魔女祭り38 デスナイトとの戦い
マテウスは了解の返事をエルヴィンにすると両足を肩幅ぐらいに広げ、少しうつむきながら意識を集中させ始める。
「クーパリッヒ・シュタークン(身体強化)・・・」
マテウスの口から静かに魔法呪文がこぼれると彼の体を覆うように黄金色の輝きがきらめく。
目を開けたマテウスは、スラリと剣を抜くと左手をその剣にかざす。
「マジックグランツ(魔法付与)・・・」
魔力を注がれたマテウスの剣もマテウスの体と同じ様に縁がややオレンジ色をした黄金色の光を奏でる。
『ヴーン・・・ヴーン・・・』
その剣から発せられた音をマテウスは、うんうんと頷き確認すると確かめるかのように一振り、二振り剣を舞わせる。
「おい、マテウス!!」
「うん?」
「すごくいい仕上がりじゃないか、その剣!!」
マテウスの様子を見ていたエルヴィンが驚嘆したように尋ねる。
「うん、そうでしょ!、さっき念話で話したバートハルツブルクの研ぎ師にやってもらったんだ」
自慢気に表情を崩しうれしそうにマテウスは答える。
「そうかあ・・・、なら俺も今度頼んでみようかな」
「ああ、そうするといいよ。エルヴィンの剣は少し特殊だけど彼女なら任せられると思うよ、そのかわり値段は相場よりかなり高いけどね」
「彼女って・・・女性の研ぎ師なのか?」
「そうだよ、女性の研ぎ師は珍しいよね。ああ、そうそう彼女は気に入った仕事しか請けないみたいだからエルヴィンも彼女に好印象を持たれるように注意しないとダメかな」
「そ そうか・・・」
「さてと、僕の方は準備完了だからエルヴィンのフォローにまわるね」
「じゃあ、マテウス頼む」
精神を極度に集中させる魔法を使用する時は必ず術者の周りを守るパートナーが必要、魔法を唱えようとする術者が無防備になるからである。
エルヴィンもまた気息を整え意識を集中させ唱える。
「クーパリッヒ・シュタークン(身体強化)!」
「クックック・・・本当にこの人達には驚かされますね。無詠唱で身体強化の魔法を簡単に行うなんて」
「主殿、その左手はいかがした?」
何がおかしいのか、笑いながらつぶやくソティリオに傍らに立つ首領格の骸骨騎士が問う。
「ああ、この手ですか。あの二人にやられましたよ、それにあの金髪の男には久しぶりに頬をなぐられました、クックック、ハッハッハ・・・」
いつの間にか出血の止まった手首のない左手を上げながらソティリオは愉快そうに笑いながら答える。
「それとこの左手はあの栗毛の男に持ってかれました」
「主殿相手にそれほどまでに・・・あの二人、楽しめそうですな」
「近衛騎士団を相手にしたような手加減は無用です。ゆくゆく私達の目的成就の妨げになるやもしれません。面白い男達で残念な気がしますが・・・殺してしまいなさい凄血伯爵・・・」
「承った」
凄血伯爵と呼ばれた骸骨騎士は少し顎を動かすと一体の骸骨騎士が歩き出しエルヴィン達二人の前で立ち止まる。
「エルヴィン、最初の相手は僕がやるよ」
マテウスはそう言うとエルヴィンを庇うようにエルヴィンの前に立ち剣を構える。
「さあ、お手並み拝見だ元近衛騎士団だったデス・ナイト!」
マテウスの掛け声が合図になったかのように対峙していた骸骨騎士が動く。鈍重そうな外見からは想像できない素早さでマテウスに襲いかかる。
『ガキッイイン!!』
一瞬の間で間合いを詰めた骸骨騎士の斬撃をマテウスが受け止める。
(クッ、速いねえ・・・それに 凄い力だ。近衛騎士団がやられる訳だ・・・身体強化の魔法を使ってなければやばかった・・・)
全身を震わせ相手の骸骨騎士の圧力を支えているマテウスの動きに合わせてその体を覆うオレンジ色にかかった輝きがとっぷりと暮れた夕闇に揺らめく。
「ウォーーッ!!!」
渾身の力で骸骨騎士の体を押し返し、間合いを取ったマテウスは
「エルヴィン、どう?僕もけっこう力持ちでしょ」
「あ ああ・・・。マテウス・・・でもお前 一撃で肩で息してるじゃないか・・・」
「はぁはぁ・・・、うん、もう力比べするのは止めるよ・・・」
「俺が代わろうか?」
「いや、大丈夫。今は少し油断してたからね、今度はこちらから行くよ」
そう言うとマテウスは右肩に剣を乗せる構えを取り、一歩踏み込むや否や凄まじい速さで骸骨騎士に肉薄すると強烈な斬撃を加え始めた。
『ビュン!ガキッィン!ヴーンビュン!ガキィッ!!!』
マテウスと骸骨騎士の剣戟の音が続く中、一人の男が近衛騎士団団長のレオの下へ近づく。
「レオ団長、大丈夫ですか?」
「ギレか、お前の方こそ大丈夫か?」
「あばら骨と右肩をやられましたが命には別状無いかと・・・」
自分が信を置く腹心の副団長が蒼ざめた表情で答える姿に安心したレオは
「俺の方はわき腹をやられたが急所は外れているようだ・・・」
「えっ、それはいけません!すぐに治癒魔法師を!!」
