第12話 死体付与召喚
日間総合は30位。
もっと高見を目指すために頑張ります。
タフターン山の麓ミーニク村。
先日、村長と村を守る衛士、数人の若者が殺された村である。
その村人全員、集落の中央に集められていた。
一様に不安そうな顔をし、タフターン山の方を向いている。
しばらく待っていると、声が雷のように聞こえてきた。
『ミーニク村の者どもよ。我は守護竜ガーデリアル。タフターン山で聖剣を守るものだ』
おお、とどよめきが起こる。
信仰あるものはその場に跪き、ないものは立ちつくした。
『聞いていると思うが、我は先日貴様らの村長と村の衛士、我に刃を向けた3人の若者を誅した。これは守護竜に刃向かった報いである』
しかし――。
『貴様らは村長という代表者をなくし、さらに自衛の手段さえなくなった。村が脅威にさらされていることは事実である。……よって、我がこの村を統治するものとする』
「竜が統治?」
「俺たちの村をか?」
「そんなことが出来るのか?」
村人たちは口々に疑問を呈する。
静まれ、という嵐のような声が聞こえ、村の者たちは口を閉ざした。
『統治といっても、我が村に乗り込むことはない。代表者を立てたければ、そうすればよい。有り体にいえば、貴様らは普通に暮らしておれば良いのだ。まあ、いくつか我の命に従ってもらうことになるが、その代わり我はそなたらに4つの約束をしよう』
「4つ?」
『1つは王国に収めている税を納めなくてよいこと。我が統治しているのだ。当然であろう。もし徴税官が来ても、文句なら我にいえとでも言っておけ』
「税を納めなくていいのか」
「見返りは?」
「また生け贄を……」
竜の吠声が村人の耳を貫いた。
『生け贄など我には不要だ。我は人間を食さん。今度、同じことをやれば、村が灰燼に帰すと思え』
悲鳴が上がる。
首を竦め、村人たちは第2の約束を聞いた。
『2つ目はお主たちを守ると約束する。自衛の手段がない今、お主たちにとっては都合が良かろう。竜の加護ほど心強いものはないはずだ』
「おお!」
「ありがたや。ありがたや」
竜信仰の厚い老人を中心に、頭を下げる。
『3つ目……。借金の帳消しだ』
「「「「「――――――!!」」」」」
村人の大半が息を飲むのを感じた。
それまで憎々しげに山を見つめたものも、ハッと顔を上げ、熱烈な視線を送る。
老人、老婆、子がいる親ですら握った手を話し、耳を傾けた。
竜の小さな笑い声が聞こえた。
実は、ミーニク村のもののほとんどが、何らかの借金を背負っていた。
それはタフターン山の観光事業の時、多くの観光客が集まると聞いて、様々な商売に手を付けたつけだった。
徴税と借金、頼りの若者も出ていく一方の状況に陥っている。
それがミーニク村の状況だった。
しかし、その三重苦のうち、徴税と借金がなくなる。
村人にとって、それは悪魔の囁きよりも魅力的だった。
『先ほどの徴税と同様だ。そなたらは我が統治下に入った。王国下で不当に搾取されたものを払う必要がどこにある』
「しかし、竜様。税とは違って、借金は商人相手です。もし、借金を帳消しになんかしたら、商人たちがどんな報復に出てくるか」
村の中では比較的若そうな――といっても40代前半だが――男が、竜に意見をした。
『ほう。それに気付く者がいるのか。貴様、名は?』
「ハーバラドです」
『貴様が村の代表をやるが良い』
「いえ。私が代表者など……」
『あのような前任者でも務まったのだ。貴様にでも出来るだろう。今後は貴様に我が指針を言い渡す。いいな』
「ちょっと待って下さい。まだ村は竜様の統治を認めてはいません」
『なに。次の話を聞けば、お主たちも納得するであろう』
3つ目そしてハーバラドの疑問にも関連すると、前置きした上で4つ目の約束を話した。
『この村にかつての賑わい取り戻す』
「その方法とは?」
ハーバラドが尋ねた。
竜は喉を鳴らした後、応えた。
『もうすぐ我の元に幾多の兵士、冒険者、はたまた勇者が挑みにやってくるであろう。そうすれば必ずこの村を逗留地や拠点と考えるものが出てくる。――で、あるなら何が必要になる?』
「宿屋ですか?」
「それだけじゃねぇ」
「道具屋だって必要だ」
「武器や防具」
「研ぎや修理も必要になる」
勝手に村の者は口々に言い合う。
死んだ魚のような目をしていた瞳に、みるみる活力が宿り始める。
ハーバラドはポンと手を叩いた。
「そうだ。宿屋は観光地の時に利用してもらった空き屋を利用すればいい。道具屋も土産物店が使える。――つまり、初期投資を押さえて、商売が出来る」
『新しい商売をするから金をくれといっても、商人たちは渋るだろう。しかし、少ないお金で新しい商売をするからといえば、商人たちも考える』
そもそも商人としても、借金の回収は急務だ。
このまま細々と返済されるよりは、多少痛手でも確実な返済のプランがある方が安心できる。
