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第7話 観光用入り口、爆破

「ガーディ、やったよ。兵隊を追っ払った」


 おー、とニーアは拳を振り上げる。


 我はそれを千里眼で見ていた。

 念話を使って答える。


『よくやったな、ニーア』

「ガーディに褒められた。えへへへ……」


 嬉しそうだ。


 3人を撃ったとは思えないほど、無邪気な笑顔を浮かべている。

 兵士に向けた瞳を我も見ていたが、まるで本物の戦士のようだった。

 彼女にはそういう才能があるのかもしれぬ。


 妻に守られる夫という構図もどうかと思うが、適材適所だ。

 我は武器とモンスターを用意し、彼女が行動する。

 戦力が乏しい今、そうするしかあるまい。


「兵士の武器を持ってく」

『ああ。重いだろうから、ゴブリンにも持ってもらえ』

「わかったー。リンちゃんに持っていってもらう」


 リンちゃんというのは、ゴブリンの名前だ。

 多少安直だが、当のモンスターは気に入っているらしい。

 どうやら名前というものに憧れがあるようだ。


 我は一旦念話を切る。


 1人考えた。


 逃がした警備兵によって我の噂は広まるだろう。

 次にどんな戦力がやってくるかどうかわからぬが、その間に準備せねば。

 いざとなれば、我も戦うことになるだろうが、それは最後の手段だ。

 現状の戦力を整え、対抗するしかないであろう。


「正念場だな」


 長い1日が終わり、我は空を臨む。

 夕闇の空に、一番星が瞬いていた。



 〇〇〇



 深夜――。


 命からがら逃げ延びた警備兵は、麓の村に駆け込んだ。

 足の出血がひどく、朦朧とした意識の中で「少女」という言葉と、「火を吹く矢」というわけのわからない単語を残し、事切れた。


 村を守っている数名の衛士たちは首を傾げるばかりだった。


 その後の調べで、負傷した兵がタフターン山の警備兵であることと、死因が太ももを何か強力な矢のようなもので貫かれた失血死だとわかる。


 村の衛士たちは対応を協議する。

 王国にある地方警備局に連絡するのが筋だが、相手の情報が「少女」だけでは、情報量として少なすぎる。せめて相手の人数を知らなければ、いくら王国兵が死んでいるとは言え、本局は重い腰を上げないだろう。


