2:一体何が起こったの?
彼は小さな水晶の欠片のような透明な石を握りこんでいた。
アリナによると、これをもって精神を集中すれば素質が目覚めるとの事らしい。
何故かベットに腰かける様に促された彼は、緊張しているのか心臓の音が心なしか大きく聞こえる気がした。
何かを呟くと彼の周りに六芒星魔法陣と呼ばれる陣が出現し淡い光を放つ。
「さて、準備は出来た。何時でも始めて良いよ」
促されるように言われ、彼は目を瞑ると意識をその石に集中しだす。
数秒だろうか、それとも数分数時間だったかもしれない。
そんな錯覚を覚えるような感覚が、彼に覆いかぶさる様に感覚を狂わせた。
そして握りこんでいた石が眩い輝きを放つ。
「綺麗な光だな、成功したね、私の仕事はここからか」
光に照らされた室内でアリナがポツリと呟く。
その眼差しは真剣そのものだった。
そして彼の身体に異変が起きだした。
頭が首が腕が足が胸が腰が指がありとあらゆる肉が骨が軋みを上げていく。
彼の意識は既になくベットに横たわっている。
バキボキと音を立てて捻じ曲がる骨に幾度も千切れては繋がりを続ける肉。
時折肉体からは骨が飛び出し肉は弾け飛び、そしてまた人の形を保とうと形を変化させていく。
頭蓋骨の継ぎ目からゴリゴリと音がして頭の大きさをも変化させ、目や耳すら一度ドロドロに溶けたかと思えば形を変えて再び姿を見せる。
「本人の意識を全カットしてるから良いものを、これ超痛いんだよなぁ。
私の時はまだ痛みもカットできなかったから何度死んだ方が良いって思ったか判らない位だし」
軽口を叩くように軽快な口調で吐き出しながら魔法陣の維持を続ける。
「回復方陣の維持は欠かさないようにしないとだから、今日一日このまま徹夜だな。
可愛い後輩の為頑張りますかね」
ふぁわぁぁ~っと大きく欠伸を一つすると、尚も肉体を変化させる彼に目を向けた。
◇---◇
窓のない六畳程度の広さの部屋。
その中央にはパイプ式の折り畳みが出来るベット。
白いシーツのそれは横たわるものにとってはとても大きく、だが一般的な需要がある層から見たら平均的な大きさのごく普通のものである。
そこでベットを占拠していた存在は目を覚ます。
まず飛び込んできたのは真っ白な天井。
薄暗い淡いLEDの光が飛び込んでくる。
「あれ?ここ・・・え??」
見慣れない景色に思わず声を上げるが、本来聞こえてくるはずの声色と全く別の高音域が聞こえ戸惑いが出る。
次に気が付いたのは体の異変。
起き上がろうと身体を動かすが、どうにも可笑しい。
違和感と共に体を起こすと、両の手を胸の高さに持ってきてグーパーグーパーと結んで開いてを繰り返す。
それを二つの円らな眼が暫く見つめて、ふと両の手を下ろし視線を下ろす。
今だシーツの内側にあるスラリと伸びた両の脚がある筈のそこには何もなく、その明らかに手前で途切れている。
(何かが可笑しいぞ?この違和感は何だ??)
もう一度手を胸の高さに持って行き、その掌をマジマジと見つめる。
今度はシーツをばさりと勢いよくはぎ取ろうとするが、上手く行かず中途半端に捲れ上がるがそれでも総てが露になった脚を確認する。
(何か・・・短くね?腕も脚も。
掌も小さかったし違和感ありまくりなんだけど)
「あーあーてすてす、あーあーあー」
何かを確認するように小さく声を出すと聞こえてくるのはやはり何時ものやや低いものではなく明らかな高音域。
裏声で無理しているわけでも無ければ普通に呟いただけである。
そしてゆっくりと顔を上げて正面を向くと、壁に張り付けられた姿見の存在が確認できる。
光を反射することにより左右逆にその身に表すそれに映っていたのはとても小さな小さな女の子であった。
「なーんーなーのーこーれーーーぇぇぇーーーーー!!!!!」
あらん限りの力が思わず籠ってしまったと言っても過言ではない大声が、部屋のみならずその外へと放出される。
一体この小さな体の何処にそんな力があるのかと本人すらも疑問に思うが、出てしまったものは仕方がない。
頭を抱えると真横に振って園児がイヤイヤと駄々を捏ねるかのように思いっ切りブンブン振り回す。
ちょっとした眩暈にも似たような感覚がするまで振り続け、やがて勢いを無くしたそれがゆっくりと定位置に戻る。
「どうなってるのよ、訳が判らないわ」
ため息交じりでもう一度呟くとほぼ同時にガチャリとドアが開く音が鳴った。