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第3話 竜マニアに見初められる。

 我は神から見限られ、独力で聖剣を守ることになった翌日。

 早速が困ったことが起きた。


 かゆい。猛烈にかゆい


 首の後ろ――それも付け根の辺り。

 ちょうど首を伸ばそうとも、羽根を伸ばそうとも届かない。微妙な部分にかゆみスポットが存在した。


 小動物のようにゴロゴロと転がりたいが、我の巨体では難しい。

 誤って聖剣をぼっきり折ろうものなら、その時点で“(OUT)”である。

 聖剣を守られなかったということだからな。


 そんなわけで転がるがNGとなれば、独力でなんとかしなければいけないのだが、どうやってもかゆみスポットに届かない。


 神が恩恵を受けていた時は、その力を使ってかゆみを抑えていた。

 よもや、こんな所にまで影響が及んでくるとは。

 恐るべし、神の恩恵。


「いたしかたあるまい。恥を忍んで、試練のモンスターたちに頼むか」


 我が3000年前に作った試練のダンジョン。


 聖剣に持つ者を選定するために作った頂上へと続くダンジョンには、我が召喚した最強のモンスターがいる。


 一つ目族の異端児アディンギア。

 知能こそ低いが、一つ目族随一呼ばれる怪力を持つ巨人。

 その怪力から繰り出される棍棒の乱れ打ちは、幾多の勇者の心をくじいてきた。


 悪魔族の知略家バルズ。

 悪魔族の中でも一際高い知能を有し、様々な魔法を駆使する魔猿。

 その精密機械のような頭脳からはじき出された策略は、数多の勇者の技を封じてきた。ダンジョンの賢者ともいうべき存在だ。


 魔龍ベルムル。

 我が眷属の一員にして、力と知能すべてに最高の力を持つ配下一のモンスター。

 最後の試練を預かる者であり、怪力と高い魔力によって、命からがらたどり着いた勇者のトドメを刺す役目を与えている。


 以上が、我が召喚した自慢のモンスターたちだ。


 ちなみに別に我はモンスターを使い、世界征服など企んでいるわけではない。

 あくまでこのモンスター達は、我が聖剣にふさわしきものを見定めるために用意したものだ。


 ごほん……。


 では、早速呼ぶとしよう。


「守護竜ガーデリアルが命じる! 来たれ! 我が配下たちよ!」


 突如、辺りが黒くなる。

 暗雲が立ちこめ、雷の轟音が響いた。

 どこからともなく風が吹き、我が龍鬢を翻す。


 カッと稲光が光る中、我は洞窟の入り口を注視した。


 うん?


 おかしい。


 なかなか出てこない。


 聞こえなかったのか?


 ガシャーン!


 ええい! 雷、うるさい!

 お前らはあっちへ行け。しっしっしっ。


 空から雲が散っていく。

 改めて呼んでみた。


「出でよ! 我が自慢の配下たちよ!」


 しーん。


 ぬぬぬ……。


 出てこぬ。


 そもそも召喚してから3000年。

 思えば1度も会っておらぬ。

 たまには親睦をかねて、飲み会ぐらい開いてやっても良かったかもしれぬ。


 おそらく死んではおらんと思うのだ。

 3000年の間、試練を越えてきたのは、先ほどの勇者(クズ)なのだ。


 いないはずはないのだが……。


 ならば安否確認だ。

 神々の恩恵がなくなったとはいえ、我には3つの力がある。


 1つ目は、勇者(クズ)に放った炎息(ブレス)だ。

 如何な勇者といえど、一瞬で消し炭にする性能を持っておる。我が自慢の能力だ。


 2つ目は『千里眼』。

 遠い場所を見ることが出来る魔眼。目をこらせば、透視をすることも出来る。

 外からやってきた勇者を見張るためのものだ。


 最後は『念話』。

 声を飛ばすことが出来る能力だ。

 有効半径はよくわからぬが、千里眼で見える範囲なら呼びかけることが出来る。

 我は主に『千里眼』と『念話』を使い、勇者を監視し、念話を使って話しかけてきた。

『ふはははは! よくぞ来た、勇者よ。覚悟があるならば、我が試練を越えてみせよ。さすれば、そなたの願いは聞き届けられるであろう』

 こんな具合に、我が威厳と畏怖を振りまいてきたのだ。


 我の能力の説明はこんなところで良かろう。


 早速、我が召喚したモンスターの様子を見てみようではないか。


『千里眼』発動!


