魔女祭り54
「そうだヴァネッサ、今度会う時に君に渡したいものがあるんだ」
「渡したい物ですか?」
「ああ、君が俺の所に来るにあたって是非とも受け取ってもらいたい」
「そ それは・・・プ プレゼントなんでしょうか?」
「うん、その通り。俺から君へのプレゼントだよ、大切に使ってほしい・・・」
(そ それって・・・ひょっとして・・・こ 婚約指輪・・・って ええええ!!!)
「うん?ヴァネッサ? どうかしたかな?」
「い いえ!!な なんでもありません!!!エルヴィン団長からのプ プレゼントですもの生涯大切に使わせていただきます!!!」
「そ そうか・・・」
(生涯大切にって・・・それまでの物ではないと思うんだが・・・。確かに通信用の貴重なマジックアイテムには違いないんだけど・・・。まあ、彼女があんなに嬉しそうに言ってるんだから良しとするか・・・)
エルヴィンは多少ヴァネッサのテンションの高さに違和感を覚えるが納得するのであった。
「(そ そうよね・・・間違いないわね・・・贈り物、プレゼントですもん・・・こ 婚約指輪・・・)キャアア~団長ったら」
「ば ヴァネッサ?だ 大丈夫か・・・?」
「は はい 大丈夫です。全然大丈夫です はい」
「それなら、いいのだが・・・。それで明後日の待ち合わせの件だが明日こちらから連絡するってことでいいかな?君の仕事の都合もあるだろうけど」
「いえ、それはお構いなく。明後日は休暇を頂きますから。一日中いつでも大丈夫ですエルヴィン団長!」
「そ そうか・・・」
呆れるほどキッパリと言い切ったヴァネッサの言葉に何故か圧力を感じるエルヴィンである。
「じゃあ、そういう事で・・・ヴァネッサ・・・」
「は はい」
「おやすみ、今晩はありがとう・・・」
「い いえ、こちらこそありがとうございました。おやすみなさい、エルヴィン団長・・・」
(うん?)
エルヴィンは念話を切ろうとした時にかすかに聞こえた彼女の、「ヤッタァ~」、とか、「キャア~」という叫び声や、浴槽の中で飛び上がってるのであろうか、「バシャ、バシャ」、という水しぶきの音や、「明後日は何を着て行こうかしら」という彼女の声に・・・。
「うん?エルヴィンどうしたの?」
そんなエルヴィンの立ち姿に訝しそうにマテウスが尋ねる。
「いや、何でもない・・・ただ・・・」
「ただ?」
「いや、ヴァネッサがとても喜んでたな・・・」
「そうなんだ・・・彼女が喜んでるならいいんじゃないの?」
「そ そうだな・・・」
「で、彼女はうちの団に来てくれるってことなのかな?」
「ああ、うちの団で雇う事に賛成してくれたよ・・・ありがたい・・・」
「それは、良かったねエルヴィン!!」
「さてと」
マテウスの言葉に同意するように頷くとエルヴィンは振り返る。視線の先には甲斐甲斐しく近衛騎士団の治療をするセシリア達の姿があった。
「少し遅くなったが、俺は灯篭の場所まで行ってくるよ。マテウスはここの・・・」
「うん、任せておいて。ここの守りは僕がやっておくからさ」
「じゃあ、頼む。そんなに時間はかからないと思うからな」
「了解」
マテウスは暗闇に繋がる道を歩き始めたエルヴィンの後姿を見ながらふと思い出した。
(あっ!!!そう言えば、あいつにも声を掛けてたんだった・・・どこに居るんだろう?それとも急だったから来れなかったのかな・・・)
(傭兵団ゴルトヴォルフと言ったか・・・)
王宮の玄関先でぼんやりと浮かぶエルヴィンとマテウスの姿を鷹のような視線で見つめていたローマ使節団副使であるコロンナ・パスクヮーレは眼前に見た今晩の出来事を反芻しながら胸中にて呟く・・・。
(あれほどの腕の傭兵・・・ローマはおろか・・・イタリア中捜しても幾人もおるまいな・・・)
いつの間にか強くなった夜風がこの男のマントを靡かせる。
「どうかされましたかな、パスクヮーレ卿?」
「ああ、これは申し訳ございませんエリプランド枢機卿」
自分の世界に浸っていた彼に、穏やかな声が掛けられた。
「何やら難しい顔をして、外を見つめ考え事をしておられたように見受けられたのだが・・・」
