5話 強いのにも意味がある? その3
赤炎龍を倒し、ドロップアイテムを回収し、宝箱を開ける。
そこには、剣や金などの金属が山程入っていた。
それをすかさずバックパックに入れて、迷宮から出るために歩き出す。
帰り際に魔物が出現すれば倒し、ドロップアイテムを回収する事も忘れない。
迷宮から出た俺たちは、換金できる冒険者ギルドと呼ばれる場所に向かう。
「アオバ、あの力は何ですか?」
うん、聞かれると思ってた。
「あの力は、【精霊武器】が進化したから出せただけ。」
あんな力が常時出せるなら強すぎるわ。
「進化ですか。でも、【精霊武器】が進化するなんて聞いたことがありません。」
「ふーん。そうなんだ。ま、別にいいんじゃね。【精霊武器】が進化しても。世界には、不思議な事がいっぱいあるんだから。」
「そうですね。」
ララは納得したようだ。
そんなこんなで、約束の日までダンジョンに潜り続け、お金は貯まった。
「家を買うのは、明日祭壇に行って、帰って来てからな。」
ララ、ルル、リリに言ったつもりが、寝てたから独り言になってしまった。
「今まで、お疲れさん。お前らのおかげで、スムーズにお金を稼げたよ。」
俺は、こいつらの頭を撫でてやった。
その時、少女達は微笑んだがアオバはその笑顔を見る事が出来なかった。
「あぁー嫌だ。行きたくない。それに、何時に集まるのか知らんし。朝から行った方がいいよなぁ。はぁ。」
俺は、ため息を吐きながら、行く準備をする。
顔を洗い、歯を磨き、防具を装着する。
「さて行きますか。」
俺は、そう言って宿屋から出ようとしたのだが、俺以外の足音が聞こえて来て、後ろを振り向くと、そこには装備を装着した少女達がいた。
「おい、お前ら付いてくる気か?」
「「「うん。」」」
「仕方ねぇな。迷惑かけんなよ。」
俺も甘いな。
俺は少女達と共に、祭壇へと向かった。
「一週間ぶりだな。」
懐かしいな。
あの時の俺は、今よりだいぶ弱かった。
今は、自分の事を弱いとは思っていない。
「さて、入りますか。」
俺たちは、遺跡の中に入って行く。
祭壇は、遺跡の中にあるのだ。
俺たちは、遺跡の中を歩き続け、祭壇へとたどり着いた。
もうみんな揃っていた。
なんか、みんないい装備着けてる。
この世界を救うのに、相応しい装備だ。
俺だけだろ。
こんな黒に染まった装備は。
「おはよう、南条君。君が最後だよ。」
「そうなんだ。それで、今日は何のために集まったんだ?」
「今日は、迷宮に潜るんだって。」
「え〜〜。」
嫌だな。昨日までずっと迷宮に潜り続けてたのに。
なんで、みんなと一緒に迷宮に潜らなきゃいけないんだよ。
「南条 アオバ。お前のステータスを教えてもらおう。お前以外からは、すでに聞いている。」
「は、はい。」
これ、どうしたらいいんだろう。
最初に貰ったステータスプレートに書いてあるステータスを、言った方がいいよな。
南条 アオバ 14歳 男 レベル1
天職 魔王 龍王
筋力 1
防御 1
敏捷 1
器用 1
魔力 1
魔耐 1
精神力 1
技能 共通認識 支配
加護 なし
精霊武器 なし
称号 持たざる者
こちらのステータスプレートには、【精霊武器】であるエルとリアの事が記載されていなかった。
【魔王の加護】と【龍王の加護】も記載されていないんだから、当たり前か。
それで俺のステータスプレートを見た聖職者であるラテアシアさんは「ハズレか。」と言った。
酷すぎるわ。
そっちが、勝手に召喚したくせに。
それに、クラスのみんなに笑われた。
「アオバを笑ったり、悪く言うのは許さない。」
「ララ。落ち着いて。」
「無理。私のアオバを悪く言った。」
「おい、今私のアオバって言わなかったか?」
「言ってない。」
「言っただろ。」
「言ってない。」
「南条君、その子達は?」
白崎さんにそう言われたのだが、なんて言ったらいいのかわからん。
誰かから預かってることにしよう。
そうしよう。
実際、間違ったことは言ってないしな。
「預かってるんだよ。」
「そうなんだね。」
そこで、会話終了した。
今は、迷宮に向かっている。
前衛には神崎や、黒崎などのチート持ち、それにラテアシアさん。
中衛には神崎ほどのチート持ちではない人達。
後衛は俺、ララ、ルル、リリ。
気楽でいいや。
別に、前衛に行きたいとは思ってないんだからね。
「…はぁ。」
「アオバさん、この人たち恐いです。アオバさんと同じ人間だと思えません。」
ため息を吐いていたら、ルルがそんな事を言ってきた。
「ルル。あいつらは紛れもなく俺と同じ人間だぞ。そりゃ、俺と違って才能はあるし神々の加護だって持ってる。」
そうだ。
あいつらは才能ありまくり、神々の加護を持ってる。
悔しいわ。
「お兄さん。私はお兄さんの事が大好きです。自分に自信を持ってください。」
リリは励ましの言葉を言いながら肩に乗ってきた。
軽いな。
「リリずるいです。」
そう言って、ルルが背中にしがみつく。
そして、ララはお腹にしがみつく。
「重いんだけど。降りてくれないか?」
「「「いや。」」」
拒否られた。
どんどん、みんなと距離が離れていく。
しばらくして、みんなが見えなくなり、前方の方から大きな音がした。
何かあったのか?