 我の視界にダンジョン内が映し出される。


 思った以上に、ごちゃごちゃしてるなあ。む。3000年前に仕掛けた魔法灯が切れておる。交換せねばならんか。あれ? こんな道があっただろうか? そういえば、1200年前と800年前に地震があったな。その時に、ダンジョンの形状が変わったのか。


 ダンジョンは3000年前と比べて大きく変わっていた。

 たまには様子を確認せねばならんな。

 少々無関心が過ぎたか。


 勇者が来ない間、我がすることといえば、寝ることと蟻の巣をほじくり返すことであったからな。そもそも我が役目は聖剣の守護。ダンジョンの管理は仕事ではない。つまり、言わなかった神が悪いのだ。


 ダンジョンの様子をくまなく観察していると、ふとある者を見つけた。


 女子(おなご)だ。


 すぐ近くにいる。

 ダンジョンと我がいる頂上付近との間に、小窓のような隙間があり、人間の女子が我の方を熱心に見てる。


「そこの少女よ。いるのはわかっておる。大人しく出てくるがよい」


 我が大きな顎門を開けて、叫んだ。

 少女は一瞬ぴくりと肩をふるわせた。

 隙間から這い出てくる。


 現れたのは、三角帽を被った少女だった。

 黒い外套と格好からしても、おそらく魔法使い――それに類するものであろう。


 年の頃は14、5歳か。

 ブラウンの髪を肩口で切りそろえ、長くなった部分を髪留めで止めて後ろへ流している。目は赤く、やや伏せ目がちでぼんやりとしていた。若い故、女性としてのボリューム感が足りぬが、なかなか整った容姿をしておる。


「そなたを何をしていた?」

「見てた」


 初めて少女は声を出す。

 眠たげな瞳と相まって、鼻声に近いが、なかなか耳をくすぐってくれる。


「何を見ていたのだ?」


 我が尋ねると、少女は指をさした。


 我をだ。


 それはそうであろう。

 ここには、聖剣と守護竜(われ)ぐらいしかおらんのだ。

 ダンジョンの隙間からバードウォッチングなどしないであろう。

「して――? 我を観察して何をしようというのだ。我の寝首でも掻こうと見張っていたのか。そもそもここは試練のダンジョンだ。お主のような年端もいかない少女が来るところではない」

「そんなことはしない!」


 少女は初めて大きな声を出した。

 思わぬ反撃に、我は翼を広げて驚く。


「では、どうして……?」

「……それは――――」

「んん? 聞こえなかった。もう1度、言うがよい」


 長い首を下ろし、よく聞こえるよう前に伸ばした。

 ふん、と鼻息をこらすと、短めの少女のスカートが翻る。


 白だった。


 少女は慌てて隠す。

 顔を赤くし、しなを作った。


「す、すまぬ。わざとではないのだ」


 全力で少女は首を振る。

 そして、こう言った。


「いい。ガーデリアルに見られるなら、構わない」

「はっ?」

「だって、ガーデリアルのことが…………好きだから」


 …………。

 …………。

 …………。


 なに?


 今、なんと言った?


 我が好き?


 好意があるというのか。


 人間が?


 竜族に?


