4:染みついた習慣は中々抜けない
ほぼ同時にベットの上で動きを見せる黒い影一つ。
目を回して倒れこんでいた黒猫が即状況を察知、と言うより寝込んでいた振りをしていたかのように跳ね起きる。
「アリナちゃんナイスキャッチ!」
瓶は直前に目を覚ました黒猫の肉球により支えられ、そのまま押し上げられる。
そしてパクパクと動く口の中へ思いっ切り突っ込まれた。
中に入っている真っ白な液体が瓶より飛び出し幼女の口の中に流れ出る。
思わず幼女は飲み込んでしまうと直ぐに体の変調は収まった。
そして体が淡く光りだす。
「うぐぅぐぅぅぅうううぅ~~~」
淡い光に包まれながら口に瓶を突っ込まれ悶える幼女。
やがて光が強くなっていき体に変化が訪れる。
手足や髪の毛が伸び体の成長を感じながら元幼女だったものが、中身を失い身軽になった瓶を吐き捨てる。
そしてその光は消えて行った。
「ふむ、時間にして9秒か」
確かに四肢は伸び、身長も確りと成長を感じる体になった。
しかし、胸は僅かに膨らんだに過ぎず、確かに四肢は伸びているがどう見ても短い。
身長もそれに比例して伸び悩み、どう見ても体重もそれに合わさったかのような見た目である。
見た目において唯一長いと感じられるのは成長と共に伸びていった髪の毛位ではなかろうか?
「あれ?私、手足伸びてるよね?これが成長?」
元幼女は再び自分の手足を確認すると、姿見に目線を映す。
そこには少女と呼べる姿が映っていた。
「うん、時間にして9秒。1秒で1歳換算だから最初の1歳と合わせて10歳児って所かな?」
白衣の男がニヤリと笑いながらファイルに書き込んでいく。
元幼女の少女は頭を抱えた。
「成長するって・・・成長って、これでお終いなの?大人になれるんじゃ?」
姿見の中の少女も同じように頭を抱え口を動かす。
その内抱えた頭を下ろすかのようにぐったりとしな垂れた。
「うーん、これって個人差大きいからね、判るよその気持ち」
アリナがふわりと宙に浮かび頭をなでる様に手を置くが、ぺちんと振り払われる。
「うっさいわね、猫に私の気持ちが判ってたまるもんですかっ!」
少女はとてもご立腹の様でしな垂れた頭を勢いよく上げるとぷんすかと擬音が聞こえんばかりにほほを膨らませる。
ツンと突けば破裂しそうな勢いだ。
「まぁ今日は死にかけた訳だし一日ゆっくりして貰おうか。
この部屋からは出れないが、トイレとバスルーム位はついてるから安心して。
君みたいな子のために子供用も隣にあるから安心すると良い。
判らない事があったらこの紙を見ると良い、部屋の設備の事が書いてあるから」
白衣の男はファイルから新たな紙を取り出すとベットの横のテーブルに置く。
そしてポケットから小さな四角い紙を取り出すと、少女に向かって差し出した。
「挨拶が遅れたね、この施設の研究所長、石田晃と言うものだ。
これからよろしくね、ていちゃん」
少女は差し出された紙、即ち名刺を良く覗き込む。
そこには”日本国家ヒーロー・ヒロイン支援施設研究部研究所長 石田晃 ~いしだ あきら~”と書かれていた。
「これはご丁寧に、ありがとうございます」
少女も名刺を差し出されつい、就職活動での癖でビジネス的な挨拶してしまう。
それを受けてじゃあまたね、と後ろ手で手を振りながら部屋を後にする石田とアリナ。
部屋に取り残された少女は一人名刺を見返すのであった。