後編
課題開始から十一日目の夜。
私たちはアルヴ山にある最も大きな沼地の傍で、息を殺して待っていた。月食の始め、少なくとも皆既月食の始めには、シェリドラは飛ぶことができなくなって、降りてくるはずだ。今回の皆既月食の継続時間は、わずか約十九分。その間に勝負を決めるのだ。
――部分月食が始まった。月光を糧に生きるモンスターが、植物が、今夜ばかりは身を縮めて目を閉じる。しんと静まり返った山は、いっそ不気味だ。気温の低下に伴い、体温が下がる。吐く息が凍る。湿って半分腐ったような葉のにおいが、冷たい空気をより濃密にしていた。
私は緊張していたが、不思議と怖くは無かった。そっと周りを見ると、ハルは授業中のような真面目な顔をしていたし、ななみんはいつも通りの穏やかな顔をしていた。チャーリーはというと、普段の情けなさが掻き消えて、無駄に精悍な顔つきをしていたから、無性にムカついた。思わず向う脛を蹴ってやりたくなったのを抑えて、私は前に向き直った。緊張はしていたが、恐怖は無い。
そろそろ皆既月食が始まる――そう思った時。
不意に、首筋がピリッとした。
次の瞬間、空気を切り裂く重たい音が、私たちを押し潰すように轟いて、同時に巻き起こされた旋風が、草木を大きくしならせた。私たちは息を飲んで、鈍重に沼地に降り立った巨大なドラゴン――シェリドラを睨んだ。
私はそっと杖を持ち上げ、皆を見回した。全員がゆっくりと頷いたのを確認し、軽く目を瞑る。魔導を使えば、その気配は察知され、その瞬間から戦闘が始まる。だから、最初に使う魔導は決まっていた。
防音術式。シェリドラの咆哮を防ぎ、脳にダメージを与えられないようにするためのもの。マンドラゴラの育成時に、防音率、詠唱時間、魔力燃費、効果時間、すべて最高峰にまで押し上げた魔導だ。
(さぁ、戦闘開始よ――)
「《SONIC-GUARD》」
魔力を込めて呟くと、金色の粒子が舞った。魔導が行使され、世界から音が消える。シェリドラの二つの首がぐるんと回転して、こちらを睨みつけた。戦闘の火蓋が切って落とされた。四人それぞれが別の方向に走り出す。制限時間は残り十八分。その間に、魔力を使い切らせて、毒腺と火炎袋を摘出して、心臓を穿って――
――って、待って。………二つの首?
龍が咆哮した。防音率百%を超える私の防音術式すら貫いて届いたその声が、危険度S+の凶悪さと凶暴性をこれでもかというほど高らかに謳っている。
二本首のシェリドラだ。
(ふっ、ざっ、けっ、んなぁ……っ!)
あぁ、なんという運の悪さ。なんという理不尽な運命か。
私は鋭く息を吸った。運の良し悪しなど言い訳にはならない。お陰様で、理不尽にはもう慣れた。どんな奴が相手でも、全霊を賭して倒すだけだ。
真っ先に斬り込んだのは、ななみんだ。スピードと致死性の高さは校内随一で、足場の悪さなどものともせず、一息で距離を詰める。そして、何かを吐こうとしたまさにその直前の龍の首元を真横に薙いだ。ななみんの一撃は何より鋭利で、特に鞘から抜きざまの一閃は途轍もない貫通力を誇る。並のモンスターなら頭から爪先まで真っ二つだ。だというのに、シェリドラの首にはやや深めの裂傷が入ったのみで、それすらあっという間もなく修復されてしまった。ななみんは即座に背後へと離脱。開いた空間に毒液が降り注いだ。
距離を取ったななみんを追って、龍の尻尾が唸る。しかし、尻尾がななみんの背を捉えることはなかった。その前に、矢が鱗の隙間に突き刺さっている。次の瞬間、それが強烈な光を放って弾けた。ハルの魔導弓による雷撃。それに焼かれて、尻尾はびくりと痙攣し、ななみんの頭上を掠めて空を切った。
入れ違いにチャーリーが肉薄し、二の首へ大剣を叩き込んだ。硬質な鱗を力任せに割って、肉に刃を食い込ませるが、そこまでで止まる。そこを一の首が襲った。チャーリーは剣を引き戻して反転、大剣を盾のように構え、その腭を迎え撃つ。
次の瞬間、小柄でも軽量でもないチャーリーの体が宙を舞った。如何なパワータイプの剣士といえども、龍に膂力で敵うはずがない。チャーリーを軽々と吹っ飛ばして、やや泳いだ一の首を、低い体勢で潜り込んだななみんが、逆袈裟に斬り上げる。初撃より深く入ったが、多頭竜の首は骨が密で、やはり斬り落とすのは難しい。そのななみんへ毒を吐こうと、二の首が口を開いて、反対にハルが撃ち込んだ矢に焼かれて身悶えた。
ところが、草むらに突っ込んだチャーリーが戻ってくる頃には、傷はすっかり完治されているのだ。まったく手応えを認識できない。攻撃しても攻撃しても元通りにされる、というのは、なかなか精神的にくるものがある。
だが、これこそが私たちの作戦だ。
(まずは、蓄積されている魔力をすべて使い切らせる!)
