魔女祭り53
「ヴァネッサ・・・、ヴァネッサ・・・」
「そ そんな・・・まだ団長と私は、け 結婚もしてないのに・・・えっ!は はい、エルヴィン団長」
「いや、聞こえているならいいんだ・・・」
エルヴィンは、別世界に意識を飛ばしたような気がするヴァネッサに呼びかけた。
「も 申し訳ありません、す 少し取り乱していまいました・・・。エルヴィン団長、トゥライ(3番隊)及びフィッアー(4番隊)に急ぎの御用があればヴァルター、ヘルベルトの両隊長にフクロウ(月の使い)で伝言を飛ばせますが?」
「いや、それには及ばないよヴァネッサ、ありがとう」
「そ そうですか・・・そうですねエルヴィン団長であれば念話で話ができますもんね」
「ああ、その通りだ、二人には直接声を掛けることにしよう」
「はい」
(本当によく気づく・・・)
エルヴィンはヴァネッサの顔を思い浮かべながら彼女を賞賛する。
(仕事ができ、相手のことを考えて自分の考えをサラリと発言できる知性もあり、それに・・・あの美貌だからな・・・ギルド協会本部の看板受付嬢の評判は伊達ではない・・・。何故か好意で自分の団の切り盛りをやってくれてるのだが掛け持ちで二つの仕事をこれからも続けさせるとなると・・・)
「団長・・・エルヴィン団長・・・どうかされましたか?」
小声で気遣うヴァネッサの声にエルヴィンは我に返ると
「ヴァネッサ、聞いてもらいたい事がある。いいかな・・・?」
「は はい、何でしょうか?」
ヴァネッサは真剣な口調になったエルヴィンの声に浴槽の中で膝を立て姿勢を思わず正した。
「さっきも言ったけど、君には本当に感謝している。ギルド協会の仕事だけでも大変なのにうちの団の勤務スケジュール管理や知らないうちに団の財務管理までもなし崩しで面倒をみてもらってるのが偽りのない現状だ・・・。協会本部内では掛け持ちで仕事をしている君に対しいい顔をしない上司や同僚の心無い非難の言葉・・・噂や視線を感じさせてきたと思う・・・本当に申し訳なかった・・・」
「だ 団長、エルヴィン団長、そ そんな事をおっしゃらないでください!私が好きで自分で勝手にやらさせてもらってるんですから!!」
ヴァネッサはエルヴィンの団の仕事を辞めさせられるのかと不安になり哀願の口調になってしまう。
「うん、君のその好意に甘えてだらだらと今の現況に至ってるんだ・・・。公平さを一大前提に掲げるギルド協会にとって一部の団体にだけ利益供与するような境遇に職員があることは望まれないというのもそれはそれで正しい事であるからね・・・。そんな職場の環境においても立派にギルド協会の仕事をやり遂げてきて職務態度に関しても一切不満の上がらなかった君の日々の姿勢に俺は・・・自分は尊敬の念に耐えない・・・本当に素晴らしい事だと思う・・・偽りの無い気持ちだ・・・」
「え エルヴィン団長・・・」
ヴァネッサは心がざわめき、目頭が熱くなるのがわかる・・・。
「ヴァネッサ、それでこの辺りでこれからの君の事を思ってけじめを付けようかと思うので伝えたい事・・・いや、お願いしたい事があるんだ・・・」
「な 何でしょうか・・・?」
ヴァネッサは知らず知らずに水滴を弾かせている滑らかで美しい双丘の上に両手を乗せエルヴィンの言葉を待つ・・・。
「ヴァネッサ、うちの団ゴルトヴォルフ(金狼)は、これから少々面倒な事に巻き込まれそうなんだ」
「面倒な事ですか・・・」
「ああ、詳しい事はまたの機会に話すけどそれでヴァネッサが協会の仕事とうちの団の仕事を掛け持ちでという訳にはいかなくなると思う・・・。そこで君にはできれば一つの仕事だけに集中してもらいたいんだ・・・」
「え エルヴィン団長、それは団の仕事から離れろということでしょうか・・・?」
ヴァネッサの声が震えているようだ。
「ああ、今まで君に甘えて頼ってばかりいて、いきなり手の平を返すような言葉で申し訳ないのだが・・・」
