2話 弱いのにも意味がある? その2
「何してんの?」
俺が、朝目が覚めて、言った1言目はそれだった。
「別に。」
「すみません。」
「別に。とか、すみません。とかじゃなくて、何で俺のベッドに入り込み、腕に噛み付いてんの?別にお前ら、吸血鬼でもないよな。吸血鬼なら、血を吸うために噛み付くのは、分かる。もう一度言うぞ、何してんの?」
「アオバには関係な、痛い痛い。」
関係ないと言おうとしたので、頭をグリグリする。
「で、何で噛み付いてんの、今もだけど。早く、腕から、口を離せよ、噛み付くなよ。痛いんだよ。」
ようやく、離れてくれた。
両腕には、しっかり噛み跡がついている。
「それで、何で噛み付いてたんだ?」
「別に、アオバに言う義務なんてない。」
俺は、ララに呆れ、「分かった、お前はもういい。それで、ルル。何で噛み付いてたんだ?」
とルルに聞く。
「えっと、その。特に意味はありません。」
「それじゃあ、なにか。お前らは何の理由もなく、人の腕に噛み付いてたのか。」
ララとルルは、コクコクと頭を縦に振る。
はぁ、この事はもう忘れよう。
それで、これから何をしようか。
もう異世界なんて救う気さらさら無いんで、強くなる理由なんて無いんだよな。
そうだ。
「なぁ、お前らは父親に会いたくないのか?」
「別に。」
ララは別に。が口癖なのか。
「私は、会いたいです。」
ルルはそう言った。
「よし、なら会いに行くか。あ、魔物が出て来たら、お前らが倒してな。俺弱すぎるから。」
自慢できる事ではないが、胸を張って言ってみる。
「仕方ないですね。アオバがそこまで魔王に会いたいのなら、付き合ってあげます。」
何なんだろう。
何で、こいつはいつもいつも上から目線なんだ。
そう思いつつ、昨日買った装備を身に纏い、ララとルルと共に宿屋から出て、国を出た。
「それで、魔王はどこにいるんだ?」
そうララとルルに尋ねると、2人は上を指差した。
「ん?空がどうかしたのか?」
「魔王は、この地上である下界の上にある魔界に住んでいます。」
「それじゃあ、行けねぇじゃねぇか。」
「飛べばいい。」
そんな無理なことを、さも当たり前のようにララは言った。
「お姉ちゃん。本当のこと教えてあげて。」
「仕方ないですね。ワープすればいいんです。それじゃあ、ワープします。3、2、1。」
いきなり、ワープするとか言うので、「ちょ、待って。」と言ったのだが、遅かった。
俺たちを光が包み込むが、その光は徐々に薄れて来て完全に光は消えた。
俺は、眩しくて開けられたなかった目を開ける。
目を開けたら、先程いた場所とは明らかに違う場所に立っていた。
「魔界に到着です。」
そうララが言った。
「ここが、本当に魔界なのか?ドラゴンとか普通に飛んでるけど。」
「ここは、本当に魔界ですよ。」
「そうなのか。そんじゃ、魔王に会いに行くか。」
それをあっさりと受け入れて、ララとルルに案内を頼んで、俺はその2人の後ろについて行く。
なんか、めっちゃ視線を感じる。
そりゃ、わかるよ、人間が魔界にいるんだから。
「着いた。」
「近っ!」
ビックリだよ。
まだ、歩き始めて数分しか経ってないのに、魔王がいる城に着いた。
ララとルルは魔王城になんのためらいもなく入って行く。
そして、ララとルルは一切の迷い無く進み、ある扉の前で止まった。
「ここに、パパがいる。」
ルルの言葉を聞き、冷や汗が噴き出てくる。
もしかしたら殺されるかもしれないというネガティヴ思考が働き、頭の思考を停止させる。
が、そんな俺の気持ちも考えずに、ララは扉を開ける。
その扉の先には、誰も居なかった。
いや、違う。視認出来なかった。
速すぎて。
「我が娘達よ、よく戻って来てくれた!」
なんか、ララとルルに抱きついて泣いてる人がいる。
白髪で、角が生えてて、高身長でイケメンだ。
もしかして、この人が魔王なのか?
ララとルルの事、死んだと思っているんじゃないのか?
まぁ、どうでもいいんだけど。
えーと、挨拶はした方がいいよな。
「初めまして、魔王さん。俺の名前は、南条 アオバ。お会い出来て光栄です。」
「なんだ、お前は。何故、人間がここにいる。」
めっちゃ、嫌そうな顔なんだけど。
「この人が助けてくれました。」
「そうなのか?」
「そうだよ、パパ。」
「おお、ありがとう。娘達が居なくなってから、もう生きる意味がないと思っていたんだよ。」と、魔王は、握手してくる。
この魔王、チョロ甘で、親バカなのか。
「それにしても、不思議な奴だ。神々の加護を与えられていないとは。」
「神々の加護ね。もしかして、その神々の加護が与えらえていないから、こんな貧弱なステータスなのか。」
そう言って、1人で納得する。
「ちょっと、待ってろ。」
魔王は部屋から出て行って、どこかに走って行った。
「お前らの父親、本当に魔王か?」
俺の魔王のイメージとは、かけ離れている。
魔王っていうのは傲慢で、人の不幸を楽しんでいるような存在じゃないのか?
