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魔女祭り26 フィーネと宴の場にて

(明日の晩が魔女祭りの宮廷主催のパーティーということもあるんだろうが、今夜のローマ教皇使節団歓迎の晩餐会は男ばかりで華やかさに欠けるな・・・)


 エルヴィンは、そう胸中にてとりとめもない感想をつぶやきながら晩餐会の会場を入り口からぼんやりと眺めている。


(アリスティッド卿に頼まれて、ともあれこの会場に居るものの卿が危惧するような事が起きそうもなさそうだが・・・)


 外見はぼんやりと立っているように見えるエルヴィンだが、その目は会場にて歓談している人物達に不審な行動を起こす者がいないか注視していたのであった。


「エルヴィン様」


 そんな時に、突然自分の名前を呼ばれて慌ててエルヴィンは声の主に顔を向けた。


「ああ、あなたは」


「フィーネです、改めてご挨拶をと思いまして」


 そこには、若草色の服を身に着けた若い女性が微笑みを浮かべながら立っていた。


「こちらこそ、挨拶が遅くなりました、エルヴィンと言います」


 そう言って、エルヴィンは軽く頭を下げた。


「お邪魔では、なかったですか?」


「いえ、ご覧の通りただこの広間を眺めていただけですから」


「そうですか、なら良かったです。さしでがましかったかもしれませんがお食事とお飲み物をお持ちしたのですが、御不要でしたでしょうか?」


 彼女の両手には、飲み物と食べ物が載せられたお皿が見える。


「ああ、それはわざわざお心遣いありがとうございます。ちょうど、小腹が空いてきたところでしたから。ありがたく頂戴します」


「そう言っていただいてもらえて安心しました。さあ、どうぞ」


 と、言ってフィーネはエルヴィンにグラスを手渡すと食べ物の載ったお皿をエルヴィンの前に差し出す。


「では、いただきます」


 エルヴィンは、鴨肉の燻製をつまむと、それを口に入れる。


「やはり、王宮で出される食事はおいしいですねえ」


「そうですよね、私も先程いただきましたがとてもおいしいものばかりでした」


 エルヴィンは、更に皿の上にあった食べ物をつまみながら口に入れる作業を続けてあっと言う間に平らげてしまった。その時、自分の食べている姿をじっと見つめていた女性に気づいた。


「これは、どうも。お恥ずかしい場面を見られてしまいましたね、今日はそう言えば、まだまともに食事を取っていなかったもので・・・あははは」


 そう言って、エルヴィンは恥ずかしさをごまかすように、頭の後ろ部分をポリポリとかく。


 そんな、彼の姿を見たフィーネはパッと破顔したように笑いながら、


「そうだったのですね、本当においしそうに食べられいましたのでつい見とれてしまいました、ウフフフ」


「あははは」


 二人は、お互いに笑い合う。


「エルヴィン様、この差し入れはセシリア様からですの」


「えっ!」


 そう言って、エルヴィンは国王夫妻が座している壇上から少し離れた場所にて談笑しているセシリアの方に目を向けた。


「一人で、手持ち無沙汰のようなエルヴィン様にお食事と飲み物をと」


「そうですか」


 フィーネの言葉に軽く相槌をしながらエルヴィンは胸中つぶやく。


(目が不自由なセシリア殿に、自分の姿はわかりようがないはず・・・)


 エルヴィンは、それに気付いてとフィーネに振り向くと


「お心遣い、ありがとうございます、優しい方なのですね」


「え、ええ・・・」


 急に、優しい瞳でじっと見つめられ感謝の言葉を伝えられたフィーネは急にドギマギしたように慌てて付け加える


「セシリア様は、本当にお優しい方です・・・」


「そうですね・・・」


 エルヴィンは、何故か顔を赤らめて、うつむきながら答えるフィーネからまた視線を広間に向ける。




(ちょっと、待って、私が、こんなにドキドキしてどうするの!)


 フィーネは、心の動揺を治めようと必死に内心で葛藤していたのだが、ふと気付く。


(そう言えば、あれほどぶつぶつと文句を言っていた精霊たちのささやきが聞こえなくなってる・・・)


 フィーネは、上目遣いでそっとエルヴィンの横顔を覗うとそこには、穏やかな表情で彼の周りで纏わりつくように精霊達が飛んでいる・・・。


(えっ、信じられない!!!、初対面と言ってもいいぐらいの人に、こんなに懐くなんて・・・。警戒心がすごい精霊達が・・・)


 フィーネが、驚くのも無理はない。精霊使いの彼女にだけ見える精霊達はもともと警戒心が強く、精霊使いの彼女を除いてこんな穏やかな表情で人間に纏わりつくことは極めて稀なことで、付き合いの長いセシリアに対しては心を許していそうなのだが、今回、護衛の任に就いているヴィオラやアルフィオの二人の神官戦士二人にもこんな表情で纏わりつくことはなかったからである。


「ん、どうかされましたか?」


 フィーネが、驚いた表情で自分を見つめていることに気付いたエルヴィンが尋ねる。


「精霊達が・・・、精霊達がエルヴィン様の近く懐くように、纏わりついているのにびっくりしています」


「精霊達?」


「あ、そうでした。エルヴィン様、私は精霊使いなんです」


「おお、それは珍しい!、やはり、ただの付き人ではなかったのですね」


「私は、精霊達を見ることができるんですけど、精霊使いでもないエルヴィン様にこんなに穏やかな表情で纏わりつく精霊達を初めて見ました」


「そうなんですか?、もっとも、私には彼等精霊達の姿や表情は窺い知れませんが」


「はい、今まで晩餐会の雑踏に機嫌が悪かった精霊達のもんくを言うささやきが煩かったのですが、エルヴィン様の近くで話し始めてからはその声も聞こえなくなってたのを今気付いて、ふとエルヴィン様のお顔を見ると精霊達が、そのように・・・」


