表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/93

魔女祭り16 セシリアのスティグマ

 セシリアは、首に巻いてある浅葱色のスカーフを両手で解き、身に着けている服の襟元を広げる。


「こちらでございます。ご覧になってください」


 隣に立つ、レオから目で促せられるとエルヴィンも彼と共にセシリアの側に近づく。


「私の、うなじの後ろの部分にあるかと・・・」


「失礼」


 と言って、レオは覗き込む。しばしの間そのままの姿勢であったが、ひとつ頷くと


「エルヴィン殿」


 レオは、そう言うとエルヴィンに声を掛け身を引き場所を空ける。エルヴィンはセシリアの傍らに立つと一言断りを言う。


「セシリア殿、拝見させていただきます」


「は はい」


 俯きながら、男達に自分のうなじを見られるのが恥ずかしいのかセシリアは小声で答える。


 エルヴィンは、そんなセシリアのうなじの後ろの部分を覗き込む。


(これは!)


 エルヴィンは、セシリアのうなじに浮かび上がっている文字のようなものを見て呟くとアリスティッド卿に視線を向ける。その視線を受けたアリスティッド卿はそうだと言うように頷いた。


(この文字、いや記号か・・・これはアリスティッド卿宅で彼が自分に見せたもの。ある女性が書いたものと言っていたが、まさかセシリア殿のスティグマだったとはな・・・)


 エルヴィンは、頷いたアリスティッド卿の顔を見て王宮に来る前の出来事を思い出し合点がいったというような表情で改めて白く透き通るような美しいセシリアのうなじの後ろ部分に浮き出ているスティグマをじっと凝視し始めた。


(この文字は、やはりルーン語・・・。それも古代ルーン語のようだが、このような形の文字はあったのかな・・・記憶にないのだが・・・いやっ、デンマークで見つけた古代ルーン語で書かれた古文書に似たような文字が・・・。そういえば家に師匠からもらった古代ルーン語の魔法書が何冊かあったはずだ・・・帰ったら早速調べてみることにしよう。この一文字いや一記号なのか、これが意味することが解れば大天使様がセシリア殿に啓示した聖託の真の意味に近づくことになるやもしれん・・・。さらに、7人の聖女を捜し出す重要なヒントが隠されている可能性が高いだろうしな・・・)


 しばらくの間、自分の沈思の世界に浸っていたエルヴィンを呼び起こすようなしわがれた声が閉ざされた空間の間に聞こえる。宮廷魔術師のホトの声である。


「エルヴィン、いつまでそのようにセシリア殿のうなじを見ているのじゃ。それに顔がセシリア殿に近すぎる!」


「ん?」


「何を、惚けているのじゃエルヴィン。いくらセシリア殿が許可をしたと言ってもそのようにうら若き女性のうなじを不躾に見続けるのはどうかと思うぞ」


 ホトの声に、今気づいたとばかりに慌ててエルヴィンはセシリアに謝る。


「ああ、こ これはすみませんでしたセシリア殿」


「あ あの、もうよろしいでしょうか、エルヴィン様」


 エルヴィンの目と鼻の先にはその白く透き通るような色をした美しいうなじを顕わにしたセシリアが恥ずかしそうに俯きながらエルヴィンに尋ねている


「も、申し訳ありません、セシリア殿。つ、つい夢中になって考えごとをしてしまいました!」


「い いえ。ではもうよろしいのですね」


「は、はい。もう充分です。ありがとうございました」


 セシリアは、いそいそと襟元を整え始める。その襟元に見えるうなじから顔までにかけては心持ち赤くなっており彼女の上気した表情でいかに恥ずかしかったのか鈍感なエルヴィンにも感じられた。