魔力はおおむね、飛行と氷の魔導、そして再生に使われる。特に、再生に使われる魔力は大きく、削ろうとするならばどんどん再生してもらうのが最も効率が良い。一連の攻防で、こちらの攻撃が通用する、ということは分かった。攻めて攻めて攻めまくって、何度も傷を負わせていけば、いずれ魔力は尽きるだろう。
(……問題は、二つ首のシェリドラが、どの程度魔力を溜め込んでいるか、ってとこなのよね……)
残り時間は十二分。さて、その間に終わるかどうか。
チャーリーが大剣を上段に構え、突っ込んだ。二つの首がそこに集中している隙に、ななみんが尻尾を斬り付ける。矢が爪を打ち砕き、剣が鱗を剥いで、しかし一つ瞬くと、もうすべてが元に戻っている。これを、魔力を補充しながら半永久的にやられたら、と思うとぞっとする。
苛立ったように、龍はその両首を天に向け、咆哮した。防音壁が削られる。真正面からそれを受けたチャーリーが一瞬だけ止まり、その僅かな隙を、極太の尻尾で無造作に薙ぎ払われた。チャーリーはもろにくらって、真横に吹っ飛び背中から木に激突した。
私は咄嗟に叫びそうになったが、慌てて奥歯を噛み締めて声を殺した。大丈夫、チャーリーは頑丈だ。実際、地面に横たわっていたのはほんの一秒にも満たない。ほら、もう起き上がった。頭を強く振って、放たれた火炎を横跳びに避け、戦いに復帰する。
(ほんっと、魔導師って嫌だわ……)
自分で望んでなったとはいえ、仲間と肩を並べて戦えないのは苦痛だ。
息を吸って、吐いて、大気の流れを取り込む。この場所と自分を馴染ませる。実を言うと、皆既月食は私にとっても不利に働く現象だ。だから、必要な時以外は一切魔法を使わないと決めている。必要な時に求められた戦果を上げるために、私はひたすら、魔力を練る。魔法陣を描く。他の皆が傷だらけになって戦っているのを尻目に。
残り六分。
これまで紙一重のところで回避し続けていたななみんが、初めてまともに龍の爪に捉えられた。反射的に後ろに跳んだが避けきれず、盾とするには細すぎる剣で気休め程度の防御をなして、どうにか致命傷は免れたらしい。けれど、ななみんの全身は血に塗れていた。酷い出血だ――というのに、血に濡れたその顔は、笑みを形作った。傷を負ってむしろ上がるスピードはもはや狂気じみている。今までで最も速く、強い踏み込み。攻撃の直後で無防備になっていたドラゴンへ、真正面から突っ込んだと思ったら、すでに彼女の姿は背面に移っていた。そして、最速の一刀が、二つの首と尻尾に深々と食い込んでいる。
(うーわ、怖っ……)
パックリと開いた断面は、しかし魔力によって内側から光って、ややもせず元通りになる。分かってはいたが、過酷な話だ。最初に首、次いで尻尾が――
――再生、されなかった。
(っ、来たっ!)
