魔女祭り71
偶然にも野盗の狼藉者等の襲撃から助け出した母子をヴェルニゲローデまで送るはめになった傭兵風の若者は道中彼女たちの素性を聞くことになる。この母親とその娘はこの日、隣り村のハイムブルグに住む母親の姉夫婦の所から所要を済ませて自宅のあるヴェルニゲローデに帰る途中に事件に巻き込まれたということであった。話を聞くと彼女達の家は明後日に宿屋を開くことになっており、その開店準備金を姉夫婦に用立ててもらった帰りだったのだ。開店準備のため忙しい夫であり少女の父親である主人の代わりに母娘で大事な御用を無事終わらせてもう少しでヴェルニゲローデの村に入るという場所で不幸にもあの二人の野盗に襲われてしまったという事の顛末であった。三人は村の入り口にある村の自警団とゴスラーから派遣されている騎士団との合同の詰所を訪れ親子が巻き込まれた事件を報告し街道の道端に放置してきた狼藉者達の後始末を頼むと親子の家にと向かう。
「本当に、本当にありがとうございました!!!」
「いやぁ、たまたま通りすがっただけですから、そこまで御主人に頭を下げられるとむしろ自分の方が恐縮してしまいますから、どうかお顔を上げてください」
帰りの遅い妻と娘を心配していた主人は何度も何度もこの若者に頭を下げ感謝するのであった。
「私の代わりに妻と娘に大切な用事を頼んでしまい心苦しく思っておったおりに、あまりにも帰りが遅いので本当に・・・心配しておりましたから・・・。こうして二人の無事な顔を見れて、ほ 本当に・・・本当に・・・クッ・・・クッ・・・」
「あ あなた・・・」
嗚咽を上げ始めた主人を慰めるように寄り添う妻の姿を微笑ましく見ていた若者はうれしそうに言葉を挟む。
「結果的に良かったのですから、本当に喜ばしいことではありませんかご主人。そうそう・・・」
若者は新しい木材の匂いが香る部屋を見渡しながら
「素敵なお店ですね・・・心が落ち着く内装ですね・・・。もうすぐお店を開かれるとお聞きしましたが?」
「ありがとうございます。恩人であられるあなたにそう言ってもらえると・・・って」
そこで主人は今気づいたかのように
「そう言えば、私達の恩人であるあなた様のお名前を伺ってませんでしたが・・・」
「あっ!!!私としたら」
夫の言葉にはっと思い出す妻は慌てながら
「あなた、こちらのお方はエルヴィン様とおっしゃられます」
その言葉を受けて若者は改めて名乗る。
「エルヴィンと言います」
「エルヴィン様と・・・おっしゃられるのですね・・・。あなた様の事は決して私達は忘れることはないでしょう・・・本当にありがとうございました・・・」
深々と頭を下げる主人と彼の妻の姿に、照れたようにはにかみながら若者は暇を告げようとする。
「いえいえ、そんなたいした事はしてませんので・・・それでは、自分はそろそろ退出させてもらいます。このお店、この素敵な宿屋がゆくゆく繁盛する情景を思い浮かべながらお祈り申し上げます」
若者は、そう言いながら先ほどから母親の腰あたりから顔を覗かせている少女をちらりと見る。
すると、少女は恥ずかしそうに母親の後ろに隠れるのであった。
「えっ!!!もう、お発ちされてしまうのですか!!!まだ、充分なお礼もさせていただいておりませんのに!!!」
若者の言葉に少女の母親が戸惑いの声を上げる。
「いえ、お構いなく。もう遅いですし、こちらのお店も開店前であなた方も何かと忙しいでしょうから」
「そうおっしゃられますけど・・・あのエルヴィン様、今夜の宿はもうお決めになられてるのでしょうか?」
「いえ、まだ決めてません。今夜はこのままゴスラーに向かおうと思ってましたから」
「そうであれば、あなた!!!」
「うん、そうだねゼルマ、我が宿の記念すべき最初のお客様としてエルヴィン様に当宿にお泊りになっていただこう」
「いや、さすがにそれは・・・」
「エルヴィン様は、今夜中にゴスラーに着かないといけないお急ぎの理由があるのでしょうか?」
「いえ、特に急ぐ理由も無いのですが・・・」
「でしたら、是非にも今夜はこちらにお泊りになってください」
「妻の言う通りですエルヴィン様。ゼルマとユイーザを救っていただいた方がこの宿の初めてのお客様になっていただく・・・こんな冥利は二度とありませんから・・・」
主人は強い視線で若者を見つめると
「こう、お話しするとご気分を害されるやもしれませんが今夜のお宿代と食事の料金はお気になされずに、二人を助けていただいたお礼として考えていただければ幸いです。それとエルヴィン様には当宿を利用された感想をいただければと亭主として考えております。そうですね、これからお出しする食事に対する率直なご感想も是非にもお願いします。エルヴィン様におかれては私共のお店を開くにあたっての我等の不安を和らげるとでも思っていただければと・・・勝手なお願いで恐縮でございますが、何とぞ、お願い申し上げます」
主人の言葉に合わせるように彼の妻も一緒に頭を下げる姿に
「では、私でよければお言葉に甘えて今夜はこちらに泊まらさせていただきます」
若者は快諾する。
「おお!!!ありがとうございます。じゃあ、ゼルマ、エルヴィン様をお席にご案内しなさい」
「ええ、あなた。ではこちらへ」
若者は今夜偶然助けた女性に案内された窓際の部屋の奥の席に腰をおろす。この宿の女将であったその女性はあふれんばかりの笑顔で
「お飲み物は、エールでよろしかったでしょうか?」
「ええ、お願いします」
「承りました」
「あ あのゼルマさん」
「はい?」
「何かご主人に気を使ってもらって、逆に申し訳なくなってしまいましたね・・・」
「エルヴィン様、お気になさらずに。主人のヨーナスの言葉どおり私達親子を助けていただいた事に対する本当にささやかなお礼ですけど、どうか私どもを助けると思って今夜は心ゆくまでおくつろぎください」
「ありがとうございます、じゃあ、食事もお部屋も楽しみにしてますね、ハハハ」
「そうですよ~期待してください。うちの亭主の料理はなかなかの物ですから。それと・・・」
何故か、くだけた話し方になっていたゼルマが口元に指を当てながら少し間をあけて話しだす。
「もし、お酒のお相手が必要とあればすぐにおっしゃってくださいね。私でよければ喜んでさせていただきますから。ウフフフ・・・」
そう言いながらゼルマは厨房に向かって歩き出す。
彼女の女性らしい柔らかな後姿をこの若者は眺めている・・・。
若者は知らない・・・彼女は自分のあられもない姿を見られたその若者にただのお客という以上に親近感を持ち始めたことを・・・。
お礼を申し上げます。
評価をしていただいた方に、本当にありがとうございました・・・とてもうれしく思っております。
また、ブクマを付けていただいた方にも感謝の気持ちを・・・ありがとうございます・・・。
本当に、ありがたく思います・・・励みになります・・・。
今回のお話は皆様に喜んでいただけるでしょうか・・・?
それでは、次週もこのお時間にてお会いしましょう~^^
アクセスしていただいた全ての皆様に感謝しております、ありがとうございました~^^




