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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第2章 竜を守る乙女たち

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第21話 竜の料理人、覚醒する。

ポイントが4000ptを越えました!

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます!!

 冒険者どもを招くとなれば、それなりの餌が必要だ。


 我が元には、聖剣と正体不明の名剣が存在し、撒き餌にするつもりだった。

 邪竜という悪も、名誉を求める一部の冒険者たちには、さぞ魅力的に映るであろう。


 だが、聖剣や竜が冒険者どもを熱狂させるものであるなら、我は今頃こんな苦労はしていない。


 おそらくこの時代にとって、我も聖剣もまさしく時代遅れの代物なのだろう。

 大変忌まわしい事実ではあるが、時の流れを覆すことは容易いことではない。


 故に何か新しいことをやろうと我は考えていたのだが、よもやこんなに早くヒントが見つけるとは思っていなかった。


 我は念話で2人に話しかける。


『ニーア、フラン……。プラン変更だ。我の指示通りに喋るが良い』

「わかった」

「は、はい。頑張ります」


 現在、2人は揉みくちゃにされていた。

 竜の守護を受けた冒険者志望の出現は、瞬く間にギルドの待合室に広まる。


 2人のカードは、冒険者たちの羨望の眼差しを受けていた。


「本当だ」

「竜の力だ。本当にこんな特殊補正があったなんて」

「子供がAクラス?」

「いや、もう1人はSクラス間近だぜ」

「すげー!」

「子供だろ。Gクラス冒険者だとして……」

「プラス補正が“6”引き上がるなんて、聞いたこともねぇぜ」


 いいぞ。煽れ。煽れ。


 もっと我が加護を崇め奉るがいい。


 竜の力の価値を上げるのだ。


 頃合いを計り、ニーアに念話で話しかける。

 我の考えを打ち明けると、我が妻は頷いた。


「そんなに竜の力、すごいの?」

「凄いなんてものじゃありません。そもそも竜の加護を受けてきた人を見るのも、みんな初めてなんですから」


 獣人の受付嬢が、ふんと鼻を鳴らしていった。


 ニーアはぼんやりとした眼を上げる。


「竜の加護を受けられる場所を知ってるよ」

「ホントですか!?」


 受付嬢はおろかギルドにいる冒険者全員が、聞き耳を立てた。


「タフターン山にいけばいい。そこの竜に頼めば、力を貸してくれる」

「マジかよ!」

「タフターン山ってどこだ?」

「ここから南東にある山だろ」

「確か竜がいたぞ。お昼寝ドラゴンっていう」


 近くの冒険者が飛び上がった。

 騒然とした空気に再びギルドは包まれる。


「ただし竜が認めた人だけどね。生半可な装備じゃダメだよ」

「な、なるほどな」

「一理ある」


 フランが見かねて付け加えた。


「宿は近くにミーニク村という場所がありますから、そこをベースキャンプにするといいですよ」

「獣人のお嬢ちゃん、ありがとうよ」

「早速、行こうぜ」


 どかどかと冒険者たちは、ギルドを出ていく。


 すると、突然酒瓶が割れるような音が聞こえた。


 皆の視線が音があった方向へと向けられる。


 1人の紫髪の女が、机に椅子を投げ出し座っていた。

 冒険者でごった返してるギルドの中にあって、その女の周りだけスペースが空いていた。


 ほう……。


 千里眼で見ながら、値踏みする。


 かなりの使い手だな。

 雰囲気でわかる。


『気を付けよ、ニーア』

「わかってるよ、ガーディ」


 女は立ち上がり、2人の方へとやってきた。


 人垣が海のように割れる。


 骨が剥き出しになったような白い肌。

 やたらと長くなった前髪を2つにわけ、口元にピアスをはめている。

 線は細く、露出したお臍と胸元は否応なく男の視線を集めていた。

 軽装で防具は少なく、代わり腰には二振りの短刀を差している。


 鞘同士が当たって、女が歩く度に乾いた音を立てていた。


 2人の少女の前に立つと、口角を上げた。

 黒い三白眼を光らせる。


「へぇ。可愛い冒険者様だねぇ」


 女はピッと他の冒険者の手元にあったニーアのカードを見つめた。


 三白眼を一層細め、やがて投げて返す。

 ナイフのように投げられたカードを、ニーアは受け取る。


「竜の加護か。なるほど。興味があるね」

「ならタフターン山に行けばいい」


「けどね。そんなにあっさり信じるほど、冒険者家業は甘くない。特に子供ながらで、竜の力なんて持ってる冒険者は胡散臭くてたまらない」


「ニーアたちが信じられない?」


「タフターン山といえば、先日騎士団の侵攻があったばかりだ。表向きは山賊退治だって聞いてるけど、それから音沙汰はない。何かあったって考えるのが、当たり前だろ?」


 なあ、と他の冒険者に同意を求める。

 常軌を逸した眼力に、他の者は完全に射竦められていた。


 おそらくこの辺りでは有名な冒険者なのだろう。


『ニーア、名を聞け』


 我は念話を飛ばす。

 この手の輩はもったいぶるかと思ったが、女はあっさりと自己紹介した。


「あたしかい? あたしの名前キヌカだよ。蜘蛛のキヌカという名前を聞いたことがない?」

「ない。それでキヌカ。どうしたら、ニーアを信じてくれる」


 その言葉を待っていたよ、と言わんばかりに、キヌカは口角を歪めた。


 近くに立っていた冒険者の懐からナイフを抜く。

