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魔女祭り22 侍女カミラ

 ゴスラー駐在外交官達の居住する屋敷の中で王宮に最も近い場所に建っているのがローマ聖教会の屋敷である。その敷地の広さも他の諸外国や諸侯に比べても格段に大きい。これは世俗の力を有する各国の王や、諸侯よりも神に仕える聖教会の地位が更に上であることを人々達に見せ付けるためだと考えても言い過ぎではない。


「チロ、馬たちの調子はどうだい?」


「ああ、グイドかい、ご覧の通り元気そのものだよ。飼葉の食べっぷりもそりゃあ見事なもんだ」


 ここは、ローマ聖教会のゴスラー駐在官の屋敷内にある厩舎でこの屋敷に勤める御者であるグイドが馬たちの世話係りであるチロに声を掛けたところであった。


「そうか、それは何よりだ」


 グイドはそう言いながら厩舎内に入ると愛馬たちの様子を伺う。


「ローマからのお偉いさん達が王宮へ向かうための馬車の馬たちだからな、粗相のないようにしっかりと体調や足元も確認したから安心してくれていい」


 チロと呼ばれた厩務員の言葉には自らの仕事に誇りを持っているのがわかる。


「おまえさんが、そう言うのなら安心だな」


「あんたも、馬の様子が気になったのか?」


「まあ、そんなところだ」


「さてと」


 チロは体に付いた干し草を手で払うと


「俺は、小用を足してくるけど、お前さんはまだ馬の様子を見ているのかい?」


「ああ、そのつもりだ。行ってくるがいい」


「じゃあ」


 と、言ってチロは厩舎から出て行った。その後ろ姿をグイドは見送るとモグモグとおいしそうに飼葉を食べている馬達に目を向ける。


(教皇様派遣の御使者様達のご送迎の任だ・・・、こっちこそ粗相が無いように勤めないといけないな)


 グイドは、そう心の中で自らを戒めるように独り言をつぶやいた。


 すると、その時


「いい馬たちですね」


 ふいに、声を掛けられグイドは声のした方向に視線を向けるとそこには貴族のような身なりの見知らぬ男が柔和な微笑を浮かべて立っていた。


「あ、あなたはどなた様で?」


「あ、これは失礼を。私はパスクヮーレ卿の付き人であるソティリオと言います」


(パスクヮーレ卿・・・。ローマからの使節団の副使様の付き人・・・)


「いえ、こちらこそ、お顔を覚えておらずご無礼を致しました。御者のお役を仰せ付かっているグイドと申します」


 グイドは、何故か腑に落ちないもののその男の洗練とされた所作に安心して挨拶を返した。


 ソティリオと名乗った男は歩みを進めると馬の頬をなで始めた。


「私は、馬が好きでしてね。よく仕事の合間を見つけては馬を見に来るのですよ」


「そうですか」


「御者殿は、この仕事は長いのですか?」


「こちらで、このお仕事をさせていただいて三年程になります」


「三年もこちらで・・・、では、こちらの大使館ではかなり御者殿の力量を買ってるという証ですね」


「いえいえ、そんな事はないかと・・・」


 グイドは、そう言いながらも褒められて満更でもないように顔を綻ばす。


「では、もちろん本日の使節団一行の馬車の御者もあなたがそのお役目を受けられておられるのですね?」


「はい、ありがたいことにそう仰せ付かっております」


「そうですか、その言葉を聞いて安心しましたよ」


 ソティリオは馬に向けていた視線をグイドの瞳に向けるとグイドもまたそれに釣られるように彼の視線を受ける。


「御者殿には、申し訳ないがその役を譲ってもらいたいのです」


「な、何をおっしゃられているのか理解できませんが」


 ソティリオの言葉に驚愕しながら答えるグイドの目がだんだん恐れを抱くようになる。


「ですから、あなたのお仕事は私が代わりに立派に勤め上げますと言ってるんですよ」


「あ、あなた様は、い、いったい何を!!!」


 グイドは、危険を感じ後ずさりをしようとするがソティリオの視線に捕らえられた自分の瞳が邪魔をして動けない。


「お、お前は何者だ!?」


 グイドの質問に、ソティリオは柔和な表情から一変した凶悪そうな表情になり、こう呟く。


「眠れ!!!」


 ドサッ、という音とともにグイドは倒れる。その姿を見下ろしながら胸中でささやく。


(これで、下準備は完了しましたね。後はあのロートリンゲン大公の腹心の部下と聞いていたあの男・・・そう、ディニュという名前でしたね、あの男が今晩の宮廷での顛末をどう主であるあの野心家の大公に報告するのか・・・。まあ、いずれにしてもあの男が来たら・・・ということになりますが)


