16話 久しぶりの地上 その2
16話 久しぶりの地上 その2
俺たちは、今ある所を見ている。
奴隷が暴力を受けている所を。
奴隷と言っても、人族ではない。
亜人の一つである、ミイラ族だ。
ミイラ族は、包帯を体に巻きつけているだけで、気味悪がられる。
「おい、そこらでやめとけよ。」と俺は、言った。
亜人には、世話になったからな。
「ああん。何だ、お前。こんな気味の悪いミイラ族を庇うのかよ。頭イかれてんじゃねぇのか?なぁ、お前ら。」
お前らと呼ばれた奴は、全部で3人だ。
そいつらは、笑う。
ケラケラと。
「こいつらミイラ族は、その包帯を外せば美男美女なんだよ。勿論こいつは、女だ。俺たちだって、いろいろと溜まってんだよ。」
「知らねぇよ、そんな事。俺には、関係ないし。だが、亜人には、いろいろとお世話になってな。だから、見逃せないんだ。」
「なら、死ね。」
そう言って、4人のチンピラ共は、ナイフを持って、斬りかかって来た。
「お前が死ね。」
俺は、2丁の拳銃をホルスターから抜き、撃った。
撃った弾は、全て頭に命中し、脳をかき混ぜながら貫通し、後ろの壁にぶつかり、穴を開けた。
俺は、拳銃をホルスターに戻し、ミイラ族の女性に近付き、「大丈夫か?」と手を差し出したが、「こっちに来ないで。」と言って、手をはたかれた。
無理もない。
この人は、今まで人間に酷い目を合わされてきたのだから。
「何ですか、その態度は。ご主人がせっかく手を差し出してくれたのに、それをあなたは。」と、後ろにいたイムルが言った。
「イムル。気にするな。」
「でも、ご主人。」
俺は、イムルの頭に手を置いた。
「今度は、気をつけろよ。」と言って、俺たちはその場を去った。
「ご主人、ちょっと優しくなった?」
「そんな事ないと思うが。」
「絶対優しくなってるよ。だって私と初めて会った時、私の事助けようなんてしなかったでしょ。」
「ああ、そんな事もあったな。」
「それからも、私を囮にしたり、そのまま置いて行こうとした事もあった。」
「悪かったな。」
「怖かったんだから。」
「怒ってる?」
「怒ってないよ。」
「そうか。でも今は、お前の事を大切に思ってるよ。」
イムルと会わなかったら、俺は人間味を完全に失い、多分地上には出られなかっただろうしな。
「本当?」
「あぁ。」
「ありがとう。」
俺たちは話を終え、宿屋を探すために、また歩き始める。
「よし、ここでいいか。」
俺たちは、ある宿屋の前に止まった。
その宿屋を選んだ基準は、お風呂があるか無いかだ。
日本人には、お風呂が必須なのだ。
「入るぞ、イムル。」
「うん、ご主人。」
俺たちは宿屋の中に入り、受付に行った。
「どうかしましたか?」と、受付の女性が言って来た。
「泊まりたいんだが。」
「何名様でしょうか?」
「二名だ。」
「二名様ですね。部屋はどうしますか?」
「一人部屋、二つで。」と俺が言ったら、「ダメ、二人部屋。」とイムルは言ってきた。
「何で、二人部屋なんだ。」
「二人部屋じゃなかったら、一緒に寝れない。」
「知らんわ。」
「二人部屋じゃなかったら、ダメ。同じベッドで寝る。」
「何で俺と一緒に寝ようとするんだ。」
「ヤりたいから。」
「あの、お客様。この宿では、そのような行為は。」
「勘違いするな。それにイムルも、紛らわしい言い方すんな。」
何だよ、ヤりたいからって。
何をすんだよ。
ヤりたいからとか言うから、みんな俺たちの方へ注目したじゃねぇか。
「二人部屋でお願いします。」
俺は、言われた番号の部屋に、みんなから逃げるように向かった。
「おい、イムル。」
「何?」
「最近、調子に乗ってるよな。」
「そんな事ないよ。」
「そんな事あるわ。まだ、地上に戻ってない時、最後の部屋で俺が寝てた時、裸でベッドの中に潜り込んできたし、お風呂入ってる時、勝手に入ってきたよな。」
「だって、ご主人とずっと一緒に居たかったんだもん。」
「泣いても無駄だ。もし、今日ベッドの中に潜り込んだり、お風呂に勝手に入ってきたら、俺が元の世界に戻る時、連れて行ってやらんからな。」
「はい。」
「そういや、昼飯食ってないな。外に行くのは、イムルのせいで、行きづらいしなぁ。どうしようか。」
俺は、イムルを強調して言った。
「ごめんなさい。」
「カレーでも作るか。」
「かれーって何?」
「俺がいた世界の料理だ。」
そう言って、俺は必要な物を、生成魔法で生成していく。
そして、魔力炊飯器、鍋、魔力コンロを、指輪を使って異次元空間から取り出した。
「よし、作るか。」
「作れたな。さて、食べるか。」
カレーは、シンプルにジャガイモ、人参、ルー、そして肉だ。
肉は、牛肉、鶏肉、豚肉を使った。
「美味しい。ご主人、美味しいよ。こんなに美味しい物、食べた事ないよ。」
「そうか、それはよかった。また、美味い料理作ってやるよ。」
「本当に?」
「あぁ、作ってやる。」
「わーい。」
イムルが、喜んでくれてよかったわ。
次は、何を作ってやろうか。
俺も、久しぶりにまともな料理を食べたな。
最近は、魔物の肉ばっか喰ってたからな。
俺たちは、それからは無言で食べた。というか、イムルがカレーに夢中になってるから、話す相手がいなかっただけだけどな。
「ごちそうさま。」
俺は、手を合わせて言った。
「ごちそうさま?」
何で、疑問形なんだよ。
「私、ご主人に会えてよかった。」
「何だよ、改まって。」
イムルは立ち上がり、俺の方へ歩いてきた。
そして、耳元で囁いた。
「アオバ君、大好き。」と。
俺はビクッとして、イムルを見た。
イムルは、笑顔だった。
純粋な笑顔。
あいつが見せた悪い笑みとは、全然違う。
もう名前すら覚えていない、あいつの事はもうどうでもいいか。
今更、復讐したいなんて考えてない。
俺は、やりたい様にやる。
ただ、それだけだ。
そして、思い出す。
イムルみたいなやつが、昔身近にいたという事を。
まだ、名前も顔も思い出せないが、その人は俺にとって大事な人だった事はすぐに思い出した。
俺は、思う。
もしかしたら、俺にも少しは記憶が残ってるのかもな。と。
「ご主人が笑った。」
そうイムルに言われ、気付いた。
俺は、笑っている事に。
久しぶりに笑った気がする。
イムルは、俺にとってとんでもないほどの影響力があるんだと思う。
そして俺は、イムルの頭に手を置き、こう言った。
「ありがとう。」と。




