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魔女祭り25 デイニュ登場

 ハインリッヒ王の短めの挨拶から始まった、ローマ教皇使節団一行の歓迎晩餐会が宴もたけなわになりかかる頃、急ぎ足で王宮に向かう一人の男の姿が見える。男の胸にはロートリンゲン大公のエンブレムが誇らしげに刺繍されており、警備に当たる近衛騎士団からも特に誰何を受けずにその歩みを進めていた。


 男の名前はディニュといい、一週間ほど前にロートリンゲン大公国ゴスラー駐在官を拝命したばかりであった。ディニュは足を進めながら今日の午後の出来事を思い出していた。彼はマルクト市街中心地にあるギルド協会にて所用を足していたところ、差出人の無い書状をギルド協会の女性職員から手渡されたのである。その手紙には


『今晩の教皇使節団歓迎の晩餐会において、貴殿の主、ゴドフロワ3世ロートリンゲン大公にとって僥倖となる出来事が起こるであろう。ハインリッヒ王が突然この世から急逝すれば貴殿の国にとっても幸いなのではないか・・・。貴殿におかれても今晩の宴には是非参加されたし』


(書状の末尾には、ロートリンゲン大公と誼を通じたい者より。と書かれていたな・・・)


 少し、強くなった風によって乱された髪形を気にしながらディニュは思考する。


(確かに、今宵ハインリッヒ王が急逝されれば、我が公国にとって一番の懸案事項が取り除かれることになるのは間違いない・・・)


 神聖ローマ帝国内の旗下にあるロートリンゲン公国の臣であるディニュが不敬にも現帝国の王であるハインリッヒの急逝を望むのには理由がある。この4月19日にロートリンゲン大公であったゴデリン1世が崩御すると、ゴスラー王宮よりロートリンゲン公国の上下分割統治案をハインリッヒ王は望んでおられると王の腹心であるアリスティッド卿より内々に知らされたのである。もともとフランス語ではロレーヌ地方と呼ばれたこの地は代々上ロートリンゲン、下ロートリンゲン公国という分割統治をしていたのだが現ロートリンゲン大公を世襲したゴドフロワ3世の父であるゴデリン1世の治世下において念願の統合統治を達成したばかりであったのだ。その知らせに驚いた公国側はゴスラー王宮の真意を探るためにゴドフロワ3世は腹心のディニュを急ぎゴスラー駐在官へと派遣したのはこのためであった。


(それにしても、この書状を送りつけてきた者は・・・、いったい何者なのか・・・?)


 思案に暮れていながら歩みを進めていたディニュは、ふと眩いばかりの光に包まれた王宮の玄関前でふと立ち止まると振り返った。


(ヒルダは、まだ来て居らぬか・・・)


 ディニュは、諜報役の同僚となった占い婆の姿に変装した魔女の姿を捜している。








(あー、良かった!。うん、うん、だいじょうぶみたいだわね)


 ディニュが王宮正面玄関先に着いた頃、一人の侍女がマルクト市街に通じるなだらかな坂の下にある灯篭の様子を見て頷いている。灯篭の蝋燭が、しっかりと灯されているのを確認して安心したようだ。


(本当に、良かった。慌てて蝋燭の交換をしたから気になってしょうがなかったから・・・)


(でも、何故かしら・・・胸騒ぎがするのだけど・・・)


 冷たくなった風に赤みのかかった金髪をなびかせた侍女の表情が曇る・・・。その時、


「ユーイ、何してるの!、侍女長様がお呼びよ」


 と、彼女の愛称を呼ぶ同僚の声が、


「はーい、わかったわ、今、戻るから」


(さあ、お仕事、お仕事よ、ユーイ!!)