 ソティリオと名乗った男はそう胸中にて呟くと、精神を集中させ始めた。魔法を使うのであろう・・・。


 やがて、倒れているグイドの側に彼と同じ姿をした男が立っていた。


 その一部始終を見ていたのは、厩舎の馬たちだけであった・・・。






 


 


「エルヴィンは、エルヴィンは、私の・・・私のだから」


 そう言って、エルヴィンの右袖を引いていた少女は更に彼の腕を捕らえると自分の両腕で抱きしめてセシリアに宣言したのであった。


「ひ、姫・・・」


 エルヴィンは、抱きついている少女、ベアトリクスの態度に驚きながらも声を掛ける。


 目の不自由なセシリアはその情景を何と無く想像できたのであろうか、いきなりの事態に上辺だけでも慌てずに、


「あの、ベアトリクス姫殿下、何か誤解をされているようですが私とエルヴィン様との関係は、べ、別に何もないのでございます」


 セシリアの言葉にも安心できないと言わんばかりにエルヴィンの腕を強く抱きしめながらセシリアを見つめるベアトリクスの姿に困り果てたという様子の一同に助け舟の言葉が


「姫殿下、エルヴィン様も、セシリア司祭様も困られております。どうか、エルヴィン様の腕をお離しになってください」


「い、いやっ・・・」


「姫殿下、そんなわからずやさんですと、姫様が私に話していた事をエルヴィン様にお伝え申し上げますよ」


「えっ!そ それは・・・。わかったわ・・・」


 不承不承にエルヴィンの腕を離したベアトリクスを見て助け舟の言葉を差し出した女性がセシリア一行に挨拶をする。


「セシリア司祭様、初めまして。私はベアトリクス姫殿下の侍女を仰せ付かってますカミラと申します」


「こちらこそ、初めましてカミラ殿」


 先程、アグネス皇后よりベアトリクスの体調の確認の際に呼び出された侍女をセシリア一行は見つめる。


「セシリア様、エルヴィン様とご歓談中に主である姫殿下が突然の失礼な言動に対し、主になり代り謝罪させていただきます」


「い、いえ、お気になさらずに」


「わ、私は・・・」


 不満気につぶやくベアトリクスに対しカミラは


「姫・・・」


「・・・」


 そんな二人のやりとりを見て、エルヴィンは


(あいかわらず、姫はカミラ殿には頭が上がらないようだな・・・それにしても姫がカミラ殿に話した内容って・・・)


 と、そんな事を考えていると


「エルヴィン様、お久しぶりでございます」


 と、カミラの声が


「お久しぶりですね、カミラ殿」


「ええ、ええ、本当に、お久しぶりでございますとも。姫様がこんなはしたない態度を取る理由はエルヴィン様、あなた様に理由があるのですから。また、すぐに来るとおっしゃられてからもう三ヶ月ほど経ってますが・・・」


 返事をしながら、何故かカミラの言葉に棘があるように感じられるエルヴィンであった。


(久しぶりに会ったが、ますます女っぷりが上がったようだ・・・もう年は二十代後半になるのかな・・・グンヒルダ様のお越し入れ、いやデンマーク王宮時代からの彼女の侍女だったのだから・・・。大人の女性の魅力を感じても不思議ではないか・・・)


「ああ、またエルヴィンがカミラに見惚れてる!」


「えっ、いや、姫。久しぶりにカミラ殿の顔を見れたので・・・」


「まあ、エルヴィン様ったら」


 顔を、赤らめながらうれしそうにしているカミラを見てベアトリクスは


「カミラだって、うれしそうにしてるじゃない」


「え、いえ。コホン!そう言えば姫様、エルヴィン様にお願いしたい事がお有りだったのではないのでしょうか」


 場を取りつくろうように、ベアトリクスに話題を向けるカミラである。


 そんな、カミラをジト目で見るベアトリクスだったが気を取り直したかのように


「カミラ、持ってる?」


「はい、こちらでございます」


 ベアトリクスは、カミラから受け取るとそれをエルヴィンに見せる。


「これに、エルヴィンに書いてもらいたいの」


 彼女の手のひらには、可愛らしく刺繍のついた手帳があった。




修羅場になってたでしょうか・・・?


カミラさんもエルヴィンさんを巡る女性の一人になることは間違いなさそうですね(笑)


さて、ソティリオという男、何者なんでしょうか・・・?


ご挨拶です。この物語を楽しみにしていただいてる全ての皆様にお礼を申し上げます。


ありがとうございます。


では、またですね^^




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