魔女祭り73
「それは、いい店の名前だあ・・・この宿にぴったりの名前ですよ~」
「ホホホ、そう言ってもらえますと、とてもうれしくなります」
「いやあ・・・本当にいい名だ・・・○○○○○亭かあ・・・」
「エルヴィン様がそこまで感心されるなんて、私までなぜか誇らしげになっていまいます、フフフ」
若者は女将が運んできた豚肉の煮込みの上にじゃがいもを丸く揚げたものが載った物と温かいパンをあっという間に平らげた後、暫しの間談笑していた。
「そうだ、それと何度も言いますが先ほど口にした食事・・・とてもおいしかったですよ!!!あの柔らかい肉の煮込みにあの あの温かいパン・・・最高でした・・・」
「まあまあ!!、後程片付けが終われば主人も感想をお聞きに参ると思いますのでまた当人の目の前で褒めてくださいね」
「ええ、是非そうさせていただきます。今晩の食事 とても感動したと ん?」
若者はふと話を止め、彼女の後ろを注視する。そこには、カウンター席の端から顔を覗かせこちらを見ていたあの少女の姿があった。
「や やあ・・・」
若者は、少女の気を引こうと微笑みかけるがその少女はすぐに顔を引っ込めてしまう。
「あ・・・」
「ユイーザったら、変な子ね。ユーイ!そんな所で覗き見しなくてこちらに来てエルヴィン様に改めてご挨拶なさい」
少女の母親である女将は若者と娘のやり取りを見てため息をつく・・・。
「ごめんなさい、あの子はひどく人見知りで・・・。これからいろんな方がこの店に訪れることになるのに・・・あの子の事が心配なんです・・・」
「大丈夫ですよ、奥さん。ご主人と奥様の働いている姿を彼女は見続けるうちに何かしら良い変化が訪れるでしょうから・・・安心していいと思います」
「そうでしょうか・・・」
「ええ、大丈夫ですって」
その後、程なく宿の主人のヨーナスが厨房の片付けを済ませて娘のユイーザを伴いながら若者のテーブルに着くと、早速感想を聞きだす。
「食事は、お口に合いましたでしょうか?」
「最高でした!!!こんな美味しい食事は生まれ初めてですよ、本当に素晴らしい味でした。温め直したパンの食感にも感動させられました。ご主人の心遣いが心に沁みましたよ・・・お世辞抜きにまた食べたくなる料理でしたね・・・。それとこの部屋の佇まいが妙に出された食事と合います・・・何というか・・・そうですね・・・心が 穏やかになる うん、そんな気がします。ご主人!」
「は はい」
「この宿は、ヴェルニゲローデ村髄一のお店になるでしょうね、それどころかこの村はおろかこの界隈で最高の評判を得るでしょう。旅の空でその噂を楽しみにしています・・・」
「あ ありがとうございます・・・う う うっ・・・ありがとうございます・・・」
「あなた・・・良かったわね。エルヴィン様からこんなに心のこもった感想を頂けたのだから・・・」
「ああ、本当に励まされる・・・今宵のエルヴィン様のお言葉を片時も忘れずに明日以降もお前や娘と一緒に頑張ってゆこう・・・」
ヨーナスは、傍らにしがみついている娘の頭を優しく撫でながら妻の言葉に答えるのであった。
「おお、そうでした。エルヴィン様、まだお時間は大丈夫でございますか?もし宜しければ、食後のお茶と手作りの菓子などもご用意できますが・・・」
「いいですね、喜んでご相伴させていただきます」
「おお!!では、ゼルマ、お茶とお菓子の準備を」
「ええ、あなた。さあ、ユーイ、あなたもお手伝いをするのよ」
母親の言いつけに可愛く頷く少女は、じっと若者の顔を見つめるとやがてトコトコと厨房に向かう母親について行く・・・。若者はその微笑ましい二人の後姿を優しく見つめながらつぶやくのであった。
(いい出会い・・・これも旅の醍醐味のひとつ。この家族にささやかでもいいから幸 多くを・・・)
「君が、あの時の小さな女の子だったのかい・・・?」
「はい、そうです。思い出してくれましたか、エルヴィン様?」
エルヴィンは自分の目の前に立つ侍女の顔をまじまじと見つめながら
(確かに、赤みのかかった金髪はあの少女と同じ・・・顔もそう言われればあの当時の面影がない とも言い切れないな・・・)
「ユイーザさん、ひとつ確かめたいのだけど君はいつから自分がその時の人物だと気づいていたんだい?」
「私がはっきりと気づいたのは、今日の事なんです」
「今日!?」
「はい、そうです。エルヴィン様のお顔とお姿はこの宮廷で今までも何度かお目にした事はあったのですがその時はお声をかけていただいた事もありませんでしたし特に気に掛けることもなかったのです。確かにエルヴィン様のお名前を初めて聞かされた時はあの人と同じ名前なんだ・・・というぐらいにしか思ってなかったのです」