「それで、そのスティグマを見て何かわかったか?」


 ホトに問いかけられるとエルヴィンは少し間を置いて答えた。


「古代ルーン語に似てると思うが、調べてみないことにはまだ何とも言えないな・・・」


「うむ、おぬしでもわからぬか・・・」


 ホトは残念そうな表情を浮かべている。


「それはそうと、ヘル爺、いやホト宮廷魔術師殿こそこのスティグマを見たのであろう?」


 慌てて言い直すエルヴィンに一瞥をくれてホトは答える。


「うむ、わしとアリスティッド卿。それともちろんのことじゃが陛下もセシリア殿がこちらに来られた時にご覧になられておる」


「じゃあ、宮廷魔術師殿の見解は?」


「わしもいろいろ調べたのだが、このような文字は初めてでわからぬじまいでのう・・・。それで古代言語やその周辺知識に詳しそうなおぬしならわかるやもしれぬと思っておぬしの帰りを待っておった次第じゃ」


「いや、ちょっと待ってくれヘル爺。古代魔法にも通じていてその翻訳までできるあんたがわからないものを俺がすぐにわかるはずないじゃないか」


「確かに、古代魔法に関しての知識はおぬしよりも上だとは自負しておるが、それはあくまでも魔法に関する部分だけじゃ。それ以外の周辺知識に関しては残念ながらおぬしの方が造詣が深いと思っておったのでな。それで、エルヴィンよ、何故にそのスティグマの形を見て古代ルーン語だと判断したのじゃ?」


「それはだなヘル爺、俺がデンマークへ行ってた時にたまたま訪れたロスキレの街で見つけた古文書の中に似たような形の文字があったような・・・」


「デンマーク!?おい、エルヴィン、その古文書を今度わしにも見せてくれぬか?」


 ヘル爺と呼ばれても怒る事も忘れたかのように普通に話しをするホトとエルヴィンのマニアックな会話を横に聞きながら、近衛騎士団団長のレオは会話している二人の姿を面白そうに眺めているアリスティッド卿の側にさりげなく立つ


「アリスティッド卿、少々話しをしてもよいだろうか?」


「ええ、レオ団長殿」


「エルヴィン殿のことなのだが・・・」


「エルヴィンのことですか?」


「こう言っては失礼なのかもしれぬが、あのホト殿が自分よりもエルヴィン殿の学識が上だと言っておられたようだが本当なのだろうか?」


「ははは、そうですよね。私もホト殿がああも正直に自分よりもエルヴィンの方が知識があるとおっしゃられたことに驚いています」


「そうは、言うが貴殿はあまり驚いているようには見えぬのだが・・・」


「そのように見えますか。まあ、エルヴィンに関しては大抵のことには驚かないようにしてますのでそう感じられても仕方がないですよね」


「ふむ、確かにエルヴィン殿の戦場での姿は先のロートリンゲン大公との戦の折、深く瞼に焼き付いているので傭兵としての力量は理解しておったのではあるが・・・」


 そう言って、レオは戦場で見せたエルヴィンの強力な攻撃魔法とその凄まじい剣さばきを思い出していた。


「まあ、普段のエルヴィンを見ているとそんなに凄い人物かと私もよく思いますが」


 と、言って苦笑するアリスティッド卿であったが


「あのわが国屈指、いや大陸全土の中でも屈指の魔術師と称されるホト殿が皆の前で普通にエルヴィンの学識を自分より上だとおっしゃってるのですからその点では間違いないと断言できます」


 真剣な表情でそう言い切るアリスティッド卿の姿に、やはりそうなのであろうなと言わんばかりにレオはうん、うん、と二回小さく頷く。そして二人にしかわからない単語を混ぜて話すホトとエルヴィンに目を向けるとおもむろに口を開く。


「アリスティッド卿、二人の会話を聞いていると、わざわざ結界までして集まっている趣旨とだんだん離れているように感じられるのだが貴殿はどう思う?」

 

