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結構可愛いんだけど殺人鬼なのが玉にキズ  作者: 牛髑髏タウン
第四章 「だから私は殺ってません! ……二人しか!」
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第四章 7/8

「おい、ホワイトミント……!」


 俺は恐る恐る近く。だが何も反応がない。

 ただ床に血が広がって行く。まだ血が止まっていないのだ。


「死んで……いるのか?」


 後ろを振り向く。いつのまにかリブラが手に明かりを持って戻って来ていた。

 俺はただ頷くだけだった。


「誰にやられた……? 扉……。君、今誰かと話していたか?」


 リブラの視線の先。ティルミアが出て行ったばかりの扉。

 俺は首を縦にも横にも振れなかった。だが探偵はあっさりと見抜いた。


「ティルミアくんか」


 違う、と言おうとして。何が、違う? 俺は煩悶する。


「い……いや……だがしかし、あいつは牢に……」


「脱獄したんだろう」


「な……?」


「外を巡回している軍関係者の会話を盗聴魔法で盗聴していた。それでさっき偶然聞いてな。実を言うとさっき私が廊下に出ていたのはそのためだ」


「でもなんでティルミアは脱獄なんて……」


 俺の問いに、リブラは目を釣り上げた。


「しっかりしろ。今目の前にその「理由」を見ているじゃないか」


 理由。

 目の前に転がっているのは。


「ホワイトミントくんを殺しに来たんだ。いや、彼女を狙ったかどうかはわからんが、ここに殺しをしに戻って来たんだ」


「そんなバカな……」


「おいおい。タケマサくん。バカなことを言っているのは君の方だ」


 リブラは言う。


「相手は殺人鬼だぞ? 平気で人を殺すのが殺人鬼だろう」


「違う……平気なんかじゃない。あいつは今、言ったんだ。「殺人鬼同士の戦いは無傷とはいかない」って……」


「ん、なんだ? ちゃんと説明したまえ」


 俺は今しがたのティルミアとの短い会話を伝える。

 探偵は、少し考えるように眼を閉じる。


「まさか……ホワイトミントくんが殺人鬼だったと言うのか?」


 俺は、ためらったが、頷かざるを得なかった。


「そう……いうことになる。考えてみればあの助手だけは職業が不明だった。だが、あんたは知らなかったのか? ホワイトミントの職業を」


「無職……だと思っていた。ライセンスを保持しているという話は聞いてなかったからな」


「つきあいが長いわけじゃないのか?」


「実はそう長くはない。お互いの素性もよく知らない。詮索しなかったのだ。探偵と助手というそれぞれの役割を果たせればそれで良いという関係だったのでね」


 リブラは、ふむふむと頷いた。


「だが確かに、ホワイトミントくんが殺人鬼なら犯行が可能だ。食堂の出入りが無かったのも、感知魔法をかけたホワイトミントくん自身が殺害したなら謎は解ける。殺人鬼ライセンスを持っているがゆえに使える手段……蛇黒針を使って殺したのは、ティルミアくんに罪を着せるためか」


 面白そうにとすら表現したくなるほど探偵の口調は軽かった。


「なんでそう冷静でいられる!? あんたの助手のことだぞ!?」


「吾輩に責任があるとでも? 吾輩は知らなかったのだよ」


「そうは言わんが……。ただ……ショックじゃないのか」


「驚いてはいるよ。だが吾輩は探偵だ。探偵はたいていのことに動じてはいけない。冷静に真相を追うのが探偵だ」


 こいつはこういう人間なのか。


「ティルミアくんが戻ってきたのは……ホワイトミントくんの正体に気づいたから、というわけだ」


「いや、それはわからないだろ。牢が嫌になって戻ってきただけかもしれない。だが運悪くこの食堂でホワイトミントに出くわした」


「そして殺し合いになった……と。ティルミアくんも多少傷を負ったが、勝ったのはティルミアくんだった。ホワイトミントくんは彼女が殺したというわけか」


 ああ、おそらく、と俺は頷く。


「そうなると連続殺人事件は……ホワイトミントくんの仕業だったというわけか」


「あんたの推理は外れだったことになるぞ」


「残念ながら、そのようだ。自分の助手が犯人だったとは、吾輩も間が抜けたものだな」


 二件はティルミアだが、残り六人はホワイトミントの仕業だったということか。

 このウサミミが、犯人?


「……」


 俺は頭を振る。とてもじゃないが、すぐに受け入れられない。

 ティルミアは受け入れたんだろうか。

 だから、殺した?