「・・・」
「ですが、今夜の出来事ではっと思い出したんです。エルヴィン様、覚えておられますか?大広間の入り口付近でうずくまっていた私に声を掛けてくれたことを・・・」
「ああ、君は確かに晩餐会会場の入り口近くで・・・」
「ええ、そうです。そこでエルヴィン様は私に何とおっしゃったか覚えていらっしゃいますか・・・?」
「・・・。すまない、何と言ったんだい?」
「怖い思いをしたんだね、でも、もう大丈夫だよ安心して・・・って・・・」
「・・・」
「その言葉は・・・そ その言葉は・・・私がまだほんの少女だった頃の怖い出来事から救ってくれた言葉と同じ言葉だったんです・・・」
「それは・・・」
「はい・・・。確信したのは先程のことです。この女官長様の部屋で取り乱しながら泣き喚く私を わ 私をエルヴィン様はまたしてもこうおっしゃいました・・・」
「・・・」
「怖い思いをしたんだね、でも、もう大丈夫だよ安心して・・・って・・・」
「!!!」
「エルヴィン様には、たまたま出会った少女を安心させるだけの言葉だったのかもしれませんが・・・」
ユイーザは言葉をそこで切ると改めてエルヴィンの瞳を強く見つめなおし、そして
「わ 私にとって 私にとって ほんの少女だった頃からのとても とっても大切な 大切な・・・魔法の言葉だったんです・・・ウッ ウッ ウッ・・・」
「ユーイ・・・」
まぶたから零れ落ちる涙をぬぐおうともせずエルヴィンの顔を見つめる僚友の姿にクラウディアは感極まったかのように彼女の傍らから遠慮気味に声を掛ける。二人の侍女の横に立つ女官長のデボラもまたユイーザの語りに心を打たれたのか、彼女にしては珍しく茫然自失の態に見える。
「やっぱりあの時、私たち親子を野盗二人から助けてくれたのはエルヴィン様 エルヴィン様だったのですね・・・よかった 本当によかった・・・またお目にかかれて・・・ウッ ウッ ウッ・・・本当に ほ 本当に待ち焦がれてたんですから・・・」
「そ そうだったんだ・・・。すまない、あれからだいぶん月日は経ったけど君のお父さんとお母さんは元気にされてたんだろうか・・・?」
ユイーザの強い視線にたじろぎながらもエルヴィンはそう彼女に尋ねる。
「ええ、父は少し老けましたが母はびっくりするぐらい元気です。父は今でもあの日の料理を作る度にエルヴィン様のことを思いだしていつ来られるのだろうと言ってましたし、母は口には出しませんが玄関先に咲く花に水をやりながら当時のエルヴィン様のことを思い出しているのは間違いないと私は思ってます」
「だいぶんご無沙汰してしまったなあ・・・うん、そうだゴスラーに居る間に一度お邪魔しよう」
「ええ!!!本当ですか!!!父も母も喜びます~~」
「そうだ、ユイーザさん、忘れてしまって本当に申し訳ないがお店の 宿の名前は何て言ったかな?」
「エルヴィン様、私のことはユイーザとこれから呼んでいただけませんか?」
「うん? ああ、君がそれでよければ・・・」
「はい、ありがとうございます。えっと 宿の名前は 『幸福の訪れ亭』です」
「『幸福の訪れ亭』・・・そうだった そうだったあのお店にぴったりの名前だった・・・」
「思い出していただけませたか・・・」
「ああ、はっきりと思い出したよ」
「で でしたら・・・あの 翌日の朝の出来事を思い出しては いただけませんか・・・」
「ん?翌日の朝・・・」
「わ 私が あの あの ・・・」
何故か顔を赤らめながら訴えるような視線で自分を見つめるユイーザをいぶかしむ様にエルヴィンは自問する。
「あの日の朝、自分が宿を出発する時のことだよね・・・」
そう言いながらエルヴィンは視線を遠くに伸ばすと往時を思い出すのであった・・・。
「昨晩はゆっくりとお休みになられましたでしょうか?」
「ええ、きれいで落ち着く内装の部屋、またきれいなベッドで久しぶりに寝れてすっかり元気になりましたよ」
「それは、ようございました」
若者は、朝食をカウンター席でいただいた後この宿の主人と出発までのひと時を会話で過ごしていた。
「ご主人には、余分にやっかいを掛けてしまったようでちょっと心苦しいのですが、でも宿の初めての客となったこと・・・感謝しています、ありがとうございました」
「エルヴィン様、どうかお顔を上げてください。私の方こそ妻や娘を窮地から救ってくれた恩人であるあなた様をもてなさせていただいた事に非常に感謝しているのですから。また、こちらにみえる機会がありましたら是非にもこの宿にお寄りください、心からお待ちしております・・・」
「ええ、是非そうさせていただきます。このお店に幸、多からんことを旅の空でお祈りさせていただきます」
