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第5話 宝物ドラゴンの腹の中

おかげさまでハイファンタジー部門87位に入りました。

ブクマ・評価をいただいた方ありがとうございます。

投稿がんばりますので、よろしくお願いします。

「じゃあ、ガーデリアルに召喚術を教えるぅ」


 我の妻になれたのが、そんなに嬉しいものなのか。

 ニーアは両手を突き上げ、張り切ってレクチャーを始めようとした。


「待て、ニーア。その前に1つ気になることがある」

「なに、ガーデリアル」


 我は1度咳を払った。


「そのガーデリアル(ヽヽヽヽヽヽ)だ。我らは夫婦になったのだ。ガーデリアルというのは、何かよそよそしい気がする。それに長い」

「おお。愛称」

「その通りだ。もっと短くて、フレンドリーなものはないか」

「うーん。ガーちゃん」


 全力で却下だ!

 あの女神(クソアマ)を思い出す。


「じゃあ、ガーディ」

「……うむ。それならば良かろう」


 すると、ニーアははーいはーいと小さな子供みたいに大きく手を挙げた。


「ニーアも提案がある」

「ニーアも愛称で呼んでほしいのか?」

「違う。ガーディの頭に乗せてほしい」

「なんだ、そんなことか。我はてっきり誓いのキスでも迫られると思ったが」



 ポッヒュン!



 ニーアの顔が真っ赤になる。

 急に湯気が発生し、頭の上で小さな雲を作った。


「キスはまだ早い」


 我らは夫婦になったのだがな。

 よくわからん女子だ。


 まあ、良い。


 我はゆっくりと頭を下ろした。

 ニーアは首を伝ってよじ登ると、ちょうど眉間の上にちょこんと座る。

 それでもニーアは楽しそうだったが、我はアドリブを入れることにした。


 首を持ち上げ、なるべく高くなるように伸ばした。


「おお!」


 ニーアは目を輝かせた。

 広がっていたのは、山頂から見える雄大な景色だった。


 タフターン山の麓にある村。

 裾野に広がる緑豊かな森。

 川の向こうには、高い山脈が連なっている。


「どうだ? 良い景色であろう」

「ガーディはずっとこの景色を眺めてたの?」

「まあな。だが、景色を楽しみたくて眺めてことはないがな」


 思えば、誰かと一緒に景色を見るなど初めてだ。

 そもそも協力して何かをすることなど、我が3000年の人生においてなかった。


 つくづく不思議な女子(おなご)だ。


 3000年も生きていたのに、我の新しいところを発見させてくれる。

 我らはしばし景色を眺めた後、ニーアを頭から下ろした。


 早速、召喚術を教えてもらう。


 ニーアは地面に魔法円を描いた。

 実に手際がいい。


「ニーアは召喚士なのか?」

「違う。……でも、竜が使う魔法円は頭に入っている。一杯書く練習もした」


 ふむ。大したものだ。


「では、お主は何の職業なのだ。格好からして魔法使いに見えるが」

「別に……。強いて言うなら、竜マニア」

「我の記憶では、竜マニアという職業はないはずなのだが」

「講義の途中。ガーディ、邪魔しない」


 むふっとニーアは頬を膨らませた。


 す、すいません。


 ニーアは出来上がった魔法円をコンコンと叩く。


「これはモンスター召喚の魔法円。ここにガーディの専用の媒介を置く」

「専用の媒介?」

「捧げ物。ガーディは宝物ドラゴンだから、武器とか防具とかを捧げる」


 ニーアは2振りのナイフを取り出した。

 随分長い間放置されていたのだろう。刃が少し錆びている。

 ダンジョンから適当に拾ってきたという。


「このナイフにガーディの祝福を与える」

「祝福? つまり、我のものであるという証を与えるという意味か」


 ニーアはこくりと頷いた。


 お安いご用だ。

 我はニーアから差し出されたナイフをペロリとなめた。

 要はマーキングのようなものだ。


 我の唾液がついたナイフを、ニーアはじっと見つめる。

 さりげなく少女本人も舐めた。


「ガーディの唾液、しょっぱい」

「人の唾液の味を評価するな」

「でも、幸せ」


 へへへ……本当に幸せそうな顔を浮かべる。

 ニーアは本当に我のことが好きなのだな。


「ニーア、舐めるのはいいが、ナイフを召喚用に用意したものであろう。自分のものにするなよ」

「なんでわかったの」


 道具袋の紐を緩めようとして、ニーアは止める。

 やっぱりか。


「ニーアの心を読めるなんて、やっぱりニーアとガーディは相思相愛」

「うむ。だんだんお主の行動心理が読めるようになってきた。ともかく、召喚の説明を続けてくれ」


 こんな調子でいってたら、夕方までかかりそうだ。


「あとはこの円の中にナイフを置けば終了」

「なんだ。意外と簡単だったな」


 その意外と簡単な召喚術を忘れていたのは、我だがな。


 ニーアは我の祝福を受けたナイフを魔法円に置く。

 すると、魔法円がぼんやりと赤く光り始めた。

 はじめは小さかった光は、徐々に輝度を上げて、辺りは赤い光に充ち満ちた。

 ナイフが魔法円の中に飲み込まれる。

 代わりにモンスターが現出した。


 あれ? おかしい。


 我のイメージと違う。

 もっと強いモンスターが現れると思っていたのだが。


「にょろにょろ……」


 召喚されたのは、コミュニケーションも難しそうなスライムだった。

 がっくりと項垂れると、ニーアは慰めるように我のお腹をポンポンと叩いた。


「仕方がない。召喚できるモンスターは、武器や防具の価値。それはガーディが1番わかってるはず」

「なるほど。千里眼か」


 千里眼の能力の中には、物の価値を見定める機能が備わっている。

 ちなみに召喚した魔物の価値も見られるはずだ。


 一応、確認はしておくか。


 我はスライムを見つめる。



 なまえ  :スライム

 Lv   :1

 ちから  :G  ぼうぎょ :G

 ちりょく :G  すばやさ :G

 きようさ :G  うん   :G

 けいけんち:1  ませき  :G×1



 予想通りに弱いな。


 ざっくりと説明すると、能力値の段階はS、A、B、C、D、E、F、Gの8段階が存在する。レベルは倒したモンスターや人間から得られた経験値によって上昇していくというシステムになっている。

