第8話 真夜中の決戦
サブタイはエッチな意味じゃないよ。
村人と衛士を倒し、観光用の入り口も壊した。
これで頂上へ行ける道は実質、我が試練の洞窟だけだ。
次は、人間共も体勢を整え挑んでくるだろう。
激戦になるかもしれぬ。
何度もいうが、戦力の補充が急務だ。
昨日と今日で随分と武具が揃ったが、軍隊が相手ではまだ分が悪い。
でも、ない袖は振れぬという。
今、ニーアとともに身体を休めることにした。
今日も大活躍だったニーアは、我が背中で眠っている。
身体をくの字にし、時折「ガーディ」と我の名を呼んでいた。
実に幸せそうな顔だ。
見ているだけで、こちらも幸せになる。
我はつい悪戯心を出して、寝ている少女の頬をペロリとなめる。
「だめだよ、ガーディ……。それは、まだはやいよぉ……」
ふふふ……。
一体どんな夢を見ているのやら。
月が1番高く上がる頃、我も眠ることにした。
首を地面に下ろし、瞼を閉じた。
ふと眠気が襲いかかる瞬間、わずかな微震を感じた。
かすかな揺れではあったのだが、少し気になった。
昼間に爆破した観光用の入り口付近が落盤したのかと思ったが、どうやら違う。
振動はもっと地中深くの方からだ。
「チッ! 忘れておったわ」
「どうしたの、ガーディ?」
我の声にニーアが目を覚ました。
「起こしてしまったか」
「いいよ。何かあったんでしょ。また人間攻めてきた?」
「いや、人間よりも少々厄介なヤツを起こしてしまったらしい」
「人間より厄介?」
タフターン山は聖剣というものを預かる以上、非常に霊験あらたかな場所にある。
天界にほど近く、また冥界と呼ばれる場所にも近い。
その2つの世界のエネルギーがせめぎ合う力を利用し、聖剣の膨大な影響力を押さえ込んでいるというのが、実情だった。
「冥界ってなに?」
「死者の国だ。我らの世界の裏側にある世界だな。本来なら人間がたどり着けぬ深層にあるのだが、タフターン山と冥界はほど近い場所にある」
人間界と冥界はカードの表と裏のように存在する。
向こうで1番深い海溝のような場所の表に、タフターン山はあり、それ故に冥界から1番近い場所なのだ。
「冥界と近いとどうなるの?」
「その影響がこちらの世界にも現れやすくなる。向こう住民どもの半分ぐらいは、霊体化しているのでな。すり抜けてしまうのだ」
「幽霊ってこと?」
「うむ。そういうことだ。見てみよ」
気がつけば、タフターン山を取り囲むように無数の死霊が浮いていた。
数がどんどん増えていく。
ニーアはお化けが苦手なのだろうか。
珍しく我の鱗を引っ張るようにしがみついた。
「心配するな。こやつらには悪さはできん」
「ホント?」
「うむ。問題はこやつらにも悪さが出来る方法があるということだな」
ともかく対策を打たねば。
今回の相手をニーアに任せるのは酷かもしれぬ。
戦力が必要だな。
仕方がない。今あるもので、手勢を増やすか。
我はゴブリンのリンに命じて、兵士達から奪った武具を並べる。
だが、リンは魔法円を書けない。
「ニーア、すまぬが、魔法円を描いてくれぬか」
「う、うん」
ニーアは頷くのだが、やはり我から離れようとはしない。
そうこうしているうちに、試練の洞窟から音が聞こえる。
何かが行進してきた。
現れたのは、スケルトンの群れだった。
「チッ! やはり憑依されたか」
試練の洞窟には人間や、迷い込んだモンスターなどの遺骸が転がっている。
その骸に死霊が憑依すると、スケルトンになってしまうのだ。
故に、人型だけではない。
モンスターの骨にも憑依するので、狼型や、悪魔型まで様々だった。
ニーアは動けない。
ならば、ここは攻守交代だ。
「リンよ。下がっていろ」
武具を用意しようとしたリンが慌てて、我の後ろに下がる。
見計らい、我は大きく息を吸い込んだ。
喉の奥が熱くなるのを感じる。すると、一気に吐き出した。
紅蓮の炎が、赤い絨毯を敷くように燃え広がっていく。
スケルトンどもが、一瞬にして消し炭になった。
「ガーティ、すごい!」
「夫として、たまにはいいところを見せないとな。今日は、我が戦おう。ニーアはそこでゆるりと観戦してるがいい」
「ニーア、お姫様気分」
まさしくドラゴンに魅入られたお姫様といったところだろう。
依然としてスケルトンどもの数は、増えていく一方だ。
我は炎息で対応するが、実はあまり炎を吐くのは得意ではない。
宝物ドラゴンゆえ、他の種族よりも火袋が小さく出来ているのだ。
「ぎぃぎぎぎぎ」
リンが悲鳴を上げた。
背後を見ると、山裾を昇ってきたスケルトンどもが這い寄ってくる。
試練のダンジョンを無視してやってくるとは、罰当たりなヤツらめ。
我は尻尾をお見舞いする。
スケルトンどもは、為す術なくなぎ払われ、バラバラに粉砕された。
だが、間断なくヤツらは前から後ろからとやってくる。
気がつけば、取り囲まれていた。
月はだいぶ西に傾いてきたが、まだ夜は長い。
冥界の住人どもの弱点は光だ。
故に朝日が出てくれば、こっちの勝ちなのだが。
我は少々焦り始めた。
「リン。貴様も手伝え。ともかく撃ちまくるだけでいい」
「ぎぃぎぎぎぎ!」
KG-9(改)を言われたとおりにぶっ放す。
