。そしてその耳は、丸みを帯びた人のものであった。


「なぁんだ」


 拍子抜けしたような声で、ベラはため息をついている。


「ごめんなさいね。私てっきり、あなたに変装している灰色狼だと思ったのよ。どこか挙動も不思議な感じではあったし」

「……これで、信用してもらえますね?」

「ええ、信用したわ」


 改めてキャスケットを被った少女の言葉を、ベラはあっさり肯定した。

 しまうの大変なのに、と零しながら、キャロルはグレーの髪を束ねて帽子の中へと押し込んでいる。


「それでよ、ベラ……」

「ベラさん。アーシュが記憶喪失になった経緯を教えてくれませんか?」


 三人の中でとりわけ敬語が下手な、というより意識して使っていないようなジェンドを押さえ、レイルズは素早くその質問をした。

 今彼女らは、警戒していたキャロルがアーシュでないことを知って安心しきっている、油断しているはずなのだ。

 ここで機嫌を損ねるのは、得策でない。


「良いわよ」


 案の定、彼女は嬉しそうにタンブラーへと手を伸ばしている。

 首尾よく追加のアルコールを注文していたキャロルが、酒瓶に残っている中身をすべてタンブラーへ注いだ。


「隣街で、灰色狼が要らなくなったものを処分したらしいのよ。調べてみたら……」

「ご、ごみを漁ったんですか!?」

「そこ、茶々を入れない! 正体不明の薬があってね。二対の小瓶でひとつ、っていう珍しいもので、調べてもらったの。そうしたら、記憶喪失を誘発させる薬、だって言うのよね。そんな荒唐無稽なもの、あるわけないって思ったけど、鑑定した故買商はいきなり買う気満々だったからちょっと試してみたのよ。そうしたら、本当に記憶を喪ったわ」


 コンコンッ、と扉が叩かれ、追加の酒とジェンドの頼んだ追加料理が届いた。

 運んできたウェイトレスは近くにいたレイルズに盆を渡し、そそくさと戻っていく。


「へぇ、しつけが行き届いているな。こういうところでの話は割と聞きたがる馬鹿が多いんだが……」

「て、店長の教育の賜物だと思いますよ」


 心なしか声がひっくり返っているレイルズの脇に肘を入れ、ジェンドは彼の持つ盆をひったくるように受け取った。

 料理を自分の傍にキープしてから、酒瓶を次々とキャロルに手渡していく。


「んで、そいつをアーシュに使ったのか。食事に仕込んだのか?」

「初めはそれを考えたが、やっこさんなかなか嗅覚が鋭くてよ。味は知らねぇが無臭ってわけじゃなかったからな……寸前で気づかれて、しまいだ」


 流し込むようにアルコールをあおるベラに変わり、エドが説明役を交代した。


「人に頼んで仕込んでもらおうにも、口止め料が払えないことには懐柔もできなくてな。屋台手伝いのガキを騙して押し売らせたりもしたんだが、どうも上手くいかねえ」


 それから同じようなことを繰り返し、液体製の薬が半分ほど減った頃。彼らの我慢は、限界に達した。


「仕方がないから、まどろっこしいのはやめた。直接飲ませることにしたんだ」

「……寝こみを襲って、無理やり飲ませたんですか?」


 レイルズの言葉を受けたエドは、まだアルコールが抜けていないらしい。

 振動が起こるほどの馬鹿笑いを放った。


「まさか! 奴が泊まるのはかなり警備がしっかりしている宿だ。侵入なんぞしようもんなら、またとっ捕まっちまう。街道で待ち伏せて、押さえつけて飲ませようとして抵抗されたんだ。もみ合ってるうちに、瓶の蓋が外れてな、幸運にも中身は奴を直撃した」


 ――そうして、灰色狼は己を忘れたという。


「あの女、結局摂取はしてねえから効きも半減してるようだがな。言語や生活習慣、あのクソ生意気な気質も変わった感じじゃねえ。性格は大分柔らかくなったみてぇだがな」


 彼女と再会した時のことを思い出したのだろうか、彼は肩を震わせて嗤った。


「問題の強さは、実際戦ってみねえとわからねえな。何か知らないか?」

「そーだな。腰の刃物見て、随分戸惑ってたみてぇだけど」

「屋根裏部屋から飛び降りて平気な顔をしていたから、身のこなしとかそれほど変わっていないんじゃないでしょうか」


 バイオ・ベアを屠ったことは伏せ、偽の情報を流す。そのジェンドに合わせるように、キャロルは本当の情報を語った。

 嘘というのは、九割の真実に一割混ぜると絶大な効果を発揮する――最も信じ込ませることができるのだ。事実をそのまま話すわけにはいかない場合、嘘八百を並べ立ててもバレる時にはバレる。嘘をつくことに慣れていなければ、尚更だ。

 だからこそ、この作戦を取った。


「刀は使えない、か。あんたらも知らんということは、精霊についても使えないと考えてよさそうだな」

「俺たちが知る限り、言ってなかったと思いますけど」

「そういやキャロル、三日前あいつに注文してくれ、って頼まれてたよな? まさか文字が読めないとか……」


 ふと思い出した、という風を装い、ジェンドは黙りがちなキャロルへ話題を振っている。


「どうかしら。でもその後でエラにサービスは……あ、でも何を頼んだかは言わなかったわね。トレジャーハンターだったら地図を読まなきゃいけないのに、文字がわからないって」

「俺たちが気にしているのはそこだ」


 アーシュに文字が読めるか読めないかについて意見を交わしていると、エドがずずいと身を乗り出してきた。


「文字が読めねえ、っつーのはトレジャーハンターとして致命的だ。もしそれが事実なら、奴に地図は無用の長物。それがわからねえような馬鹿でもないなら、明日の交渉は平和的に終わるだろう。だが、問題は違った場合だ」


