魔女祭り27 暗雲
「セシリア様、エリプランド枢機卿様がこちらに来られます」
「はい、分かりましたヴィオラ、ありがとう」
そっと、耳打ちしたヴィオラに感謝の言葉を返しセシリアは居住まいを整える。聞かれるであろう問いにどう答えるかまだ判断に迷っていたが、フーっと息を吐くと決心したような表情を浮かべた。
「セシリア司祭、久しぶりですね、元気にされてましたか?」
「はい、元気にやっておりました。エリプランド枢機卿様におかれてもこの度の使節団のお勤め、誠にご苦労様でございます。本来であれば、真っ先にご挨拶に伺わなければなりませんのに遅くなり大変失礼を致しました。この通り深くお詫び申し上げます」
セシリアは、そう言うと深く頭を下げる。
「いや、いいのですよ。そなたは、そのようなお体だ、自分で見つけて挨拶に来るという事は難しいと私は十分理解していますから」
「ご配慮に感謝致します」
「ところで、セシリア司祭」
と、言って枢機卿は、まじまじとセシリアの美貌を注視する。
「そなたは、何故にこの地へ?まさか、物見湯山の旅ではあるまいと存ずるが・・・」
(きた!)
セシリアは、内心でそう呟くが何事も無いような表情を繕いながら答える。
「はい、当地へはハインリッヒ王陛下様にお願いの儀がございまして、そのために参った次第でございます」
「ほほう、お願いの儀とな。もし、差し支えなければその儀とやら、私にも聞かせてはもらえまいか?」
「はい、お話するのはやぶさかではございませんが、その前に枢機卿様にお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、何なりと」
「エリプランド枢機卿様におかれては、教皇陛下様より私めが賜った大天使ミカエル様よりのご聖託の件について内審がございましたでしょうか?」
「な、何ですと!大天使ミカエル様よりのご聖託だと!!!」
「そのご様子ですと、やはり教皇陛下様よりは何もお聞きになっておられませんでしたか・・・」
自分の言葉に驚愕する枢機卿の姿を想像したセシリアはため息を吐くようにそう答える。
「セシリア司祭、そのご聖託はいつ賜ったのか?」
「はい、先月3月20日の復活祭の晩のことでした。翌日私は、教皇陛下様にお目通りをお願いし、ご聖託の顛末をご報告を差し上げこの件に関しどのように行動を起こすべきかご相談に参ったのです。教皇陛下様は、しばらくは様子を見ようと仰せられになられましたので数日はお待ち申しあげたのですが、1週間経っても何もご連絡がなく、不遜な態度と思われるのを覚悟でまたお目通りを願ったのですがその日はお目通りには叶わなかったのですけど、侍従の方からご伝言を賜りました。来月初めの最高顧問会議の議題に挙げるとのお言葉でした・・・」
「通例の最高顧問会議において、そのような議題は教皇陛下様よりご提示は無かった・・・」
「そうでございましたか・・・」
枢機卿は、月初の最高顧問会議の様子を思い出しながらしばしの間考え込んでいたが、ふと気づいたようにセシリアに尋ねる。
「ところで、そのご聖託の内容はどういったものであったのかな?」
「ある人物が、堕天使ルシフェル様と接触を図り、ルシフェル様配下の魔族と契約を結び魔族の魔法を行使できるようになったというものでした・・・」
「な、なんだと!!」
「・・・」
「ルシフェル様の配下の魔族と契約を結び、魔族の魔法を行使できるように・・・。いったい、その者は何をするつもりなのか?」
「その意図に関しては、大天使ミカエル様もご存知ないようでしたのでお答えできませんが」
「そう、そうでしたか・・・」
「大天使ミカエル様はまたこうもおっしゃいました。その者がその力をもってこの世に悪しき影響を与え危機に落とし入れようとした時にその企てを阻止するために7人の聖女を捜し出し集めるようにと・・・」
「7人の聖女を・・・」
「その聖女たちの捜索のご協力をハインリッヒ王陛下にお願いに参った次第です」
「そういうことでしたか、そなたがこの地へ来た理由・・・よく理解できました」