「そうですか、じゃあ、私は精霊達に嫌われてないということですね、ははは」


「エルヴィン様、あなた様はいったい・・・」


「えっ?」


「い、いえ、何でもありません」


 怪訝そうな表情で問いかけるエルヴィンにフィーネは答えながら考え込む。


(この方は、いったい・・・、いえ、これは  本当に興味が湧いてきました。一人の殿方として・・・)


 彼女は、自分の主である女性の方に視線を伸ばすと、いたずらっぽく微笑む。


(セシリア様には、申し訳ありませんが、ウフフフ)


 フィーネがそんな事を考えているとは全く気付かないエルヴィンが尋ねる。


「フィーネ殿、こちらに来て何日か経っているとのことでしたが、ゴスラーの街のどこかに出掛けられたのでしょうか?」


「いえ、それがどこも。セシリア様もこちらに来た理由が理由ですので観光までは・・・」


「そうでしたか」


 そう言って、エルヴィンはセシリアの居る方へ目を向けると、


「セシリア殿も、少々お疲れの様でしたから気晴らしにゴスラーの街に足を伸ばして気分転換もいいかと思います。幸いにもセシリア殿の御用向きも今日ハインリッヒ王陛下がご承諾され協力するとのお言葉をいただいたわけですからね、それに」


エルヴィンは、にこりと笑うと


「それに?」


「明日は、春の訪れを街中で祝う魔女祭りの祝日なんです」


「はい、そうお聞きしました」


「ゴスラー市街のマルクト広場では様々な催し事がされ、屋台がたくさん立ち並びましておいしい食べ物や珍しい物も買うことができてただ歩くだけでもワクワクしてしまいますよ」


「そうなんですね」


「それと、精霊使いのフィーネ殿の友人達である精霊さん達にもご褒美をあげたほうがいいですよね、ずっとこの王宮内で閉じこもりっぱなしじゃあ機嫌も悪くなりますから。街の近場でも春の草花がきれいに咲いている景色の良い場所がありますから、そちらに行けば精霊さん達も喜ぶのではないでしょうか」


「ええ!、そんな場所もあるのですね。私も例年ならばローマでお弁当持参でセシリア様と一緒にこの時期は春の景色を見によく出掛けたものです」


「そうですか、お弁当持参ですかあ、いいですねえ」


「ええ、私の手作り弁当です。こう言っては何ですが、私の作るお弁当はなかなかの物なんですよ」


「それは、おいしそうですねえ。いいなあ、私はお弁当持参でそういう経験があまり無いものでうらやましいですよ」


「そうでしたか・・・」


 フィーネは、エルヴィンの話を聞いてしばし考え込む風情であったが、やがて


「エルヴィン様」


「はい」


「エルヴィン様がもしよろしければ明日セシリア様をご案内いただけませんでしょうか?」


「私がですか?」


「はい、セシリア様もお喜びになられるでしょうから。また、私からも是非ともお願いしたいのですけど・・・」


「わかりました、言い出したのは私ですからね。ご案内させていただきます」


「わあ~、やったあ~。そう決まれば、お許しをいただいて調理場をお借りできないか頼むことにします」


「調理場ですか」


「ええ、明日はお弁当持参でゴスラー市街を散策させてください、エルヴィン様!」


「おお!!、それは、楽しみです。フィーネ殿の手作り弁当ですかあ、本当に楽しみです」


「フィーネが、腕によりをかけてエルヴィン様のためにもお作り致しますので楽しみにしてくださいね」


「わかりました、期待してます」


 自分のために作ると言ったフィーネの言葉に少し、ひっかかるエルヴィンであったが・・・。


「では、エルヴィン様、私はセシリア様に明日の件についてお伺いしてきますので。お食事とお飲み物のおかわりはよろしいでしょうか?」


「ええ、もう結構です。お心遣い、ありがとうございました」


「い、いえ、ではまた後ほどセシリア様の意向を伺ってご連絡させていただきますね」


「はい」


 そう言って、いそいそとエルヴィンの下を離れて行くフィーネの後姿を見ながらエルヴィンは呟く。


(明日は天気がよければいいのだが・・・)








 王宮へと続く道の両端に立っている灯篭の蝋燭の明かりがゆらゆらと揺れている。


 春の冷たくなった夜風がこの王宮へと続くなだらかな坂道をそっと滑るように吹き抜ける。


 その時、やや風の匂いが変わったように感じたのは気のせいか・・・。


 ふと気付くと、灯篭の灯りが、一つ、また一つと消えてゆく・・・。


 何個の灯篭の灯りが消えたのかわからぬが、やがて消えた灯篭の辺りでこの時間、この場所にそぐわない 異音が・・・


『ガチャ ガチャリ ガチャ・・・』













 




 




 




 

皆様、こんばんは。今回はエルヴィンさんとフィーネさんのおしゃべりシーンばかりでしたね^^


フィーネさんの手作り弁当の出来栄え、楽しみです。


ただ、この手作り弁当の件がエルヴィンさんを巡る女性達に波紋を呼び起こしそうに感じるのは私だけでしょうか(苦笑)


最後に、ご挨拶です。


この物語を楽しみにしていただいている全ての皆様にお礼を申し上げます。


本当に、ありがとうございます。


では、また来週この時間にて^^。




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