 もちろんその場合、彼女は抵抗してくるだろう。

 戦闘能力の如何ははっきりしなくとも、実力行使は避けられない。


「でだ、本題に入るぜ? 正味の話、俺たちは灰色狼の荷だけを奪いたい。あんたらには味方面して、奴の気を引いてほしい」

「……具体的な作戦とか、ありますか?」


 エドが首を横に振るのを見て、野菜をふんだんに使ったハヤシライスをパクついていたジェンドは、内心でため息をついた。

 つめが甘い。何度かアーシュと交戦してきたようなことを言うから、対策でも講じたのかと思ったら、これである。

 これまで二人が敗北を喫してきたのは単にアーシュとの戦力差だけでなく、戦略の粗雑さにもあるのではないのだろうか。

 確かに、予期せぬ相手との戦いでならこれまでの経験を生かしてアドリブで戦術を立てねばならないが、今回は違う。

 これまで追い続けた獣に止めをさすようなものだろうに、進歩が見受けられない。


「わかりました。それで、お尋ねしにくいんですけどほう……」

「馬鹿! いきなりそれを聞く奴があるかよ」


 早くもレイルズが報酬関連の交渉に入ろうとしている。慌ててジェンドが止めに入った。


「ジェンド?」

「あのな! いつ、どこで、どうやってアーシュを迎え撃つのかくらい先に聞け! ついでにメンバーのことも! 俺たち以外に頼んだ奴はいるのか? 作戦決行はいつだ?」

「いいえ、いないわ。決行は明日、郊外の乗合馬車駅のところよ」


 ――怪しまれていない、無事切り抜けた。

 ホッ、と小さく息をつき、レイルズにひと睨みくれてから腰を下ろす。

 事前の打ち合わせでアーシュから話を聞いていなければ、レイルズもこのようなヘマはしなかっただろう。

 今のキャロルはともかく、やはり彼に嘘をつくことはできないらしい。


「――で、いいかしら? 足りないなら、現物支給でお願いするわ」

「現物支給?」

「灰色狼の持っているものよ。確認はしてないけど、あの女がここへ来たのは持っている地図がきっと関連しているはずだわ。または隠し持っている財宝か……とにかく今は、これだけで我慢してもらえない?」

「……わかりました」


 相手が彼の顔をそれほど見ていないのが幸いである。

 彼女の話す盗賊じみたやり方に、彼は憤りを隠しきれていない。


「なら、これで交渉は終了ね。よろしく頼むわ。あなたたちもどう?」

「いえ、俺たちは明日に備えてそろそろおいとま……」


 そそくさと帰ろうとするレイルズだったが、優等生じみた物言いが気に触ったのか。

 彼は伸びてきた太い腕に捕まった。


「なぁーに水臭いこと言ってんだ。おめーらそいつ以外何も手ぇつけてねーじゃねーか。ちっと付き合えよ」

「あの、ひとつ聞いていいですか?」


 同じくベラに捕まったキャロルは、「お酒は苦手なんです」と辞退をしておいてから、気になっていたことを尋ねた。


「なぁに?」

「あの……大丈夫なんですか、個室やらこんな……」


 大盤振る舞い、と続けようとして。彼女の目の前に、整えられた平たい木板が突きつけられた。


「何々……個室利用、四名様以上五名様以下に限り、総注文額二割減。但し出られる際、四名様以上であることが……条件!? え!?」

「そういうこと。おごりだなんて一言も言っていないでしょう? 割り勘、お願いね」


 彼らが酔っ払いから解放されたのは、草木も眠る丑三つ時を、とうに過ぎてからのことだった。


 かちゃり。何かが滑り落ち、転がる。







 明け方の西空より、宵闇は何かに飲み込まれ姿を消していく。

 姿を消すは、星たちもまた然り。地平線の彼方より眩い力が生まれ、月もその寂しげな輝きを薄れさせた。

 朝日は差別を知らない。分け隔てなく、すべてを照らす。その輝きの恩恵を受け、アーシュもまた目を覚ました。


「……まぶしい」


 まだいちゃいちゃしている上下の目蓋を無理やり引き裂く。体に絡まっているシーツを剥いで、幸いにも無事だった貝殻に手を伸ばした。

 これを介して盗み聞いていた会話が、にじり寄るように脳裏でリピートされる。

 ジェンドと別れた後、何食わぬ顔ではやにえに部屋を取ったアーシュは、天井裏づたいに三人と合流した。

 その際、キャロルに購入したキャスケットをかぶせ、その中に囁きの貝殻を仕込んだのである。

 これはアーシュが荷物を調べた際に発見したもので、二対でひとつという貝殻は片方が語ればもう片方で聞こえるという、どういう原理かもわからない代物だった。

 これを使えば変装せずとも、たとえ相手が個室を使っても交渉に参加できる。

 アーシュが尋ねたいことはキャロルが代理で尋ね、アーシュは中継で答えを知ることができた。

 彼らの荷を探ることで、自分の記憶を取り戻すことができるかもしれない。

 そう考えたアーシュは、交渉終了後なだれ込んだ宴会を利用し、キャロルを介してそれがどんなものなのかをしつこく二人に尋ねた。

 しかし結局、詳細を知ることが叶わなかったために、ヒントなしのまま二人の取った部屋へ忍び込んだ。

 二人の旅荷はそれほど多いものではなかったために、問題の小瓶はあっさり見つかった。

 しかしそれが解毒薬とは限らない。そして、どうやら毒そのものを摂取していないらしい自分が、これを飲んだらどうなるかもわからない。そのため、小瓶を盗むだけにとどめたのである。

 もうすぐ朝日が昇りきる。時間を見計らって、アドのところへ赴き解毒薬の鑑定をしてもらわなければ――

 解毒薬のことを尋ねるためだけに宴会へも参加したアーシュが、寝不足の体に鞭打ってのそのそと出かける準備を始めたそのとき。


 ドンドンドンッ!


 突如せわしなく扉を叩かれ、アーシュは扉を注視した。


「……どちらさん?」

「アーシュ、俺だ!」


 声は、ジェンドのもの。

 扉を開ける。そこには顔を腫らしたジェンドと今にも泣きそうなキャロルの姿があった。

 いずれも、まるで暴行された浮浪者のようにボロボロである。


「な、どうしたの!?」

「俺たちがお前と繋がってる、ってのがばれた。今レイルズが人質になって、例の場所に連れてかれ――」

「悪いどいて!」


 弾かれたようにジェンドを押しのけて部屋の外へ飛び出したアーシュは、勢いを殺さぬまま廊下の端、階段へ走った。


「アーシュ!?」

「逃がすか!」


 階段の最上段から迷うことなく飛び降り、逃げる人影に思いきり飛びつく。


「きゃあっ!」


 勢いのまま、二人はもつれ合ったまま最下段まで転がり落ちた。

 そして、アーシュが馬乗りになっている女性の顔があらわとなる。


「ベラ……さん……」

「くっ……!」


 どうにか逃げようとしてか、ベラはうつぶせのまま体を持ち上げた。

 背中のアーシュを振りほどこうとして、首に腕を巻きつけられている。


「離しなさいよっ!」

「お断り」


 巻きつけた腕はそのまま、後頭部を掴んで押しつけた。

 気道が締まり、「グッ」とベラの咽喉からそんな音が洩れる。そのままアーシュは、ベラの頭を抱え込み全力で絞め落としにかかった。

 アーシュの下でもがき暴れる体が、徐々に抵抗を弱めていく。

 爪が食い込むが、アーシュはけっして力を弱めることなく体重をかけるように体勢を維持し続けた。

 腕に食い込む爪から、力が抜けていく。もはや時間の問題かと思われたそのとき。


「アーシュ、もういい! やめろ!」


 横合いからどんっ! と突き飛ばされ、アーシュはベラの上から転がり落ちた。当然、腕も外れてしまっている。

 首を押さえて激しく咳をするベラを押さえ、ジェンドは体を起こしたアーシュに怒鳴りつけた。


「落ち着けよ! 殺しちまったら元も子もねえ」

「だけど!」


 顔を上げ、はたと気づく。

 眼前にいるのは、ジェンドだけ。キャロルはどこに?


