第2話「再会」
行列は店の入り口から左方向へと街道に沿うように続いている。私たちは一旦道路を横断して店舗前まで来てから、人の列を最後尾に向かって進む。
人の数が想像以上に多く、焦りから少し小走りで進みつつ列に目をやると、携帯の画面を食い入るように見ている人、同好の士と熱く語らう人や人形同士を交流させている人、只ひたすらに人形を愛でている人等々、十人十色、愛好家達はそれぞれの方法で待ち時間を楽しんでいる様子だった。
それにしても行列が本当に長い。登録にはそれなりに時間が掛かるから順番が来るのは昼過ぎになるかもしれない。店側もここまで人が来る事は想定外だったのか、未だ整理券の類を配布する気配すら無かった。
そんな事を考えながら走っていると、列の最後尾辺りだろうか、不意に私を呼ぶ声がした。
「おーい。東湖さん。おーい、こっちだ、東湖さーん」
「……え?」
あまりに突然でしかもかなりの大声。私は驚いて歩みを止め、声の方を凝視する。この野太い大声にはどこかで聞いた覚えがある。
視線の先では列の最後に立つ大柄な男性が満面の笑みで大きく手を振っている。やはり見知った人物だった。
「あ、西川さん。お久しぶりです」
私は挨拶をしながら西川さんに駆け寄ってゆく。彼もPGドール初期からのユーザーで、コロセウム初出場の時に出会った同好の士だった。
SNS等にはあまり興味がなく、むしろ煩わしいと思っている私ではあるが、彼だけは別で、西川さんのライブ感溢れる発信はコロセウムから離れている私にとっては重要な情報源だった。ただ、その全てが大会常連のヘビーユーザーを前提にしている情報の為、当然大会に出ていれば知り得るような事はわざわざ書かない。ここで彼に会えたのは僥倖といえる。待ち時間もたっぷりありそうだし雑談交じりにコロセウムの近況を色々と聞いてみようと思う。
近付いてみると彼の大柄さがよく分かる。身長192センチを誇るこの巨漢の名は西川虎吉といい、私と同じくかなりのPGドール愛好家である。彼ならば列の最前列に立っていてもおかしくないのに、何か事情があって遅れたのだろうか。
西川さんはかなりの長身で肩幅も広く、髪は癖の強い白髪混じりの短髪で眉は太く目も大きい。体格故に傍で見るとかなりの威圧感があるものの、どこか愛嬌のある顔付きと温和な表情のおかげで親しみやすそうな雰囲気を醸し出していた。そして、実際に温和で親しみやすい性格をしている。
「えーと、確か、前々回の神奈川大会以来だから、実際に会うのは二年ぶり位かな?」
「えぇ。それ位だと思います。PG‐1型が出られなくなってからコロセウムには参加してませんから」
「うん。やっぱりそうか。じゃあ、今回の新型で遂に念願が叶う訳だね」
「全くその通りです。もう、本当にこの時をずっと待っていましたから。実は昨日、楽しみすぎて眠れなかったんですよ」
私の事情は西川さんもよく知っている。だから、彼の視線も口調も穏やかで優しげだった。
「ははは。でも、参ったな。これで無双の女修羅、キョウカ、の復活かぁ」
そう言ってはいるが表情は感慨深げで、遠くを見るような目で空を見上げながら顎を撫でていた。彼の言っているのは「鏡甲」の方ではなく「狂火」の方だろう。何とも物騒な呼び名だが、これも鏡甲の戦いぶりから付けられたた物であり、全盛期を知っている人からそう呼ばれるのはやはり嬉しい。
「えっと、新しい身体に慣れるのには時間が掛かるでしょうし、直ぐに復活という訳にはいかないでしょうけど、次の神奈川大会までには仕上げられると思います」
「よし。じゃあ次に会うのはコロセウム公式大会だね」
「多分、そうなります。もし対戦で当たったら、こちらはブランクがありますのでお手柔らかに」