温和な表情を湛えながらこちらを覗うエリプランド枢機卿の瞳に見透かされたような気分になったパスクヮーレ卿は自嘲気味に目線を下に落とし、夜風に乱された自分の髪を右手で整えた。
「やはり、エリプランド枢機卿には敵いませんな。おっしゃられる通りです。いささか、今宵、目の前に起きた出来事が未だに理解できておりません故に・・・」
「ホッホッホ、これは珍しい!常日頃、冷静沈着なコロンナ家当主殿がそこまでの表情を見せるとは」
「これは、お恥ずかしい所をお見せしたようで心苦しい限りです」
「そう自身を卑下することはありません。かく言う私自身も今宵起きた出来事に関しては未だに心の中では整理できていませんから・・・」
「枢機卿・・・」
エリプランド枢機卿はパスクヮーレ卿の傍らに並び立つとおもむろに左手を上げある場所を指差した。
「卿よ、あの姿をご覧なさい」
パスクヮーレ卿は枢機卿に言われるまま指差された場所に視線を移す。そこには額の汗を手の甲で拭いながらも負傷した近衛騎士団の治療をする聖女セシリアの姿があった。
「ああ・・・」
嘆息するパスクヮーレ卿を横目にタルシジオ・エリプランド枢機卿は語り掛ける。
「彼女のように自分のなすべき事をどんな状況にあっても行動に移せるという事はとても素晴らしい・・・彼女の行動の理由には迷いがありませんから・・・私はこの地位にあっても今の彼女の姿には羨望を覚えます・・・」
「エリプランド枢機卿・・・」
はっとしたように視線をパスクヮーレ卿は枢機卿に向ける。
「今の現況に満足して、私は彼女のような純粋な行動理念をいつの間にか忘れてしまってたんですね・・・彼女は自分の目の不自由さもそれもまた彼女の今の心の強さの糧にしているのかもしれません・・・が、もっとも今晩の出来事ばかりは目の不自由さが彼女にとって幸いしたかもしれませんね・・・実際にあのような禍々しいデス・ナイトのような魔物を目の当たりにすればいかな彼女でも我々と同じようにその身を竦ませたやもしれません・・・。さりながら、今の彼女の姿を省みれば・・・目の見える私の方がいつの間にか不自由な生き方をしてしまっていることに気づかされます・・・」
「そ それは・・・」
「ええ、卿の考えは理解できます。枢機卿という職務でしか出来ない仕事はたくさんありますから・・・ただ・・・それが民たちのため・・・神の御心に沿っているのかどうか・・・最近 私は自分の姿に疑念を持ち始めていました・・・」
「それでも枢機卿は教皇陛下様を支え正しき道に導くという立派な行動理念があられます。それが結果として民達のため、ひいては神の御心に沿うことになろうかと・・・」
枢機卿は、うんうんと頷きながら卿に答える。
「確かに卿が言われるように現在の今でもその気持ちには変わりはありません・・・が、教皇陛下様の位や枢機卿を初め協会内部での高位の役職を巡るドロドロとした醜い争いには・・・ほとほと愛想が尽きてしまったのも本音ですよ・・・」
「・・・」
「まあ、この話はここだけにしてもらえるとありがたいのですがね、パスクヮーレ卿」
「ええ・・・」
「遠い異国の地で、更に想像もしえない出来事に遭遇して胸の内の扉の鍵が開放的になってしまったのやもしれません、ホッホッホ」
「そうですな・・・ハッハッハ」
献身的に治療を続けるセシリアの姿を見つめる二人の頬に優しく夜風がしばしの間、触れてゆく・・・。
「彼女に劣らず、心乱さずご自分の姿を通した方がおられましたな・・・?」
ふと、パスクワーレ卿はつぶやく。
「ええ、そうでありましたな。失礼ながらまだ年若ながらご自分の行動理念・・・いや信条とも言うべきものでしょうか、あのお姿には全く迷いは覗うことはできませんでしたな・・・」
「ええ、あのような異端の狂信者の突然の乱入にも狼狽も見せず王者の風格を持って対応されてました」
「さすがに、黒王と帝国内外に称せられるだけあられる・・・」
エリプランド枢機卿はそう言うと夜風が目に沁みたのか、瞼をパチパチとさせながら続ける。
