第6話「再稼動」
鏡甲が新たな身体を手に入れてから、私はずっと彼女の腕試しにふさわしい舞台を探していた。
因みに、肌の保護剤問題は既に解決している。これ一つで洗浄・保護剤噴霧・乾燥を全て自動で行えるユニット型のシャワールームを購入したからだ。ユニット単体でも高額で保護剤の消費も二倍になってしまうが、前々から必要だと判断した物は全て買い与える決意をしていた。それが可能になるよう、外見の設定が可能なPG-5型が出るまでの間、ずっと他の全てをなげうって貯蓄を続けてきた。収入は簡単には増やせないから長期的に出費を削りつつ資金を貯め込むしかなかったのだが、おかげで欲しいと思った物はローンを組まずに買う事が出来るし、潤沢な資金があると精神的にも余裕が出てくる。結論をいえば、彼女達との生活に必要なのは愛とお金なのだ。
さて、今出られる試合については、大規模な公式大会ともなると数も時期も限られるが、小規模なトーナメントは定期・不定期合わせて無数に存在する為、彼女の復帰戦はその中から選ぶ事になる。そして、時期や規模、立地の条件に合う大会がついに明日始まるのだった。
この事を彼女に伝えると、てっきり喜色満面で喜ぶかと思っていたのに、実際は不安げな陰のある表情でうなずくのみだった。筋肉比率の調整はもう済んでいるのに、何か不安要素でも残っているのだろうか。でも、それならそれで試合に出れば問題点ははっきりする。その為の試運転なのだから。
翌日、準備万端、出発する。準備といっても私が用意する物はマイ無線機と救急修繕キット位の物で、後は多少身だしなみを整える程度で済んでしまう。今日の役目は鏡甲を試合会場までケースで運び、大会の出場登録をして、試合ではセコンド役として彼女を支える、その三つだった。
彼女の方も試合用の上等な紺色の袴を着て得物の十文字三日月槍を持ち、後はキャリーケースに入るだけで準備は全て完了してしまった。しかし、ケースに入る時もかつて狂火と呼ばれていた時期の自信に満ちた姿ではなく、連敗続きだった時期と同じ憂いのある顔付きだった。やはり、私には何も言わないが何か不安要素を抱えているのだろうか、それともあまりに勝利から遠ざかってしまい今一自信が持てないだけなのか。どちらにせよ私に出来るのはセコンドとして彼女の闘いをサポートする事だけだった。
「じゃあ、行こうか鏡甲」
「あ、はい。お願いします」
鏡甲の返事を聞いてからケースを持ち上げる。何も言わずにいきなり持ち上げるのは配慮の無い行為でマナー違反だった。
目的地である試合会場は玩具の他にPGドールの衣類や日用品を扱っている店で、そこは全国展開を行っている大手玩具販売店であり小規模な大会を定期的に行っていた。因みにコロセウムとはPGドール社が主催する公式大会の総称なのだが、非公式で小規模のトーナメントでも勝手にコロセウムと名乗っていたりする。
こういう直営店ではない店舗でもPG-3型まではボディそのものやパーツも扱っていたが、PG-4型からは高度になりすぎて扱えなくなってしまった。既にPGドール取り扱いの認可自体は得ているので、例えハードルが高くとも後は企業努力次第だろうと思う。
店舗でボディーパーツが扱えない状況になってもPGドールの大会は伝統的に続けられてきた。彼女達の事となると財布の紐がゆるみっぱなしになるヘビーユーザーだけでなく、今は新規に入ってくるオーナーも多いから、もしかすると衣類や日用品だけでも宣伝効果は依然としてあるのかもしれない。
かく言う私もあの高額なシャワーユニットはこの店で注文している。頻繁に消費する皮膚保護剤等も取り扱っているから、配送料すら節約したい私は近くてとても便利なこの店をよく利用していた。
家から徒歩にて十五分、例の玩具店が5Fから7Fまでテナントに入っている駅ビルに到着した。そして目指す試合会場はビル7Fのイベント兼用スペースに設けられている。