西川さんは最初期からのユーザーで、もちろん轟天作品の持ち主でもある。しかし彼は勝利の為にPG‐3型からボディを変えており、今はさらに高度なPG‐4型に変えて十分に熟練させていた。以前にも言った通り、PG‐4型の身体能力は今日発売の最新型とほぼ変わらない。つまり、ずっとPG‐1型で通してきた鏡甲とは違い、新型運用の経験では現時点で大きな差をつけられていた。
「いや、そんな余裕は無いと思うよ。ま、その時が来たら正々堂々……おっと、そうだ。まだ飛毬ちゃんとの挨拶がまだだったね」
彼は思い出したように言うと、肩に担いでいるキャリーケースをそっと地面に置く。彼の持つケースはかなりの大型で彼の体格だからこそ持ち運べるような代物だった。その外観はお菓子の家をイメージして作られたらしく、まるで童話の中から飛び出して来たかのように精巧に作られている。
「さ、マリちゃん。我等の戦友にご挨拶だよ。出ておいで」
「あ、じゃあ、こちらも」
私も慌ててケースを下ろす。今は屋根の窓を開けているから鏡甲にも今までの会話は聞こえていただろう。
「あ、はい。分かりました虎さん」
甘そうな家のドアが開いて、中からおずおずと外を伺うようにして美しい少女が顔をのぞかせる。彼女は私の顔を認めると、緊張した足取りでケースから出てきた。
「お、お久しぶりです、東湖さん」
黒地の修道服に身を包んだ飛毬ちゃんが少しぎこちなく挨拶を述べてぺこりと頭を下げる。内気なのは相変わらずのようだ。そして、外見もPG‐1型の頃、つまり轟天モデルに戻っていた。脳の容量や人格転移方法の違いから新型から旧型に戻すのには物凄く手間が掛かるはずなのに、見るからに保存状態の良い身体といい、彼の轟天モデルに対する深い愛情を感じ取る事が出来る。
頭髪は光沢のある銀色のショートヘアで髪の質はストレート、肌は白く瞳は宝石のようなエメラルドグリーンという、異国風というよりは異世界風の色遣いだった。目はクリっと大きく少し垂れ気味なのに対して顔の輪郭と鼻や口は少し小ぶりで全体的な顔付きは幼く見える。そして、何よりも特徴的なのはエルフのように大きく尖った耳であった。おかげで彼女の風貌は儚くて可憐で何とも幻想的に見える。彼女の作成オーダーには、ファンタジー小説好きな西川さんの嗜好が色濃く反映されていた。PG‐1型が出た当時、このような異世界風の外見にする人は少なかった。それ故、ファンタジーブームが再燃している昨今、もしもオークションに出したらかなりの高値が付くに違いない。
身長は見たところ31センチ程度。鏡甲と比べるとかなり小柄だ。その小さな身体でカトリックのシスターが着るような修道服を身に纏っていた。靴が地味な茶色のロングブーツという所も聖職者風の雰囲気に一役買っている。しかし、頭にフードは被っておらず、あえてそうしているのであろう、特徴的な頭髪と耳を露出させていた。
それにしても、見れば見るほど、轟天氏の仕事は素晴らしい。本当に。
「西川さん。轟天モデルに戻したんですね」
「あぁ、そうだよ。今日のために身体を元に戻しておいたんだ。いやはや、本当に大変だったよ」
正直、鏡甲が悩んでいる時期に彼と同じ事をしようかと考えてはいた。しかし、たとえ一時的であっても鏡甲の姿を変えるなんて我慢出来なかったのだ。ようやく、我慢の甲斐あって姿を自由に設定出来るPG‐5型に変える事が出来る。そう思うと、感慨深くてつい目頭が熱くなってしまうのだった。
「さ、鏡甲も西川さんにご挨拶だ」
私の方も手元に声を掛ける。すると、もうすでに準備していたのか、直ぐに駕籠ケースの引き戸を開けて鏡甲が出てきた。今回、外出用の服から彼女が選んだのは黒地のセーラー服。女学生だとフォーマルな場でも着用する為、私にも良い選択に思えた。その服装で先の膨らんだ十文字槍の収納袋を担いでいる姿は部活帰りの女子高生を連想させる。
「西川さん、ご無沙汰してます」
「うん。うん。鏡甲ちゃんお久しぶりだね。マリちゃんもずっと君に会いたがっていたよ」
