6話 残された者たち
魔法が全て撃ち終わり、現在土煙が舞っている。
ベヒーモスの存在を確認するために、土煙を凝視する。
次第にその砂埃は消え始め、そしてベヒーモスがいない事に気付き、歓喜を露わにした。
だが、直ぐに気づいた。
今は亡き、南条 アオバがいないことに。
その事実を前にしても、泣く人間はいなかった。
泣いているのは、少女三人だけだった。
ララにルルにリリだ。
幼馴染の白崎、神崎は、信じられないと言わんばかりの顔で立ち尽くしていた。
少女達は、すでにこの世界に南条 アオバという人生を歩んできた者はいない事に気付いている。
その理由は、奴隷の刻印が消えていたからだ。
刻印が消える理由は奴隷の主人が死んだ時、それか解除した時だけだ。
少女達は大粒の涙を流し、声を荒げ、泣いている。
誰も少女達を、慰めようとはしなかった。
否、しなかったのではない、出来なかったのだ。
少女達が、南条 アオバをどれほど慕っていたのか、みんなは分かっていた。
だからどう声をかけたらいいのか分からない。
だが、その考えは間違いだった。
ある一人の青年は、「あいつが悪いんだ。あいつが白崎さんと仲良くするから。」とボソボソと呟く。
そしてもう一人の青年は、「何を泣いてるんだ?南条の自業自得だろ?あいつは魔法を避けようとしなかったんだから。」と、ありえない事を平気で言う。
神崎だ。
だが、神崎は悪気があって言ったわけではない。
これが、彼の素なのだ。
神崎の言葉に、声を荒げる者がいた。
「違う!アオバは避けなかったんじゃない、避けれなかったんだ!お前らが、アオバを殺したんだ!やっぱり人間なんか、滅びてしまえばいいんだ!」
ララは、叫ぶ。
怒りを露わにして。
そして、現れる。
この世の終わりを告げる、二人の男が。
魔王と龍王だ。
「ララ、ルル。アオバはどうした!あいつの反応がない!何があった?」
「お父さん。アオバは殺された。あいつらに。」
ララは、みんなを指差し言った。
魔王は、その事実を確かめるようにもう一人の娘であるルルを見る。
ルルはコクコクと涙を流しながら首を縦に振った。
それを見た魔王と龍王は、決めた。
この地を滅ぼそうと。
この地を滅ぼさないようにしていた抑止力が死んだのだから。
この地に娘達を置いておく必要も無くなった。
魔王と龍王は魔界に戻ろうとする。
ララ、ルル、リリを連れて。
だが、その足を止める声があった。
「待ってください。話を聞いてください。」
「黙れ。人間風情が。アオバがいなくなった今、人間に未来はない。」
「南条君は、死んだのでしょうか?」
「そんな事自分で確かめろ。俺に、話しかけるな。話していい人間は、アオバだけだった。だが、もう彼はいない。お前らが殺したのだからな。」
「あなた達は、一体何者なんですか?」
「黙れと言ってるだろ。これ以上怒らせるな。」
ララ達は光に包まれ、消えた。
白崎は気付く。
自分が、泣いている事に。
なんでなのかは、分からない。
でも、心に穴が開いたような錯覚を抱いた。
そして、彼女は見る。
南条 アオバが落ちたであろう穴を。
その穴には終わりがないと思えるほど、闇が続いていた。
ふふふと笑い声が聞こえる。
それが自分のものだとは白崎は思わなかった。
白崎は壊れた。
その白崎を心配そうに、そして悪い笑みを浮かべた南条 アオバを殺した張本人の、近藤 和樹が白崎に近づく。
「あんな奴の事は忘れよう。俺はずっと君のそばにいるから。」そんな事を言い出した。
「あんな奴って何?南条君は、私の大事な人だったの。あんな奴とか、言う奴の近くに私はいたくない。」
そして白崎は覚悟を決め、穴に落ちた。
南条 アオバを追いかけるように。
みんなは、見ることしか出来なかった。
白崎を、止めることが出来なかった。
人間は自分が一番大事だと思っているから、自分に危険が及ぶことをしない。
そんな人間が、この世から消えるのは二年後だ。
魔王と龍王は、二年後にこの地を滅ぼす事に決めたからだ。
その事を、まだ人間は知らない。
「俺の目の前に立ちはだかる奴は、敵だ。敵は、殺す。そして喰う。」
「ご主人、怖いよ。」
「アオバ様、恐ろしゅうございます。」
「黙れ。さっさと行くぞ。俺は、お前らが居てくれるだけでいい。他の奴らにどう思われようと関係ない。」
これは、これから一年後の話。