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魔女祭り3 マルクト広場 占い師

ゴスラーは、現代のドイツほぼ中央部に位置している。神聖ローマ帝国皇帝ハインリッヒ3世がこの地に皇帝居城を建てたのには理由があり、皇帝居城より南方にあるランメルスベルク鉱山から銀が採掘されたことによる。その豊富な銀の埋蔵量のあるゴスラーが帝国の財源にとって最重要な場所だったということは、改めて言うまでもないであろう。


その鉱山都市である古都ゴスラーでは毎年4月末から5月初頭にかけて、春の訪れを祝う祭りが催されるのだが、その祭りは魔女祭り「ヴァルプルギスの夜」と呼ばれている。もともとの由来はゴスラーがあるハルツ地方の最高峰であるブロッケン山に各地の魔女たちが集い春の訪れを祝う宴を開くことから、その地に住まう魔女でない人々も同じように感謝祭を催すことになったという。


エルヴィンは、ノクターン亭を後にすると街の中心部マルクト広場に向かって歩き始めると久しぶりに戻った町並みを見渡す。通りの道端では、仕事が終わったのであろうかランメルスブルク鉱山のに人夫たちが手酌で酒盛りをしている姿が見え、その人夫たちの横を魔女の格好をした少女たちが笑い声を上げながら駆けている。その通りの両側には美しいデザインの木組みの民家が連なっており、その木枠には木彫りの装飾が鮮やかに彩色されている。更に民家の入り口や窓にはいろいろな魔女の人形が飾ってあり、明日からの魔女祭りをいかに住民たちが心待ちしていたか感じることができた。


(今更だが、きれいな町並みだな、このゴスラーは・・・)


本来の性格が感受性が豊かであろうこの男は、春の風に乱されたその豊かな金髪の前髪を手櫛でかき上げながら、傾いてきた太陽の影がだんだんと長くなっていく通りを歩いている。その後ろ姿はというと、少し赤みがかかった黄色の外套を羽織っており、左の腰には一般の剣に比べると細めの鞘が覗いていた。


エルヴィンは、行き交う人々や荷馬車をやり過ごしながら歩き続けると、人々の話し声や雑踏の音が大きく聞こえるようになってきた、マルクト広場に着いたのだ。


(ん?)


エルヴィンはマルクト広場を見渡せる大通りに面した場所でふと立ち止まった。


(気のせいか?視線を感じたのだが・・・)


広場を見ると、いろいろな屋台や祭りの催し事のための飾り付けの置物などが数え切れないほど設置されておりその準備に追われる人々が忙しそうに動きまわっている。


エルヴィンは、疑念を感じたまま視線を感じた方へ歩みを進めると、やはりと言うべきかギルド協会の建物の手前で声を掛けられた。


「そこの、金髪の旦那さんよ、少し立ち寄ってはくれまいかの!」


エルヴィンは、その声の主に視線を向けると


「そうそう、そなたじゃよ、金髪の旦那さん」


「占いのお婆さん殿か、すまんが訪問先へ行く途中なんでな、また会った時にでも声を掛けてくれ」


「そう、つれないこと申すでない。わざわざロートリンゲンから来たのじゃぞ!そんなに時間は取らせぬ故こちらに参れ」


(ロートリンゲンだと?)


エルヴィンは、少し考えて


「まあ、いいだろう。ロートリンゲンから来たということは、そうそう会えぬかもしれないからな」


「それで、何を占ってくれるのかな?おばば殿」


と、言ってエルヴィンは占い婆のテーブルの前に腰掛けた。


「ひょっ、ひょっ、ひょっ、そう急かすものでないぞ。そなたの今後の占いじゃ、それでは、わしの目をじっと見つめておくれ」


エルヴィンは、言われたままその翡翠色の瞳を見つめてみる。


占いの老婆は、視線を動かさずに右手をそっとエルヴィンの額にかざすと。


「わしが、いいと言うまで目をつむるのじゃ」


「ああ」


エルヴィンは、またも言われたまま目をつむり、老婆のよいという言葉を待った。

しばらくすると


「うむ、よっ、よいぞ。目をあけてくれ」


老婆の声は、なぜだか震えている。


「それで、何が見えたのかな」


「お、おぬし・・・いや、そなた・・・]


老婆は、少し言いよどみながら


「女難の相がでておる・・・。それもただ普通の色恋という女難のレベルではない。ゴスラー、いやこの帝国はおろかこのヨーロッパ大陸全土を巻き込むような女難の相じゃ!」


エルヴィンは老婆の言葉にあきれたように首を振ると、こう答えた


「女難だって!!!おばば殿、こう言っては何だが、俺は単なる一介の傭兵で嫁さんどころか恋人もいないんだぜ。残念ながらおばば殿のせっかくの占いだが信じられないなあ、ははは」


苦笑しながら、エルヴィンは立ち上がると


「まあ、でも女難があるということは、これからまだ見ぬ女性と出会いがあるかもしれないってことだよな、それだけでも良しとしよう。ありがとう、おばば殿」


と、言ってデナール銀貨を5枚テーブルの上に置いた。


「こ、こんなにもおくれなのかい?」


「ああ、わざわざロートリンゲンから来たんだろ、帰りの旅費にもあててくれ。それに、おばば殿の翡翠色の瞳、とても神秘的できれいで吸い込まれるような感じだった・・・。いい物を覗かせてくれたお礼だよ」


「神秘的で・・・きれい・・・」


そう言ったまま口をポカンっと開けたまま、しわだらけの顔に赤みがみるみるとかかる老婆の口元を見ながらエルヴィンはさらに


「そうだ、おばば殿」


「な、何じゃ?」


いたずらっぽく、笑うと


「ロートリンゲン大公にも、よろしく伝えといてくれよ」


「なっ、ど、どうして?」


ロートリンゲン大公という言葉に絶句した占い師の老婆は、背を向けようとしたエルヴィンに


「過分にもらった代金へのお礼じゃ、今日はここから南の方向へは行かぬことじゃ。面倒ごとに巻き込まれても知らぬぞ!」


「南の方向?・・・。ああ、わかった気を付けるよ、ありがとう、おばば殿」

































読んでいただいた皆様へ、感謝の気持ちをお伝えします。ありがとうございました^^。

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