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22話 アオバに残っているモノ

俺は、たった一人しかいない大切な者すら守る事が出来ず、死なせてしまった。


それも、自分の不手際で。


そんな奴がよくもまぁ、世界を救うとか言ったもんだ。


『アオバさん、大丈夫ですか?』


誰だろうか。


『あの、アオバさん?聞こえてますか?』


「うるさいな!今は、一人にしてくれよ!」


「どうしたの?アオバ君。急に怒鳴ったりして。」


『あの、私です、さゆりです。覚えてますか?』


さゆり。


今まで俺に大切な者を守る力を与えてくれていた【亜人武器】。


「さゆり?さゆりなのか?」


『あの、アオバさん。【念話】で話してくれるとありがたいのですが。』


『悪いな。【念話】の事を忘れていた。それで、何の様だ?今、俺は…。』


『言わなくていいですよ。分かってますから。アオバさんの事を一番分かっているのは、私なんですからね。アオバさん、聞いてください。今すぐ、リウルに行ってください。今なら、まだイムルさんを生き返すことが出来るはずです。今はそれだけ言っておきます。また、後でリウルで会いましょう。』


リウルに行けば、イムルが助かるのか?


なら行かないと。


俺はイムルを抱き抱え、ステータスカードを財布から取り出す。


「おにぃ。私の事を覚えてますか?」


「何だ、香織。」


「覚えててくれたんだ。」


香織は、少し嬉しそうだった。


だが、「名前とお前がどんな奴なのかって事だけだ。お前と何かしたとかそういう記憶は何もない。」と俺は容赦なく言った。


「アオバ君、そんな言い方ないでしょ。」


「ごめんな。でも、覚えてないものは覚えてないんだ。それに、今はおまえらと話している時間は無い。じゃあな。転移!」


俺はステータスカードに魔力を注ぎ、そう言った。


その瞬間、俺は光に包まれ、その場から消えた。


「あれ、アオバ君?どこに行ったの?」


「おにぃ、悲しそうだったな。」



俺は、リウルに転移した。


そこには、ルーラさんとおじいさんがいた。


そして、俺は「イムルを、生き返らせて下さい。俺がちゃんとしていれば、こいつは死ななくても済んだんだ。金も言う事も何でも聞くからイムルを、生き返らせて下さい。お願いします。」と土下座して言った。


「ルーラ、その子を頼む。ワシはアオバに話がある。」


「分かりました。アオバ君、その子を預かってもいいですか?」


「はい。」


そう言って、俺はイムルをルーラさんに預けた。


イムルを抱き抱えたルーラさんは、どこかに歩いて行った。


俺はそれを見送り、おじいさんを見て言った。


「話って何ですか?」


「お前さんよ、聞いてくれ。お前さんの魂、記憶を持った魔族が現れたそうなのじゃ。その魔族が、この世界を滅ぼそうとしているそうなんじゃ。だから、お前さんよ。この世界を救ってはくれないか?」


「世界を救うのは良いが、条件がある。絶対にイムルを生き返らせてくれ。頼む。」


「お前さんよ、虫がいいとは思わんか?お前さんが、ちゃんとしておればあの子は死なずに済んだんじゃろ?それなのに死んでしまったからワシらに生き返らせてくれって頼むのはおかしいじゃろ。」


「………。」


何も言えない。


イムルが死んだのは、他でも無い俺の所為なんだから。


「それに、あの子の魂はこの世にもう無い。」


何で分かるんだと言いたいが、ここは我慢して、「それじゃあ、生き返らせる事が出来ない?」


「いや、出来る。じゃが、危険なんじゃよ。」


「危険?」


「危険なのは、あの子じゃなくてお前さんじゃ。あの子を生き返らせるには、お前さんの疑似魂とあの子を繋げるしか方法がない。」


「つまり、俺とイムルは同じ疑似魂を共有するしか方法が無いって事か?」


「そうじゃ。」


「でも、どこに危険があるんだ?」


「共有出来なければ、お前さんは死ぬんじゃよ。」


「でも、イムルは生き返らせれるんだろ?」


「そうじゃが。」


「なら、それでいい。」


「お前さんが死ぬ確率は、90%じゃ。それでもよいのか?」


「あぁ。」


「分かった。それなら、早速行動に移そう。」


「分かった。」


俺たちは、ルーラさんが向かった場所へ向かう。



「お前さん、ここに寝転べ。」


そうおじいさんに言われた俺は言う通りにした。


隣には、イムルがいる。


体は治癒している。


ルーラさんが、治してくれたんだろうな。


ルーラさん、ありがとう。


そして、俺は意識を手放し久しぶりの精神世界へと向かっていった。



「アオバさん、待っていました。」


「さゆりか。」


「こら、ありさ。アオバさんが、来てくれたんですから、挨拶ぐらいしなさい。」


「ありさは、相変わらず無口なのか。」


俺はありさの方へ近づき、目線を合わせる。


「久しぶりだな、ありさ。」


「………どうして悲しいのに、笑っていられるの。私には分かりません。あなたが考えている事が何も分かりません。」


「どうして悲しいのに、笑っていられるの。か。俺にも分からない。でもさ、あいつなら、イムルならさ、笑ってほしいって思っていると俺は思うんだよ。」


「だから、笑うんですか。………あの私たちでは、あなたのこころに空いた穴を塞ぐ事は出来ないですか?私たちを頼ってはくれないですか?私たちは繋がってるんですから。」


「頼っていいのか?俺みたいな奴が。」


「はい、いいですよ。さっきも言ったでしょ、私たちは繋がってるんですから。って。」


「ありがとう。」


俺は俯く。


俺にはイムルしかいないと思っていた。


でも、残っていた。


こいつらが残っていた。


俺は、こいつらを唯の武器としてしか見ていなかった。


その考えはもうやめよう。


これからは頼ろう。


だから、今だけは笑うのはやめてもいいだろう。


泣いてもいいだろう。


また、泣いてもいいだろう。


だから、泣こう。


みっともなく。


彼女たちは、それを受け止めてくれるだろうから。


でも、この涙は悲しさや寂しさから来るものではない、 これは、嬉しさと安心感から来ているものだ。


そしてありさが、さゆりが抱きしめて来る。


俺も彼女たちを抱きしめる。


そこからは、気の済むまで泣いた。



「もう大丈夫ですか?」


「あぁ、ありがとう。」


「あーあ、服がベタベタだよ。」


「ごめん。」


「いいですよ。」


「こらー。ご主人、私以外の女の子と何で仲良くしてるんですかー。」


「イムルがいるって事は。」


「はい、成功です。」


「?」


イムルは俺たちが何を言っているのか、分からないから頭を傾けている。


「アオバさん、どうやら時間みたいですよ。」


「そうなのか。じゃあ、また現実世界でな。さゆり、ありさ。お前らのおかげで元気になったよ。」


「はい。元気になってくれて嬉しいです。」


「また、頼ってくれてもいいですよ。」


俺は今までに無いってくらいの暖かさを胸に、現実世界に戻った。


現実世界に戻り、誓う。


もう二度と大切なモノを失うような挫折感を味わなないように守ろうと。


俺の所為で死なずに済むように、気を付けようと。





















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