決闘! のたうつカボチャ
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海に浮かぶ小さな島『べジル』。
大陸と大陸をつなぐ航路にあるために、作られた港町のひとつだが、この島には秘密がある。
島の秘密を握っているのは、王でも、議会でもなく『農協』だ。その秘密は住民には伏せられている。
そして、俺、ラタ・トゥユは、この島の食と安全を管理している『農協』に属している、通称『農夫』だ。
今日も、農協の事務所に顔を出した俺は、俺たちに課せられた仕事に顔をしかめた。
「うわっ、カボチャかよ……」
「実入りは良いがな」
相棒のブル・スケッタが渋い顔をする。コストパフォーマンスは悪くない。だが……。
「カボチャは、重いんだよね」
「大八車がいるな」
「まいったね……」
とはいえ、『農協』からの仕事は絶対だ。
農協は、農夫の能力によって仕事を割り振っている。本来なら収入は季節によって変動する俺たちの仕事だが、『農協』が管理することによって、安定した収入が、月ぎめで支払われる仕組みだ。
もちろん、作物によってはボーナスもあるが、収穫の量に左右されずある程度の高収入を約束されるため、俺たち農夫は農協の秘密を守り続けている。
俺たちは、大八車を引き、塀で囲まれた町の裏門を出た。
港の裏側にあたる島の内陸部には、荒野が広がっている。
「カボチャはこのあたりに出るんだよね」
「あ、おいでなさった」
黄色の花を頭に咲かせ、地面をのたうつようにカボチャが移動してきている。
その体に、いくつもの重い実をぶら下げ、そいつは俺たちをみて、威嚇を始めた。
カボチャは、気性が荒く、攻撃的だ。
ブンとつるを振り回す。
俺は、構えた鎌で、それを切り落とした。
「そこだっ!」
ブルが、鋏で大きな実を切り落とす。
土埃が舞う。彼奴も必死だ。俺たちも必至だ。
カボチャとの死闘は、長い間繰り広げられた。
やがて。
俺たちは、戦いの戦果であるカボチャを拾い大八車にのせた。
こうして俺たちは、カボチャを出荷した。
俺たちがとってきたカボチャは、野生種野菜として人気がある。
町の中の畑で育てた町野菜より美味いと評判だ。
ちなみに。町の中の野菜は移動しない。いや、そもそも、この島の野生種だけが特別なのだ。
その秘密は、俺たち農夫と、農協だけが知っている……。
次回『死闘! トマトは紅に染まる』
檸檬 絵郎さまより、イラストをいただきました! 檸檬さま、ありがとうございます!