「ハインリッヒ王の強固な心の拠り所は、あの男達の存在であろう・・・」
枢機卿は視線を目の当たりに実力を見せた傭兵たちに向けられる。
「そうでございますな・・・」
「あの恐ろしいまでの使い手の狂信者が目の前に居ても、あの傭兵達が近くに侍っているのを王陛下はご存知だったのであろう。かの者達の絶対的な強さをな・・・」
「いかにも、その通りだと私も推察します。あまっさえあのような恐ろしげなデス・ナイトでしたか・・・あのような魔物を見るのは私は初めてでありましたが王陛下はあの魔物を見ても少しも恐れを抱いてなさそうでした・・・」
「王陛下も恐らくは、初めて見る魔物であったろうにな・・・それも王陛下配下の虎の子の騎士団である近衛騎士団が倒されていたのにも拘らず泰然自若とされておった・・・。あの男達が居れば問題ないとな・・・」
「・・・」
「あの傭兵・・・エルヴィンとか・・・申しましたな?」
「はい、傭兵団ゴルトヴォルフ(金狼)の団長だと・・・」
「先程、小耳に挟んだのですがあの者はハインリッヒ王陛下とは皇太子時代からの知己らしいですね・・・」
「そうでありましたか・・・」
「パスクヮーレ卿」
真剣な面差しでエリプランド枢機卿はパスクヮーレ卿に語りかける。
「あの者とあの者が率いる傭兵団ゴルトヴォルフ(金狼)について、詳しく調べてはいただけないでしょうか?」
「はっ、私もそう考えておりましたところで・・・」
「ホッホッホ・・・そうでしたか以心伝心ということですな。ならば話が早いですね、あの者達を・・・」
「あの者達を・・・?」
「我等が雇えないものかと・・・いや、是非とも我等がお抱えにしたいものです・・・」
パスクヮーレ卿はエリプランド枢機卿の横顔を見つめる。先程までセシリアの姿を眺めながら彼女を讃える優しい瞳はそこには見えず、怜悧な視線を浮かべる一流の政治家としての瞳がそこにあった。
「さようでございますな・・・あれ程の実力を持つ男達です。であれば、ハインリッヒ王陛下だけに独占させるのはいかがかと私も愚考致します」
「ホッホッホ、そういう事です。できますかな、コロンナ・パスクヮーレ卿・・・」
「コロンナ家の名を出された以上、私は失敗することは許されません・・・。お任せを枢機卿、あの者達は所詮、傭兵でございますゆえに」
「ほお、数世紀に渡って常に成功を収め選択を間違えないというコロンナ家の現当主殿がそこまで言われるのであれば・・・期待していますよ」
「私自身もあの者達を是が非にも手に入れたいと、ふつふつと感じてきておりますが故に」
「ホッホッホ、それはそれは見込まれたものですな。であれば、早く我等のために戦うあの金色の姿を見てみたいものだ・・・」
「はい、そうでありますな・・・」
二人は、そう言いながら魔物達と戦っているおり、夜の帳の中で金色のオーラを身に纏っていたエルヴィン達の美しい姿を思い浮かべる。
(あの者達を手に入れる手立てとしては・・・やはりまずは他の残りの聖女の居場所の情報か・・・)
ローマ聖教会使節団の正副両使の思惑がエルヴィンを傭兵団ゴルトヴォルフ(金狼)を後世の3教皇が鼎立するという前代未聞の動乱の時代のローマに呼び寄せてしまう事になるとは今のエルヴィンは想像もつかぬことであった・・・。
皆様、台風の影響はどうでしょうか?
今日のお話しの感想はどうだったでしょうか?前半は引き続きヴァネッサ譲の独壇場(笑)彼女の仕事モードとエルヴィンさんに対する仕草のギャップにエルヴィンさんでなくともグッっときてしまうのは私だけでしょうか?ハハハ。
後半は大人のおじさん達が存在感をだしてましたね。彼らは今後のエルヴィン達が活躍するであろうローマの地にても重要な役割を演じます。皆様、覚えておいてくださいね^^
それでは、最後にご挨拶です。
ブクマを付けていただいた方々にお礼を申し上げます。
本当に、うれしく思います。励みになります。ありがとうございました~^^
この物語を楽しみにしていただいてる全ての皆様に感謝の気持ちを、本当にありがとうございます。
次週もこのお時間にてお会いしましょう~^^




