表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠片のそら  作者: さんくす
楽の国
6/59

1章–5 接敵

「それじゃ、オートパイロットにしてもらえるかな?」


 レインは言われるままにCOMPASS(コンパス)を自動操縦に設定する。

 一瞬通信表示がされた後、オートパイロットの文字が、視界の端に浮かんだ。


「良し、と。ありがとう。気を楽にして大丈夫だよ。ここからは一本道だから。着陸は自分でやってもらうけど、それまで休んでていいからね」


「わかりました。……でも、コーディさん。突然外敵に襲われたらどうするんですか?」


「こちらから遠隔操作して撤退させる。パイロットの命が最優先だから、COMPASS(コンパス)の全面シールドを展開して後退させるよ。襲われる恐怖はあるけど、下手に操縦させて墜落でもしたら目も当てられないからね……」


「なるほど……」


 会話が途切れ、沈黙が訪れた。レインは体を座席にあずけ直すと、軽く伸びをする。離陸してしばらくは自分の操縦だったためか、少し身体が固まってしまっていた。思っていたよりも緊張していたようだ。


「……レインくんは、怖くはないのかい?」


 ぽつりと、通信越しの声がした。質問というより、独り言に近い。レインはしばらく考えてから、答えることにした。


「怖くないですよ」


「……そっか。そうなんだ。すごいなぁ……」


 しみじみと呟くオペレーターに、ただならない気配を感じたレインは、続きの言葉を待つ。だが、コーディもそこで言葉を切ってしまっていた。

 しばらくの沈黙の後、コーディが、あぁ、と納得したような声を漏らす。


「面白い話じゃないよ?」


「構いません」


「……わかった」


 一拍の空白。優しい声が、レインに伝わってきた。


「僕も、元々はパイロット志願だったんだ。だったんだけど……それこそ、この実地試験の時にね、当時はもう少し安全圏が広かったんだ。その安全圏のギリギリまで行かなきゃならなかったんだけど、そこで、外敵に襲われた」


「外敵に……」


「うん。三人同時に試験を受けてたんだけど、その時に、僕以外の二人が、恐怖に駆られてオートパイロットを切って逃げ出そうとしたんだよね。それで……背中を向けたやつから順に撃墜された。僕はオートパイロットのままで生き残ったんだけど、それ以降、とてもじゃないけど乗ろうって気持ちにならなくてさ」


「そう、だったんですね」


 寂しそうな笑い声が届く。


「ごめんね。出撃中にこんなこと。私語を慎めってよく怒られるんだけど、なかなか治らないや」


 冗談めかして言うコーディにかける言葉が思いつかず、レインは再び注意を前方に向けた。

 そして、青空に浮かぶ黒点を、その視界に捉えた。

 レインは脳でその黒点の解析と拡大の指示を送る。COMPASS(コンパス)はすぐさまそれの解析を始めた。それと同時に再び通信が入る。


「レイン君、落ち着いて聞いてほしい」


 コーディだ。声が硬い。レインは己の予感が的中したことを悟った。


「外敵だ。数は2。距離2800。バルーンタイプが1とバードタイプがそれぞれ1ずつだ。絶対ではないとはいえ、安全圏で遭遇するなんて……君も運がないね」


 コーディからの通信とほぼ同時に解析が終わったようだ。先に告げられた通り、バルーンタイプとバードタイプの外敵だ。


 バルーンタイプの外敵は、風船のような球状で、下から紐のようなものを垂らしており、さらにその全体が装甲に覆われている。

 だが、装甲もくまなく覆っているわけではなく、隙間から緑や赤の光が明滅を繰り返しているのが見える。球の周りを囲むように取り付けられた4つの噴射口によって浮かび、姿勢を制御しているようだ。


 バードタイプの外敵は、自然にいる鳥を、機械と暴力によって塗りたくったかの様な出で立ちだった。

 とはいえ、その全長は翼を広げると、横にしたCOMPASS(コンパス)の半分にもなる。自然として在るならば怪鳥と呼ばれる類のものだろう。


 その怪鳥も、バルーンタイプと同じ様に黒い装甲によって全身を覆われている。とはいえ、バルーンタイプほど密に詰められてはおらず、配管が露出している部分が少なくなかった。

 しかし、バーニアは尾羽部分に取り付けられたものも含め16基。銃口が嘴の中に取り付けられていることを差し引いても、鳥の様に羽ばたきのみで飛行できることを考慮すると、過剰なほどの機動力を備えていた。


「それで、僕はどうすればいいですか?」


「どうもしない。常駐の部隊に討伐要請を送ったから、このまま君の試験を終了して引き返すよ」


「それは、再試験ということですか?」


「いや、これで終わりだよ。正直、離陸と着陸さえ上手くできればそれ以外はあまり……あれ、これ言っちゃダメだったかも」


「……聞かなかったことにします」


「あはは、ありがとう。それじゃなるべく急いで撤退させるね。幸い向こうさんにもこちらに気がついていないみたいだ」


 止まっていたレインの機体が、そのまま後退を始める。


「………………?」


 奇妙な違和感。誰かの無遠慮な視線を、全身に浴びているような不快感。

 初めは錯覚だと思った。緊張が緩んで、その残滓が身体にこびりついているのだと思った。

 だが無くならない。その違和感が拭えない。むしろ段々と強まっていくのを感じるほどだ。

 レインはほぼ無意識に、バードタイプの外敵に目を向ける。ズームアップされたそれを認識した時、レインは心臓が凍りつくような感覚を覚えた。


(こっちを見ている?)


 そんなはずはない、と脳の中で冷静な部分が叫ぶ。あれらに認識された時、こちらはロックオンされる。その際、アラートが鳴るはずだ。だから自分はまだ、敵に認識されてはいない――。

 ()()()と、バードタイプの嘴が開き、喉奥に取り付けられた砲門が覗く。そしてそこに、赤い光が収束していく。もう疑いようがない。


「オペレーター。自動操縦解除の許可をください」


 震える声を必死に抑え、レインが請う。しかし、ひどく冷たい声がレインを迎えた。


「絶対にダメだ。さっきの話を聞いてなかったのかな?もう二度と目の前で墜ちるなんて見たくないんだ。それに向こうには気づかれてなんかいないだろう?」


「……狙われています。映像を同期します」


 まずそれをすべきだったと、口の中に苦いものを感じながら、レインは映像をオペレーター側に送る。


「……了解。遠隔操作を開始。全面シールドを展開し、全力で後退します」


 ため息混じりに返ってきた言葉に、レインはただ俯いて了解と答えるしかなかった。しかし、先ほどより後退スピードは上がったように感じる。未だ視界から消えない外敵二機が気になりはするが――。


「……撃ってこないし」


 考えすぎだったのだろうか。しかし、現在この付近の空域にいるCOMPASS(コンパス)は自機のみのはずだ。だからあれは確実に自分を狙ったもの。


(おかしい。どうしてまだ撃ってこないんだろう?エネルギー切れとかかな?……それならそもそも飛べないか。うーん、それとも……)


 レインは弾かれたように顔を上げる。バードタイプは今や、全身から赤い輝きを放っている。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 バードタイプの尾から赤い光が頭に向かって引き始める。身体から光が薄まるごとに、嘴の中の輝きが異常なほど(まばゆ)くなっていく。始めは赤だった光は、今や色も判別出来ないほど輝いていた。

 そして、レインが、バードタイプが何をするつもりか理解するより早く、その膨大なエネルギーが、たった一機に向かって放たれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