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魔女祭り15 聖託 セシリア

 ホトは右手に持つ魔法の杖を自分の目線まで上げると瞳を閉じる。するとその杖の上の部分が微妙に揺れ始めた。ホトが自分の魔力を杖に注入しているのだ。やがて杖の上の部分の周りが紫色の光に包まれる。


(やっぱり見事なもんだ、魔力の注ぎ方に無駄がない・・・)


 ホトの魔力の注ぎ方を見たエルヴィンは胸中、賛嘆する。


 しばしの間、ホトはそのままの姿勢で魔力を杖に注ぎ込んでいたが、頃は良しと判断したのであろうか閉じていた瞳を開ける。


「我が視野に映るこの空間を外界から遮断する。古(いにしえ)より紡がれる賢の知識よ!我はその力をひも解き具象化させる者なり、ヴンターバライッヒング・スバリエラ(結界)!!!」


 ホトの呪文によって結界の魔法が発動された瞬間に目の前に見える眺めがガクンと揺れるように感じたエルヴィンは少し余韻に浸った後、賞賛の声をあげる。


「お見事!!ヘル爺!!!。  い いや、宮廷魔術師殿。この結界魔法は久しぶりに体験できたがこれぐらいに完璧な魔法はお目にかかったことはない!」


 エルヴィンの癖ですばらしい事象、美しい事象に出くわすとすぐに心からの賞賛が口に出てしまう。


「ふ、ふん。まあ、こんなもんじゃろうて」


 エルヴィンの賞賛の声に、ホトはまんざらでもないと言った表情で受け答える。


ここでこの時代の魔法について補足させてもらうと、発動させようとする魔法の威力の差はそれを行う術者の魔力の注ぎ方に左右されるのが一大前提で、どんな偉大な術者であってもこの理から外れることは絶対にない。さらに、その魔法の威力を高める要因としては、その術者の持っている魔力の量である。つまり、魔力の注ぎ方が無駄なく、そして抽入される魔力の量が多ければ多いほどその魔法の威力が上がるということだ。したがって、同じ魔法を発動しても威力の差がその術者の力量によって生じてしまうということになる。言い換えれば初心者向けの低級魔法であっても高度な力量を持つ術者にかかれば上級魔法より威力が発動できるということだ。


「ところで、ヘルマン宮廷魔術師殿。これほどの結界を張るということは・・・」


 改まった、口調でエルヴィンはホトに尋ねる。


「うむ、お主が想像した通りじゃ」


 ホトは、姿勢を正し王に向き合うと促す。


「陛下」


「よし、ご苦労であった、ホト」


 ハインリッヒ王は、そう言って一同を見回すとその会議の趣旨を述べる。


「ここに皆を集めたのは、ここに居るローマ聖教会の司祭であるセシリア殿がもたらした聖託の件である。彼女が受けた聖託の中身が我が王国内はおろか、全ヨーロッパ大陸の全ての国々にも重大な影響をもたらす恐れがあるためである。よって、皆、心してその聖託を聞き、その意味を理解するように。そのために、邪悪な意思を持った輩等にも聞き耳を立てれないようにホトに命じてこのような結界を張ってもらったのだ・・・」


王は、そう宣言すると、おもむろに盲目の聖女セシリアに目を向けて促す。


「では、セシリア司祭、よしなに」


「はい」


 彼女の表情は幾分緊張しているように見える。


「皆様方、お忙しい中お集まりしていただきありがとうございます。またこのような場を設けていただいたハインリッヒ王陛下のご厚情に対し、まずはお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました」


 セシリアは、そう言うと深々と頭を下げた。


「よい、王として当然のことをしたまでだ。続けてくれ」


 ハインリッヒ王の言葉を受けてセシリアはおもてを上げるとその情景を語り出した。


「私がゴスラーに参り、王陛下に言上をさせていただいた内容ですが、先月3月20日の復活祭の夜のことです。いつも通り自室で夜想を終え床に入り眠り始めて幾ばくもなかったでしょう。突然、周りが明るくなるように感じられると私の頭の中に呼びかける声が聞こえました」





(神に仕える聖なる乙女よ、私の声が聞こえますか?聞こえていれば、その耳を傾けなさい)


「私は、驚き身を起こし明るく感じられる方向へ顔を向けました」


(うむ、聞こえているようですね、聖なる乙女よ。私の名前はミカエル、そなたは下界ではセシリアとよばれているそうじゃな?)