鏡甲は西川さんに向けて頭を下げつつ再会の挨拶をした。外に出て知人に会うと彼女の礼儀正しさが良く分かる。やはり、武道の精神がそうさせているのだろう。全て、鏡甲の弟子入りを許して技だけでなく礼節も教えてくれた祥武月影流の師匠のおかげだ。鏡甲の方も指南を通じて恩師の深みがある精神の在り方や重みのある発言に多大な影響を受けているらしく、義理に厚く態度や言葉遣いも常に丁寧だった。
白状すると最初は鏡甲が真っ当に育つか不安だったが、彼女は良師のおけげで確実により良い方向へと成長している。
「キョウちゃん久しぶりっ」
「はい。お久しぶりですマリさん」
西川さんとの挨拶が終わるのを見計らって、今度は飛毬ちゃんが飛び掛りそうな勢いで駆け寄ってきた。顔は花が咲いたような笑顔。本当に再会を喜んでいる様子だった。
対して、鏡甲の方は優しい微笑みを浮かべて、突進してくる飛毬ちゃんに受けの姿勢で応じている様子だった。
「えっと、二年ぶり位かな? ヒマリね、キョウちゃんに話したい事、いっぱいあるんだ」
「はい、私もです、マリさん。ずっと再会を楽しみにしていました」
少し幼いしゃべり方で素直に喜んでいる飛毬ちゃんに比して、鏡甲の反応は丁寧かつ生真面目そのもの。しかし、表情の方は柔和な笑顔で、こちらも変わらず友人との再会を喜んでいる様子だった。言い回しが大人しいのは、感情のままに大喜びではしゃぎ回るのは無作法だと師に教えられているからなのだろう。
性格は対照的で姿も似ていないのに、和気藹々とした雰囲気で再会を喜び合う二人の姿は仲の良い姉妹のように見える。まぁ、厳密に言うと生みの親が同一人物だから姉妹というのは間違いではない。最早轟天モデルが新たに生み出される事は無く、廃棄やメンテ不良による劣化等の様々な理由で減少を続けているから、今は一体何人の姉妹が残っているのだろうか。
それにしてもこの微笑ましいい光景を見ていると、もしも私の収入が上がって二人分を養えるようになったら鏡甲にも妹を作ってやりたいなと考えてしまう。残念ながら現状を鑑みるとまだまだ夢物語でしかないのだが。
「あ、じゃあさ。これからヒマリの部屋でお話しようよ。これだけ人が並んでいたらお店に入るまでに時間が掛かるだろうし」
「えぇ。それは良い考えです。では……」
そう言ってから、鏡甲は私の顔を見上げる。どうやら許可を待っている様子だった。友人の部屋に遊びに行く位、私の許しなど無くとも自由にすれば良いのに。別に普段からそうしろと言い含めてる訳ではないのだが、にも関わらず、彼女が出先で勝手に行動する事はまず無かった。双方向の発信機があるから迷子になる心配もないし、それほど徹底する必要は無い筈なのに。恐らく、こういう律儀な所も師匠の影響なのだろう。
「うん、良いよ鏡甲。行ってきなさい」
「はい。では行ってきます龍彦」
「よしっ。じゃあ行こっか、キョウちゃん」
「はい」
彼女は私の許可を認めると、嬉しそうにはしゃぐ飛毬ちゃんと雑談に興じながらお菓子の家風ケースへと並んで歩いてゆく。飛毬ちゃんは元より鏡甲も随分と楽しそうだ。それは話声の質だけでも分かる。
「いやはや。あんなに嬉しそうなマリちゃんを見るのは久しぶりだよ」
二人が部屋に入るのを見計らって西川さんが口を開く。かくいう西川さんも随分と嬉しそうだ。やはり、彼も私と同じで、飛毬ちゃんの喜ぶ顔を見るのが何よりも嬉しいのだろう。
「私も、鏡甲の楽しげな声を聞くのは本当に久しぶりです」
「お? やっぱり鏡甲ちゃんもそうだったんだ。これはオイラの朝寝坊が結果的には大正解、という事になるのかな。はっははは」
「あ、西川さんは朝寝坊だったんですか。私の方は、二時間前に着けば十分だろうと思って家を出たんですよ。そしたらもうこんなに人が並んでて……」
「あぁ、そういえば東湖さんは二年程ブランクがあるんだったね。今はかなり人が増えてきてるから驚くのも無理はないよ」