エレベーターを出た直ぐの所にエントリー受付があり、係員の若い女性がパイプ椅子に腰掛けている。そして、折り畳み式の会議用長テーブルには分かりやすく『出場登録受付』との張り紙が垂れ下がっていた。
「あ、すいません。試合のエントリーをしたいのですが」
「それでしたら、ここにお名前とPGドールの名前を書いて下さい」
「はい」
私は実に手馴れた感じですらすらと必要事項を用紙に書いてゆく。もう、この手の書類は何度書いたか分からない。PGドール購入時の厳格な書式に比べたら実に簡単な物で、身分証明も必要無い。だから、一分と掛からずに出場登録が済んでしまった。
「記入、終わりました」
係員は差し出された用紙にざっと目を通す。
「……結構です。えー、鏡甲さんのエントリーナンバーは、24番です。あと、当大会のルールはこの紙に書いてありますので事前に読んでおいて下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」
言われた通り、差し出されたコピー紙を受け取ってざっと目を通す。出場経験自体は豊富なのだが、いかんせんブランクが長い。だから改めて確認する必要があった。
幸いな事にルール自体にはほとんど変化は無いようだった。基本的なルールに関しては全て公式大会の取り決めに基づいて作られる為、コロセウム本大会でもルールは変わらないという事になる。これは僥倖と言っていい。不安要素が一つ減ったのだから。
鏡甲に与えられた番号は24。このエントリーナンバーは登録順に付けられる為、もうすでに23名の登録者が居るのが分かる。しかも途中経過での数字だ。この数だけでも競技人口が確実に増えている事が実感出来てしまう。以前の参加人数はこの半分以下だった。恐らく、レベルの方も相応に上がっているのだろう。
「では10時に身体検査を行うまではPGドールの外出は自由ですので、用事がある場合はそれまでに済ませておいて下さい。尚、10時の時点で会場に居ない場合と10時以降に当会場から出た場合は失格となりますのでお気をつけ下さい」
「分かりました」
受付の係員が簡潔に大会の注意点を説明してくれた。手元のルールにも書いてある事なのだが、よほど読まずに外出する人間が多いのだろう。そこだけは直接口頭で説明しているようだった。
もちろん、この不便なルールにも明確な理由がある。これは不正行為を防止する為に作られた規則だった。
やろうと思えばいくらでも筋肉の増やせるPG-4型が登場してから大会出場者の筋肉量に上限が設けられた。それはトーナメント開始前の身体測定によって計られ、試合毎に計るような真似は時間が掛かるために行えない。だから、測定後に筋肉量を増すか、バックアップ機能を悪用して身体を入れ替えるかすれば不正が可能なのだ。
もちろん私達は不正などする気は毛頭無いし、特に他の用事も無いから大会が終わるまでずっとこの会場に居るつもりだった。ただ、トイレに行く時だけは鏡甲を会場に一人残さないといけなくなるので今の内に済ませておこう。
このビルはトイレも非常階段入り口もエレベーターホールにあって、ちょうど受付の係員が7Fへの出入りを全て監視出来る位置に居た。これなら別に他の従業員を駆り出す必要も無いだろう。
さて、トイレに行く前にやる事が一つある。
「鏡甲。これからトイレに行くから窓を閉めるよ」
「はい、分かりました。どうぞ」
ちゃんと告知をしてから駕籠ケースの屋根にあるボタンを押す。こうする事で周囲の物音や景色がケース内に入らなくなる。同時に内部のLED照明も点灯するから室内が真っ暗闇になる事もない。しかし、太陽光と照明とでは光の強さも色味も違うから、これを何も言わずにいきいなりやると中の鏡甲が驚くので、事前に伝えるのは当然の気遣いだった。
