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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

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第38話 邪竜、回想する。

第17話参照。

 あの男(ヽヽヽ)……。


 それを説明するには、我は過去を振り返らねばならぬ。


 遠い昔ではない。

 タフターン山に大竜騎士団が攻めてきた――つい2月ほど前の話だ。


 第三の間。


 FN57とM1887(ソードオフ)を振り回すニーア。

 そしてあの男……。

 大竜騎士団団長グローバリ・ヴァル・アリテーゼが、目の前に立っていた。


 その姿は、すでに満身創痍……。

 階下でさまよえる鎧――デュークと打ち合ってきたのだ。


 こやつの鬼神のような働きにより、スケルトンは半数を失い、デュークも退かせるしかなかった。

 我が考えている以上に、こやつは強かったのだ。


 確実にグローバリを仕留めるため、我は最後に妻の力に頼った。


 2人は一騎打ちが始まる。

 第三の間で火花が散る。


 スピードに勝り、さらに銃という古代の武器を操るニーア。

 対して、人間とは思えないほどの膂力と反応速度を持つグローバリ。


 2人の対決は、不思議と拮抗していた。


 ニーアをもう何十年も扱っていたかのよう撃ち回すニーアにも驚愕するが、未知の武器に次第に対応するグローバリもまた、化け物だった。


 何よりグローバリは半死半生だ。

 死に片足を突っ込んでいる人間の動きとは思えなかった。


「くぅ……」


 ニーアの表情が歪む。

 距離を取るため、常に走り回ってきたつけが、今頃やってきた。

 能力は非凡であることは間違いない。

 だが、体力は一朝一夕で身につくものではない。


 次第に、ニーアのスピードが鈍りはじめる。


 対するグローバリは、血を迸らせながら、少女に斬りかかってきた。


 重い鎧を着ているというのに、剣速も脚力も衰えることを知らない。

 むしろ冴える一方だ。


 ニーアになくて、グローバリにあるもの……。


 それは武に捧げた時間。

 そして強い意志だった。


「あっ――」


 ニーアの身体がよろける。


 ごつごつしたダンジョンの地面。

 普段ははまらないような小さな段差に、ニーアの足が取られた。


 状態が傾く。


 それをグローバリが見逃すはずもなかった。


 ニーアは倒れ込みながらも、FN57を構える。

 2発速射。

 5.7mm弾がグローバリに襲いかかる。


 しかし、団長はあっさりと剣で弾いた。


『化け物か!?』


 千里眼で戦況を確認し、我は思わず叫んだ。


 毎秒650mで射出される弾を弾くなど、明らかに人間離れしていた。


 人間を越えておる。

 いや、鮮血に濡れた姿は、まさに赤鬼というべきなのかもしれない。


 驚いたのは我だけではなった。

 いつも眠たげに伏せられたニーアの目が、珍しくカッと見開く。


 その瞬間に、グローバリは我が妻の前に立ちふさがっていた。


 大上段から振り下ろす。

 ニーアは反応した。


 FN57とM1887(ソードオフ)をクロスさせ、剣を受け止める。


 ニーアは膝立ちになりながら、グローバリを睨んだ。

 敵に話しかける。


「どうして?」

「なんだ?」

「どうして、あなたは本気を出さないの?」

「会話をして、体力を回復させるつもりか。その手は――」

「違う。ニーアはただ事実をいっているだけ」


 少女の眼光が冷たく閃く。

 グローバリは息を呑んだ。


「さっき上段……。振り下ろしではなく、突きならニーアを倒す事ができた。なのに、あなたはわざわざ大きなモーションで上段の振り下ろしを選択した」

「ほう……。それがわかるのか。さすがは、竜の巫女(ヽヽヽヽ)だな」


 突然、グローバリは剣を引いた。

 あろうことか、さらに鞘に収める。

 溢れ出る闘気こそ収めることはなかったが、明らかに戦意が減衰していた。


 不可解な行動に、ニーアはどうしていいかわからない。

 ぶらりとFN57とM1887(ソードオフ)を垂らし、騎士の様子をうかがった。


「お主、名前は?」

「ニーア」

「そうか。では、ニーア。今、この戦いはガーデリアルは見ているのだな」


 ニーアは首肯する。


 すると、グローバリは顔を上げた。


「ガーデリアル、話がある。どうか我が声に耳を傾けてほしい」

『カステラッド王国の騎士団長が、我になんの用件だ。今さら降伏するとでもいうのか』


 であるなら、無様だといわずにはおられなかった。