「ジェンド、キャロルは?」

「!」


 そして彼は、何故彼女の行方を聞いただけでこれほど顔色を変えているのだろう?

 ――まさか。

 きびすを返して、階段を駆け上がる。「キャロル、急げ!」というジェンドの怒鳴り声だけが追いついてきた。

 早鐘の鼓動を無視しながら、自分の部屋へ戻れば、そこには。

 アーシュの荷、それに、奪った小瓶をその手に持つキャロルの姿があった。


「あ……」

「……どうして」


 アーシュに発見されたことを知ったキャロルが、大急ぎできびすを返す。彼女が向かった先にあるのは、備え付けの窓だ。

 ――下に落として、誰かに受け取らせるつもりか!

 キャロルの片腕が、窓を大きく開け広げた。アーシュの荷と、小瓶を抱えた腕が、外界へと突き出され――


「なんで、なんでなのさ、キャロル!」


 その手から、何もかもが零れ落ちたとき。アーシュはキャロルを押しのけ、それらの後を追っていた。


「アーシュ!」


 キャロルの声が聞こえる。キャロルの腕が伸ばされたことを、触れた肩が教えてくれた。

 肩の手を払いのける。

 風を切り裂く感触に、勢いよく風を切る音。宙に舞い、一人と二つは共に落下していく。

 わずかなタイムラグもあって、両者は互いの距離をせばめることもないまま、地面へ迫りつつあった。

 大地を見やれば、ジェンドと、咽喉を押さえてこちらを睨むベラの姿がある。

 エドや、レイルズの姿はない。


(こんなことなら、あの女は叩っ斬っておくんだった!)


 実に物騒なことを考え、歯噛みしながら、懸命に手を伸ばす。

 荷だけならともかく、あの小瓶を地面へ激突させ、解毒剤かもしれない中身を大地へ捧げるわけにはいかない。

 試してみようか――


『ベフィモス、助けて!』


 以前この宿から身を投げた際、無意識に奏でた言葉をたどたどしく紡いだ。

 その言葉が結ばれた瞬間、先に落とされた荷袋と小瓶の落下速度に急制動がかかる。

 ついで、アーシュの体も重力の支配を逃れ、どうにか地面へ叩きつけられることは免れた。

 油断なく二人を見据えたまま、ふたつを手に取って回収する。


「ないと思ったら、やっぱりあんたが盗んでいたのね。これだからハー……」

「黙れ、この恥知らず!」


 自分を差し置いてぬけぬけと泥棒呼ばわりしてくるベラを一喝し、アーシュは眦を吊り上げた。

 頭に血が上っているせいだろうか。肝心なことを忘れている。


「私が、あんたたちに、何をしたのさ!」


 昨夜の話を聞くうちに、ふつふつと沸騰し臨界点を超えた怒りが爆発した。

 どういう事情があるのか、真面目に聞いてみれば、彼らが宣うのはただの嫉妬、ただの逆恨み、ただの羨望ではないか。

 彼らの失敗にアシュリー・プシュケ・アージェントがどう関わっているというのか。

 何のことはない。彼らが志し、目標としたトレジャーハンターというだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。

 エドの件に関して、雇い主が優秀な――利益の見込めるトレジャーハンターを所望するのは当然だし、こういった同業者同士の激突はトレジャーハンターだけではない。

 ベラに至っては、全く関わりがない。本当に嫉妬、行き過ぎた羨望の発展でしかなかった。

 勿論二人は努力をして、実らなかったからこんな暴挙に至るまで身を堕としてしまったのだろう。

 しかし、努力なら誰でもできる。するだけでは、駄目なのだ。


「――あんたさえ、いなければ」


 事実として何もしていないアーシュに、ベラから咄嗟の反論は飛んでこなかった。

 しかし、呻くような呟きが、おそらくこれまで彼女の中で判然としなかった靄にも似た本音が、そのまま形となる。


「あんたさえいなければ、あたしたちはトレジャーハンターになんかならなかった! あんたがいけないのよ、あんたが、名前なんか売るから……!」


 言いがかりもいいところである。聞くに堪えない。

 凍るような沈黙の後に、アーシュは。


「――ほんに哀れな連中じゃ。夢想と現実の区別がつけられんとは」


 声音に含まれるのは、呆れか、同情か、理不尽な物言いに対する怒りか。


「名前なぞ売っておらぬ。勝手に広まったこと。妾にはこれだけしかないというのに。人の世界で生きていけるぬしらが何を羨む? 妾もそうやって生きたかった――」


 この言葉に、発言者であるアーシュが一番驚いている。

 フィルターがかかった意識の向こうで、「精霊、使ったじゃない! あれは嘘だったの!?」と、ジェンドに詰め寄るベラの姿がぼんやりと見えた。


「しょうがないわ。今のうちに荷物を奪って……」

「何がしょうがないのさ、コソ泥!」

「だ、誰がコソ泥よ! 私はただ……」

「強盗! 追い剥ぎ! ストーカー、ごみ漁り!」


 適当なことを喚いて威嚇しながら、状況の把握に努める。

 ベラは自分と相対し、ジェンドはその傍、キャロルは窓から乗り出していた体を引き戻したらしく、姿が見えない。

 そうだ。彼女たちのことを忘れていた。


「ジェンド。どういうことなのか、説明してもらえる?」

「……んなもん、状況見りゃわかるだろうが」

「わからない。見える状況だけで判断して、誤解したくない。何がどうなってるのか、教えてよ」


 ベラが不審な素振りをしていないかどうか、監視をしながら言い募る。

 こうなった以上、彼らの裏切りは確定的だ。それでも、彼らの口から真実が、理由が聞きたかった。

 沈黙が、重苦しく場を包み込む。


「……」

「単純な理由があるなら、私に話して絶望させることくらい考えつくでしょう? 報酬を優先させたことが後ろめたいなら、そもそも姿を現さないで、待ち合わせ場所で罠にかければ簡単だったはず。それがわからないほど、あなたは馬鹿じゃない。お人よしでもない」


 そんな人間が、開き直ることもできず黙っている。その理由は?