「今、ベルクからポーションをもらって飲んだところだ」
ギレは、座ったままのレオの背中を支えているベルクに視線を向ける。
ベルクは頷きその言葉を肯定した。
「ギレよ、我等は力が及ばなかったな・・・あ奴らは恐らく我等に手加減していたみたいだ」
「・・・」
「あのマテウス殿の戦ってる姿を見れば相手の骸骨騎士達が我らに本気だったとは思えない・・・」
「そのマテウス殿ですが・・・あの骸骨騎士の斬撃を受け止めてあまっさえ相手の体を押し返しましたな・・・」
「ああ、俺もしかと見た。あれはエルヴィン殿もそうだが身体強化の魔法を使ったのだ・・・二人は・・・本当に人間離れした強さだ・・・」
「マテウス殿は、私は始めて見るのですが・・・」
「そうか、ギレは初めてか。マテウス殿はエルヴィン殿の腹心中の腹心で特務隊隊長だ、過日のロートリンゲン大公との戦役の時にも一緒に戦場で会った」
「そうでしたか、エルヴィン殿の腹心中の腹心・・・ですか」
「マテウス殿は強いぞ、ギレ」
「はい、理解できます」
その時、一陣の透き通った剣撃の音が
『キュィン、ビュン!!!」
『ドサッ!!』
レオとギレが向けた視線の先には骸骨騎士の首を跳ね上げたマテウスが残心の姿勢で横たわった骸骨騎士を見下ろす姿があった。
「おお!あの骸骨騎士の首を獲り倒すとは!!我々の剣では歯が立たなかったのに!!!」
「剣に魔法を掛けていたからな、さすがだ」
「お二人共、喜ぶのはそろそろこれまでにしてお身体の治療を始めやしょう。化け物退治は金狼の姿になったあのお二人さんに任せりゃ大丈夫ですや」
ベルクの嗜めるようなぞんざいな言葉にギレはつぶやく・・・。
「金狼・・・あれが噂に聞く金狼・・・」
「あの姿になったら無敵ですよ、自分もあのロートリンゲン大公戦役で嫌と言うほど目にしましたから。ですから団長、副団長早く治療を」
「そうだな・・・」
どこかエルヴィンとマテウスを羨むような瞳でレオは同意する。
「お二人共、後ろを見てくだせえ」
ベルクの言葉に後ろを振り返った二人の視線の先には、王宮の玄関口の前に皇后やセシリア達や来賓を伴って外の様子を確かめに来たハインリッヒ王の姿があった。
「さて、残りは9体だね、お次の相手はどちらかな?できればソティリオとかいう人の隣の強そうなデス・ナイト・・・凄血伯爵さんだっけ?あなたでもいいよ」
「クックック、ハッハッハハ。いやはや、本当に驚くばかりだよ君達は。いかに身体強化を施したとはいえ生身の人間がデス・ナイト化した元近衛騎士団の骸骨騎士を倒すとは!!!。凄血伯爵よ彼はお前を希望であるぞ、どうする?」
「もう一人いる」
「ああ、マテウス君よりも・・・エルヴィン君の方が気になるかね」
「・・・」
「確かに、エルヴィン君の方はまだ力量の底は見せてない・・・か」
ソティリオの言葉に同意したのか凄血伯爵と呼ばれた骸骨騎士は配下の骸骨騎士達に命ずる。
「二人に、全員で掛かれ!」
その命令に、両脇を固めていた骸骨騎士達がガシャガシャと音をたてながらエルヴィンとマテウスに向かう。
「エルヴィ~ン、一人頭、4体相手だけど大丈夫?」
緊張感のないのんびりした声でマテウスがエルヴィンに尋ねる。
「だ 大丈夫だと 思う・・・」
「なら、どっちが早く倒せるか競争だね負けた方が食事とお酒をごちそうするということで、あははは」
「ふ ふん、よろしい。その賭け乗ったぞマテウス」
「了解!じゃあ、早速!!!」
そう言うや否やマテウスは向かって来る一体の骸骨騎士に斬り掛かる。
(賭けを受けたはいいが・・・、どうやってこいつ等を倒そうか・・・)
エルヴィンとマテウスの二人が骸骨騎士達との乱戦に臨もうとしている場所から少し離れた場所の宙に夜の闇に溶け込むように人が浮いている。
その宙に浮いている人間は王宮前で行われている戦いの騒動を見ながらあきれているようだ・・・。
(な、なんで!!!デス・ナイトが10体近く居るのよ!!!?)
ローブですっかり覆われた顔から整った鼻梁と光沢のある唇が覗き見れる。
(あ あいつは、私があれほど南には行くなって釘をさしておいたのに、な なんでデス・ナイトと戦ってるのよ!!!)
そうつぶやく声は大人の女性の声だ・・・。
(と とにかく状況把握だわ!本当にあいつったら南の方向に行くなってあれほど言ったのに・・・)
そうぼやきながら、王宮前での戦いを凝視する彼女の瞳の色は美しい翡翠色を浮かべていた・・・。
皆さん、お待たせしました^^
エルヴィンさんの戦いは来週にて^^
それにしても、マテウスさん・・・強いですね。
そして、そして あの彼女が・・・?
誰でしょうか^^
この物語を楽しみにしていただいてる方全てにお礼を申しあげます。
本当に、ありがとうございます。
それでは、また来週、このお時間にてお会いしましょうね^^