「だ、大天使ミカエル様!!!」


(驚かせてしまったようじゃな、悪く思うでないぞセシリアとやら)


「も、もったいなき仰せでございます。私のような下々の人間の名前を存じていただいているというだけでも恐れ多いことでありますのに、悪く思うなど、滅相もございません」


(そうでありますか。ならば少し落ち着きなさい、セシリア)


「は、はい」


(今宵、そなたの下に訪れたのはそなたに啓示を与えるためなのじゃ)


「啓示でございますか?」


(うむ、そなたたち下界の人は神託とも申すのかな)


「は、はい]


(これからそなたに申し伝える内容は、そなた達下界に住まう人間にとって将来の行く末を左右するものになるであろう。それを踏まえて心して聞くように、よいな」


「はい」


(ふっ、よい顔になったな)


 ミカエルは、引き締まった表情になったセシリアを慈愛を湛えた微笑で見つめると、語り始めた。


(ある一人の人間の男が、事もあろうかあの堕天使ルシフェルと接触を持った)


「堕天使、ルシフェル様と!!!」


(うむ、どういった経緯でその男がルシフェルと接触を持ったのか、詳しいことは私にもわからぬ。ひょっとしたら、あのひねくれ者のルシフェルがその男に何かしら興味が湧き声をかけたのかもしれぬがな・・・)


 セシリアは、ひねくれ者のルシフェルと呼んだミカエルの声音が微妙に親しみを含んでいることに気づいたがそのままミカエルの言葉に耳を傾ける。


(その男は、自分の身を代償としてルシフェルから力を望んだ)


「力でございますか・・・」


(うむ、その力とはあ奴の配下である魔族の誰かと契約を結ばせその力を行使できるようにするということだ)


「と、言う事はその者は魔族の魔力が使えるようになったと!?」


(そう言って差し支えないであろうな)


「その者は、そのような力を欲して、何をしようと?」


(それは、私にもわからぬ。ただ分かっていることは、その人間は自分の身を代償にしてまでも魔族の力を手に入れ何かをしようとしているということだ。恐らくは、その人間がその力を行使しようとすればそなた達が住まう下界に多大な影響が生じることは想像できよう)


「はい・・・」


 不安を浮かべて、蒼ざめた表情のセシリアを見てミカエルは彼女を安心させるような優しい口調で声を掛ける。


(まだ、その人間の企てがいかなるものかはわからぬのであるからな。ガブリエルが言うには、その人間は魔術師であって一個人の魔法の研究としてその力を得ようとしたのかもしれないとも言っておった)


「ガブリエル様が、そのように・・・」


(うむ。それともし万が一その人間がそなた達、人間界に恐怖と混乱をもたらすような行動を取ればその企てを止める方法がある)


「そのような方法が?」


 ミカエルは、そうだと頷くと厳かな表情になり告げる。


(神に仕える聖なる乙女セシリアよ、汝に聖託を与える。魔族の力を持つ者によって汝等の世界が危機に瀕しようとする時、スティグマを身に持つ7人の聖なる乙女を集わせよ。さすればその危機を克服できるであろう)


「スティグマを身に持つ7人の聖なる乙女・・・。ミ ミカエル様、7人の皆様方を集わせてどのようにすれば?」


(その時が至らば、そなた等は祈るがよかろう。その祈りが聞こえれば私はそなたの下に参り助言を与えようにな)


「は、はい」


 セシリアは、しばしの間ミカエルの言葉をわすれないように繰り返していたが、ふと思い出したようにミカエルに尋ねる。


「ミカエル様、私はこのように目が不自由でございます。そのスティグマを見ることも叶いませんし、また7人の皆様方を捜し出す手段も持ち合わせてはおりません。できることならばそのような大役は他の方が適任かと存じますが・・・」


(確かに、そなたは目が見えぬ。されど、そなたの心の目は外見に惑わされぬためその人間達の心根を見極めうると私は信じておる。また、そなたを支える協力者達に援助を申し込めば道は切り開かれよう)