 更に――


「ここにレイルズがいないってことが、何か関わってるの?」


 彼の人の名を出した途端。それまで黙りこくっていたベラが、突如声を張り上げた。


「まったく! そんなの適当にでっちあげればいいでしょ、不器用な坊やね!」

「――ふーん。やっぱりアンタらが一枚噛んでるんだ」


 今更口を塞いでも遅過ぎる。想定範囲内の反応に、アーシュは唇を小さく歪めた。


「どこまで卑劣に走れば気が済むんだか」

「う、うるさいわね! あ、ちょっと!」


 最早隠す理由はないとしてか、ジェンドは宿の中へと走った。

 出てきたキャロルを守り、声を張り上げる。


「アーシュ! 理由、今知りたいか?」

「それより、ジェンドの言葉がどこまで本当だったのかが知りたい」

「……嘘は言ってない。ただ、俺たちはレイルズとエラの命を盾に、無償での協力を強いられたけどな」


 エラまで、巻き込んだというのか――


「ねえ、どこまで堕ちれば気が済むの?」

「……こっちにはもう、あんたを追い続ける余裕はないのよ。これが限界なの! あの二人の命が少しでも惜しければ――」


 その言葉が、結ばれるその前に。

 アーシュは血桜で、ベラのみぞおちを一突きした。

 鈍い音がして、ベラはどさりと地面へ倒れ込む。


「アーシュ……」

「どこへ行けばいいの?」


 鞘つきの血桜を腰に収め、歩んできたキャロルに問いかけた。


「私たちが案内する手筈だったから」

「そっか。じゃあ、すぐ連れてって、と言いたいところだけど……時間頂戴。この人も、どうにかしないと」


 すっかり忘れていた耳に触れ、初めて周囲を見回す。

 不幸中の幸いというべきか、早朝であったために見物人は皆無であった。

 彼女を除いて。


「は、ハーフエルフ……!?」


 震えるような呟きに、パッと発生源を見据える。

 そこには、取り巻きも召使いも連れていないメリル嬢の姿があった。


「ちょうどいい。あなたに情報を寄越したのは、この人?」


 昏倒したベラの顔を見せ、彼女が震えながら首肯したのを確認する。


「こ、殺したのですか……?」

「意味の無い殺しは趣味じゃない」


 その一言で、キャロルはそういえば、とばかりにアーシュの顔を見た。


「アーシュ、記憶が戻ったの!?」

「そういや、この女も精霊を使ってるとか何とか」


 残念ながら違う。

 先程の言動は自分でも驚いた、と補足を加え、再びアーシュはメリル嬢に向き直った。

 わかっていても、話に聞くだけとハーフエルフの証たる耳を見るのとは違うのだろうか。さっと視線がそらされる。


「それで、あなたは何の用? レイルズなら、今出払ってるよ」

「……どこにおられるのです?」

「どこにいるの?」


 彼女の疑問を、そのまま二人に丸投げした。

 面倒だから、ではない。アーシュは知らなかったからだ。

 質問は、渋い顔でジェンドが回答している。


「……そうだな、判りやすく言うとおめーが倒れてた辺りだ。ネクタルの水鏡の近く」

「まあ! ではやはり、あれはレイルズ様でしたのね」


 解答を聞くなり、彼女は「どうしましょう」と言わんばかりに、その頬を両手で包み込んだ。

 いちいち芝居がかっているように見えるのは、第一印象のせいなのだろうか。


「レイルズが、どうしたの?」

「先程外を眺めていましたら、ぐったりとしたレイルズ様を背負う大男が森へ向かうのを見ましたの。続いて何人かの人間が連れ立ってその後に続いていきましたわ。人違いかと思いましたが、今日はいくら待ってもレイルズ様のランニングがお見受けできなかったのです。キャロル、一体何がありましたの!?」


 事情を説明しようとして、アーシュの姿が見えなくなっていることに気づく。


「あ……あれ、アーシュは?」

「メリルの話を最後まで聞かないで、宿へ駆け戻ったぜ」

 