普段から一緒に外出をしていると、鏡甲に見せたり聞かせたり出来ない場面も当然出てくる。法律で特に定められていなくとも、キャリーケースにこういう機能を付けるのは紳士たるPGドールオーナーの一般常識だった。
所用を済ませて試合会場であるイベントホールに入ると、まず人の多さに驚いてしまった。人数からいって試合に出る娘のオーナーだけではなく、観戦目的のギャラリーも沢山居る様子で、これらも以前からは考えられない光景だった。
試合への出場組はもちろんの事、見物人とおぼしき人達もPGドール所有者が多かった。彼らの主な活動は品評会なのか新規購入したばかりで試合がどんなものか見学に来ただけなのか、理由は分からない。最近はアイドルのように熱烈な追っかけが付く事もあるから、もしかしたら有名な娘が出場するのかもしれない。
これだけ人が居るのに、周囲を見回しても見知った顔は一人も居なかった。何年ものブランクがあるから仕方のない事かもしれない。つまり、これから対戦する相手は全員が初見、という事になる。ブランクが長いというのはこういう点でも不利だった。
それにしてのも、出番を待つ人々の放つ熱気は凄い。真剣な面持ちで打ち合わせをする者、入念に動作のチェックをする者、パッドの動画を使って作戦を練る者等々、一見しただけでギャラリーとは違うという事が分かる。彼ら一人一人の放つ熱量がホール全体の気温を2・3度は上げている気さえした。それだけみんな気合いが入っているという事だ。私達も負けてはいられない。今日は大事な鏡甲の復帰戦なのだから。
現在時刻は9時45分。エントリー受付は9時30分に終了しているから、もうそろそろ試合の組み合わせが会場のモニターに表示される筈だ。
それから10秒もしない内に壁掛け式の90インチはある大モニターにトーナメント表が表示された。それと同時に周囲の空気が緊張で一気に引き締まる。各々の対戦相手が判明した途端、他の参加者達は携帯端末を取り出して画面のチェックを始めた。見ている画像を覗き見るまでもない。彼らは対戦相手に関する動画を探しているのだろう。
こういう映像資料は当然全て自分で用意しなければならない。試合会場で自らが撮影したり、知り合いに頼んだりして事前に集めておけば、いざ対戦となれば有効な対策を立てられるしかなり有利になる。こんな所でも長いブランクのある私達と現役でやっている人達との間には差があった。
そんな折、ギャラリー連中の雰囲気もがらりと変わっていた。試合に参加しない彼らは手に携帯や撮影機器を取り出して試合会場の周囲に集まりだしたのだ。ここに来たのは興味本位の観戦などではなく、彼らの目的はもっと大きな大会、つまり公式コロセウムの為に出場者の情報を収集をする事にあるのは明らかだった。こうして改めて見ると、彼らが皆冷徹な勝負師に見えてくる。
私も普段からネット等から情報収集を続けていたのだが、やはり現場に来てみないと分からない事も多い。でも、例えそれが分かっていたとして、プライベートは出来るだけ鏡甲と一緒に居たいし、試合に出られずに落ち込んでいる彼女を無神経にこんな所に連れて来る訳にもいかない。用は選択の問題だった。
この人達は、恐らくかなりの実績と実力があって、出来るだけ対戦経験を積んで腕を磨く必要が無く、入賞の賞品にも興味が無いのだろう。優勝商品が淑女の嗜み店舗限定デザインの高級ドレスとハイヒールのセットで、準優勝が夜のお供にネグリジェと高級ランジェリーのセット、6位入賞でも高グレード皮膚保護剤が貰えるのだから、それなりに蓄えがある私でも垂涎してしまう豪華賞品の数々だった。最近はPGドールの関連市場が新規顧客の増加で急拡大しており、おかげで賞品を豪華にすれば十分な集客効果をのぞめるらしい。率直に言うと、下世話な話、私だったら例え相手に研究される事になっても優勝を目指して欲しいなとか考えてしまう。鏡甲の方も試合に出ずに傍観するなんて選択は絶対にしない筈だ。ともあれ、こんな場末の大会で得た情報が本大会で役に立つのかは分からないが、ほんの些細な情報が勝負を分けるという事もあるかもしれない。あらゆる相手の情報を直ぐに引き出せるよにするのも戦いの内、という心積もりなのだと思う。