「・・・」


(下界においては、ルシフェルが率いる魔族の者達が何をしようが関知しないというのが天界と奴との間の不文律はあるが、此度のように特定の人間に力を与えようとするルシフェルの行ないに対しては助言ができると考えておる。)


「ありがとうございます、ミカエル様」


(礼には及ばぬ、今そなたに話せるのはこれぐらいであるからの・・・)


 自分の言葉にまた不安そうにするセシリアを励ますようにミカエルはまた優しい口調で語り掛ける。


(最後にこのことも告げておく。これからそなたは自分自身で考え行動するようになるであろう。また私の啓示を受けても何も変わらず日々の日常生活に勤しむのも一つの手でもあろうし、もしその道を選らんだとしても私はそなたを蔑むことは絶対にない。されど、困難な道を選びその方向にその不自由な身をあえて赴かせようとするのであれば、そなたの未来に重大な影響を与える人物との出会いがあるやもしれぬぞ)


「私の未来に重大な影響を・・・」


(うむ、そうじゃ)


「ミカエル様、そのお方は、・・・そ、その  殿方でしょうか・・・」


(はははは、やっと乙女らしい表情になったな。うむ、これはそなたに対してのささやかなはなむけの言葉だ。その人物は  男だ)


 顔を赤らめて恥ずかしそうにしているセシリアを見て満足したのかミカエルは別れの言葉を口にする。


(聖女セシリア、そなたの行く末に幸が大からんことを。さらばじゃ・・・)


「ミカエル様、お導きありがとうございました」





「セシリア殿」


「・・・」


「セシリア殿、いかがなされた」


「え、あっ、申し訳ございません。考え事をしてしまいました」


 宮廷魔術師のホトに呼びかけられて我に返ったセシリアは何故か顔を赤らめている。


(ミカエル様よりの聖託の話の途中、セシリア殿に重大な影響を与える人物との出会いがある・・・と言ったところで彼女は黙ってしまったなあ・・・。いったい、彼女のような聖女に重大な影響を与える人物とは・・・どんな人物だろうか・・・)


 エルヴィンは、ひどく動揺しているセシリアの姿を眺めぼんやりと胸中でつぶやいている。


「あの、ホト様、私はどこまで話をしてしまったのでしょうか?」


「ミカエル様より、セシリア殿にとって重大な影響を与える人物との出会いがあるとのお告げがあり、セシリア殿自身が私の未来に重大な影響を・・・と、言ってお黙りになられたのですが」


「あ、そうでございましたか。申し訳ございません、つい思い出すのに夢中になってしまって・・・」


「それは、そうでしょう。なんと言っても大天使ミカエル様降臨の情景を包み隠さず我らに話していただいてわけですからな」


「ええ、そうです。包み隠さずに・・・」


 何の疑いもなく答えたホトの言葉に安堵したセシリアは


(よ、良かった・・・。ミカエル様にそのお方は殿方ですかと尋ねたところは話してなかったみたいですね・・・)


 セシリアは一つ深呼吸をすると、改めて自分を注視しているであろう一同に向かって話し出す。


「これが、大天使ミカエル様からの御聖託の内容です。皆様、お聞き届けになられたでしょうか?」


 セシリアの話にため息のような声が一同から漏れ、その話の内容の重大さがその場の雰囲気を重々しいものしてしまった。


 

 その場の雰囲気を破るようにセシリアに問いかける言葉が


「セシリア殿、そのスティグマを持った聖女を7人を捜し出すということですが、そのスティグマとはどのような形なのでしょうか?」


 と、近衛騎士団団長のレオが尋ねる。


「はい、それは今からお見せいたします」


 と、言ってセシリアはその手をみずからの襟元に移動させた。




















 

メリークリスマスです皆様。今晩のイヴはどうお過ごしなのでしょうか?


ミカエル様がセシリアさんのところへ降臨されました。その場の二人の会話の中で・・・。


やっぱりセシリアさんも乙女でしたね。聖女様と呼ばれても素の部分は可愛いらしい女性なんですから。


因みに、ミカエルさんも女性設定です。


また、お礼の言葉です。


この物語を楽しみにして読んで頂いてる全ての皆様に感謝の気持ちを、本当にありがとうございます。



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