「ありがとうございます」
「では、そろそろ自分は」
若者はそう言って席を立つと名残惜しそうに食堂の部屋を見渡し最後にガラス張りの窓に目を止める。
「ゼルマとユイーザはどうしたのか、エルヴィン様がお発ちだというのに・・・」
気をもむヨーナスを横目に若者は入り口の扉を開き外に出ると
「エルヴィン様、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
どこかに行ってたのか玄関先に息を弾ませたゼルマとユイーザの二人の姿があった。
「いえいえ、ご主人と楽しくお話ができてましたし気になさらずに」
「ありがたいお言葉です。お店開きのお祝いにと入り口玄関先にお花を飾ろうと思いまして娘とお花摘みに行ってましたので」
「ああ、それはいい。かわいらしくてきれいな花ですね」
「そうですか、そう言っていただけるとうれしく思います。じゃあ、ユーイ」
母親に促されて、うん と頷くと少女は若者に近づくと
「おじさん、ありがとう・・・」
顔を赤らめながら何とかそれだけ言うとまたすぐに母親の許に隠れるように戻ってしまう。
少女から手渡された緑の葉に包まれるように咲く小さな花は白く輝いており息づきが感じられるようだった。
「ありがとう、お嬢ちゃん!この花はお嬢ちゃんのようだね、おじさんか・・・まいったな、ハハハ」
ぎこちなく少女にお礼を言う若者に母親のゼルマは近づくと
「その、お花をかしてください」
「ああ、どうぞ」
彼女は彼の手から花を受け取ると彼の襟元に持っていたひもで括り付けると
「これで道中、お邪魔にはならないでしょう」
彼女はニコっと微笑むとすうっと彼の耳元に顔を寄せつぶやく・・・
(また、来られますように・・・)
彼女がそう告げた瞬間、風が彼女の髪をなびかせ若者の頬にその髪を触れさせる・・・
「あっ また来ます・・・」
距離を離して自分を見つめる彼女の表情が朝日にさえぎられてよく見えない・・・ひょっとしたら悲しそうな表情だったのか・・・
「エルヴィン様 エルヴィン様 」
「ん?ああ、ごめん・・・あの時を思い出していて・・・」
「・・・、そうなんですか・・・」
怪訝そうな表情でエルヴィンの顔を覗き込むユイーザの顔が見える・・・
「そう あの時ユイーザ君は自分に花をくれたんだよね」
エルヴィンは心の動揺を隠すようにユイーザに答える。
「わあ、うれしいです!!思い出してくれたんですね!!!」
「ああ、それであの あの君がくれた白い花は何という花だったんだい?」
「スイセンです、ドイツスイセンですよエルヴィン様」
「スイセン・・・ドイツスイセン・・・」
「ええ、春3月になると咲き始めるとっても可愛い白い小さな花です」
「そうなんだ・・・」
「母はその花がとても好きで、今でも宿のあちらこちらに植えて母がお世話をしているんですよ。それで母にどうしてこの花がそんなに好きなのって聞いたところ」
『この花はねユーイ、このスイセンが持つ言葉があるの』
『言葉・・・???』
『そう、言葉。花言葉というんだけどこの花の花言葉は、幸福の訪れって言うのよ、フフフ・・・』
『それって、お店の名前だね・・・』
『そうよ、だからこの花はお母さんはとっても好きなの、もちろんお父さんもね・・・』
『ふーん、そうなんだあ~、じゃあユイーザも大好きになるねお母さん~~!!!』
『うん、ユーイも好きになってお世話をしてくれればお花さん達も喜ぶから』
『わかった、ユーイも頑張ってスイセンさん達のお世話するね』
「『幸福の訪れ』・・・そんな花言葉の意味があの花に・・・」
「ええ、そうなんです。それと母がとてもうれしそうに教えてくれたんですけどそのドイツスイセンの花言葉にはまだ他があって」
「他の・・・?」
「ええ、もう一つの花言葉は 『再来』という願いの意味もあるそうです」
(『再来』だって・・・じゃあ、あの時の彼女の言葉の意味は・・・)
エルヴィンは思い出す往時の彼女の言葉を・・・
(また、来られますように・・・)
ユイーザさんのお母さんって・・・。
彼女の気持ちはあまり詮索しないほうがいいのでしょうか・・・?
花言葉の意味は・・・時には意味深になってしまいます・・・皆様はそんな経験はありませんか?
最後にお礼を申し上げます。
ブクマを付けていただいた方に感謝の気持ちを、本当にありがとうございました~^^
励みになります!!!
今週もアクセスしていただいた全ての皆様にお礼を申し上げます。
いつも、いつも、ありがとうございます^^
それでは、次週もこのお時間にてお会いしましょう~^^




