一幕一場
都会の中の田舎、ボロアパート。散らかったままの"俺"の部屋
「あ、ばあちゃん? ん? 俺おれ、オレだよ!」
端末を弄んで青年、つまり俺は通話を開始する。
「あぁ、……うん。そう、たかしだよ、ばあちゃん」
電話口には、情感たっぷりに。
「久っしぶりだぁ……。うん、うん。元気してた? そりゃ、何とかやってるよ! うん。うん……」
某国T京、立川の端。本当に都内なのかと疑わしい辺りである。電話の先の"ばあちゃん"に、しきりと相槌を交わす俺には、掻き入れ時も終わる頃。夏の終わり。
「うん。……それがさ、せっかく就職出来たのに、倒産しちゃってさァ。それでな、ばあちゃん。その……、アレが足りなくなってサ」
古い空調がゴーゴーと、稼働としているのに酷い鼾を唸らせ、外から押し寄せる蝉の声との声楽を奏でる。
安アパートと空調の壮絶なバトルは、シリーズを追う毎に空調が劣勢になっている気がしないでも無い。
「うん、アレあれ! ……そうなんだァ。こっちじゃ何処にも売って無いんだよ、ばあちゃん」
なるべく話を引っ張り出して、喋らせる。
「ホント?! 送ってくれるんか? 助かるよォ、本当にサ。あァ、引越したんだ。……住所な。言うで。T京都立川ーー」
口調は、ゆっくりと……。
「ばあちゃん、ありがとう。……うん。……うん。ばあちゃんも元気で、な」
「……うん。じゃぁ……ばあちゃん、ありがとう。元気しててな」
「うん。分かってる、分かってるから! ばあちゃん、ホンっトありがとう。ばあちゃんも元気でな」
ぷつッ、ぷーぷーぷー……。
本当に、世の"ばあちゃん"って種族は、しつこいったらないぜ。ややもすると、こっちまで寂しくなっちまう。
しかし、今日も上手くいった。平均して一週間位か? 楽しみだ。
ピィーンポーン♫
お、来た来た! さて、何処の"ばあちゃん"かな?
「はーいっ」
『お届け物でーす』
はいはい。今、行きますよっと。
猫か飛脚か、はたまたペリカンか?
「いつもご苦労様です」
汗だくの配送さんに、汗をかいたグラスの麦茶を持って出る。
荷物はかなり重そうで、一旦受け取って、降ろしてからグラスを渡す。その隙に宛名を確認する。
「あっざいますっ」
一息で空に干したグラスを返してもらって、サインした受取票を渡す。
ネットオークションがね。から、フリマアプリがね。に変わっただけで、誰も怪しいとは思わない時代になったらしい。感謝感謝。
あれアレと言って、内容を電話口で確認するような"ばあちゃん"は、せいぜい三割。あとは、開けてのお楽しみである。
とは言え、独立生態を確立しているはずの、各固有"ばあちゃん"には共通点が多い。
ひょっとしたら"誰でもなれる簡単祖母の手引"とか、流通してるのかも知れない。
さっき届いたのは、魔境の"ばあちゃん"からだ。有り難く開けちゃうぜ、"ばあちゃん"!