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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第2章 竜を守る乙女たち

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第29話 シャワー室を作れ!

先にいっておきますが、サブタイのような台詞がいいません。

「ふふ……。あっははははははっ!!」


 目も眩むような雷撃が視界を覆う中、哄笑は聞こえてきた。


 真っ白の稲妻の中で影が揺れる。

 風魔人の巨漢がゆっくりとニーアたちに近づいてきていた。


「まさか……」

「効いてない!」


 S級のさらに上位である戦略級魔法。


 我の魔力を注いだ最強の一撃であることは間違いない。

 それが効かないとなれば、本格的に戦略を練り直しが必要になってくる。


 だが、魔法を使用した大魔導は、手応えを感じていた。


「大丈夫です、主」


 その忠告通り、魔人の進行は止まる。

 膝を突く――というより、足が崩れ落ちた。


 ホッと息を吐く。


 しかし、激しい雷音が響く中、ジンの声は風のダンジョンに響き渡った。


「ガーデリアル! よく聞け! 俺様を倒しても無駄だ」

『どういうことだ?』

「ここのダンジョンを潰しても、根本的な問題は変わらないという意味さ」

『…………』

「いずれわかるさ……」


 それが風魔人ジンの最後の言葉となった。


 大雷は収縮する。

 光に包まれたダンジョンは、元の薄暗いダンジョンへと戻っていった。


 ジンは消滅した。


 かすかに残った滓は、洞窟の中を吹き抜けてきた風に乗り、散らされる。

 風の魔人にふさわしい最後だった。


「最後の言葉、気になる。ガーディ、どういうこと?」

『わからぬ』


 ニーアの質問に、我は首を振った。


 すると、フランはペタリと尻餅をつく。

 慌ててニーアは妹分に駆け寄った。


「大丈夫、フラン?」

「はい。すいません。終わったと思ったら、気が抜けちゃって……」

『うむ。ともかく、ダンジョンマスターは倒れた。よくやったな、皆の者。特に大魔導、今回はよく活躍してくれた。そなたを召喚したことは間違いではなかった』

「ありがたきお言葉です、主。これからも誠心誠意、主に尽くすつもりです」


 大魔導は傅く。


 その横でニーアはしょんぼりしていた。


「大魔導、凄かった。でも、ニーアはあまり活躍出来なかった」

『そんなことはない。ニーアがいなかったら、と思う場面はいくつもあったぞ』

「そうですよ! スケルトンからフランを守ってくれたのは、ニーアさんなんですから」

「そう? ニーア、凄い?」

「ええ!」

『そなたの身体を見てみよ』


 ニーアはボロボロだった。


 マントには穴が開き、手には無数の擦過傷。

 頭から泥を被り、頬は煤で黒くなっていた。


 今の妻を見て、活躍していなかったなどというものなどおるまい。


『よくやったな、ニーア。エラいぞ』

「えへへへ……。帰ったら、一杯ペロペロしてね」

『今から舌の先を唾液でベトベトにして待っておるから、早く帰ってこい』


 我はジュルリと啜った。


 少し気落ちしていたニーアの機嫌が戻る。

 ふふん、と笑った。


「相変わらず主とニーア様はお熱いですな。それに比べて、私は――」


 ニーアの機嫌が良くなったかと思ったら、今度はデュークだ。

 励ましたのはフランだった。


「何を言っているんですか。デュークさんが駆けつけてくれなかったら、私たち今頃死んでたかもしれないんですよ」

「そ、そうでしょうか……」

「デューク、ナイスタイミング」


 ニーアは親指を立てる。


「一番役に立ってなかったのは、フランです」

『フランには今から役に立ってもらう』

「え?」

『早く帰ってきて、我にレオボルドの燻製肉を食わせてくれ』

「あ、はい。……喜んで!」


 あとモフモフも試してみたい。


 やっとペロペロかモフモフか、試せる日が来る。

 今から、楽しみだ。


「さて、皆様が活躍したとわかったところで戻りますよ」


 大魔導はそう結ぶと、ようやく帰途に付いた。




「ガーディ!!」


 試練の洞窟を抜け、戻ってきたニーアはいの一番に走り出した。


 我の巨躯にすがりつく。