 それに最近、この辺りで山賊の目撃情報が上がっている。

 つい先日も、領主の護送車が狙われ、兵士が死んでいた。

 山賊との関連性も知りたいところだ。


「ともかく、様子だけでも見に行こう」

「危険じゃないのか?」

「なんのために最近、村の人間に剣や弓を教えてると思ってるんだよ」

「あっ……」


 村の衛士達は村人に剣や弓を教えていた。

 山賊対策という名目で、村人達も積極的に参加している。

 特に血の気の多い若い人間は、強くなれば王国の兵に取り立ててもらえるかもしれないと張り切っていた。


「人数を集めよう。特に弓のうまいヤツをな」


 うまくいけば、村人を使ってうまく手柄を立てられるかもしれない。

 作戦を立てた衛士は、表情こそ崩さなかったが、心の中では暗い笑みを浮かべるのだった。



 〇〇〇



 まさか自分たちが『千里眼』で見張られているとは思うまい。

 我はずっと逃げた警備兵の行方を『千里眼』で監視していた。そして彼奴らの会話もしっかりと聞いていた。


 よもや銃に対して、弓で対抗しようとはな。


 知らぬ事とは言え、人間とは全く愚かな生き物よ。

 我は思わず「ぐふふふ」と悪い笑みを浮かべた。


「ガーディ、どうしたの?」


 我の背中で寝ていたニーアが目を覚ます。

 瞳を擦り、欠伸を噛みしめた。

 いつも曖昧模糊としている表情をさらにぼんやりとさせ、視線を我の方に向けた。


「すまん、起こしてしまったか」

「いい。十分に寝た」

「昼間に大暴れしたのだ。もう少し寝ててもいいのだぞ」

「大丈夫。ガーディの背中、とてもポカポカする。疲労回復とても早い」


 我の背中はかなり硬いゆえ、寝にくいとは思うのだが。

 確かに人間の文化の中には、岩盤浴というものがあるそうだが、それと同じ効果なのかもしれない。


「あとは愛!」

「……う、うむ。少々気恥ずかしいな」

「それでどうしたの、ガーディ」

「どうやら、手勢を率いて人間共がここにやってくるらしい」

「また倒す?」

「存分に歓迎してやろう。それとともにニーア、少しやってほしいことがある」

「ニーアはガーディの妻。なんでも言って」


 相変わらず頼もしいことだ。

 我は腹の中の宝物を解放する。


「ぐおおお……うごごごごご………おあああ…………」

「頑張れ、ガーディ。ひぃ、ひぃ、ふー。ひぃ、ひぃ、ふー」


 2人でいつもの儀式。


 やがて同じ物を数個吐き出した。

 どうやらうまくいったらしい。

 何度かやるうちに、段々と思い通りのものを吐き出すことが出来るようになってきた。


「木の実?」


 ニーアは吐き出されたものを見て、首を傾げる。

 試しにといわんばかりに、ガシガシとかみ始めた。

 確かに木の実のように見えるが、もちろんこれも古代の兵器だ。


「こらこら。どさくさに紛れて、我の唾を舐め取ろうとするでない」

「へへへ……。バレた。ガーディの唾、癖になる味」


 癖にならなくてよい!


「その兵器は銃よりも危険な代物だ。名を手榴弾という」

「しゅうりゅうだん?」

「簡単にいえば、爆弾だ。ニーアが使っている銃の弾を大きくしたものだといえば、わかりやすいか」

「銃より凄い?」

「ああ……」

 我は早速、手榴弾の能力を見た。



 なまえ  :しゅりゅうだん

 いりょく :B+  たいきゅう :B

 しゃてい :F   とくしゅ  :かべはかい

 おもさ  :F



 特殊に「壁破壊」がついているな。

 かなり威力が高い手榴弾なのだろう。


 使う時は十分に注意しなければならんが、今回の用途と合致する。



 そういえば銃にも「無限」という特殊がついていたな。

 何か我の腹と関係があるのかもしれぬ。だが、詮索は後に回そう。


「手榴弾を使って、人間どもが作った忌々しい観光用の出入り口を破壊する」


 そして我はニーアに作戦を伝えた。



 〇〇〇



 村の衛士は、村の若者数名を連れて、タフターン山へと向かっていた。

 正面の試練の洞窟を避け、やや迂回する感じで観光用の入り口へと向かう。


「へへ……。楽しみだぜ。1度でいいから、人を斬ってみたかったんだ」

「だよな。訓練で木剣を振り回すのも飽きた」


 衛士から支給されたロングソードや長槍をうっとりと眺める。

 あまり手入れがされていない刃は、それでも太陽の光を受けてギラついていた。


 先頭を歩く衛士が、若い村人を見ながらたしなめる。


「あくまで俺たちは現状確認だぞ」

「わかってますよ、衛士の旦那」

「でも、戦闘になれば斬っていいんでしょ?」

「お前達の弓の腕を見込んでの人選だ。それを忘れるな」

「へーへー」


 背中に担いだ弓を確認する。


 選ばれたのは、3人。

 どれも訓練で優秀な成績を収めたヤツらばかりだ。といっても、軍学校の落第生よりはマシという程度だ。それでもいないよりはマシだった。


 衛士は1人。

 村には計4名いるが、村が山賊に襲われることも考慮して、斥候は1人だけと決まった。まさに貧乏くじ。衛士としては、戦闘を避け、情報だけを拾って帰りたかった。


 問題は若者の血の気の多さだ。


「あと旦那。山賊だが、謎の少女だがわかんないんですが、ぶっ殺せば王国の兵士に取り立ててくれるって話。忘れないでくださいよ」


 協力する見返りとして提示したが、逆効果だったかもしれない。

 暴走しないことを祈った。


 入り口にたどり付き、側にあった詰め所の中に入る。


 漂ってきた血の臭いに、全員が顔をしかめる。


 椅子がひっくり返り、争った形跡がある。

 さらに2人の兵士の遺体を見つけた。


 両者とも村に駆け込んできた警備兵と同じ貫通痕があり、すでに絶命している。


 衛士を唖然とさせたのは、壁に空いた無数の穴だ。

 まるで線を引くように横へ流れていっている。


 さらに、警備兵の武具が消えていた。

 考えてもみれば、駆け込んできた警備兵も丸腰だった。


 部屋の形跡からして、複数で襲われたとは考えにくい。

 不意を突かれ、一瞬のうちに制圧されてしまったのだろう。


 では、誰に?


