7話 一年後 その1
南条 アオバという男の人生が終わって、一年が経った頃、南条 アオバの肉体、知識を持つ新たな人生を歩む者が、目覚める。
まだ意識がハッキリとしない中、アオバは体を起こす。
俺はしばらくボーッとしていたのだが、俺のいる部屋のドアが開いたことによって、意識が徐々にハッキリとしてくる。
俺はドアの方を見た。
そこには、亜人のエルフが立っていた。
そのエルフは金髪に翠眼を持ち、可愛いと言うよりかは綺麗で、容姿はある所が出過ぎず、へっこみ過ぎずと言った感じで、歳は一七歳くらいだろうか?
「起きたのね。」と声をかけられ、ふと我に帰る。
さっきまで、見惚れてたのだ。
「初めまして。それであなたは?そして、ここは?」と質問する。
質問を受けたエルフは、「私はルーラ。そしてここは亜人達の楽園、リウル。」
「そうなんですか。それで、何で俺はここに居るんでしょうか?俺は、確かあの時…。ダメだ、思い出せない。」
思い出せないのではない、その記憶が存在しないのだ。
南条 アオバの知識で、結果としてこうなっていることは、理解できている。
「仕方はありませんよ。全ては戻せなかったのですから。それでも、感謝はしてくださいね。あなたは、内臓は全て飛び出して、全身の骨を複雑骨折、体はバラバラ、そして、なにより脳の損傷が大きかった。」
「そんなに酷い有様なのに、何故俺は生きている?」
その質問に応えたのは、ルーラではなく、おじいさんの声だった。
「それに関しては、ワシが応えよう。」と。
「単刀直入に言う。お主は一度死んだ。だが、ワシらがお前さんを生き返した。亜人のカガク技術によってな。」
亜人のカガク技能は科学技術でもあり、化学技術でもあった。
俺は一度死に、亜人のカガク技術によって生き返ったのは分かったのだが、人間が生きるには魂が必要不可欠な筈だ。
その魂はどうしたんだ?
その疑問は、口には出していないのだが、おじいさんには、分かったようだ。
「お前さんの魂は偽物だ。ワシらは擬似魂と呼んでおる。ワシらの技術が偶然作る事が出来た魂だ。それ故にお前さんの肉体と魂馴染むには、一年もかかったわ。ガッハッハ。」
俺は苦笑を浮かべた。
「すごいだろ?ワシらの技術は。お前さんの左目も、右手も、左足も全て作ったんだぞ。」
確かにすごい。
違和感がないし、言われなければ、義手や、義足だとは思わない。
「私もあなたの体を回復させたのよ。全ての内臓を体に戻し、骨も元通りにしたのよ。まぁ、戻せなかったものは、全て私達の技術がどうにかしたんだけどね。」
どうやら、亜人は人間のカガク技術を遥かに凌駕し、魔法の質も段違いらしい。
「それで、お前さんよ。お前さんは、これからどうするんだ?一週間もしないうちに、人間味を全て失うぞ。」
「人間味を失う?」
「そうじゃ。本来なら、こんな事になるとは思わんかったわ。人間味を失わないようにするには、お前さんの心に空いた穴を埋める何かが必要じゃ。」
「そうですか。取り敢えずは、地上に戻るよ。」
そう決めて、動こうとしたのだが、否定された。
「それは、無理じゃ。お前さんは弱過ぎる。唯の一般人と同じステータスじゃ。リウルの外にいる魔物には手も足も出ない、本来はな。そこでお前さんの体を少しいじらせて貰った。これは、亜人専用のステータスカードじゃ。ほれ。」
このステータスカードは、日本にあるクレジットカードとか、ポイントカードくらいの大きさだ。
今まで持っていた、ステータスプレートより小さい。
俺は、ステータスカードを受け取った瞬間、そのカードは淡い青に光った。
南条 アオバ 15歳 男 レベル1
天職 錬成師
筋力 10
防御 10
敏捷 10
器用 10
魔力 10
魔耐 10
精神力 10
技能 共通認識 錬成 喰奪 分析 胃酸強化
加護 亜人の加護 神の加護
称号 自由人
うーん、このステータスは、この世界の一般人と同じぐらいじゃないか。
「どうじゃ?ちょっといじってみたのだが。」
俺は、ステータスカードを見せる。
「ふむ。どうやら、成功したようじゃな。」
どこがだよ。と思いながら、技能の【分析】を使って、【錬成】、【喰奪】、そして二つの加護の詳細を確認する。
【錬成】 鍛治する時に便利で、鉱物を操れる事が出来る。
【喰奪】 魔物を喰うと、魔物の固有魔法を奪い、ステータスを+する。だが、一度喰った魔物を喰っても、あまり効果がない。
【亜人の加護】 亜人達の特性を理解し、自分のものと出来る。全魔法適性、全魔法耐性、魔力操作、全身強化、錬成強化。
【神の加護】 【神々の加護】と違って、体に馴染みやすい。全ステータス、プラス千。全ての魔法、魔法陣などの、魔力を使ったものを、強制終了する。
うーん、強いのは分かる。
だが、【喰奪】って言うのは理解しかねる。
だって、魔物を喰わなきゃいけないんだろ。
魔物って美味いの?
そんなん聞いたって分かるわけないよな。
そんな事を考えていると、「これが、お前さんの為に作った、装備じゃ。受け取れ。」
貰ったのは防具に二本の剣、そして二丁の銃だ。
全て、黒かった。
でも、黒という色は南条 アオバにとって大事な色だった。
何故なのかは、言わなくても分かるだろう。
俺は、全ての装備を纏う。
全て、俺の体にピッタリだった。
手袋は、魔法陣が描かれており、魔法を撃つ際に役立つ。
防具は黒のTシャツに、黒のズボン、胸当て、黒いコートだ。
これらの防具は、熱を通さない。
だから、日光に当たっていても暑くならない。
武器は、黒と白の剣と拳銃だ。
これらの武器は、変形可能。
剣は、刀、大剣、短刀、槍、細剣などに変形可能。
拳銃は、リボルバー式で、レールガンみたいに電磁誘導によって、加速して、物体を打ち出せるみたい。
形は、自動拳銃に近いけど。
弾は熱に強くて、魔力を溜めやすい鉱石を使っているらしい。
拳銃は、ライフル、ショットガン、マシンガンなどに変形可能。
どうやってやったら、変形出来るのかは分からないけども。
それからは、ご飯をアホみたいに食べ、ポーションなどの回復薬を貰った。
アオバの新たなる旅立ちである。