 頬の肉がこそぎ落ちるのではないかと思うほど、スリスリした。


「やっぱり本物がいい」

「お主に渡した鱗も、我のだぞ」

「はじめは良かった。けど、この鱗にはぬくもりがない」


 真顔で言った。


 よっぽど溜まっていたのだろう。

 たまりに溜まった鬱屈した気持ちを吐き出すように、ニーアは我の腹に甘えた。


「ニーアには寂しい思いをさせてしまったな」

「うん。ニーア、寂しかった。ガーディは?」

「当たり前であろう。寂しかったぞ」


 念話や千里眼で常にニーアのことを確認していても、我は寂しかった。

 胸が張り裂けそうなぐらいにだ。


 我は恋する生娘のようにニーアの帰還を待ち望んでいた。


「我も動けたらいいのだがな」

「ガーディは宝物ドラゴン。このタフターン山にいつも寝転がっているから魅力がある」

「そんなものだろうか。例えばだ、ニーア。大魔導に我を人間にする魔法を開発させてだな――――」


 ごごごごごご……。


 一瞬にして、空気が変わった。

 先ほどまで火傷するぐらい熱々だった雰囲気が一気に氷点下へと落ちていく。


 すると、ニーアは我の腹に埋めた顔を上げた。


 オフホワイトの瞳を我の方に向ける。


「ガーディ……」

「は、はい……」

「そんなことニーア(読者)が許さないから」


 気のせいだろうか。

 ニーアとは別の単語が聞こえたような気がするが。


 疲れておるのだろうか。


 ほとんど寝ずに千里眼を使い続けていたからな。


「に、ニーア。我が人間になったら何かと便利と思わんか?」

「思わない」

「し、しかし――」

「ダメったらダメ」

「は、はい」

「なら、いい……。ガーディ、大好き」


 すると、元のニーアに戻っていた。


 再び腹をスリスリする。


 よ、よくはわからぬが……。

 2度といわないでおこう。


「ところで、ニーア」

「なに?」

「そろそろ我にもペロペロさせてくれ」

「うーん。今はダメ」

「な、何故!?」


 我は狼狽した。


 こっちは早くペロペロしたくて溜まらないのだ。

 そもそもニーアがいない間、あまりにペロペロしたくて、その辺の岩をツルツルになるまでペロペロしていたのだ。


 なのに……。


 お預けなんてあんまりではないか。


 もしかして、さっきの発言が尾を引いているのか。

 ああ……。人間になるなんていうんじゃなかった。


「ニーア、正直に言ってくれ。まだ怒っておるのか、先ほどの発言。怒っておるから、ペロペロさせてくれぬのか?」

「違う」


 ニーアは首を振った。


 すると来ているマントを広げた。


 そして「見て」という。


「ニーア、ボロボロ……。今、舐めてもおいしくない」

「そ、そうだな」

「だから、今から身体を洗ってくる。待ってて――」



 ずきゅぅううううううぅぅぅぅぅぅぅぅうううううう!!



 瞬間、我の鼻から盛大に鼻血が吹き出した。


 バンバン、と思いっきり顎で地面を叩く。


 主、落ち着いてください! とデュークの声が遠くで聞こえたような気がした。


 これが落ち着いてられるか!!


 我にペロペロしてもらうために女子(おなご)が身を清めにいくのだぞ。

 平静でいられる竜がいるだろうか。


 なあ!?(威圧)


 もう辛抱たまらん!


 我は顔面を血まみれにして、やっと落ち着いた。


「な、なるべく早くな」

「うん。でも、麓の川まで行くからちょっと遅れるかも」

「う、うむ。仕方あるまい」

「ガーディも顔を洗ってね」

「わかった。我も綺麗にして待つ」


 そうして、ニーアはフランとともにタフターン山を降りていった。

 それを確認した後、我はクリーチャーどもを呼んだ。


「オヨビデスカ、アルジサマ」

「観光用のルートの方に湯浴みが出来る施設を作りたい」

「リョウカイシマシタ。タダイマ、オコナッテイル。クンレンジョ ノ サギョウガ オワリシダイ トリカカリマス!」

「ダメだ! それでは遅い! 今すぐ取りかかれ」

「クンレンジョ ノ ヨテイガ オクレマス」


「かまわん!」


「あ、主よ。ちょっとお待ち下さい。訓練所は私の悲願なのですが」

「うるさい! 湯浴み室の方が大事なの(ヽヽ)!」


 我は烈火のごとく瞳を燃え上がらせるのだった。


ガーデリアルが順調に壊れていっている……。

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