「試合には出られなくても情報収集だけはしていたつもりなんですが。まさかここまで人が増えているとは」
「今は善意のユーザーがネットで購入に必要な手続きとか維持・管理法なんかも分かりやすい形で発信しているからね。極端な偏見も薄まってきているし、一昔前よりも敷居自体は低くなっていると思うよ」
西川さんの言っている事もネットの記事を読んで知ってはいた。しかし、恥ずかしながら今日この行列を目の当たりにするまでは実態を理解していなかったのだ。コロセウムに出続けている西川さんは、競技人口の増加を直に見ていたから現状を正確に把握しているのだろう。再出発の日に早速の体たらく。ブランクの影響は予想以上に大きいようだ。これは、気合を入れ立て直さないといけない。
「何か、昔を知っている者の目から見ると隔世の感がありますよね。まさかショップの前に行列が出来る日が来るなんて」
「まぁ、一昔前の愛好者に対するイメージは散々だったからねぇ。これも、紳士諸君の長きにわたる自制が実を結んだ結果なんだと思うよ」
「それは、ありますよね」
昔日に想いを馳せて感慨深げにうなずく西川さん。私もきっと同じ表情でうなずいているに違いない。
そんな風に野郎二人で佇んでいると、足元のお菓子ハウスから黄色い笑い声が漏れ聞こえてきた。随分と楽しげな声だ。それを聞いているだけで何とも嬉しい気分になってくる。それにしても、一体何を話しているのだろう。凄く気になる、が、彼女達のプライバシーにもしっかりと配慮をしなくてはならない。鏡甲や飛毬ちゃんに宿っているのは人格そのものなのだから。
「あ、そういえば、最近のコロセウムはどうですか?」
これが、今一番聞きたい事だった。
「あぁ、そうか。やっぱり一番気になるのはそこだよね」
彼にはお見通しだったようだ。そして、少し考えるような仕草をしてから改めて口を開く。
「うん、そうだね。一言で言うと、凄くレベルが上がっている、かな。参加人数が増えているのだから当然といえば当然なんだけどね」
「そんなに上がっているんですか」
不安のあまり、つい声が固くなってしまう。参加者のレベルが上がっているのは仕方ないとして、問題なのはどの程度上がっているのか、という事だ。もし、鏡甲の強さが完全に過去のものになっているとしたら、復活を期する彼女にとっては由々しき事態だった。
「かなり、ね。今はちゃんと武道を習わせている人も多いし、我流を通している娘なんかも、何かのきっかけで開眼したのか、ある時急に強くなったりする事もあるしね。それに、見た事も聞いた事もないような武器の使い手とかも居て、慣れていないからどんな動きをするのか掴めなくて苦戦する事も多いんだよ」
「嗚呼。やっぱり師匠を付ける人が多くなったんですね。昔はそこまでやるのは鏡甲位だったのに……」
「そういえば、鏡甲ちゃんがその道の先駆者だったね。皮肉かもしれないけど、当時の活躍が後進の人々に影響を与えているんだと思う。普通に考えて、一流派の師範に弟子入りさせる、なんて事を自分で考え付く人なんて東湖さん以外に居ないだろうし」
「えっと。そうなんですか。いや、でも、あれは」
彼の言うように正に皮肉だった。かつて、不用意にも鏡甲が槍術の教えを受けていると対戦者の数人に話した事がある。その情報が知らぬ間に拡散していたのかもしれない。しかし、西川さんは思い違いをしている。祥武月影流への入門は私の指示ではなく鏡甲が自分で決めた事なのだ。私はそのサポートをしていたにすぎない。
「鏡甲の全盛期は私も得意になっていましたから。つい気が大きくなって周囲に強さの秘訣を吹聴していました。今思うと果てしなく余計な行為だったと思います」
「まぁまぁ。強い娘を誇らしく思うのは当然の事だよ。それに、鏡甲ちゃんの技はきっと今でも通用する。僕はそう思うよ」