 衛士が首を傾げたその時――。


「女だ」


 詰め所を出て、観光用の回廊の方を眺めていた村人が呟いた。


 衛士は飛び出す。確かに少女がいた。


 緩やかな上り坂を昇り切ったところに立っている。

 瞳を冷たく光らせ、衛士達を見下ろしていた。

 衛士は警備兵が今際の際に呟いた「少女」という単語を思い出す。


「あいつだ」


 いち早く飛び出したのが、村人の1人だった。

 ロングソードを掲げ、坂を駆け上る。


「やめろ! もしかして無関係な人間かもしれないんだぞ」

「大丈夫ッスよ、衛士の旦那。ここは観光名所といえど、最近は誰も寄りつかない。人を殺してもバレやしませんよ」


 止めようとする衛士を、他の2人が肩を掴み引き留める。


 若者達はニヤニヤと笑みを浮かべた。

 衛士にはわかっていた。

 こいつらはおそらく人を斬りたいだけなんだ、と――。


「お嬢ちゃん、ちょっと大人しくそこで待ってるんだよ」


 ロングソードを持った若者はそろりそろりと近づいていく。

 射程距離に入った瞬間、小さな身体に襲いかかった。


 パシィン!


 鋭い音が回廊内に轟いた。


 若者が吹き飛ばされ、そのまま坂を転がり落ちる。

 糸が切れた人形のように、衛士達の前に転がった。

 眉間に例の貫通痕が刻まれ、血が頭を中心に広がっていく。


 充満した煙の匂いを嗅ぎながら、衛士はもう1つの言葉を思い出していた。


『火を吹く矢』


 まさにあれのことだ。


「くそ!」

「仲間をよくも!」


 飛びかかろうとする村人を、衛士は必死に抑えた。


「やめろ! 相手は特殊な弓を持ってる。やるなら弓だ! こちらも弓で対応しろ」


 衛士の怒声に、村人は渋々答える。


 背中の弓を取り出し、矢をつがえた。

 少女に照準を向け、放つ。

 放たれた2本の矢は、少女の手前の地面と壁に突き刺さった。


「ちくしょ!」

「おしい!」


 さらに弓を引き絞る。

 だが、恐れを成したのか、少女は後退した。


「逃げるつもりだぞ」

「おい。待てよ、クソガキ! 逃げるんか!」

「待て。何か嫌な予感がする」


 敵の正体はわかった。

 数こそわからないが、武器もしくは魔法を使うらしい。


 人を一撃で仕留める未知の攻撃。


 それだけでも情報としては十分。

 後は上が決めることだ。


 しかし、血が頭に上った若者は飛び出していく。

 少女を追いかけ、坂を登り始めた。


 すると、何か乾いた音が聞こえる。

 上の方から何かが転がってくるのが見えた。

 やがて、先頭にいた村人の足下で止まる。


「なんだ。こりゃ」

「木の実?」

「ははは……。食料やるから許せってか」

「やめろ! 不用意に触るな!」


 衛士の忠告は1歩遅かった。


 閃光が炸裂し、目の前が白く染まる。

 瞬間、轟音が回廊内を貫いた。

 壁や天井が吹き飛ばれ、衛士自身も爆風に乗って宙を舞う。

 地面に叩きつけられると、あっという間に土と岩に埋め尽くされた。


 気がつけば、衛士は落盤した岩の下敷きになっていた。

 下半身の感覚はすでに無い。

 夥しい血が胸の辺りを濡らしていた。


 薄れゆく意識の中、人の影が視界に映る。

 顔を上げると、少女が立っていた。

 天使のように美しい乳白色の肌なのに、その目は血のように赤く、どこかおぼろげなのに冷たかった。


「きみ、は…………。な、に…………?」

「ニーアはニーアだよ」

「にー…………あ…………」

「バイバイ」


 穴の開いた鉄筒を向ける。

 乾いた音が響いた。



 〇〇〇



「ガーディ、終わったよ」


 生き残っていた兵士にとどめを刺した後、ニーアは何事もなかったかのように報告した。


『ご苦労だったな、ニーア。怪我はなかったか?』

「大丈夫。手榴弾って凄い威力だね。人間が吹き飛んじゃった」


 3人生き残っていたのに、1人は身体を無数の破片で切り刻まれ、もう1人は跡形もなく吹っ飛んでいた。

 兵士だけが生き残っていたのは、他の2人が計らずとも盾になったことと、纏っていた鎧のおかげだろう。


「あ。でも、ごめん。武器とか防具とか全部壊れちゃった」

『よい。それよりも入り口は封鎖できたか?』

「それは大丈夫!」


 ニーアはふさがった穴を見る。

 天井の岩盤が崩れて、完全に埋まっていた。


『よし。ともかく戻ってきてくれ』

「わーい! 一杯ほめてね、ガーディ」


 ニーアは子供のようにはしゃぐのだった。


日間ジャンル別51位。

日間総合にも233位で入りました。

ありがとうございます。

もっと頑張ります!!

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