魔力切れだ。もう再生は出来ない! 全員の顔が一瞬輝いて、すぐに引き締まった。ここで油断したら命取りになる。ここからが本当の勝負なのだから。
三度、咆哮、したらしい。動作のみの確認だったから、定かではないが。どうやら、あの音波にも魔力が関わっているらしい。なるほど強いはずである。
ハルの放った矢が夜陰を切り裂いた。矢は過たず龍の目を捉えて、それを潰す。苦しげに身を捩り、無茶苦茶に振られた爪を掻い潜って、チャーリーとななみんが同時に詰め寄った。狙いは胴体、首の付け根よりもう少し下、毒腺の大元と火炎袋が集中している部分。まず、ななみんの突きが風穴を開け、チャーリーの斬撃がそれを一気に押し広げた。
そこに私が魔導を放つ。課題で使いまくって慣れきった魔導だ、前置詠唱などいらない。
「Target, Shéri-dra. Name, Porson-gland en Flamma-bosam. 《VIDERAD》」
【対象、シェリドラ。名称、毒腺および火炎袋。《ヴィデラード》】
指定の物を《取り除く》と、確定した未来を宣言する。
散々溜め込み温存していた魔力を解き放つ。イメージを現実にする、魔力とは起爆剤だ。金色の粒子が、傷口からシェリドラの体内へ入り込んだ。さぁ、想像しろ。透明の巨人が手を突っ込んで、内臓を鷲掴みにし、無理やり引き摺り出す。本来、魔導に手応えは無い。けれど私はそれすら想像してみせる。まだ生きている内臓だ、それは温かく、血が滴っている。握ると柔らかくて、引っ張っても簡単には取れない。しかし、私の魔導の前には抵抗など無駄だ。容赦なく、問答無用で、捩じり取るように手を引っこ抜けば――イメージ通りに、内臓が体外へ抉り出された。
シェリドラの苦しげな唸りを嘲笑うように、私はそれらを沼へ落とす。轟音とともに巨大な水柱が立って、私たちを濡らした。とりあえずの任務は達成。私は肩で息をしながら、素早く草むらに身を隠した。やっぱり、魔力の消耗が激しい。でも、ここまでくれば、あとはとどめを刺してもらうだけだ。
「っし、あとはとどめだっ! 行くぞぉっ!」
チャーリーが気合を載せた声を上げて、真正面から躍りかかった。
(…………あれ? 声が聞こえてる?)
――防音術式が切れたのか。
スッと体温が下がった。
龍の首が持ち上がって、咆哮する体勢に入った。たとえ魔力が無くても、あの咆哮を直に、それもあんな近距離で聞くのはマズイ。
「チャーリー! 皆っ! 一旦戻っ―――」
音波がすべてを塗り潰した。
脳を直接ぶん殴られたような衝撃だった。音にこれだけの力があるとは思わなかった。これではもはや物理攻撃である。強い眩暈に襲われて、視界に火花が散った。最も距離が遠くて、咄嗟に耳を塞いだ私が、これだけのダメージをくらったのだ。
「っ、みんな……」
見渡せば全員が、シェリドラを囲むように、地に伏していた。ハルだけがどうにか意識を保っていて、苦悶の表情でこちらを見た。その口が力なく動く。かろうじて読めた三文字は、私に生還を命ずる言葉だった。
『に げ て』
シェリドラが悠然と翼を広げ、これまでの鬱憤を晴らすかのように、私を眼中に収めた。
その背後で、満月の色が変わる――時間切れだ。皆既月食が終わった。こうなったら、あとは回復される一方だ。まだ月食自体は続いているから、スピードは遅い。けれど、傷は徐々に塞がっていく。潰された目が、斬られた首が、ゆっくりとだが確実に、元通りになりつつある。毒腺や火炎袋の修復にはもっと時間がかかるだろう。それまでに仕留められなければ終わりだ。けれど、今この場で、戦えるのは私だけ。
(マズイ、やばい、どうしよう、どうすればいい、私に何ができる?)