 彼女は、頬を両手で軽くペシペシと叩いて王宮内に戻るのであった。





(ごめんね、みんな、もう少しの間我慢してね、お願い)


 と、若草色の服を身に着けている女性が小声でささやく。彼女の名前はフィーネ、聖女と称せられるセシリアの付き人の一人である。彼女は小声で独り言をささやいている訳ではなく彼女の友人である精霊達に声をかけていたのである。もともと、騒がしいところがあまり好きでない精霊達が不機嫌になってるのを彼女はなだめていたのであった。精霊魔法使いという稀有な存在の彼女がセシリアの付き人になってからもうどれくらい経ったのか、改めて考えるともう長い・・・。


 彼女の主であるセシリアは目の不自由さを感じさせないほど、晩餐会に参加している様々な貴人の人達と堂々と会話をしている。その気品のあるたたずまいは聖女と称されるのにふさわしくフィーネの目には映る。


(でも、あのセシリア様が、今日はおかしかったですわね、ウフフ)


 この大広間では、一部の隙もないような気品を漂わせて談笑している彼女が付き合いの長いフィーネにも見せたことがない表情や仕草を今日、見せた事にフィーネは新鮮な驚きを感じた。


(そう、まるで年端のいかない少女のような表情を見せて、何度も何度も動揺してましたね、ウフフフ)


 フィーネは胸の内で微笑むと、ふと気づいたかのように、主の乱心?の原因となった人物の姿を大広間の中に探し出す。


(ああ、居ました~)


 その人物は、晩餐会の会場の入り口近くで一人ポツンと所在なさげに腕を組んで立っている。


(そうかあ・・・、あの方は貴族ではありませんから・・・少し、寂しそうですね・・・)


 彼女は、しばらくその男を見ていたが、やがて、


「そうだわ!」


 と、決断すると主であるセシリアの方へ視線を移すと、ちょうど彼女は帝国内の諸侯の駐在官達と話を終えたところが確認できた。すると彼女はセシリアの傍に近づくと顔をセシリアの耳元に寄せて話しかける。


「セシリア様、少しお側を離れますがよろしいでしょうか?」


 セシリアは、急に耳元で話し掛けられ驚いたようだが、声の主がフィーネだと分かると落ち着いて答える。


「構いませんよ、フィーネ。あなたもこのような晩餐会で気疲れもありましょうに・・・、少しの間でも休憩してください」


 気疲れしているのは、セシリア自身なのだろうがそんなことは表情に出さずに付き人の心配をする心優しいセシリアの気遣いに心から感謝するフィーネであったが、そんな主に申し訳なさそうに伝える。


「ありがとうございます、セシリア様。では、お言葉に甘えて・・・」


 フィーネは、わざと間を空けて


「一人で寂しそうにポツンと立ってらっしゃるエルヴィン様にお飲み物と食べ物を差し入れに行って参りますね」


「えー!!」


 突然、叫んだセシリアに近くにいた晩餐会の参加者達が注目する。


「セシリア様、声が高うございますよ」


「あ、ええ、そうですね・・・」


「あのお方は、貴族ではありませんので・・・お察しください」


「そうですか、エルヴィン様は、一人でポツンと・・・」


「ですから、私がセシリア様の代わりに差し入れをお持ちさせていただきます」


「そ、そうですね。私の代わりに・・・ですね・・・」


「はい、セシリア様に代わり、   二人きりでお話ししてきます」


「フィ、フィーネ!あ、あなた」


「セシリア様、お声が高うございますよ」


「わ、わかりました、エルヴィン様によろしくお伝えください」


「はい、セシリア様からのお心遣いだと申し上げてきますね」


「それは・・・、ありがとうフィーネ」


「では、行って参ります」


 そう言うと、フィーネはセシリアの近くに侍る神官戦士のヴィオラに顔を向け


「ヴィオラ様、セシリア様のことよろしくお願いします」


「心得た」


 ヴィオラは、軽く了承する。


 フィーネは、ヴィオラにセシリアの事を頼むと食べ物と飲み物の置いてあるテーブルへと向かうのであった。










いよいよ、この章の山場である晩餐会が始まりました。主要キャストが集合しつつあるこの晩餐会の行方はどうなるのでしょうか?


また、最後にお礼です。


この物語を楽しみにしていただいている全ての皆様に感謝の気持ちを、本当にありがとうございます。


それでは、また。



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