ま、何事にも例外はあるから、どうでもいいんだけど。
「お父さんは、魔王。それは絶対。」
「あっそ。」
俺たちは、それからなんの会話もなく、時間が過ぎていった。
そして、10分経った頃、部屋の外から、数人の足音が聞こえて来た。
足音を発していた人達は、全て俺たちがいる部屋に入って来た。
先程の魔王に、魔王の奥さんらしき人、そして、腕に鱗が付いている男性と女性。
「お母さん。」
「ママ。」
そうララとルルが言った瞬間、俺は耳を塞ぎ、部屋の隅っこに移動した。
だって、俺だけいかにも雑魚じゃん。
魔族に、ドラゴンだろ。
ドラゴンと判別したのは、あの腕の鱗だ。
多分、ドラゴンは人の姿になれるんだろう。
何なんだろう。
この切ない感じ。
俺だけ無力で、神々にも見放されている。
俺には、あの輪の中には入れそうになかった。
そうしていると、みんなが俺の方へ近づいて来た。
やばい、どうしよう。
どういう風に接したらいい。
分からん、分からんぞ。
「おい、そこの人間。」
「ひゃい!」
声が裏返ってしまった。
「魔王の娘達を、助けてくれてありがとう。感謝する。」
「アオバ君だったかな?お前は、強くなりたいと思っているのか?さっき、ステータスがどうとか言っていたが。もしよかったら、魔王の加護を与えてもいいぞ。」
んー。別に強くなりたいと思ってないしな。
ここは、素直に言うか。
「別に、俺は強くなりたいとは思ってません。」
「でも、強くならないと娘達を守れないだろ?」
「何で強くならないとララとルルを守れないんだ?今日で、お別れだろ?」
お別れと自分で言っておきながら、胸が痛くなった。
なんだかんだ言って、俺はララとルルを気に入っていたのかもしれない。
そんな事を思っていたら、魔王は「何を言ってるんだ。これからも、娘達を任せようと思っているんだが。」と言って来た。
「何で?俺に任せようと思ったんだ?」
「娘達が、お前の事を気に入っているみたいでな。私もお前なら、安心して任せられる。」
「いいのか?こんな全ステータス1の俺に、任せても。」
「だから、さっきも言っただろ。任せられると。それに、魔王の加護を与えてもいいとも言った。な、龍王もそう思うよな。」
「そうだな。俺もこいつになら、任せてもいいと思う。」
何これ。
どんなに信頼されてるの?
だが俺はこの世界で好き放題に生きると決めた。
ララとルルが居なければ、好き放題に生きていけないと思う。
「分かりました。ララとルルの事は任せてください。それに魔王の加護を与えてください。ララとルル、それに守りたい人だけを守れる力が欲しいです。」
そうだ、この世界とか俺にとってどうでもいいやつは、守らない。
守る理由がない。
だが俺にとって大事な人は守りたい。
「そうか。よし、龍王もアオバに娘を任せてみたらどうだ。」
「なぜ、俺の娘も巻き込むんだ!」
「いいじゃないか。社会勉強の一環として。」
「うっ、そうだな。それも一理ある。おい、アオバと言ったか?お前に娘を預ける。もし、娘に何かあったら、お前を殺す!」
「そんなに心配なら、龍王も加護を与えたらいいじゃないか。」
なんだよ、龍王も親バカなのかよ。
「そうだな。よし、手を出せ。」
俺は、魔王に右手を、龍王に左手を出した。
そして、魔王と龍王は俺の手と握手する。
その瞬間、俺を闇と炎が纏う。
息苦しくも熱くもなかった。
その代わりかもしれないが、魔王と龍王の娘に対する思い、そして思い出が流れて来た。
それらは全て暖かいものだった。
本当にこの世界を滅ぼそうとした人達なのかと疑ってしまうくらいの暖かさだった。
その闇と炎が全て晴れた後、「このステータスプレートを持っていくといい。」と魔王は言った。
「何で?」
「アオバが持ってるステータスプレートは、神々の加護を受けている者にしか、上手く作用しない。が、このステータスプレートは魔王と龍王、両方の加護を受けている者に作用する。だから持っていけ。」
「はい。」
俺は、ステータスプレートを受け取ると、そのステータスプレートは、黒く赤く光り出し、俺のステータスが浮かび上がる。
南条 アオバ 14歳 男 レベル1
天職 魔王 龍王
筋力 1
防御 1
敏捷 1
器用 1
魔力 1
魔耐 1
精神力 1
技能 共通認識、支配
加護 魔王の加護、龍王の加護
称号 持たざる者
加護という項目が増えたが、ステータスはそのままだった。
「ほら、リリ。行っておいで。」
リリというのは、龍王の娘だ。
ララ、ルルときて、次はリリかよ。
このまま行くと、まさかレレとか、ロロとか来るんじゃないか?
リリは、ララとルルより、幼く、7歳くらいだろうか。
赤い髪に、赤い瞳で、とても目立ち、目つきは、ララとルルの中間だ。
何か聞かなくてはならないものがあったと思うんだけどな。
俺は頭を悩ませる。
「あ、そうだ。この奴隷の刻印は消せないんですか?」と、言いたいことを思い出し、魔王に聞く。
「そのままでいい。奴隷の刻印には、刻印を刻まれた者を縛るだけのものではない。」
「そうなんですか?それで縛る以外にどんな効力があるんですか?」
「それは、いずれ分かる時が来る。」
「そうですか。それじゃあ、下界に戻ります。」
「そうか。いつでも魔界に来てもいいからな。」
「はい。」
俺たちを、光が包み込み、下界に送る。
この何とも言えない浮遊感は、慣れないだろうな。
「よし、着いた。これからもよろしくな。ララ、ルル。そして、リリ。」
そういえば、魔王が言っていたな。
魔王と龍王の加護を与えられる条件は、神々の加護を与えてもらってない事、そして弱い事。
俺は思うんだ。
弱いのにも意味があったんだ。と。
そうして、新たなる生活が始まった。