 その時、ふとカタン、と窓が鳴った。

 振り仰げば、寝巻きから着替えたアーシュが窓の外へと身を乗り出している。


「あ、アーシュ!?」

「とう!」


 制止する暇も与えず、彼女は勢いよく空へ身を投じた。

 出会った当初身に着けていた黒い革の着込みを着、さらさらと軽やかに踊る髪は、ひとつに束ねられている。


『ベフィモス、私の声を聞いて。お願い、無事着地させて!』


 思い出すように、人の言葉とは似ても似つかない言語を口にした。もう一度アーシュの体が滞空し、ゆっくりと足から着地する。


「精霊を、使ったの?」

「使うっていうより、お願いする、頼むって感じかな。今だって……まあ、おいおい思い出せばいいや」


 拳を握りしめて開く。それを繰り返し、彼女は不意に懐からひとつの小瓶を取り出した。

 薄い青色がかった、とても飲む気がしない水薬らしきもの。


「――ねえ、キャロル。信じていいかな?」


 視線をそれに釘つけたまま、アーシュはぽつりとそう呟いた。

 太陽が、完全に顔を出しつつある。










 メリル嬢を家に帰し、キャロルに小瓶を持たせて街医者アドのところへやった後。

 アーシュ、ジェンド両名は意識のないベラを伴って約束の場所を目指していた。


「それでさ、どういう経緯でばれちゃったの?」

「――連中の宴会に付き合わされて、宿へ戻ってきたときだ。足元のおぼつかねえベラにぶつかって、キャロルの奴が帽子を落とした。それであの貝殻が見つかったんだよ」


 なるほど。それがきっかけで、企みは暴かれた、といったところか。


「なんでレイルズが人質なの?」

「そりゃ、最初は連中もキャロルを連れて行こうとしてたさ。だから剣を外して、自分が行くからって名乗り出たんだよ」


 メリル嬢の証言が蘇る。

 もともとは、解毒剤と地図の交換を彼らは目論んでいたのではないかと考えるが、それはアーシュが破ってしまった。

 もともとの非はあちらにあるが、だからといってアーシュのしたことが正当化はされない。

 従って、現段階においてレイルズの命は、これっぽっちも保障されていない。


「……」

「どした?」

「ん、その……悪かったなー、って。生きててくれるといいんだけど……


 ジェンドに謝る意味はないために、希望的観測を口にする。しばらくの沈黙を経て、彼は「そうだな」と呟いた。


「……まあ、死んでたらごめんなさいじゃあ済まさないよな」

「エラのこともある。なんでこう、関係ない人間を巻き込んでくれるかな」

「人質なんか、脅迫の常套手段だからじゃねえか? あるいは……それだけお前のことが怖い、とか」

「人質はともかく、私のことが怖いなら、もう関わらなければいいだけの話。どうして無理してまで、私につっかかってくるのかな」


 人間とハーフエルフでは、考え方が違うのだろうか。

 エドとベラの話を聞いていたであろうに、彼女はまったく理解を示そうとしない。

 思うことは多々あれど、とにかくジェンドはこれだけを言うに留めた。


「凡人には凡人なりの、矜持プライドってもんがあるんだろうよ」


 それ以外の説明はややこしいのと同時に、もう目的地は近かったから。

 そろそろだ、と囁き、背負ったベラの様子を見る。意識が回復している様子は見られないが、万が一ということを考えて手近な木の幹に縛りつけ、猿轡を施した。


「様子を見てくる」


 だからついてくるなとアーシュに言い含め、狩人の技能を用いて移動する。動物――獲物にすら気づかれない独特の歩法でゆっくりと水鏡に近づいた。

 ネクタルの水鏡は、地元ランベールでしか知られていない泉だ。ジェンドが知る限り、ここは獣たちの貴重な水源でしかない。

 満月が中天を昇る頃に覗き込めば未来の旦那の顔が見える、とか、何年後の自分の姿を見ることができるとか、そんな子供だましのあやふやな逸話は数あれど、そこまでだ。

 昔から自然に存在するもので、由来も何もない。

ここへ彼女を呼んだということは、彼らはアーシュがここにいたことを知っていたのだろうか。

 人の気配がどんどん近くなる。緊張に、ジェンドが知らず唾を飲み込んだそのとき。

 女の金切り声が聞こえた。


「レイルズっ!」

「……色男が台無しだな」


 がばっ、と地面へ伏せ、腹ばいになって茂みの隙間から様子を伺う。


「……っ!」


 光景を、視界に収め。ジェンドは唇を噛み締めた。

 一人の女がもがくエラを押さえ、数人の男たちが地面へうずくまるレイルズを見下ろしている。

 その人数は過去、エドとベラが共に食事を囲んでいた一同を合致していた。


「俺たちを騙してまであの女に協力したんだ。今のお前なら、奴を騙すのは朝飯前の筈。タコ殴りにされてまでなぜ奴をかばう? たかだか数日前だろ、お前らが奴と知り合ったのは」