「ええ、そうですね。私も薄々感じていましたから」


 アリスティッド卿は、自身が敬愛する主人に姿勢を向けると


「陛下、畏れながら我等は今後どのように行動致せば良いか。差し支えなければ陛下のお考えを伺えればと愚考致しましたが」


「うむ、そうだな。余の存念を申す前に」


 ハインリッヒ王の声に、会話を止めた二人に王はニヤリと笑いながら


「ホトにエルヴィンよ、そち達の魔術師同士の会話よおく、弾んでおったみたいだのう」


「これは、陛下の御前にもかかわらず余分な会話をしてしまい申し訳ございませぬ。これも新たな知識に関しては目がなく、自分達の世界に入り込んでしまうという魔術師の性でございますゆえに、どうかお許しを」


 と、言って頭を下げるホトを見てエルヴィンも同様に頭を下げ、謝罪する。


「陛下、自分もついこの集まりの趣旨を失念しておりました。申し訳ございません」


「まあ、良い。そち達の二人だけの世界での会話が思いがけず見れたのだしそれはそれで面白かったぞ」


「はっ」


 ホトとエルヴィンは同時に返事をする。


「皆の者に余の存念を申し伝える」


 ハインリッヒの声に一同が姿勢を改める。


「ローマ聖教会セシリア司祭の聖託の件、余はできるだけ協力したいと考える。魔族の力を手に入れたその人物が今後どのような行動を起こすかはわからぬが、どのような事態になろうともそれに対応できるように備えだけはしておきたい。ただ協力をするというだけでは、様子を見ようとセシリア司祭に言った教皇陛下と同じだと思われてしまうのもつまらんからな」


 ハインリッヒ王は自分の考えをまとめるためか小考した後に、


「ジャンよ、我が国内において聖女と噂されるような人物が何人いるかはわからぬが、その情報収集を命じる。その手法はそちに一任する。ただしだ、あまり公然と大騒ぎにならぬように。それと、セシリア司祭のように国外にも聖女と目される女性が存在する可能性も非常に高い。国内に比べて情報収集は困難かもしれぬがそちらも平行して進めるように、よいか」


「はっ、承りました」


「レオよ、近衛騎士団の中で気のきいた者を選抜し国内諸侯らの元に余の書見を持って向かわせろ。今年はゴスラーにおいて騎士団闘技大会を催すとな。そこでおかしな噂でもよいから各諸侯の騎士団から情報を集めるように、魔族の力を手に入れた人物の噂なら大なり小なりあっても不思議ではないからな、よいか」


「はっ、承りました。騎士団闘技大会ですか!腕が鳴りますな」


「ホトよ、そちには面倒かもしれんが魔術師関係で聖女に関する情報、またその魔族の力を手に入れたとする人物について情報もまた集めてくれ。何と言っても情報に聡い魔術師たちのことだ、いち早くその危険人物についても感づいてるやもしれぬ、よいな」


「はっ、承りました。陛下の御為であればこの老骨に鞭打ってもがんばりましょうぞ」


「期待しておるぞ」


「最後に、エルヴィン。セシリア司祭の持つスティグマの意味を解明してもらいたいのだが頼めるか?。そちは傭兵だからな今日ここに来た謝礼とは別に謝礼もするが」


「はっ、お受けさせていただきます」


 そこまで言ってハインリッヒ王は自分の依頼を受けてもらって恐縮しているセシリアに目を向ける。


「セシリア司祭、今、考えられる範囲でできることはこれぐらいだが、よいか」


「ハインリッヒ王陛下、もったいないぐらいの仰せでございます。本当にご協力ありがとうございます」


「そうか」


 セシリアからの感謝の言葉に満足したように大きくハインリッヒ王は頷くと、ホトに命じる。


「ホト、結界を解いてくれ」


「承りました」



















 


 





皆さん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。


ハインリッヒ王の的確な指示、かっこよかったですねえ。それに比べエルヴィンさんは、顔が近すぎる・・・ははは。


最後に、お礼を。この物語に評価点付けていただいた方にお礼を申し上げます。初めてのことで非常に感激して評価点を見たときにうれしくて呆然としてしまいました。本当に励みになります。また、この物語を楽しみにしていただいてる全ての方のご期待に沿えるよう精進させていただきます、本当にありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