村の者の中から「いけるぞ」という声が聞こえた。
歓声を上げ、我に賞賛を送る者たちが現れる。
次第に「ガーデリアル万歳」というシュプレヒコールが巻き起こった。
「ガーデリアル様。では、我々はあなたに何を返せばいいのですか?」
明らかにハーバラドの態度も変わっていた。
『先ほどもいったが、いくつか頼み事を聞いてもらいたい』
「なんなりとお命じください」
『うむ。2つの噂を近隣の街や国に流して欲しい』
「噂?」
『1つは近く王国の騎士団が大規模な山狩りを行うこと。2つ目はタフターン山で起きていた一連の事件は解決したと流せ』
ハーバラドは少し考えてから質問した。
「タフターン山が平穏になったといえば、誰も来なくなるのではありませんか?」
『一時的な噂と心得よ。折って、お前たちには大々的に我の威光を知らしめてもらう』
「かしこまりました」
タフターン山の方を向き、ハーバラドは傅くと、他の村人も同様に忠誠を誓った。
こうして麓の村ミーニクはガーデリアルの支配下となった。
◆◆◆
「ふー」
我は息を吐いた。
ひとまず足元は安心だろう。
村長や村の若者を殺され、感情のまま我の甘言を否定するかと思っていたが、思いの外うまくいった。
免税や借金の帳消しという言葉は、ヤツらには相当甘い汁に見えたのだろう。
それに我の財政再生計画もはまった。
人は金だけでは動かぬが、はっきりとした目標を立ててやれば動き出す。
それが幸福な未来であるなら尚更だ。
がしゃん……。
突然、けたたましい音を響き渡る。
我の前に並べられたのは、警備兵や衛士から取り上げた武具一式だ。
「ガーディ、お疲れ」
ニーアがパンパンと手を叩きながら、我を労った。
後ろにはリンも控えている。同じく手に持った武具を下ろした。
「ご苦労だったな、ニーア、リン」
「取り置きしていたのは、これで全部。召喚する?」
「うむ。これだけあれば十分強いモンスターを呼び出せるだろう。ところで、例のものを用意しているか」
「あっち」
ニーアは指さす。
死体が無造作に置かれていた。
先日、ニーアと戦った兵士だ。
眉間に1発、腹と肩に1発ずつ銃弾を受けた痕がある。
ニーア曰く、銃弾を受けても、鬼神のごとく襲ってきたという。
魔法といい。しぶとさといい。
どうやらこの者、ただの兵士ではないようだ。
「この兵士さんの遺体どうするんですか?」
尋ねたのはフランだった。
鼻と口を布で覆っている。獣人族ゆえに匂いに敏感なのだろう。
ただ少し寂しそうに見つめている。
元々村の衛士だ。何か思い入れがあるのかもしれない。
「こいつも媒介の1つとして召喚するのだ」
「おお。死体付与召喚」
最近、刺激的な生活を送っているためか。
我もだいぶ記憶を取り戻してきた。
死体付与召喚とは、その名の通り死体を媒介に使った召喚である。
かなり強いモンスターを呼び寄せることが出来る召喚だが、いくつか制約が存在する。
1つは宝物との関連が深いこと。
2つめは一定の強さがあること。
最後は亡霊系のモンスターに限られること。
2つめの一定の強さというのが、線引きが難しく、なかなか不確定な召喚方法なのだが、我はこの者ならモンスターを召喚できると踏んでいた。
「この者の武器はあるな?」
「これー」
ニーアが差し出す。
なまえ :ロングスピア +14
Lv :14
いりょく :C たいきゅう :D+
とくしゅ :たいきゅう+ じゅうりょう :D
やはり使い手が良いと、武器のレベルの高くなるのだな。
これだけでもそれなりのモンスターを召喚できるだろう。
少々もったいない気もするが、より強いモンスターを配下にするため仕方がない。
次戦では大勢の敵と戦うことになる。
ニーアだけでは難しい。妻ほどとはいわないが、匹敵する程の戦力が必要だ。
そのニーアは魔法円を書く。
さらに兵士の遺体を乗せ、さらに武具を重ねておいた。
「出よ、我が眷属。我のさらなる力となるがよい」
魔法円が光る。
赤い光が辺りを包んだ。
武具と兵士の遺体が円の中に飲み込まれていく。
やがてせり上がってきたのは、鎧に身を包んだモンスターだった。
鎧のモンスターは辺りを窺う。
我の方に顔を上げると、そのまま傅いた。
「召喚に応じ参上しました。どうか主よ。我に下知を」
「ほう……。言葉が喋ることができるのか。これは頼もしい」
我は千里眼でモンスターを確認した。
なまえ :さまよえる騎士
Lv :24
ちから :B ぼうぎょ :A+
ちりょく :C+ すばやさ :E
きようさ :E うん :F
けいけんち:255 ませき :B×2 C×5
じゃくてん:ひかり
強い。強いぞ!
勝てる。
いや、これは余裕の勝利ではないか?
「くくくく……」
我は笑う。
腹の底から震えた。
ここからどんどん守護竜が悪くなっていく予定です。