「待て待て。好きとはどういうことか?」

「ニーアの名前はニーア・ベンダブラー」


 唐突な自己紹介が始まった。


「ニーアは竜マニア」

「竜……マニア…………?」

「ニーア、竜が好き。3度の飯よりも好き。無人島に持って行くなら竜を持って行くほど好き目に入れたいぐらい好き家族の命と竜どっちを取ると言われたら迷わず竜を取るほど好き」


 いや、最後のは人としてどうなんだ。

 せめて迷ってやれ。

 親が泣くぞ。


「つまり、お主は竜マニアで我のことは竜として好き、と」

「竜として好きというより、恋人にしたいほど好き」

「待て。お主は人で我は竜だぞ」

「愛さえあれば大丈夫」


 どうしたものか。


 この女子、目が本気だ。

 真剣に我のことを好いているらしい。

 悪い気はしないのだが、こう一方的に愛情表現とかされると、なんというか我としては実に戸惑うのだが。


「一応、聞いておきたいのだが、我のどこが好きなのだ」

「大きな手と、大きな口と、大きなお腹……」

「ほう」

「――で、潰されるのがニーアの夢!」

「死ぬわ!」

「大丈夫。そのために鍛えてる」


 ニーアは力こぶを見せる。

 多少腕には自信はあるようだが、柔な少女の細腕にしか見えない。

 我が手を振るえば、紙のように押しつぶされるであろう。


「あと、昨日の炎とか受けたい」

「黒焦げになりたいのか!?」

「大丈夫。鍛えてる」

「炎を筋肉で防げるものか!」


 ――って、ちょっと待て。


「そなた、もしかして昨日の炎を見ていたのか?」

「見てた。勇者が真っ黒けだった。ガーデリアル、凄い!」


 我は絶句する。

 幼気な少女が勇者の殺害現場を見ていた。

 3000年も聖剣を守護してきた竜が、試練をクリアした勇者を殺したのだ。

 もし、それを広く世に知らしめれば、守護竜としての沽券に関わる。


 いやいや、落ち着けガーデリアルよ。


 そもそも邪竜上等と神に啖呵を切ったばかりではないか。

 今さら動揺するな。

 だいたいこの少女が、皆に言いふらさなければいいのではないか。


 そうだ。ここで亡き者にしてしまえば――。


「ガーデリアル、どうしたの?」


 ニーアは首を傾げて、斜め45度から我を見つめた。


 だあああああああああああああ!!


 ダメだ! こんな少女を殺すのは、やはり竜としての誇りが許さぬ。


「ガーデリアル」

「な、なんだ?」

「触っていい?」

「さわ……。我は見世物小屋にいる小動物では――」


 我が注意する前に、ニーアはペタペタと腹をさすっていた。


「おお。意外と柔らかい」

「ニーアとやら。我の言うことを聞け」

「ガーデリアル」

「な、なんだ、今度は?」

「かゆいところ掻こうか?」

「え?」


 すっかり忘れていた。

 そういえば首の後ろがかゆいんだった。


 おおう……。


 なんか思い出したら、無性にかゆくなってきた。


「それも見ていたのか」

「見てた。ガーデリアルが必死になって掻こうとしているの、可愛かった」

「我は猫ではないぞ!」


 この間も、ますますかゆみがひどくなっていく。

 かゆすぎて、気が狂いそうだ。


 ニーアを見る。

 へへへ、と笑った


 そんな勝ち誇ったような笑みを浮かべるな。

 我はしばし考えた後、首を垂れた。


「お願いします」

「わかった」


 いそいそとニーアは我の背に乗る。

 所定のポイントにくると、かりかりと掻きだした。


「ここ?」

「も、もうちょっと上」

「ここ?」

「あ。そうそう。そこそこ……。ああ、気持ちエエんじゃ」


 我は幸せそうに目を細めた。

 あまりに気持ち良く、顎を地面につけ、ゴロゴロモードになる。


「ねぇねぇ。ガーデリアル」

「なんだ、ニーア」

「1つだけお願い」

「むむ……。まあ、良かろう。嫁にしろというのはなしじゃがな」


 かゆいところを掻いてくれたしな。

 お礼ぐらいはせねばなるまい。


「ガーデリアルの側にいさせて」

「まあ、それぐらいなら良かろう」


 その時は、あまりに気持ち良くて、相づちを打ったが……。


 あれ? 待て。


 つまり、ここに住むということか?


本日の投稿は以上になります。

明日はお昼に投稿予定です。よろしくお願いします。


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