 レイルズの髪を掴んで顔を上げさせ、エドはわざとらしく首を傾げた。


「……あなたたちが目論んでいるのは、強盗だ。犯罪に加担することはできない」

「俺たちの狙う地図は、灰色狼がどこかでかっぱらったものだとしても、か?」

「もしそうだったとしても、アーシュの持つ地図を奪う、強盗行為に変わりはない」


 どこまでも強情なレイルズに、苛立ったのだろうか。鷲掴んでいた彼の髪から手を離し、更に蹴りを入れようと――


「っ、ちょっと待て!」


 傍観に耐えられなくなったジェンドが、その場から立ち上がった。

 直前まで気配もなく、突如現れたジェンドが一同の虚をついたことをいいことに、つかつかと近寄っていく。


「よう。灰色狼はどうした?」

「言いくるめて向こうで待たせてある。それより、いくらなんでもやりすぎだろうが!」

「仕方ねえだろう。どうあっても頷かないんだからな、こっちの坊ちゃんは」

「だからって、私刑リンチにかける奴があるかよ! ったく……」


 大丈夫か、と痣だらけにされ、口の端から血を流すレイルズを助け起こす。

 その際、ひそりと囁かれた。


「キャロル、は?」

「アーシュから小瓶を預けられて、アドの野郎のところへ行った。これでなんとか、キャロルは無事だろう」

「そうか……問題はエラ、だな。彼女まで巻き込むことになるとは、思わなかった……」


 エドの命令で、拘束の解かれたエラが二人の傍へ駆けてくる。彼女は涙眼になって二人の、正確にはレイルズの下へ駆け寄った。


「レイルズ! レイルズ、大丈夫なの?」

「ああ、ありがとう。ごめんな、こんなことに巻き込んで」

「今度は、一体、どんなことに巻き込まれたのよぅ……」


 べそをかきそうになる目をごしごしこすりながら、状況の説明を求めてくる。

 これが初めてではないらしい。


「ベラはどこだ?」

「アーシュを部屋から誘い出すとき、気づかれて気絶させられた。あいつがお前らとの取引材料にするってんで、拘束してある。今から連れてくるぞ」

「気配に敏いのは、変わっちゃいねえか。感覚的な面だから仕方ねえとして……その後のことはわかってんだろうな?」


 ジェンドと向かい合っていたエドが、意味ありげに視線を動かした。

 その視線の先には、エラを落ち着かせているレイルズの姿がある。

 レイルズが満足に動ければ、エラを連れての脱走などそう難しいものではない。しかし、今レイルズは得物が無いどころか後ろ手に縛られ、起き上がるのがやっとの状態だ。

 そんな素振りを見せた途端、見ることすら耐えかねる過酷な私刑がその身に降りかかることだろう。

 それは特に、レイルズに限ってのことではない。


「……アーシュが、人質交換に応じてベラを離したら。俺が後ろから不意打ちをかけてあいつの気をそらす」

「ジェンド!」

「――仕方ねえだろうが! いい加減割り切れ、俺はまだ死にたくねえからな!」


 エドたちが考えるように、アーシュに不幸が訪れてほしいわけではない。

 こうしなければ、レイルズが、エラが、そして自分が殺されてしまうのだ。この場にいないキャロルにも、とばっちりがくる可能性がある。

 昨夜の暴露で、エドがどれだけ腕の立つ人間かを知ってしまった。あれだけ酒に酔っていたにも関わらず、二人がかりでもまったく歯が立たなかったのだ。

 そんな男が直接対決を恐れるアーシュは、一体どれだけ交戦に長けているというのだろうか。

 こうして姿を見せてしまった以上、こうなったら彼女の交戦感覚が鈍っていないことを祈ってエドに従うしかない。

 レイルズの姿を見て、冷静さをなくしたジェンドがどうにか下した結論だった。


「だけど!」

「――そっちの坊ちゃんを黙らせろ。ジェンド、灰色狼を連れてこい」


 再びエラが引き離され、レイルズが汚い手拭いを無理やり口へ押し込まれている。

 それを拒否するがためにまたも私刑を受けるレイルズにやりすぎるなよー、とせせら笑うエドを睨まぬよう自制しながら、きびすを返し――

 その瞬間、ざわざわと風が凪いだ。

 青かった空は突如分厚い灰色の雲に覆われ、燦燦と輝く太陽をも覆い隠した。

 灰色の雲はまるで染色でもされたように黒々と染まってゆき、周囲の気温がひどく下がっていく。

 黒雲はナチュラルな電飾を帯び、控えめだった電飾は徐々にその煌きを増した。

 自然現象としてはありえないほど急激な天候変化である。真下に立つ人間たちは、恐れ戦くしかなかった。


「うわぁっ!」

「きゃああっ!」


 だから、足元に注意がいかなくても、責められることじゃない。

 突如として発生した男女混合の悲鳴に、何が起こったのかと無事な人間――エドとジェンドの視線が集中する。

 エラが自由の身となり、レイルズが一人で転がっていた。その瞳たちは、信じられない、と呟いて上空を見上げている。

 同じように空へ眼を向けて、彼らは一様に凍りついた。なぜなら。

 瑞々しい大気の集う空中に、硬い地表を突き破って巨木の根らしき硬皮の蔓がその姿を見せている。

 それが暴行を加えていた者達を捕らえ、天空へ吊り上げていたからだ。

 硬皮の蔓は停止を知らず、四重奏の悲鳴は徐々に遠ざかっていく。

 ちっ、というエドの舌打ちに、ジェンドは我に帰った。


「あの女……まさか精霊の使役法を思い出しやがったのか!?」

「――残念だけど、ハズレ。私だって、できることならきちんと思い出したかった」


 背後から聞こえた声に、ぎょっとして振り返る。そこには声の主、アーシュが自然体で佇んでいた。


『ありがとう、ドライアード』


 この場所に倒れていた彼女の頭にはこの騒動を引き起こす原因ともなったキャスケットが耳と頭部を覆い隠している。

 灰色狼と呼ばれる所以の、灰色の帽子が。

 血桜に手をかけるでも、半身になって構えるでもなく、ただ突っ立ったままだ。

 ただその手には、ベラの着ていた上着が携えられている。


「……てめえ。俺たちの部屋から解毒薬を盗んだだけに足らず、ベラまで傷つけやがったのか」

「私から地図を奪い取ろうと企むに足らず、レイルズ達まで手を出したのか。それでよく堂々としていられるな、薄汚い盗賊風情が」


 エドの言葉を真似るように、アーシュは口汚く罵りを吐いている。

 その声は、どこか感情は欠如していた。

 まるで感情の暴走が、彼女を壊してしまったかのように。


「元はといえばてめえが……」

「御託はいい。というより、記憶喪失を促したくせに過去をいちいちほじくり返さないで。それとも、私も同じようにあんたらがしたことを挙げ連ねたほうがいいの?」


 エドが黙ったのを見て、ちらりと人質であった二人の姿を視界に移した。

 度重なる私刑を受け、キャロルやジェンド以上にぼろぼろになっているレイルズ。実質的な暴行だけは免れているものの、危険に身をさらされ怯えた瞳を隠さないエラ。

 同じ種族なのに、何故ここまでできる?

 彼らは、同じ人間ではないのだろうか。


「……さて。まず二人を解放して。でないと、どうなっても知らないよ」


 錆びついた声が、孤立したエドにそのまま向けられる。

 まるで自らを励ますかのように、エドは哄笑を放った。


「ハッ! 勝手にしやがれ、灰色狼は不殺を貫くことで有名だった。だからお前に何度となく手を出した俺達は生きているんじゃねえか! どうせ殺しはできねえだろう、なあ――」