スケルトンたちの骨の一部を吹き飛ばした。
だが、一時的に動きは止めることしか出来ない。
弾幕程度では、すぐに再生し、戦線復帰してくる。
しかも、銃弾は点でしか捉えられない。中身ががらんどうのスケルトンには、すこぶる命中精度が悪い。
手榴弾なら木っ端微塵に出来るだろうが、この状況では数が無い限り、焼け石に水だ。
彼奴らを一掃出来る古代の兵器があれば良いのだが、思い浮かぶものはニーアをも傷つけてしまうものばかりだ。
「きゃああああ!」
悲鳴が聞こえた。
首をねじる。
我の背中に取り付いたスケルトンが、ニーアを襲っていた。
「我が妻に何をするか!」
激昂する。
大口を開けると、スケルトンをかみ砕いた。
彼奴らひるむことを知らない。
包囲網がどんどん狭まる。
蟻の群れのように取り付き、我の身体が亡者の骨で白くなっていた。
このままではますい。
西を見るが、月はほとんど位置を変えていない。
「せめて大量の光があれば」
自分で叫んだ瞬間、1つピンと来た。
「ニーア」
「な、なに? ガーディ」
「我を信じてくれ」
「……うん。ニーアは、いつもガーディを信じてる」
「感謝する。では、耳と目を塞ぐがよい」
「わかった」
ニーアは我の言うとおりに行動する。
耳と目を塞いでも、スケルトンが近づいてくるのがわかるだろう。
肩が小刻みに震えていた。
でも、決してニーアは逃げだそうとしない。
じっとその場で座して待つ。
我は首を上げた。
「ぐおおおおおお…………が、ぐぐぐぐぐおおおおおお……」
兵器を吐き出そうとする。
腹が蠕動し、喉に兵器を送り出す。
口の奥から何かが昇ってくるのがわかった。
――来たぞ!
舌先に乗った瞬間、我はその兵器をかみ砕いた。
瞬間、強烈な閃光――――。
加えて耳をつんざくような音が広がった。
夜が真昼へと変化する。
光を浴びたスケルトンたちが突如動きを止めた。
次々と崩れはじめる。
「ニーア、もう目を開けていいぞ」
話しかけたが、彼女は目と耳を塞いだまま震えている。
「そうか。聞こえておらんのか」
ならばと、我は大きな舌で少女をべろりと舐めた。
彼女は一瞬何が起こったかわからず、右往左往する。
ようやく手を離し、顔を上げた。
「もうよいぞ」
ぐふふふ、と我は笑う。
ニーアは周りの様子に気づいた。
すべてのスケルトン達が、地面に転がっている。
奇妙な音を鳴らし、我に貼り付いていた者どもも、次々と巨躯から滑り落ちていく。まるで我が脱皮をしているかのようだ。
光が静まり、夜の静寂が満ちる。
目に見える限りのスケルトンが、ただの骸に変わっていた。
「何が起こったの、ガーディ」
「冥界の住人共は光を恐れる。故に、光を浴びせ、脅かしてやったのよ」
「どうやって?」
我はペッと兵器の一部だったものを地面に吐き出した。
なまえ :おんきょうせんこうだん
いりょく :G たいきゅう :C
はんい :B とくしゅ :しりょうけいにこうかあり
おもさ :F
「音響閃光弾という古代の兵器だ。強烈な音と光を出し、敵を攪乱させる。それをスケルトンどもに使ってやったのよ。そしたら、冥界の住人どもめ。泡を食って逃げおった。朝日と勘違いしたのであろう」
我は「愉快愉快」と笑ったが、一か八かではあった。
通用するかどうかわからなかったが、結果オーライであろう。
「ねぇ、ガーディ。なんで冥界の住人さんたちはやってきたの?」
「元々我は彼奴らが来ないように結界を張っておったのだが、どうやら観光用の入り口を潰した時に、ほころびが出来たようだ」
「ニーアのせい?」
「どちらかといえば、忘れておった我が悪い」
「じゃあ、おあいこ」
「うむ。しかし、ニーアの弱点がお化けとはな」
「お化け苦手。死霊嫌い。……でも、ごめんなさい。ニーア、役に立てなかった」
しょんぼりと項垂れる。
悲しそうな顔をしているのに、どこか愛らしく見える。
「良い良い。むしろ、お主の女の子らしい一面を見れて、ホッとしておるところだ。それに妻の前でカッコいいところを見せることが出来た」
「ガーディはいつもカッコいい。……ニーア、次からは頑張る。死霊を倒す」
「無理はしなてくよい。それにニーアにはやってもらうことがある」
「なに? なんでも言って」
我は腹の中から1枚の符を取りだした。
「結界の符だ。それを爆破した観光用の入り口付近に貼っておいてくれ」
「わかったー」
「すまないが、今すぐ頼む。でなければ、また死霊どもが騒ぎ出すであろう」
「うん。もう死霊はこりごり」
「同感だ。帰ったら、もう一眠りしよう」
「うん。ガーディと一緒に寝る」
有り余る体力を解放するかのように、ニーアは洞窟を降りていった。
ふー。さすがに疲れた。
我は首を地面に置く。
瞼が分銅をつり下げられたかのように重い。
ニーアが帰ってくるまで待つつもりだったが、そのまま寝入ってしまった。
さすがに3000年も生きておると、徹夜の戦は疲れるものだ。
大怪獣決戦的なイメージで書きました。
夜の部でジャンル別39位!
日間総合175位まで来ました。
ブクマ・評価感想いただきありがとうございます。
今日はここまでですが、馬車馬のように更新していくので、これからもよろしくお願いします。