魔女祭り20 ベアトリクスの夢兆
「エルヴィン、どうしたの?」
ありし日の追憶に浸っていたエルヴィンの意識が少女の声で引き戻される。
「いえ、ベアトリクス姫、なんでもございませんよ。それはそうと姫、しばらくお会いしないうちにとても大きくなられましたね、それに女性らしくなられた」
「そ、そう?」
ベアトリクスは、エルヴィンの言葉を聞き、少し照れたように頬を赤らめ答えた。すると
「まあまあ。ベアったら、お客様であるセシリア司祭達の前でいきなり殿方に抱きつくなんて少々はしたない行動ですわよ」
アグネス皇后の声が、
「で、でもお義母様、久しぶりにエルヴィンに会えたのですから・・・」
「ホホホホ、本当にしょうがない子なんだから。エルヴィンに会えて嬉しいのはわかりますがまずは、お客様にご挨拶を」
ベアトリクスはアグネス皇后の言葉を受け、いきなり入室の上、エルヴィンに抱きついてしまった自分の行動に呆気にとられているセシリア達に身体を向けると身だしなみを整えて貴女らしい所作で挨拶をする。
「初めまして、セシリア司祭」
「こちらこそ、初めましてベアトリクス姫殿下。ローマで司祭の職に就かさせていただいているセシリアと申します。こちらに参って幾日か経っているのにもかかわらずご挨拶にも伺わなかったこと、その非礼も重ねてお詫び申し上げます」
セシリア達一同が、ベアトリクスにお辞儀をする。
義理の娘であるベアトリクスの挨拶の所作に満足したかのようにアグネス皇后は頷くと、
「エルヴィン、ベアが貴方を待ち焦がれてこんなはしたない行動をしたのは理由があるの」
と、エルヴィンに話し掛ける。
「どのような理由でしょうか?」
エルヴィンの問いに、アグネス皇后はハインリッヒ王に視線を向ける。
「陛下、この場で話をさせてもよろしゅうございますか?」
「うむ、ベアのお転婆ぶりにも困ったものだがそなたがここで話しをしても良いという判断なればそなたの意向を尊重致そう。それにセシリア司祭もせっかくこの場に居合わしているのだからな」
ハインリッヒの瞳には、アグネス皇后に対する全面的な信頼がうかがえる。
グンヒルダを失ってから頑なに閉ざし続けていたハインリッヒの心の扉を開けさせたのは、他ならぬアグネス皇后その人であった。この、ころころとよく笑う朗らかな女性との出会いはハインリッヒ王の落胆した澱んだ気持ちを和ませてくれるものだった。そのような魅力を持つ彼女と話すことによって王自身がどれくらい救われたことか・・・。また、彼女との出会いによってエルヴィンもまたグンヒルダを亡くした落胆した気持ちを徐々に前向きにさせてもらったのであった。また、生まれて間もなく母親であるグンヒルダを亡くしたベアトリクスもハインリッヒの後妻として入宮してきたアグネス皇后の持つ朗らかで優しい性格に非常に懐いており実の母子関係のようかと見間違おうかというぐらいにその関係は良好であったのだ。
アグネス皇后は、夫の了解を得ると優しげな表情でベアトリクスを見つめ、促す。
「さあ、ベア。エルヴィンに聞かせてあげて・・・」
「はい、お義母さま・・・」
ベアトリクスは、エルヴィンにじっと見つめられて少しためらったがエルヴィンの瞳を見つめ返すと
「エルヴィン、私・・・私ね、最近何か怖い夢を見るの・・・」
続けてというようなエルヴィンの優しい眼差しに励まされてベアトリクスは続ける。
「どこが、怖いのか・・・私もねよくは分からないのだけど・・・でも怖いの」
「どんな夢なんですか、姫?」
エルヴィンは、更に優しく彼女に問い掛ける。
「えーっと・・・、どこか暗い場所で何人かの人が同じ言葉を叫んでるの」
「姫、その人達は何かに向けて叫んでるのでしょうか?」
「うーん・・・、そう、そうだ!何か飾ってある場所に向かってだと思う」
「その飾ってある物は、わかりますか?」
「・・・思い出せない・・・ごめんなさいエルヴィン」
「私に、謝ることなど何ひとつありませんよ姫」
悲しそうな表情のベアトリクスを安心させるよう、エルヴィンは声を掛けると
「では、その人たちの顔もわかりませんね?」
「うん。後姿で頭も服が被ってたから・・・」
「そうですか、じゃあ男の人か女の人かもわかりませんね?」
「う、うん・・・」
「そんな悲しそうな顔をしなくてもいいですよ姫。では、最後の質問ですいいですか」
「うん」
「その人達は何と、叫んでいたのでしょうか?」
「ええーっと・・・」
ベアトリクスは一生懸命に思い出そうとしていたが、ややあって、顔を上げると口を開いた。
「エイワーズ・・・エオー・・・、ベルカナ・・・ベオーク・・・。うん、エルヴィンこの言葉は何度も夢の中で聞いたから覚えてる・・・」
そう言ったベアトリクスは、また怖くなったのか顔色が悪くなっている。
「エイワーズ・・・エオー・・・、ベルカナ・・・ベオーク・・・ですね、姫」
こくん、とベアトリクスはエルヴィンの問いかけに頷いた。
「姫、よくぞ思い出してくれました、がんばりましたね」
エルヴィンは、そう言って褒められて顔色が良くなったベアトリクスに微笑むと内心で彼女から伝えられた言葉の意味を探り始る。
(エイワーズ・・・エオー・・・。ベルカナ・・・ベオーク・・・)
自分の世界に入り込み、沈思しているエルヴィンを同じ部屋にいる一同も黙って見守っている。
やがて、エルヴィンは何か気付いたのであろうか、うんうんと2回頷くとホトに顔を向ける。
「うむ、なんじゃエルヴィン?」
ホトは、エルヴィンの視線を受け尋ねる。
「姫から、うかがった言葉だが・・・ヘル爺、恐らく・・・召喚魔法の言葉だ・・・」
「な、なんじゃと!!」
寒い日が続きますが、皆さんがお住まいの場所は雪の被害はだいじょうぶだったでしょうか?
今回の物語は、グンヒルダの忘れ形見であるベア姫が主役でしたね、彼女の夢が意味するところは何だったのでしょうか・・・?
この物語を楽しみにしていただいてる全ての皆様にお礼を申し上げます。
本当に、ありがとうございます。