 根拠のない推測を、聞くに堪えないと遮るように。

 轟音が、辺りを木霊した。


 まるで頭上へ落下したかのように、衝撃は余すことなく人を脅かした。一切合財の音が、吸い込まれたかのように消滅する。

 それは回を重ねることなく、雷鳴は尾を引いて収束した。タイミングの良すぎる雷の到来に、一同の視線がアーシュへ集中したそのとき。


「雷は、高いところに落ちやすいんだよ」


 ひゅるる、と遥か高みから何かが落下する。

 そんな独特の風を切り裂く音が、べしゃり、何かが生々しく地面へ激突する音がした。

 一見して、黒焦げになった丸太だ。しかし、比較的自分の近くに落ちてきたそれを見て、エラは図らずも悲鳴を上げた。


「え……な、きっ、きゃあああっ!」

「――エラ。危ないから逃げてくれない? レイルズ連れて」


 エラのすぐ傍に堕ちてきた、黒焦げの丸太のようなもの。それは雷の直撃を受けて天空より放り投げられた、女だったものだった。

 エドの言葉を翻し、アーシュはあっさりと命を奪って見せたのである。


「な……」

「私は不殺を貫く灰色狼じゃなくて、アーシュだからさ。それで、どうするの?」


 完全に言葉を失ったエドが、吊り上げられた三人を、未だアーシュが携えているベラの上着を見やった。

 もともと、ベラですら彼にとっては行きずりの他人である。意気投合したとはいえ、それだけの仲。

 ほぼ見せしめに殺された女を含める四人など、それ以下だ。新たに知り合った依頼人に寄越された、ただの人材。情も何もあったものではない。

 ここで何もかもを放り捨て、今まで起こったことをすべて忘れて逃げ出せば、命だけは助かるかもしれない。

 しかしそれは同時に、灰色狼に完全な敗北を喫することでもあった。

 命か、誇りか。それがなけなしのものであっても、灰色狼と対峙を果たした際に受けた屈辱を、忘れることはできそうになかった。


「……っ、うおおおっ!」


 今アーシュは、天候を操りなおかつ巨木の根も操作している。

 それならば、通常戦闘に耐えられはしないだろうとの目論見の元、エドは腰の大剣を抜き放った。

 白々とした、よく手入れされている白刃がアーシュの網膜に焼きつく。

 どこかで、これを見た気がする。交渉の席で彼の語った、自分達の邂逅時、だろうか。

 それはともかくとして、アーシュはまず片手を塞ぐベラの上着を手離した。


「ジェンド! 二人をお願い!」


 前言の数々から、彼が従ってくれることをそれほど期待せずアーシュもまた腰の血桜を引き抜いた。

 数多の命を喰らい、その生き血を啜ったかのような緋色の刃がてらてらと不気味に煌く。

 それもまた手入れされている証拠なのだが、その輝きはまるで妖刀が放つものであった。

 両手用の大剣を軽々と片手で構えたエドが、長刀を正眼に構えたアーシュが、再び対峙する。

 しゅるしゅるという音がして、巨木の根が地面へと還った。捕らえられていた三人が、根が地面へ還る際に要らないとばかり放り出されている。

 解放された三人は、エドに加勢することなく恐怖に引きつった悲鳴をあげて退散していった。

 その大半の原因は、仲間だったものにあるのかもしれない。


「ジェンド、エラと一緒に街に戻ってキャロルの傍にいてやれ!」

「お前はどうするんだよ」

「ここで見守る」


 対峙する二人から離れ、とにかくレイルズの縄を解いたジェンドが、エラを連れて街へ戻っていく。

 その背中を見送ることもなく、レイルズは睨み合う二人を見つめた。

 最初に動いたのは、エドである。

間合いを詰め、首どころか、胴すらも寸断する勢いで大剣は水平に振るわれた。

 後退ではせず体をかがめてアーシュはそれを避けている。キャスケットのおかげで、髪にすら被害はなかった。

 大剣が振り切られた瞬間体勢を立て直し、血桜を突き出す。狙いは――エドの顔面。


「うおっ!」


 顔面に刃物を、攻撃をされかけてひるまない動物は希少だ。

 人間もハーフエルフもその例には洩れず、アーシュの目論見通りエドは後退を余儀なくされた。

 更にもう一歩詰め、血桜を一閃させる。一撃はエドの回避により、肩を軽く切り裂いたに終わった。

 血は一滴も出ていない。切っ先は繊維に引っかかり、ほんの少しだけ切り裂く以上何もしなかった。

 それを一目見るなり、エドの表情が一変する。もう一歩踏み込まれ刃が動かされていたなら、上腕の肉は丸ごと削ぎ落とされていた。

 それをしなかったということは、灰色狼の腕が落ちているのか、それとも――

 思い当たったもうひとつの理由に、エドが気を取られていたそのとき。

 アーシュはそれ以上踏み込むこともなく、地面を蹴って後ろへ下がった。間合いを取って、エドの動向をうかがっている。

 以前の灰色狼であれば、相手に隙が見出せた瞬間突貫してきた。受けて立とうとしても、その小柄な体を生かして瞬く間に懐へ潜り込み、相手の沈黙をもって勝利を得ていた。

 それを、しないということは。


「……てめえ」


 ぎりっ、と歯をきしらせる。もうひとつの理由である確信を得てしまったからだ。


「一撃で、俺に勝つ気か! いい気なもんだな、前なら失血死寸前まで追い込んで気絶を促していたくせによ!」

「ふぅん、そう。いい手だね。でも時間が惜しいからさ、命だけは見逃すよ。早く負けて」

「無茶苦茶を抜かすな! 命だけは? ふざけんな、今しがた殺しやがったくせによ!」

「――へえ、誰を?」

「しらばくれる意味がねえ! そこの――」


 黒焦げになった丸太の如き、転がる女だったものを、エドが指した瞬間。

 パチン、と、アーシュは細い指を鳴らした。

 直後、黒焦げになった部分がぼろぼろと剥がれ落ち、傷ひとつない女の体が露となる。

 服に焦げ目すら見受けられないのは驚愕に値するだろう。

 女は何が起こったのかわからない様子で、呆然と周囲を見回していたが、アーシュの姿を一目見るなり、声にならない叫びを上げて逃げ出した。先に逃げ出した仲間達然り、である。

 驚きのあまりだろうか、固まるエドの顔を眺めながら、アーシュは血桜を鞘へ収めた。


「勘違いで慌てちゃって、ご苦労様。殺す方が簡単そうだけど」


 言葉を切り、その場に居残ったレイルズを一瞥する。

 どこまでも実直に、自分を信じてくれた彼のために、潔白を証明したかった。

 手を汚すのは、解毒剤を盗んだことだけで十分だ。


「そんな安直なことはしない。しでかしたことの責任は、きっちり果たしてもらうから」


 血桜の刀身を封じるように、鞘と刀身本体をバンダナで固定した。間違ってもエドを血桜の錆としないように。

 切れ味抜群の鉄芯入り、重量だけは真剣と変わらない木刀を両手で握りしめた。

 鈍器で狙ってはいけないのは、確か後頭部である。それ以外の場所なら骨が砕ける程度で済むと思うが、油断は禁物だ。

 相手は刃物を構えている。それはアーシュを叩き斬るだけでなく、自分を害すること、満身創痍のレイルズを人質にすることも可能なのだ。


「……の野郎ッ! 黙っていれば、人をコケにしやがって……!」

「勝手に勘違いしたくせに、喚きなさんな。大の大人が見苦しい」


 即席の木刀ごとアーシュを真っ二つにするべく、エドは一足飛びに間合いを詰める。

 飛び込んできた大男に対し、彼女はそのまま迎え撃つような愚を冒さなかった。

 迫る刃の角度に逆らわず、木製の刀身に合わせて滑らせる。血桜の鞘が削れ、鉋屑かんなくずのような鞘の一部が宙を舞った。

 新鮮な、木の匂いがする。森や林の生きている樹とはまた違う匂いを鼻腔で感じ取りながら、アーシュはすれ違い様にエドの向こう脛を強打した。

 硬質のブーツによってダメージは殺されているが、その際の衝撃は消しようがない。

 バランスを崩し、たたらを踏むエドに向き直りその脳天に唐竹割りの一撃を見舞う。回避されるものの、アーシュは少しほっとした。

 思わず動いてしまったが、記憶喪失になられては困るからだ。とてつもなく低い確率ではあるが、この世の中に絶対はありえない。注意を払うべきだった。

 おそらく鍛えられているであろう硬そうな腹筋ではなく、側面の比較的柔らかな脇腹を突き、腹膜を刺激する。


「ぐっ」


 本当はみぞおちを狙って気を失わせたかった。しかし、立ち居地が悪く無理に実行すれば反撃の暇を与えてしまうことになる。それでは都合が悪い。

 木刀を下段に構え、十分な間合いを取ってからエドの様子を伺う。彼は血桜の切っ先がめり込んだ脇腹を押さえ、脂汗を流しながらどうにかアーシュを睨んでいた。


「降参して。負けを、自分の非を認めるならこれ以上手出しはしない」


 血桜の切っ先を下げ、降伏勧告を行う。彼がしたことを許すつもりはないが、だからと言って殺したいほど憎んでいるわけではないのだ。

 エドに降参の意思があるなら、アーシュにこれ以上戦う理由はない。


「そういう台詞は……っ、俺を殺してからにしやがれっ!」


 気力で回復したらしいエドが立ち上がり、またもアーシュに突貫する。受けることなく回避に徹し、アーシュはレイルズをちらりと見やった。

 驚いているような表情、それでいて事の行方を見守ろうとしてか彼が動こうとする気配はない。または私刑の影響で、動きたくても動けない状態にあるのだろうか。

 もはや手を抜く意味はなし、としてか、エドは両の手に剣を携えている。片手に大剣、片手に小剣といったスタイルに、アーシュは何となくその戦い方を察した。

 片方攻撃用、片方盾の役割か? この場合、大小どちらが、はあまり重要ではない。

二刀流の剣士は本当に稀だ。なぜなら、剣という代物はけして軽いものではないからである。

 並みの、特にアーシュのような細腕では剣を支えきることができずに剣筋が流れてロクに対象を斬れない。

 厳密に言うなら皮膚の表面をひっかくことはできても肉を裂き、骨を断つことは事実上不可能だからだ。

 アーシュが剣でなく刀を持つのは、おそらく基本的に相手の急所を重点的に狙う戦法を得手としていたからだ。

 または素早さに任せ相手に派手な傷をつけ、牽制するやり方か。

 エドの『灰色狼は不殺を貫く』という発言からして、魔物やどうしようもない相手には前者を、そうでもない相手には後者の戦法を用いていたのではないかと、自分のことながらアーシュは推測している。