人柄だろう。後悔でうな垂れている私に彼はフォローするかのように優しい言葉を掛けてくれた。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると有り難いです」
「うんうん。さて、ここで、復活した豪傑鏡甲ちゃんに勝てるのはウチのマリちゃんを置いて他には居ない、と言っておこうか。ムフフ」
そう断言してニヤリと笑う西川さん。これは私を元気付けるためにわざとやっているのか、それとも本音で言っているのか、どちらとも判断が付かない。相変わらず掴み所の無い人だ。
「先に言っておくけど、今のマリちゃんもかなり腕を上げているよ。洋式武器故に師匠に付く事は出来ないけれど、マリちゃん我流でよく頑張ったよ。うん。うん」
西川さんの物言いは自分に言い聞かせるようでもあった。飛毬ちゃんは常に上位に入っているもののコロセウムでの優勝経験は未だ無い。今度こそはという思いが強いのだろう。鏡甲の没落時から優勝を重ねているのはあの人のパートナーだ。全く以って悩ましい事に、古参を含め今はマークするべき強敵には事欠かない状況だった。
「これは、鏡甲も気合を入れて技を研ぎ直さないといけないですね」
「僕達は今度こそ優勝を狙うよ。まぁ、毎年狙ってるんだけどね。ははは……」
「えぇ。口には出してませんが、鏡甲もきっと優勝を狙っていると思います」
鏡甲にとっても今回のコロセウムは復帰後初の公式大会となる。負けられないという思いは西川さんと同じだった。
「西川さんとは、出来れば決勝戦あたりで対戦したいですね」
「うん。それまではお互い負けられないね」
「はい」
私達はその後も雑談に興じ、そして、ついに列の前に居る西川さんに順番が回ってきた。
「さ、マリちゃん。もうそろそろお店に入るから鏡甲ちゃんを出してあげないと」
西川さんがお菓子の家を指先で軽くノックする。やはり、名残惜しいのだろう、少し間を置いてから両名がケースの外に出てきた。
「キョウちゃん、もっとお話したかったのに……」
「私もです、マリさん。また、次に会った時にまた語り合いましょう」
「今度は、いつ会えるかな?」
「恐らく、次のコロセウムで」
「うん。そうだよね。じゃあ、大会が終わったらゆっくりお話しようね」
「はい……西川さんと龍彦さえ良ければ」
言って鏡甲は私と西川さんの顔を交互に見上げる。どうやら両者の合意を待っているようだ。見ると、飛毬ちゃんも希望の眼差しでこちらを見詰めている。これには、参った。そして、ちょうど苦笑いを浮かべている西川さんと目が合って互いにうなずき合う。もう、答えは決まっていた。
「うん。私は別にかまわないよ」
「では東湖さん、大会が終わったら慰労会でもやりましょうか」
「賛成です、ぜひやりましょう。予定は空けておきます」
私達の合意で下の少女二人が目を輝かせる。愛娘にそういう顔を見せられると、どうしようもなく私の方も嬉しくなってしまう。
コロセウムは毎回土曜日に行われるので、土日に予定を入れさえしなければ大丈夫だろう。
「やった。ありがとう、龍さん」
「良かったなぁマリちゃん」
そう言って西川さんは飛毬ちゃんを持ち上げて頬ずりをする。何とストレートな愛情表現だろうか。気持ちは分かる、これだけ可愛いのだから。保護剤を塗っていれば人の脂が付いても肌が劣化する事は無いし。だが、私は照れやら羞恥やらで人目の無い家ですら出来ずにいた。
対する飛毬ちゃんは、嬉しいけど少し困る、といった感じの苦笑いを浮かべていた。周囲から『虐待』を疑われなければ良いのだが。
「それじゃあコロセウムでね、キョウちゃん」
ようやく西川さんの可愛がりから解放された飛毬ちゃんが笑顔で鏡甲に手を振ってお菓子の特大ケースに戻っていった。
「それじゃ東湖さん、お先に」
それを見届けてから彼は挨拶もそこそこに重いはずのキャリーケースを軽々と担いで呼びに来た店員と共に入り口に向かう。それを私はオートドアの閉まるまで見送っていた。次は、遂に鏡甲の番だ。