一幕六場
「……何、……だと」
平城京ォぉぉ! お前かァーーー!?
大宝律令じゃんかよぉォォーーー!!
「あ、いや。……気になっただけでさ……、端末に登録してなかったから……。うん、……ん、うん。ありがと、またァ掛けるから」
下二桁が入れ替わってただトォォ?! Hey ジョー きょう 奴ェーーー!!
◇
◇
◇
祖母力不足に陥った俺は、日雇いのバイトで喰い繫いた。
久しぶりに働くのは、少しだけ充実して、それでいて惨めな気分だった。ひょろっとした四十絡みのオッさんと、へこ凹しながらお中元売り場を作ったりさぁ……。
忘れてたんだ。スッキリすっかりと。
間違い電話した事。
借りた映画を返してから、アパートに戻ったタイミングだった。
猫のお兄さんだ。親キャットが子ニャンコをそぉっと咥えて運ぶ様に、宅配便をウチに届けに来てた。
それは……。
ーー間違い電話"ばあちゃん"からの荷物ーー
下二桁が入れ替わった電話番号。
祖母学的共通項。
悪い事ばっかり続く訳じゃ無いから、頑張りなさいよって、ユキチが5名様も包まれてて……。あと、大願成就の御守り。
乾物とかっぱえぴせん、あとシーチキンの缶詰。
頼んで入れて貰った故郷の煮物は、家のばあちゃんのより、薄口で醤油っぽかった。
ダンボールの底に入ってたのは、母方地元農協のブランド。3キロ袋。
その時俺米に、泣いた。
まぁ……最初はね、悪い事したなあってサ。罪悪感? スッゲぇ有ったのよ。
けどさぁ……、バイトに行く度に凹むワケよ。
罪悪感以上に!
俺はフォースの誘惑に負けた。暗黒面へと真っ逆さまに堕ちて"特殊詐欺師"となったのだ。
とは言うものの、一般のオレオレ詐欺のように、大金を在るだけ毟り取るような悪党にはなり切れ無いのが、さもしい小物なんだよなぁ……。
まぁ、何にせよ……。
あれアレ詐欺は美味い生業。
◇
◇
◇
魔境から一件。
翌日は、試される大地からと、みかん県。
一昨々日には、うどん県。
一昨日は、無し。
昨日も無し。
ピンポーン♫
おっ。今日は来た。今年も働かずに済んでるぜっ、サンキュウ! 津々浦々の"ばあちゃん"達!
自慢になら無いがこの三年、家に宅配業社以外が来た事は無い。
ピンポーン♫
「はーい、今でまーす」
ドアスコープを覗く、が……誰も居ねぇし。悪戯か?
ピピピッピピッピンポーン♫
リズミカルだなぁおいッ!
ガチャッ。
「悪戯なら止してくれま……」
……なんだ? この生命体は?