 では何故、これまで小剣を抜かなかったのか。その理由を考えていると、硬直を嫌ったエドが猛然と斬りかかってきた。

 見れば、大剣と小剣はそれぞれ別の方向からアーシュを切り刻まんと構えられている。

 あれをまともに受けては、片方を避けているうちに片方の被害に遭うと、相手の剣筋を見るためにも彼女は回避に徹した。

 鋭い切っ先が、眼前を通過する。


「ちぃっ!」


 外れた一撃を惜しむように悔恨の呟きを洩らしたエドが、即座に剣の軌道を変えた。

 思いの他器用な男である。手馴れた剣捌きからして、もしかしたら両方とも攻撃用なのかもしれない。

 鞘を削られるのは歓迎できないが、それでも血桜を使わなければかわしきれない。

 長年大気にさらされ、劣化した鞘から削れた木屑チップがパラパラと舞い、地面に散る。


「オラどうしたぁっ! さっきまでの余裕はどこにいきやがった、ああ!?」


 アーシュが防戦に集中し始めたのをいいことに、エドはずんずんと前に進んだ。

 その歩調に合わせて、詰められた間合いの分だけアーシュは後退を余儀なくされている。


「アーシュ!」

「何!」


 調子にのったエドの猛攻を受けながらも、彼女は律儀に返事をしていた。


「いや、その。心配して声かけただけなんだど……」

「そりゃどうもっ! でも気が散るからっ。静かにしてくれるとありがたいっ!」


 息切れがしないよう必死に呼吸を保ちながら、その眼はエドを、エドの姿を見据えたままだ。それ以外、その瞳に映る隙間はない。

 それにしても、アーシュを圧倒するほどその剣技は冴えているというのに、どうして――

 無意識にそれを考えて、彼女はがくりとバランスが崩れた。

 度重なる後退の末、いつの間にか巨木の根、硬質の蔓を呼び出した地点へアーシュは立っていたのである。

 帰還した巨木の根たちは登場と退場の同時に大地を大きくえぐった。

 それは無論のこと、その際傷つけられた地表はそのままだ。

 それに足を取られた。


「隙ありっ!」


 踏ん張ろうとするアーシュに、エドは嬉々として長剣を振り上げる。同時に小剣を捨て、振り上げる速度が急激に増した。

 アーシュはといえば、踏ん張ることに失敗してその場にしりもちをついている。

 そのまま剣が振り下ろされれば、彼女は真っ二つの開きにされてしまうだろう。


「……かの灰色狼も、記憶がなけりゃただの半妖精か」


 アーシュが転んだ拍子に手放した血桜を彼方へ蹴り飛ばす。エドは彼女を見下ろして嘲るような笑みを浮かべた。

 舌なめずりをする熊のような笑みを前に、アーシュは動こうとする気配がまるでない。


「アーシュ、逃げろ!」

「安心しな。お前の遺産は有効に使ってやるよ!」


 振り上げられた白刃が、振り下ろされる。

 その前に。

 暗くなったままの空が一際強く輝いた。直後、轟音を伴う一筋の煌きが大地に降臨する。

 その眩い輝きの名は――雷。

 独特の軌跡を描いて降り注いだその先には、一点の曇りなき長剣の切っ先であった。

 轟音にかき消され、悲鳴は聞こえない。

 そして音の余韻が消えた頃、どさりという重たげな音がした。


「……雷は高いところに落ちやすい、って教えてあげたのにね」


 長剣を介し、天然の雷を全身で味わったエドが力尽きたように昏倒している。それを見下ろし、アーシュは汚れた己の尻をぱんぱんっ、と叩いた。

 アーシュはエドより身長が低く、レイルズは現在座り込んだ状態だ。この中で一番雷に当たりやすいのはもともとエドだった。

 更に彼自身の身長に加えて、長剣が天へ掲げられたことも災いしている。これまで周囲の木々に招かれていた雷がエドを選んだのは特に不思議なことでも何でもなかった。

 只の偶然だ。


「アーシュ……!」


 蹴られ、転がった血桜を手に、レイルズはアーシュに駆け寄った。

 どうにか体の痛みに耐え、駆け寄るとはお世辞にも言えない速度であったものの、到達はしている。

 過程はどうあれ、エドに勝利したアーシュはなぜか地面にしゃがみこんでいた。

 レイルズに気づいてか気づかずか、彼女はぼそりと呟きを零している。


「……ああ。なるほど」

「どうしたんだ?」

「どうして初めから二刀流にしなかったのかと思ったら……これ」


 放り捨てられた小剣を手に取る。

 どれだけ使い込まれてきたのだろうか。小剣の刃はぼろぼろに欠け、包丁以下の切れ味であることは明白だった。

 刃の限界まで研いだ痕、そして長剣と同じく丁寧に手入れされている。

 それほど古いという様相をしていなかっただけに、アーシュはそれを気づけなかったのだ。


「で、あなたは大丈夫なの?」

「あ、ああ。だいじょ……」


 何の前触れもなく、ひょい、と白い手が伸ばされる。

 小さく見えるその手は、触れるか触れないかという位置で静止した。

 一瞬ためらった手が、そっとレイルズの頬に添えられる。

 袋叩きに遭い、べったりと張り付いた土埃が、口の端にこびりついた赤い痕が、柔らかく拭われた。

しかしそれで綺麗になるほど、それらは乾いていない。

 なかなか完璧に拭えない汚れに苛立ったように、アーシュは刃を封印したバンダナをネクタルの水鏡へ放り込んだ。

 水気を絞ってから再度挑戦していく。


「……ごめんね」


 木々のざわめきにかき消されそうなほど、その声は小さい。

 しかし、その声を逃すほど彼はぼんやりしていなかった。


「君が謝ることじゃないよ」

「でも、結局巻き込んじゃった。エラも、私と関わったばっかりに、あんなことに」


 バンダナを握っていた手から、ゆるりと力が抜ける。はらりと宙を舞ったバンダナは、まるで導かれたように小さな泉へ着水した。

 水面はゆらゆらと、波紋を刻む。


「大丈夫だよ。彼女には何もされていない」

「あなたはそう考えるかもしれないけど、彼女はここへ連れてこられた。それだけで十分だよ」


 もしも自分が、彼女の立場であったら。

 想いを寄せる人が目の前で得体の知れない連中に囲まれ、自分自身は見ているだけしかできない。自分自身、安全とはいえない。

 そんな状況の中、彼女に与えられた恐怖感はどれだけのものか。何もされていなくても、精神的に受けた苦痛は犬に噛まれた程度では済まないだろう。

 一度は抑えた怒りが、ふつふつと煮詰まる。どうしてこうも、彼らは他人を巻き込みたがるのか。

迷惑極まりない。殺意を覚える。

 自分はこれから先、どれだけこの連中と付き合わなければならないのだろうか。

 だが――前言を撤回するわけにもいかない。


「レイルズ」


 二の句を返せない彼の名を呼び、アーシュは未だ地面に横たわるエドを指差した。


「この人。担げる?」




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