一幕七場
「な、何ーー」
ーーなんだ? この生命体は?
全高1.3m程度、やや屈曲して直立しており、頭頂部は薄すらと白い毛髪に覆われている。顔には体毛が無く、皺がれた皮膚はやや霞んではいるが、人類の肌色だ。
「居るのなら、さっさと出て来なさい」
おぉ、何か吠えた!
その唸る吠え声は、皺枯れくぐもって低い。
白っぽい布を軽やかな洋装に纏って、手には巾着、腰から下は和服紛いの鼠色したスカートが……。
「イーーー可を呆けて居るか?」
……ふぁ? 何? 誰?
「ぼさぁっとせんと、直ぐに出掛ける支度をしなさい」
ゆっくり、含む様に喋る。
コイツはまさか……。
「こら? たかす?」
出かけるって、何?
「ちょっ、ばぁちゃん!?」
「まぁ……えぇがら、来なっさぃ」
低い重心からの思いがけぬ牽引力で、グイと引っ張られて、そのままタクシーへ放り込まれた。
「汽車の駅まで戻ってな」
それからは正に、疾風怒濤! 目まぐるしく景色が吹き抜けてゆく!?
どうも俺は、突発的事態とやらには対応出来ないタチらしい。まぁそれも、後になって気付いた反省点だ。
タクシーから新幹線! 更に電車、バスを乗り継ぎ最後もタクシーで四時間半。棚田を見下ろす一軒家(?)へ到着した。
あぁ……充電器とかも持って来てねぇや。つか、ここはドコよ?
「世話ねぇがら、えんとなっさい」
靴を脱いで、母屋と思しき家屋に「……お邪魔しまーす」土間、始めて体感するよ。
もたもたしてる間に、小さなばあちゃんはお茶を出してくれた。しかし移動の間にも、やれ駅弁だの冷凍ミカンだのラスクだのと食わされたからなぁ。とか思いつつも、ネギ風味の煎餅を齧る。意外にいける。
「たかす。風呂さ入っといで。離れに布団しいとぐから」
「いつの間に?!」
「はしっこいさぁ」
ばあちゃんのドヤ顔を見せられてしまった。
案内された風呂は、木の香る(ヒノキかな?)大きな風呂。もうすぐ湯が張り終えそうだ。有難く風呂も頂戴しようか。
広い風呂に一人きり。家人の気配もしない。
目まぐるしい半日に、思考がぐるぐると回る。
いかん、湯あたりする。出よ。
「甘ッ!」
夕飯も食べさせられた。
白いご飯にお味噌汁、これはまぁ普通だ。しかしこの煮物! 山菜のやつと、根菜と鶏肉の両方とも甘すぎだろ?!
ばあちゃんはニコニコしながら一緒に食べたが、何も教えてはくれなかった。
離れで何故かサイズの合うスウェットを渡されて、布団に潜り込む。
「あのばあちゃん……一体何を企んでるんだ……」
答えの出ない問いが漏れる。
妙に疲れてしまって、いつの間にか眠りに落ちていった……。
暗転