「ありがとうございます」
「セシリア司祭、念を押して聞きますが、この事を教皇陛下には真にお伝えしたのでしょうね?」
「はい、嘘、偽りなど全くもってございません」
「わかりました、ご聖託の件、私も力の及ぶ限りそなたに協力をさせていただきましょう。ローマへ戻れば直ちに緊急最高顧問会議の招集をかけるつもりです」
「あ、ありがとうございます、エリプランド枢機卿様」
感謝の気持ちをその身体中に表すように頭を下げるセシリアを見て枢機卿は呟く
(教皇陛下、あなたはいったい何をお考えなのか・・・)
(この会場で多少注意すべき者は、あの宮廷魔術師ぐらいですか・・・)
使節団一行の馬車の御者であるグイドは晩餐会の会場となった大広間を見渡しながらそう独り言を呟いた。
(そろそろ、我がしもべたちが動き始める時間ですね)
「あーっ、すみません!」
「おっと」
「ごめんなさい」
そう言ってぶつかりそうになった事に、お詫びをする侍女にグイドは
「いえいえ、お気を付けて」
「あ、ありがとうございます。それでは、失礼致します」
(うん、あの娘は・・・、確か蝋燭の入れ替えをしようとした侍女でしたね)
忙しそうに、会場内の給仕に走り回る彼女を見て思い出したようだが、また視線を元に戻す。その視線の先にはエリプランド枢機卿と話をするセシリアの姿が・・・。
(偶然にもこの場に聖女殿もいらっしゃる。彼女は我が尊師のための供物によいかもしれませんね、クックック・・・)
宴会場から外に出て廊下を急ぎ足で歩くユーイことユイーザは先ほどぶつかりそうになった人物の事を思い出していた。
(あの方、今日どこかでお会いしたような気がするのだけど・・・)
ユイーザは、何故か記憶に引っ掛かるものを覚えながら調理場へ向かうのであった。
エルヴィンは、フィーネと別れた後、同じ場所で晩餐会の会場を見るとも無く見ていたが少し気になる人物を注視していた。その男は服装を見るからには御者のようでエルヴィンも最初は使節団の御者の一人であろうと気にも留めていなかったのであるが、侍女とぶつかりそうになった時のその御者の身ごなしに不審を抱いた。
(あの御者の身のこなし・・・、ただの御者ではなさそうだ・・・。それに今気づいたが、何ゆえにあの御者だけがこの会場内に居続けているのか?他の御者たちの姿はどこにも見当たらない・・・、普通は従者達の控えの間にいるはずなのだが・・・)
エルヴィンは、そう考えをまとめるとその御者の姿にますます厳しい目を向ける。
と、その時、
「失礼、貴殿は傭兵団ゴルトヴォルフ団長のエルヴィン殿では?」
エルヴィンは、呼び掛けられた声の方向に目をやると一人の男が細い目元に微笑を浮かべて立っていた。
「初めまして、この度ロートリンゲン公国ゴスラー駐在官に赴任したディニュといいます」
「こちらこそ初めまして、エルヴィンといいます」
二人は、挨拶を交わすとしばしの間沈黙しながら相手の表情を覗い続けた。
やがて、ディニュが口を開く。
「突然、声を掛けて申し訳なかったかな?」
「いえ、そんなことはないですが、どうして私の名を?」
「貴殿の身なりを見て、あの高名な傭兵団団長かと思って声を掛けさせていただいた」
「そうですか」
「これから、こちらで何かと顔を合わせることもあろうかと。これをきっかけに貴殿とよしみを高めたいと考えているのだが・・・」
「よしみを・・・ですか」
「うむ、それで貴殿が納得してもらえれば我が公国内で貴殿の用兵団の出先機関を設けてもらえないかと希望している」
「我が団の出先機関を、公国内にですか!」
デイニュは、そう言うと驚くエルヴィンを見て胸中微笑む
(さて、あのヒルダでさえその力量を把握できなかったおぬしの力量、試させてもらう、フフフ)
ディニュさんとエルヴィンの初の邂逅シーン、どうでしたか?
この二人の関係は今後どうなるんでしょうかね?
最後に、ご挨拶です。
この物語を楽しみにしていただいている全ての皆様に、感謝の気持ちを、本当にありがとうございます。
それでは、また来週、この時間にて^^