「お前ら、降りてくれ。」
「どうして?」
「あいつらに、何かあったら面倒が起きそうだから。」
ララ、ルル、リリは仕方無さそうに、降りる。
「ありがとう。走るぞ。」
俺たちは走り、みんなに追いついた。
しかし、みんな魔物に狙われていてアホみたいに魔物が増殖していた。
どうして魔物が増殖しているのかは分かっている。
トラップだ。
モンスタートラップ。
モンスタートラップを起動させると魔法陣が出現し、そこから魔物が永遠に出現する。
魔法陣を破壊するまでは。
だが、その魔物達はそこまで強いわけではない。
だから、直ぐにここから離脱することは出来るはずなのだが、ある事が理由で、みんなは混乱している。
混乱しているから、統率が取れていない。
そして、統率が取れていないから好き勝手に攻撃し、さらに混乱を招く。
ある事とは前方に大きな魔物、名はベヒーモスがいると言う事だ。
ベヒーモスの体長は9メートル。
地球に存在していた生物に例えるならトリケラトプスだ。
俺はリアの【精霊武器】の【精霊スキル】である【分析】を発動させ、ベヒーモスの詳細を見て、動きが止まった。
動きが止まった理由は、ベヒーモスの詳細が出てこないからだ。
詳細が出てこないと言うことは、レベルの差が80以上あると言う事。
俺たちはまだ敵に気付かれていないから逃げる事は簡単に出来る。
でも、逃げてしまったら人としてどうなんだと思ってしまうのだ。
だから、戦おう。
「ララ、ルル、リリ。お前らは雑魚を頼む。俺は出来るだけベヒーモスを引きつけて、時間稼ぎをする。」
「「「わかった。」」」
そう言って、ララ達は、雑魚に突っ込んで行く。
俺は「エル、リア。」と言って【精霊武器】を呼び出し、それから「進化してくれ。」と言う。
俺の言葉に応えるように、【精霊武器】は形を変える。
エルは魔剣ヘルヘイムに。
リアは龍剣ランドルグに。
俺はベヒーモスに突っ込む。
「はっ。」
俺は二刀の剣を力一杯振り下ろす。
二刀の剣は、ベヒーモスの、肉を断ち切る。
ベヒーモスの体からは、血が噴き出している。
だが、倒すことは出来なかった。
ベヒーモスは、俺を敵と認識する。
「お前ら、早く逃げろ!!」
俺はクラスのみんなに、ラテアシアさんに言う。
「俺の力では、時間を稼ぐことが精一杯だ。」
「南条!どうしてお前はそこまで強いんだ!レベル1のお前が俺たちより強いわけがない。行くぞ!みんな。俺たちもやれると言うことを教えてやるぞ!」
神崎がそんな事を言い出した。
バカなのか?そんな事、今はどうでもいいだろうが。
「南条!俺たちの魔法の詠唱が終わるまで耐えてくれ。そして詠唱が終わればそこから離脱してくれ!」
「おい!待て!意味ない事をするな!」
そう叫んでも、みんなの耳には入らない。
みんなは詠唱を始める。
俺がどうにかするしかない。
俺はベヒーモスを斬りまくる。
胴体も、右足も、左手も、斬りまくる。
だが、ベヒーモスの再生速度が速すぎて、直ぐに元どおりになる。
「よし。南条!詠唱完了した。魔法を撃つからそこを退いてくれ!」
俺はそこから退こうとするが、出来なかった。
足元を土属性の魔法で、固められ動けない。
俺は、みんなの方を見る。
そこには、悪い笑みを浮かべる奴がいた。
俺を、いじめていた奴だ。
そいつは、白崎さんの事が好きな人。
そして、俺を蔑んでいた人。
どうして蔑まれていたのかは、わからない。
土属性の魔法で足元を固められている事に神崎達は気付かない。
そして、ついに魔法を撃たれた。
様々な魔法名が、ダンジョン内に反響する。
どうにかしようとしても、考えられない。
パニックで、頭が混乱している。
「終わったな、これは。短い人生だった。」
だが、みんなの魔法は、俺には当たらなかった。
が、みんなの魔法はベヒーモスではなく、地面に直撃するから、地面に次々とダメージが蓄積され、ついに崩れた。
ほんと、ロクでもない人生だった。
そして、思う。
強いのには、意味なんて無かった。と。
強い奴は、バカばっかだ。
自分の事しか考えない。
そう考えれる程、今の俺は落ち着いている。
もう死ぬ事を理解している脳が落ち着かせ、時間の流れを遅くしているようだった。
一生懸命に、死ぬまでの時間を長くしている。
意味もないのに。
体は浮遊感が支配した。
落ちる速度が速くなっているのだろうが、体感速度は速くなるどころか、遅く感じている。
グチャ!
その音と同時に、南条 アオバという人生が終わりを遂げた。
(南条 アオバは死にました。)
(このステータスを引き継いで、新たな人生を歩みますか?)
(このステータスは引き継がないで、新たな人生を歩みますか?)
そんな音声が流れてきた。
そうだなぁ、 1から人生を始めたいかな。
俺は、後方を選択する。
( やっぱり無理です。)
おい、どっちやねん。
つい、つっこんでしまった。
(ごめんなさい。)
( あなたを、生き返らせようとしている人がいます。)
(どうやら、成功したようです。しかし、あなたの記憶はほとんど残っていない。あるのはあなたの知識、それにあなたのこの世界で好き勝手に生きるという望みだけ。)
(いってらっしゃい。この世界を救える唯一人の男よ。)
ここで、意識が消えた。