いかにも用意周到な連中に脅威を抱きつつも、つい目立つ所に堂々と展示されている賞品の高級ドレスに目が行ってしまう。とても上品かつ落ち着いたデザインで装飾にも嫌味が無く、それに加えて全体を彩る鮮烈なローズ・レッドが大人びた雰囲気を増大させていた。これは一見しただけで、欲しいっ、これを着た鏡甲が見たいっ、と思わせるような魅力ある逸品だった。もしも鏡甲が道半ばで倒れる事があろうとも、次の誕生日にでも買ってやろうと固く決意をする。
場内の空気が少し落ち着いてきた所で身体検査のアナウンスが流れた。時計を見ると定時よりも10分早い。これは恐らく最初の検査が終わる頃には10時を過ぎているという計算に基づいた開始時刻なのだろう。
検査装置は1セットしかないから試合の早い順に呼ばれてぞろぞろと並んでゆく。つまり順番通りだと私達の前に並ぶ娘が初戦の対戦相手という事になる。組み合わせ表では確かナンバー31番の『紫苑』さんだったはずだ。
紫苑、という名はきっと花から取ったものだろう。その花はキク科の多年草で秋に薄紫色の花を咲かせる。芍薬や牡丹のように美人に例えられる花ではないけど、私はその細くて整った花びらと色合いから落ち着いた大人の女性を連想してしまう。一体、実物はどんな娘なのだろうか。命名のセンスが良いからイメージ通りなのかつい気になってしまった。今は彼女達の容姿を自由に設定出来る。だから今後は名前から容姿を色々と想像するのが密かな楽しみになりそうだ。
そんな風に考えていると、番号を呼ばれた紫苑さんとセコンドが雑踏から進み出て列に加わる。果たしてどんなオーナーなのかと見てみると、小柄で痩せ型、大きな銀縁メガネを掛けている気弱そうな男性だった。もちろん肩にはショルダータイプのキャリーケースを吊るしている。ケースは全体が偏光シートに覆われているので紫苑さんの容姿については未だ不明だった。
この後直ぐに私達も呼ばれて彼の後ろに並んだ。ここは、試合前に挨拶でもと思い立つも、やはり勇気が出ずに声を掛けられなかった。どうにも西山さんのように気さくに挨拶という芸当が私には出来ないようだ。これも性分だから致し方ない。
検査は一人当たり15分程の時間が掛かる。検査機械は二つあり、一つはP筋の量と重量をスキャンする装置、もう一つはS筋の量と重量をスキャンする装置だった。P筋とS筋とでは質も重量も違うから筋肉全体の重量だけを計っても筋繊維の量は分からない。これがそれぞれ7・8分位時間が掛かってしまうのだ。一つの機械でまとめて出来れば良いのだが、現状では技術的に難しいらしい。
待つ事数十分、遂に紫苑さんチームの順番が回って来た。オーナーが二つ並んだ検査機器の横にケースを置くと、そこから初戦の対戦相手が姿を現した。
出てきた紫苑さんを目の当たりにして、どこかで見た事のある面構えだと思い記憶を手繰る。結果は直ぐに出た。彼女はPG-4型のスタンダードフェイスと同じ顔をしていたのだ。この型は選べる顔が32種類まで増えてはいても、私から見るとどれも造形が甘くてこれといった美点も無いような面しか存在しなかった。これは確かナンバー12番の顔だったと思う。少し釣り目でボーイッシュな面構えに頭は淡紫色で癖のあるショートカット、体付きは全体的にスレンダーで背丈は高く、背の高い鏡甲よりもさらに長身だった。
PG-4型は新型が出た事で現行型より一世代前のボディとなってしまったものの、使われている筋肉の性能にあまり差は無く、単純な戦闘能力だけを取れば出たばかりのPG-5型と互角に渡り合える性能を持っていた。鏡甲よりも旧式とはいえ決して油断の出来る相手ではない。