「その面倒な事というのが私の今後の身の振り方に多大な影響を与えるとの認識でよろしいのでしょうか?」
「・・・。そうだ、予想もつかない程の激動の騒乱の時間が来るのは間違いない。ギルド協会にとってもうちの団にとっても未曾有な経験をする時間がね・・・。もちろんヴァネッサ、君の能力や資質をこれっぽっちも疑うことはないのだけどそれを踏まえてみても掛け持ちの仕事は勧めれない・・・」
「だ 団長、エルヴィン団長・・・わ 私は・・・」
声を震わせ涙ぐんでいるようなヴァネッサの姿がエルヴィンの頭の中に浮かぶ・・・
「ヴァネッサ・・・」
「・・・もう一つの・・・」
「うん?もう一つの・・・」
「団長、エルヴィン団長・・・もう一つの選択肢を選んではいけませんか?」
「もう一つの選択肢?」
「は はい。わ 私を 私を エルヴィン団長のもとに・・・」
「ヴァネッサ!!!」
エルヴィンもそこまで鈍感ではない、ヴァネッサの痛々しく切なげな声を聞き彼女の言葉を遮る。
「ヴァネッサ、自分の方から言わせてくれないか」
エルヴィンはそう彼女に告げると、フウーっと息を吐くと
「君は、俺の団ゴルトヴォルフ(金狼)にとって、いや自分自身にとっても掛け替えのない存在だと思う・・・もし良ければうちの団の専属の窓口、渉外担当として来てもらえないだろうか?」
ーーバシャッーーという水しぶきの音がエルヴィンの頭の中に聞こえた、ヴァネッサが浴槽の中から立ち上がったのだ・・・。
「ウグッ、グスッ・・・」
ヴァネッサが湧き上がる感情を抑えるように咽ぶ・・・。
エルヴィンは彼女の声を聞きながら優しくそれでありながら申し訳なさそうに彼女に語る・・・。
「ギルド協会のように毎月決まったお手当ては出せないかもしれない・・・」
「ウグッ・・・いいんです。今までの蓄えもありますから・・・」
「専属でうちの団に雇われることになったら、今まで以上に君に甘えて団のみんなが無理を言うかもしれない・・・」
「ウグッ・・・いいんです。今まで以上にエルヴィン団長とお話ができれば・・・団長はう~んと私に甘えて下さい・・・」
「い いやになったら直ぐに辞めてくれてもかまわわないから・・・」
「ウグッ・・・エルヴィン団長に永久就職でかまいません・・・」
「んん???永久就職だって・・・???。ヴァネッサがそう言うなら俺としては嬉しい限りだけど、本当にいいのかい?」
「はい!。エヘっ、私はそのつもりです。エルヴィン団長、言質は取りましたよ!約束しましたから!!!」
「そ そうか・・・」
エルヴィンは朗らかに笑いながら話すヴァネッサの言葉を聞きながら、どこか少し違和感を覚えるのだが彼女が喜んでるのだからと思い、それ以上深く考えるのを止める。
「では、エルヴィン団長、今までに溜まってた団の案件の報告と、これからの私の処遇について打ち合わせがしたいのですが、明日のご予定はどうでしょうか?」
エルヴィンはいつも通りの仕事の出来る女性の声に戻ったヴァネッサの問いに、自然に笑みを浮かべ答える。
「明日は、少し難しいか・・・明後日なら 」
(永久就職だって????エルヴィン・・・どんな話を彼女にしたんだろう・・・ウフフフ・・・)
エルヴィンとヴァネッサの念話の中身を想像して、マテウスは面白そうにエルヴィンの横顔を眺めるのであった。
何故か、ヴァネッサ嬢にエルヴィンさんがプロポーズをしているように感じるのは私だけでしょうか(笑)
この物語を書き始めてちょうど一年になります。
これもこの物語を楽しみにしていただいている皆様のおかげで続けることができました。
本当にありがとうございます。
これからも一話一話、心を込めて書きたいと思っております・・・。
ブクマを付けていただいた方にお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました^^
ではまた、次週もこのお時間にてお会いしましょう~^^




