8:森の中でぶっ放す?
周りの空間が歪んで見えたかと思うと、次の瞬間には全く別の景色が広がっていた。
転送されたようだ。
木々が生い茂り、木漏れ日の降り注ぐ場所に現れた一人と一匹。
一匹は即座に浮かび上がり周りを見渡し警戒する。
一人は即周りに目線を配らせるが、警戒と言うより物珍しさで周囲への好奇心を発揮していると言った感じだ。
「うん、特に危険はないようだね」
ふわふわと浮かんだままのアリナはてぇいの肩に降りるとそのまま乗っかってみせる。
「危険な事とかあるの?虫とか?」
虫が多い所は嫌かなぁとちょっと表情を崩したてぇいがのんきな事を口にする。
「いやいや、ゲート反応があったって事はイレイザーが居ても可笑しくないんだよ?」
イレイザーと聞いてハッとする。
そうだ、ここはもう敵が居ても可笑しくない場所だったのだ。
既に敵地であると言う自覚を持ったてぇいは今更ながらに周りの警戒をしだす。
この辺には居なさそうだけどねと言うアリナの言葉に緊張を途切れさせて胸を撫でおろすまでがセットだ。
「でも確かにゲート反応は有ったみたいだね。
思った通り小屋の方みたいだし、行ってみようか」
木々に隠れて見えにくくなっているが、前方に確かに人工物らしいものが見える。
その方向を指さすアリナを肩に乗せたままてぇいは歩き出した。
それは想像するより険しい森だった。
小さく見える小屋に向かうだけなのだが、道らしい道が無いのである。
無論このような所を初めて通る訳なのだから思うように前に進めない。
何度も枝に引っかかり服が傷つき、やがて穴が開いた個所も出て来る。
対するアリナは動きにくそうなてぇいとは対照的にそのサイズ差を生かして通れそうな所を浮かびながらすり抜けていく。
それを見たてぇいはズルい!と呟きながら一つのアイディアを思い浮かべた。
「そう言えば想像を創造だっけ?」
声に出しながらもイメージする。
歩きやすい通路を思い描く。
「―――えっと、こんな感じかしら?―――」
てぇいは何となく頭に合ったイメージを言葉に乗せる。
意識したわけではないが、力ある声として放たれたそれはこの世界に干渉し、想像を現実のものにしようとする。
ソウルエネルギーの流れを感じ取る。
突然の事にアリナが直感でシールドを張る。
「ちょっとまったーーーそれダメーーー!!!!!」
シールドを張ったアリナが叫ぶがもう遅い。
突風は刃を伴い枝を切り裂き空へと舞い上がらせる。
木々をなぎ倒しその幹を爆ぜさせると、それらも吹き飛ばし彼方へと消えて行った。
吹き荒れた突風が収まると、そこには両手を広げても余裕で歩ける位の空間がぽっかりと出来上がっている。
その中心にはシールドを張ったアリナ。
そしててぇいから見てずっと前にある小屋には木の幹が数本刺さっており、倒壊したと言っても良い状況になっていた。
「あっちゃー・・・」
シールドを解くアリナに目線を合わせたままへたり込むてぇい。
思いがけない一言でこのような結果が生まれてしまい放心状態の様だ。
そしてそのまま跳ねるように置きががるとアリナに抱き着くように飛び込む。
「アリナ、あなた大丈夫なの?怪我は無い?
痛む所は?と言うかあれなぁに?ちょっと凄いんだけど、本当大丈夫?」
混乱しているのか、事態が飲み込めないのか思いついたことを口に出すかのように矢継ぎ早に言葉を出す。
どうやら心配しているのは判るのだが、猫と人間のサイズ差的に思いっ切り抱きしめられると苦しいのだろう、アリナはもがいて取り敢えずその場から離れる。
「私は大丈夫だけど、状況は大丈夫じゃないね。
取り敢えず、やりすぎ」
改めて自分がやった事を見直す。
軽く見積もっても大惨事だ。
「ごめんなさい」
しょんぼりとした表情で頭を下げる。
「誰も怪我してないし今回は良いよ。
言葉に力を乗せる、つまり言葉にソウルエネルギーを乗せたら魔法は完成しちゃうから、その前にちゃんとこれで良いのか?って考えないとね」
落ち込んだ表情を崩さずそれらに耳を傾ける。
実際魔法を使う初心者がよくやる失敗の一つ。
何気ない発言に力を乗せてしまい魔法を暴発させてしまう行為。
アリナも経験があるのか仕方ないさとてぇいの肩を叩くと、倒壊した小屋を再び目指すように言った。
ちょっとした通路が出来上がったので歩くのも全く苦ではなくなっている道程を歩き出す。
さえぎる物の無い道のりを終え目の前までやってくるが、既に入り口も出口も窓も何も判らない、ただの廃墟と化した小屋の中をうかがい知る方法を考えねばならない様だった。