『断罪』
「ご丁寧に弱点まで教えてくれちゃってまぁ」
「弱点? あんのか?」
翼遊超気が歌峠鈴花に話しかける。
「ん~まあね。1つ、0秒移動じゃない。2つ、常時全能じゃない。3つ、射程範囲を視界の内のみに限定している。4つ、左手だけ型破り出来る。とか色々ね」
「じゃあなんだ、手加減してるのか?」
二人の間の会話が聞こえたのでそれに受け答えする桃花先生。
「してるわけないでしょ? 最強の拳銃を持ってても手に馴染まなかったら意味ないじゃん。だから、遠慮なく本気で来なさい」
戦うべき敵の前座と前に話したが、その戦うべき真のラスボスはその教室の一室内上空から見下ろしていた。まるで解説役のように。
彼でもあって彼女でもある。両生類。このエレメンタルワールドの神様、ミュウである。今はゲーム会社、神道社に居る巫女、舞姫に憑依しているので性別は女性寄りだ。
その彼女ミュウが器用な独り言を舞姫と話している。
「さあて、私に辿り着けるのは果たして何人かな~? 4人? 2人? はたまた1人?」
「勝ち抜き戦なのでありますか? 戦い終わったら回復するという慈悲は無いのでありますか?」
「勝ち抜き戦の方が緊迫感あって面白そうじゃないか?」
「その場のノリ頼りですか、この期に及んで……」
「まあ実際桃花の戦闘終わって、それでやらない戦わないというのも手だが。てかシリアスはなんかアレだな~。今度やる時は日常会話で話そうじぇ~」
「はぁ、緊張感の欠片もないですね」
「シリアルの副産物は心の肩がこるって所だな~」
そうこうしている内に、湘南桃花は治護遥和に狙いを定めた。狙うは『彼の罪』。
「1の型、夢幻を拡張する。時械炎型、いくよ!」
「げ! 待てその技は……!」
「避けるんじゃないよ、愛の鞭だと思って受け止めな……!断・罪ッイ……!」
力の限り、思いっきり炎の剣を振りかぶった。莫大な炎を凝縮した紅蓮の大剣『断罪』が迸る。
「おぉォオ!?」
治護遥和は秋騎士団を防御型に身に纏い。チリチリチリと存在の力を消耗しつつ、炎を受け止める。ゴオオ! と灼熱の熱風が遥和を襲う。
祈巫照礼は「遥和!」と叫ぶ。が、照礼は桃花に攻寄られる。
「あなたは金の指輪コルデーを取りますか? それとも銀の煉瓦オベリスクを取りますか?」
「げ!」
「まあどっちもあんた達には速いか。じゃあこのトレースした『とけない氷』をあなたにぶつけましょう。当たったら痛いわよ?」
「ゲゲゲ!」
瞬間、祈巫照礼は氷河の中に閉じ込められた。
「まずは1人ね」
「と、思たでしょ?」
「え?」
照礼は、認識が実体化した空間で。桃花の氷の力を粘土のようにコネコネと束ねる。
「冬合気道! あなたの力を利用する!」
瞬間、湘南桃花は氷河の中に閉じ込められた。これで一時の休息や間が発生すると思っていた照礼。だが、どうやらそうはいかないらしい。
それは教室なのに天空からピシャ! と遠雷が一つ。
「3の型、ヒルベルト空間。運命の糸から再構築、技名【雷速鼠動】!」
とけない氷は桃花によって0.03秒で無効化された。その理由は5人ともわからない。だが出来てしまったものはしょうがないので。次に切り替える。
それらを観ていた二人にして一人は誰にというわけでもなく自分自身に語り掛ける。
「どう観ます? 星明幸、いえミュウ様」
「個性がないのう、どこかでみたセリフの寄せ集め。あいつら『5人』はもっと出来るやつだと思うんじゃがな」
「型破りがあってもですか?」
「あんなの飾りじゃ飾り、本当の行動というものは心から動きたいと思うものでなくてはならぬ」
「すると今は桃花様の方が優勢で?」
「そうじゃな、揺らがぬ意志。歴史を持ってるという意味では勝っているかも知れぬ。だが年月だとあの4人も負けちゃいないんだがな」
「では過去の出来事が濃い方が勝つと?」
「普通はそうなんじゃがな、だがこの勝負『心』を無視するわけにはいかぬ」
「心技体では無いんですね」
「認識が実体化したこの空間じゃ、腹にくくった一本の心という名の槍を5人が5人とも持ってるという感じじゃ。だからこれは誰がそれを成し、それを許すか。削り合いとまではいかないが消耗戦だな」
「消耗戦、譲り合いですね」
「まあ譲れないから、争ってるんだがな」
「だりゃりゃりゃりゃりゃ!」
目にも止まらぬ連続攻撃を翼遊超気は猛襲する。本来、湘南桃花は普通の人間なので。戦闘経験を積みに積んでいる超気に武術では全く歯が立たない。それを2の型、戦鳥で視界に入ったものの攻撃を片っ端から反転して置いている。絶対防御だ。
それを桃花は後ろに後ずさりしながら回避してゆく、どんどんどんどん後ずさりしてゆき。もう後がない状態まで来た。机の上の崖っぷち。【2の型、戦鳥】右目を閉じて左目を見開いたまま。湘南桃花は翼遊超気に言う。
「こんなもんじゃないでしょう? 私もあなたもさ」
期待に胸を踊らせていた。