 壁に向かって投擲した。

 見事、1枚の手配書に刺さる。


 それは森で暴れ回っているモンスターを倒す依頼書だったが、条件としてBクラス以上の冒険者と書かれていた。


「こいつはこの辺で最近暴れ回っているモンスターでね。何人かこのギルド出身の冒険者を殺してる。こいつを殺せたら、信じてやるよ」

「キヌカさん、初心者にBクラス冒険者以上の難度のクエストは難しいですよ」


 2人をかばったのは、獣人の受付嬢だった。


「そいつらはBクラス以上の冒険者の資質を持っているんだろ。これぐらいちゃっちゃとこなしてもらわないと――」

「わかった」

「に、ニーアさん」


 慌てたのはフランだった。

 激しく尻尾を振って、あわあわしてる。

 同じく獣人の受付嬢も、尻尾をピンと立てた。


「危険ですよ、ニーアさん」

「大丈夫。ニーアは強い」


 自信満々にニーアはVサインを掲げた。




 ニーアたちは早速、モンスターがいる森に行った。


「あの……。フランもついてきていいんですか?」

「フランは今のニーアのパートナー……。だから、付いてきて欲しい」

「でも、足手まといじゃ」

「大丈夫。ニーアも強いし、フランも同じぐらい強い」


 フランは項垂れる。


 やはりまだ自信が持てないらしい。


 森の中を黙々と歩いていたフランは、ふと立ち止まる。

 強い植物の香りに混じって、ひどく獣性のある匂いが鼻腔を突いたのだ。


「ニーアさん、立ち止まってください」

「ん?」


 瞬間、影が茂みの奥から飛び出した。

 ニーアに襲いかかると、小さな身体が吹き飛ばされる。


『ニーア!』


 我は割れんばかりの声で叫んだ。


 しかし、妻は起き上がらない。


 フランは駆け寄ろうとした瞬間、影に阻まれた。


 現れたのは、四足歩行の魔獣だった。

 獅子のような鬣に、虹彩のない黄色の瞳。

 足を太く、先についた爪は常に地面にめり込んでいた。


『レオボルドか。厄介なモンスターだな』


 平地や森に住み着くモンスターで、高い俊敏性を誇る。

 しかも、この個体は我が知っているレオボルドより一回り大きい。


 おそらく人間を食って、成長したのだろう。


 レベルも通常よりも高いはずだ。


 なるほど。

 Bクラス以上という条件が付けられるわけだ。


『フランよ。そなただけが頼りだ。我が妻を助けてくれ』

「は、はい……。でも――」


 フランはダマスカスナイフを引き抜く。

 柄を持つ手は震えていた。


 一方、レオボルドは走り出す。

 恐怖に震える少女の姿を楽しむように、周りを走り始めた。


 速い。


 攪乱し、一気にフランの喉元に喰らいつくつもりなのだろう。


「見えない……」

『フランよ。ならば目をつぶれ』

「でも、見えなかったらモンスターを倒せません」

『今のそなたでは見えていても、モンスターを倒せぬであろう。ならば、同じ事をではないか?』

「確かに……」


 フランは震える膝を見ながら頷いた。


『我がそなたの目となろう。そなたは我がいった方向にナイフを振るうが良い』

「わかりました」


 フランは目をつむった。

 瞼の裏の世界で、レオボルドが幹や土を蹴る音だけが響き渡る。


 瞬間、音が変わった。


『フラン、右に斬りつけよ』


 我の言葉に迷わず、フランはナイフを放った。


 レオボルドの悲鳴が響く。


 浅手ではあったが、モンスターの足にナイフがかかり、動きを止めた。

 血を流しながら、レオボルドはフランの周りを慎重に歩き出す。


 少女を好敵手と認めたのであろう。

 先ほどまでいたぶろうとしていたモンスターの表情ではなくなっていた。


『フランよ。今度は目を開けよ』


 フランは大人しく瞼を開けた。

 荒い息を吐きながら、周りを回るレオボルドを見つめる。


『少し落ち着いたか?』

「はい。でも、レオボルドさん、怒ってます」

『うむ。それだけわかれば上等だ。では、フラン。今度はよく見るのだ』


 言われた通り、落ち着いてレオボルドに目を凝らした。

 我は話を続ける。


『そなたは我が料理番(ダイナー)だ。こう思えば良い。このモンスターを我に供するには、どうすれば良いか? どこに刃物を入れれば一撃で仕留め、血抜きをし、皮を剥ぐことができるか』


 小さな少女の瞳が、みるみる輝いていく。

 フランはダマスカスナイフを握りしめた。


「わかります! どうやったらレオボルドさんを捌くことができるか」

『うむ。ならば行け! 後はお主の身体が教えてくれよう』

「はい!」


 フランは飛び出した。

 その動きに迷いも恐怖もない。


 レオボルドは真っ直ぐ向かってきた少女を慌てて迎え撃つ。

 爪を立て、飛びかかった。


 だが、フランの方一瞬速い。


 モンスターの腹に潜り込む。

 ダマスカスナイフを逆手に持ち替え、あらかじめ示された軌道をなぞった。


 気が付けば、レオボルドの頸動脈を差し貫いていた。


 パッと散った血を浴び、フランの意識は覚醒する。

 いつの間にか、レオボルドが絶命していた。


 くたりと力無く倒れる。


 フランはレオボルドの腹から這い出ると、荒い息を吐き出す。

 自分が討ち取ったモンスターを凝視した。


「やった! ……やりましたよ、ガーディ様」

『うむ。よくやったな、フラン』


 フランは尻尾をピンと立てる。

 すると、ぴょんぴょんと森の中を犬のように駆け回った。


料理人という直死の魔眼能力が覚醒ですw

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