混乱して頭が真っ白になる。恐怖で息が出来なくなる。手足が震えて動くことすらままならない。仕込んでいた転移魔法を起動させようか。そうすればハルに言われた通り、私だけは逃げることができる。けれど、そうしたら、他の三人はどうなる? ここで動けずひれ伏したまま、ドラゴンに食われるのか?
(……そんなの、誰が許すもんか)
「ハッ」
私は鋭く笑った。怯えた自分へ唾を吐きかけるように。笑って、その場にしゃがみ込んだ。片膝を付いて、その前に杖を寝かす。そして、懐からナイフを取り出し、後ろでくくっていた髪の毛をまとめて切り落とした。それなりに長く、それなりに太い髪の束を、杖の上に置いて、私は更に笑みを深める。
「アンタ如きが、私に喧嘩を売った罪は重いわよ……」
強気になれ。傲慢だ身の程知らずだと言われていい。思い込め。私以上の存在はいないと。決め付けろ。ヤツは私に倒される運命にあるのだ。
魔導師とは何のために存在する? 私は何のために魔導師になった? 普段はただただ守られるだけの、防御力も機動力も持久力も無い、そんな脆弱な存在に、どうしてわざわざ望んでなった?
「一撃で殺してあげるから、命をもって詫びなさい――
――生まれてきて、すみません、ってね!」
こういう戦況を、一手でひっくり返すためだろうが!
「《黄金の誓いは嵐を纏いて 決して揺らがぬ意志に沿い 雲が竜に従い 虎が風に従うように 我の言葉に追従する》」
前置詠唱は淡々と、感情を込めず。あくまでこれはイメージの補助であり、魔導の土台作りだ。確実に一撃で仕留めるため、余計なことは考えず、ひたすら、龍の心臓を貫くビジョンを脳内に形作る。未来を先取りし勝手に定める。
杖の上で印を結び、次々と組み替える。全身から魔力が放出されて、辺り一面に金色の光が広がった。周囲の魔力を片っ端から掻き集めて、すべてを私のものにする。切り落とした髪が自然に散らばって、足元に魔法陣が形成される。月の気が戻ってきて調子が上がるのはアンタだけじゃないのよ。
「《供物を受け取れ 風の王よ そして我に剣を授けよ 万物を破壊しなお止まらぬ 神風の如き一振りを》」
私の魔力に触発されて、シェリドラが動いた。吼えたようだがそんなものは聞こえない。この地の風は今、私の支配下にある。空気の振動の操作など、赤子の手をひねるより容易だ。シェリドラはいきり立って襲い掛かってきた。恐ろしいスピードだ。この基本性能の高さこそが、二本首を凶悪と言わしめているのかもしれない。
魔法陣が一段と強く輝いて、真正面に龍の顔を照らし出した。私の上半身が丸々入るほど大きな口に、腕一本ほどの太さの牙が並んでいる。これに噛まれたら間違いなく即死する。
だというのに、私に恐怖は無かった。それは――
本詠唱の一節に全力を注ぐ。
「Gartes opuen, I voing, thex hamarllo of Diod ise droppit ad obstadimenta」
【門は開いた、我は行く。邪魔する者には神の鉄槌が下されよ】
あぁ、最後の一言が間に合わない。たったあと一秒が足りない。このままでは確実に死んでしまう。まず真っ先に私が死んで、それから皆も殺される。絶体絶命。しかしこんな窮地に立たされておきながら、私には不思議と恐怖が無かった。別に諦めたわけじゃない。死なない、勝てる、という確信があった。
――それは、チャーリーが立ち上がったのが見えていたからだ。
(まったく、本っ当に腹立たしい奴!)