そんな彼女の検査も終わり、やっと私達の出番になった。正直、今は試合の事で頭が一杯で、型式から明らかに試合経験のある対戦相手の事や、新しい身体にまだ慣れていない様子の鏡甲に対する不安等々、色々と思い悩みながら前の人に習って検査機械の横に駕籠ケースを置いた。
「さ、鏡甲。試合前の検査をするから出ておいで」
「はい。承知しました」
私はそっとケースのスライドドアを若干引く。後は鏡甲が自ら出てくるのを待つだけだ。普段はあまり人前に出るのが苦手ではあっても、こういう目的がはっきりしている場面では逡巡する事も少なかった。
やはり、もう心の準備は出来ていたのだろう。彼女は間を置かずに戸をさらりと開けて姿を現した。
鏡甲が駕籠から出た瞬間、検査機器のオペレーターやたまたま眺めていたギャラリーが息を呑むような表情に変わる。多分、轟天モデルを見るのは初めてなのだろう。それならば無理もない事だと思った。
その周囲のざわめきは次第に広がっていき。
「あれ、轟天モデルじゃないか?」
どこからか漏れたその一言が引き金となって、わっと人が集まってきた。ある者は肉迫してまじまじと眺め、またある者は携帯を近付けて激写を続けていた。まるで私の事などお構いなし。オーナーの存在すら認識していないような不躾な行為に思わず閉口してしまう。いや、それよりも、人見知りの激しい鏡甲の方が心配だった。
「ひっ、ひゃんっ」
案の定、仰天した鏡甲は可愛い悲鳴を上げて駕籠ケースに引っ込んでしまった。とてもシャイな彼女がこんな事態に耐えられるはずも無い。
確かに轟天氏の作品は現存数が少なく希少な存在ではある。これは元々手作りで生産数自体が少ない上に、例の法律が施行される前に処分してしまった人も居る為だ。それに加えて引退した轟天氏に迫る才能を持った人が未だ現れていないという事情もあって、彼女の価値は日を追う毎に高くなっていた。
それでも、彼女が最前線で活躍していた当時はこんな事は起こらなかった。今や轟天モデルの希少性は伝説級なのだろうか。
正直、オーナーとしては少し嬉しい反応だが、困った事態でもある。これでは事が進まない。ここは一つ、しっかりと大人の対応で乗り切ってやろうと思う。
「あの、すいません。この娘はとても恥ずかしがり屋なので、あまり刺激しないでもらえますか」
私は出来るだけ毅然とした態度になるよう意識しながら周囲に向けて声を張った。決して怒気は見せず、落ち着いた声と態度を心掛ける。周囲の反応がどうなるか内心不安だったが、自らの態度に配慮が足りなかった事を自覚したのだろう。皆バツの悪そうな顔付きで検査台から距離を置てゆく。
「鏡甲。もう大丈夫だから出ておいで」
「本当、ですか?」
少し心許ないような声が返ってくると駕籠の戸がそろそろと開いていき、鏡甲がその開いた戸の影から恐る恐る顔を覗かせる。彼女が顔を出しても肝心の元凶であるギャラリー達は遠巻きにわざとらしく目を逸らせていた。それでもしっかりとカメラを回している辺りは、何ともしたたかな連中だと思う。
「龍彦が対処してくれたのですね。ふぅ、助かりました」
「まぁ、人間相手は僕の出番だからね。周りが聞き分けの良い人達で助かったよ」
「いえ、龍彦はすごいです。私も見習わなくてはいけません」
鏡甲は嬉しそうに言って尊敬のこもった眼差しを私に向ける。その瞳はキラキラと輝いていた。彼女にそんな目で見られるとさすがに照れくさくなってしまう。それでも、彼女の笑顔を見ていると、これからも期待に応え続けたいと願わずにはいられなかった。これはもう不治の病のような物なのだろう。
その後はつつがなく検査も終わり、後は鏡甲と試合の様子を眺めながら勝負の刻を待った。もちろん、携帯のカメラで試合を撮影する事も忘れない。試合映像による分析が鏡甲の役に立つかは分からないが、一応、出来るサポートは全てやるつもりだ。