 魔石というのは、モンスターを倒した時に現れる結晶石のことだ。

 人間共は、その価値と数でお金や物、ところによっては経験値に変えているようだ。


 見立てでわかることは、このスライムではダンジョンの守りにならぬということだ。勇者どころか、観光客につつかれて終わるレベルである。


 もっと強い武器か防具は落ちてないものだろうか。

 我はしばし考えた後、ふとあることを思い出した。


「ニーア、その辺りに何か武具が落ちていないか」


 しばらくして、ニーアはロングソードを拾ってきた。

 おそらく先日の勇者のものだろう。


 なかなかの業物と見受ける。


 早速、千里眼で覗いてみた。



 なまえ  :ロングソード +3

 Lv   :3

 いりょく :E  たいきゅう  :F

 とくしゅ :なし じゅうりょう :D



 まあまあといいたいところだが、こんな装備で聖剣を抜こうとしていたのか、あの勇者は……。本当に度胸試しだったのだな。

 危うく騙されるところだったわ。


 生憎と防具は我が消し飛ばしてしまった。

 剣だけでも残っていたのは、幸いだ。


 早速、魔法円にくべることにした。


 再び赤く光る。

 心なしか先ほどよりも明るく見える。

 光の渦の中で浮かぶシルエットは人型。

 今度は期待しても良さそうだ。


「ぎぃぎぃいい」


 奇声が聞こえる。

 現れたのは、ニーアとそう変わらないほどの背丈のゴブリンだった。

 長い鼻を振り、黄疸のような黄色の目をぎらつかせている。



 なまえ  :ゴブリン

 Lv   :2

 ちから  :G  ぼうぎょ :G

 ちりょく :E  すばやさ :F

 きようさ :F  うん   :G

 けいけんち:5  ませき  :G×5



 むぅ……。


 それでも弱いな。

 知力が高いから簡単な命令ぐらいなら聞くだろうが。


 今思えば、ベルムルたちは非常に強く、使い勝手が良かった。

 もっと大事に扱ってやれば良かったのだが、今さら後悔しても遅い。


 残念ながら、他にめぼしい武具はない。

 あっても、錆びたナイフや朽ちた杖、あるいは防具ぐらいなものだ。

 かき集めれば、スライムぐらいは召喚出来るだろうが、とてもではないが守りの要にはならない。


 ダンジョンに来た人間共から武具を奪えればいいが、千里眼で見た限り、少なくとも武器を持った人間はいない。しいていうなら、人間共が観光用と称して作った入り口に、歩哨が2名立っているぐらいだろう。


 残念ながら、ゴブリン程度では歩哨に勝つことも難しい。


「ガーディ、まだ武器はある」

「ほう。どこにあるのだ、ニーア」


 すると、ニーアはポンポンと我がお腹を叩いた。


 最初は遊んでいるのかと思ったが、違う。

 我ははたと気づいた。


 そうか。我は宝物ドラゴン。

 この中には3000年分の武器や防具が収められているのだ。


「なるほど。我が腹の中の武具を解放するのだな」

「でも、気をつけて、ガーディ。お腹の武器を使うと、ガーディはお腹が減る」


 確かにな。


 だが、今はまだ我慢が出来る。

 食糧確保のためにも、まずは人間共が観光地化しているダンジョンを制圧せねばなるまい。その上で、試練のダンジョンとしての威厳を取り戻し、再び勇者に聖剣の威光を知らしめねばならぬ。


 我としては、聖剣に挑戦するものが現れぬ方が良いのだが、これも宝物(おまんま)のためだ。全力で勇者を迎え討ち、その武具をはぎ取ることが宝物ドラゴンの使命と心得るしかない。


 盗賊とかいうなよ。

 我が生きるために必要なことなのだからな。


「早速、武具を解放してみるか」


 我は胃を蠕動させた。

 奇妙な雄叫びを上げる。


「ぐぅ……がががががが…………」

「ガーディ、頑張って。ひぃ、ひぃ、ふー。ひぃ、ひぃ、ふー」


 横でニーアが一定のリズムで息をはじめる。

 我以上に、顔を真っ赤にしていた。


 武具が長い喉を徐々に昇っていくのを感じる。

 やがて、ペッと吐き出した。

 乾いた音を立ててくるくると転がる。


 武具はべっとりと我が体液に濡れていた。


「ガーディの涎が一杯」

「やめぬか、ニーア。あんまり舐めるとお腹を壊すぞ」


 慌ててニーアの襟首を器用に牙で引っかけて持ち上げる。

 脇に着地すると、改めて出てきた武具を見つめた。


 それは剣でもなければ、槍でもない。

 およそ防具でもないだろう。


 我はとりあえず千里眼で見てみた。


「ん? じゅう?」


異世界のチート武器キタコレ!

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