表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

二幕一場

山間にポツリと佇む農家。麓へ続く道に沿って、棚田が階段状に広がっている。

「おはよーございまーす」


 誰も居ねぇ……。


 うっかり寝坊をして目が覚めると、そこは誰も居ない農家。離れは愚か、母屋にも誰も居ない! のである。


「防犯どーなっとるんだ」


 俺は、あれアレ詐欺。つまり、犯罪者である。泥棒をするつもりは無いが、これでいいのか? と、思わないでもない。

 居間には朝飯と昼飯が、食卓カバーをかけられて鎮座ましましておりました(有難や〜)。

 おにぎりはしょっぱく、卵焼きは激甘である。仕様か?!


 食べ終り皿を退かすと、紙が敷いてある。何々……。


『床の間に作業着を用意しています。

田んぼの草むしりを宜しく

(詳しくは別紙参照)』


「何……だと!」


 ご丁寧に地図ゼンリンのコピーっぽいまで貼って用意周到にも程がある。

 予感がして、土間へ走る。あそこには履いて来たサンダルしか無い筈だ!


 しかしてそこには長靴に鎌、それに麦わら帽子と背負い籠まで置いてあった。


 縛りプレイをするつもりの無い初見のRPGなのに、レベルアップせずにボスキャラとばったり会ってしまった気分だ。人生はリセット→ロード出来んのに。


 考え込む事、暫し。

 しかし『馬鹿の考え休むに似たり』である。


 釈然としないモヤモヤを抱えたまま作業着に着替え、装備を整え田んぼへ向かう。


「スゲーな。この田んぼ全部ばあちゃんのか……」


 眼下には小さく区切られた田んぼが、段々に傾斜して美しい。だが、畦には背が高い草も伸び放題になって、素人目にも惜しく感じる。


 腰を下ろしてちまちまと手を出してみる。『一宿一飯の』と言うやつもある。どうにも理解が追いつかないが、草むしりくらいやってみよう。




 草 む し り く ら い なんて、誰が言った?! いや、言ってはいない。思っただけだが!

 とんでもない! 恐ろしい重労働である。しんどい! 腰が痛い‼︎ もはや、滝汗は汁だくなのだ。


 草を毟る、ひたすら刈る。滴る汗も次第に気にならなくなり、田んぼと畦道の間の傾斜が、ジリジリと、いや確実に切り拓かれ征くではないか!

 蝉の声が遠去かり、世界は俺と雑草だけに収斂されてゆく。ゾーンに入ると言うヤツか?




「おじさん、誰?」


 孤高の世界に不意を打つような声が降りかかった。高く清廉な声に、訝しむ響き。

 気づけば辺りは夕焼けに朱く染まり、烏の鳴き声が遠くから届く時分になっていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