悔しいけれど認めよう。私はアイツを頼りにしている。馬鹿だけど頑丈で、泣き虫だけどしぶとい男。
チャーリーが剣を構え、真横から体ごとシェリドラの頭にぶつかった。首が揺らぎ、ほんの少しだけ軌道がずれる。そのほんの少しで充分だ。一の首が私の肩を掠めて、背後の木を薙ぎ倒す。すかさず二の首の追撃が来るが、遅い。
私は笑う。足りないはずだった一秒をもぎ取って、勝利は今ここに確定した。
「《CRUPTERAT-DOWN》」
―【打ち砕く】―
瞬間、天をも貫く烈風が、龍の心臓に大穴を開けた。
☆
「あああああアルザーっ!」
「ちょっとチャーリーあんたっ!」
「どうしたんだよその頭っ! 髪の毛っ!」
「右半身血塗れじゃない! どうすればそんなになるわけっ?」
無事、四人(と一頭)揃っての凱旋を果たし、私とチャーリーはぎゃーぎゃー言い合った。深夜だったし疲労困憊で、テンションがおかしくなってしまったのだと断言できる。
……ハルとななみんが、私たちを生暖かい目で見ていたことになど気付かず。
「あの二人はやっぱり、仲良いねー。見せつけてくれるよなー」
「えぇ。さすがは、幼馴染さんですね」
☆
「でー、提出用のステーキなんだけどー」
「ああいうのって、とりあえず焼いてあればいいんじゃねぇの?」
「そうですね。では、適当に切り取ります」
「一応、残った肉全部に凍結魔導かけとくね」
☆
「――不味い」
翌朝、私たちは痛恨の一撃をくらったのだった。
「下拵えがまったくなっていないな。肉が硬い。筋が残っている。反りかえっていて見た目も悪い。焼き方など最悪だ。ただ火にかけただけ、というのが丸分かりだ。その上、肉の臭みがそのまま残っている。ジビエの類を何もせずに焼くなど、正気の沙汰とは思えん。味付けもろくにしていないな。ただ焼けばいいだけだとでも思っているのか? まったく、浅はかな」
全員が絶句する中、フローレンス教授だけが淡々と言葉を紡ぐ。誰もが顔を引き攣らせたまま、これから起こりうる最悪の事態を予見し固まっていた。
一通り語り終えた教授は、呆れたようにフォークを置いて、私を指さした。
「アルザザ・D・ジェイラズ」
「はいっ!」
「私が出した課題の内容を、一言一句違えることなく復唱せよ」
「シェリドラを倒し、その肉を美味しいステーキにして持って来ること、です」
「良いだろう。さて、それを分かっていて、どうしてお前らは“不味い”ステーキを持ってきた? ――まさかとは思うが、シェリドラの倒し方ばかりに気を取られて、ステーキの焼き方を調べていなかったわけじゃあなかろうな」
……その、まさかだ。だってどこにそんな余裕があったの?
表情を失う私たちを前に、フローレンス教授は眉一つ動かさず、冷徹に言うのだった。
「課題の提出締め切りまで、あと三十六時間ある。やり直せ!」
「いっ……――」
嫌だ! ふざけんなクソ教授! ここまで来てまだステーキにこだわるのかこの馬鹿! 大馬鹿野郎! こっちは死にかけてきたんだぞ少しは甘く見ろ!
と、言いたいのは山々だったが。
私たちは怒りを腹の底に押しやって、奥歯を噛み締めて、シェリドラなんかよりずっとずっと理不尽で融通が利かなくて凶悪で最悪の教授に対し、敬礼を返したのだった。
「「――Yes Sir!!!!!!」」
おしまい
ここまで読んでくださいましたすべての方々に、心から御礼申し上げます。ありがとうございました。
戦闘モノの難しさを改めて痛感した短編でした。お粗末様でした。
正直、フローレンス教授はパワハラとかアカハラだといわれても言い返せないと思います。(でもそう言われても開き直りそうだな彼……)一応フォローしますと、生徒たちの戦闘の様子を教授はしっかりと見ており、万一死にそうになったら飛び込むつもりでおりました。アルザが食われかけた瞬間はひやりとしたようですが、チャーリーが動くのを見て大丈夫だと判断したようです。四人の実力に関しては誰よりも分かっている先生ですので、むしろ、課題を設定するのが大変だったと言っております。
なお、アルザが使っている魔導の呪文は、簡単なものは英語のみで訳し、難しくなるほど英語・ラテン語・スペイン語などを適当に複合して作っております。なのでどこの言語でもなく、読むことは難しいかと思います。
ほんの少しでも楽しんでいただけたなら、それ以上の幸福はありません。またどこかでお会い出来たら嬉しく思います。以上、井ノ下でした!