 すでに大竜騎士団400騎は全滅している。

 外をうろちょろしている騎兵を除けば、グローバリしか残っていない。


 だが、そんなことを言い出す男ではないことは、直感からわかっていた。

 その口が動くのを待つ。


「そのカステラッド王国について、話をしたいのだ」

『なに?』


 そしてグローバリの口から思いも寄らぬ言葉が飛び出した。



「お前に、我が祖国を救ってもらいたい」




 ◆◆◆



「カステラッドは、人の国であって、人が治める国ではない」


 グローバリの説明はそんな言葉から始まった。


 カステラッド王国王都リバール。

 人工70万人の大都市に住む3割は人、そして7割は人の姿をした魔族だという。


 表向き平穏であり、各国とも友好的に接している。

 なんの問題ないように見えるが、カステラッド王国には闇があった。


 年間2万人の人間が、不審死もしくは行方不明になっているのだ。


『つまり、それは――』


 我は念話をしながら、息を呑んだ。


 グローバリの瞳が光った。


「そうだ。年間2万人の人間が、魔族どもの餌になっているのだ」


 冷たい声は第三の間に響く。


 側で銃を構えたまま聞いていたニーアの顔に、1滴の汗が滑り落ちていった。

 その我が妻が口を開く。


「年間2万人の人間がいなくなれば、誰かが気がつくはず。住んでいる人はおかしいと思わないの?」

「国はその行方不明者の数を公表していない。それにカステラッドに住む人間のほとんどが、まともな人間ではない」

薬物(くすり)か……』

「答えとしては近い。だが、魔族たちにはそんなものは必要ない」


 なるほど。

 我は得心した。


 魔族の中には、本来人間を堕落させるために存在する悪魔族がいる。

 サキュバスなどは最たる物であろう。

 魔族が与える快楽に溺れたもの。


 つまり、カステラッド王国にいる人間のほとんどが魔女(ウィッチ)というわけだ。


 極上の快楽が手に入ると聞けば、2万人がいなくなっても、人の補充はすぐに聞くだろう。


 そうていカステラッド王国は、餌を集め続けた。


 我が聖剣を餌に、勇者どもの注目を集めたように。


「だけど、あなたはまともに見える」


 ニーアは質問する。


「私は軍の人間だからな」


 対外的に示しをつける意味でも、カステラッド王国にはまともな人の(ヽヽ)軍隊は必要だったのだ、とグローバリは説明する。

 中身が魔物の軍隊が、他国との演習をするわけにはいかなかったのだ。


 大竜騎士団はそうした事情から作られた。

 外交的な理由から作られた人間の軍隊だったのだ。


 グローバリはそうした特権を生かし、魔族が跋扈する貴族社会にまで入り込んで、国の真実を突き止めた。


『そして、そなたは400人という命を犠牲にし、我に嘆願しにきたのか』

「その通りだ、ガーデリアル。……今でも、その判断は間違っていないと思っている。我が兵の御魂はカステラッド王国に真の平和となった時、報われるだろう」


 愚かな……。


 率直にそう思った。

 ただ我に愛国の危機を伝えるためだけに、この団長は兵を死なせたのだ。


 だが、この男の瞳は微塵の揺らぎもなかった。


 大岩のように重い責任を感じつつも、決してそこから目を背けない強い意志が感じられる。


 400人の御魂を捧げてまで、我の前に現れたのか。

 もはやそれは問うまい。


 それほど、こやつの後ろには悪魔のように狡猾な存在がいるのだろう。


『ズバリ聞くぞ、グローバリ』

「ああ。聞け、ガーデリアル」

『カステラッド王国を支配する者は何者なのだ』


「魔王竜ルドギニア……」


 ――――ッ!


 その言葉は静かであったが、タフターン山を揺るがすほどの衝撃を与えた。


『魔王か……』

「そうだ。ガーデリアル。カステラッド王国を支配するのは、魔王ルドギニア。ついぞお前が守った聖剣の錆びにならなかった魔族の王だ」


 そうか。


 そういうことか。


 我は頷く。


 魔族。

 餌とわかりながら集まり続ける人々。

 その人を魅了する存在。


『つまり、カステラッド王国は魔王ルドギニアが作り出したダンジョンなのだな』


 グローバリもまた首肯した。


「その通りだ。お前が今から相手をするのは、魔王であり、カステラッド王国という巨大なダンジョンなのだ」


 凜と男の声は試練の間に響くのだった。


最後はニーアと一騎打ちだったよな、と書きだして、

投稿30分前まで確認せず、

デュークだったことに驚いて、慌てて追記した作者の愚かさが垣間見える回となってしまいました。

ちょっと強引なのは許して下さい。

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