 殺人鬼同士の戦い……。

 ええい。今考えることか。


「ともかく……蘇生だ。運ぶのを手伝ってくれ」


「なんだと? 正気か君は」


「え」


 聞き返したいのは俺のほうだ。


「……生き返らせるなってのか?」


「当たり前だ。殺人鬼だぞ。チグサくんを殺した犯人だ。今夜夜中に出歩いていたのも他の誰かを殺そうとしたのかもしれん。生き返らせれば、また犠牲者が出るぞ」


「あんたの助手だぞ」


「正体は知らなかった」


「……。だがあんた、死なせたままってのは……。それであんた平気なのか」


「殺人鬼だと知ってりゃ雇ってないさ。タケマサくん、君は感傷にとらわれているだけだ。殺人鬼ならこの世にいないほうがいい。生き返らせることがいつもいつも正しいわけじゃない」


「本気で言ってるのか」


「無論だ。正義を見誤るな」


「……」


 俺は首を横に振った。


「悪いな。俺は蘇生に正義なんか求めてない。俺は単に、ティルミアが殺した人間は全員生き返らせることにしてるだけだ。あいつに対する嫌がらせなんでな。なに、また凶行に及ぶのが心配なら縄でぐるぐる巻きに縛ってから生き返らせりゃいい。そのまま軍に引き渡せばいいだろ。こういう時のために、魔法封じの縄を用意してある」


 俺は教訓を活かす男だ。ガルフの時の二の舞は踏まないように買って用意してある。


「……やむを得んな」


 探偵は渋々と言った様子で頷いた。


 *


「タ、タケマサさん……!? こんな夜更けにどうしたんですか!?」


「すまん、サフィー。頼みたいことが……」


「え、え……?」


 サフィーが驚くのも無理はない。いきなり夜中に戸を叩かれて寝間着姿で出てみたらぐったりした女を担いだ二人の男。


「そ、その女性は……? 回復ですか? わかりました。すぐ準備を……」


「あ、待て待て。違うんだ、もう死んでるんだ」


「え。し……死んでる? ……な、なぜ……?」


「ティルミアくんが殺したのだよ」


 横から探偵が口を出す。


「え!?」


「吾輩は探偵だ。これは吾輩の助手を務めていた助手でな」


「た、探偵さんの……助手、ですか……。その方を、ティルミアさんが……?」


 俺は割って入る。事態は一刻を争う。


「ともかく、蘇生させたいんだが……」


「え……ええと……」


「説明は後だ。これから教会に行って蘇生を行うつもりだが……端的に言うと、呪文の修正に協力してほしい」


「……呪文の補正……ですか?」


 俺は頷く。


「……」


 サフィーは何も言わずに、少し待ってくださいと言ってから言葉通り1分後に出て来た。寝間着から着替えていた。


「行きましょう」


「早いな」


「回復屋をやっていると夜中に叩き起こされることはよくあります」


 サフィーが、一緒にいる探偵に目をやる。


「そちらは?」


「吾輩は名探偵リブラ。お見知り置きを」


「……どうも。回復屋をやっております、サフィーです。……助手の方はなぜ……ティルミアさんに」


「殺人鬼だったようだ」


「それは知ってますが……」


「違うんだ、サフィー。この殺された娘が殺人鬼だったらしいんだ」


「え……えぇ!?」


「しかも、件の連続殺人事件の犯人だったらしい。なので吾輩は反対なのだよ。生き返らせるのには。君もそうは思わないかね。この女を蘇生させたらまた犠牲が出るかもしれない」


 ……サフィーは、黙って俺を見た。


「タケマサさん、今の話は……」


「本当だ。暴れないように魔法封印のかけられた縄で縛るつもりだ」


「だとしてもだな、そもそも生き返らせる意味などあるまい。殺人鬼だぞ。そんなものこの世にいない方がいいに決まっている。君はそうは思わないのかね」


「……」


 サフィーは、しばし黙った。

 俺をじっと見て、頷く。


「行きましょう、急ぐのでしょう」


 探偵の方を見て言った。


「私は殺人鬼はこの世の中にいない方がいいと思っていますよ」


「なら、どうして殺人鬼の蘇生に協力しようとする」


「そのために殺人鬼を殺していたら同じことですから」


「博愛主義者かね」


「話をしている時間はないのでは?」


 俺は頷く。

 教会へ、走った。


 *


「教会が近くて助かったな」


 リブラと俺は、運んできたホワイトミントの死体を中央に寝かせる。

 夜に取り掛かるのは初めてだ。

 明かりがなくて勝手が悪いが、幸いここなら魔法陣を描く必要がない。

 まずは遺体修復からだ。ホワイトミントの服の前をはだける。傷は目を背けたくなるような深手だった。俺は手をかざす。


「何か手伝うことはありますか?」


「遺体修復までは、一人で大丈夫だと思う。おいリブラ、明かりを灯してもらえるか?」


「照らせと言われても……、我輩はライティングなど使えんぞ」


「あ、なら私が」


「いや、サフィーにはこの後の蘇生の方を手伝ってもらいたいんだ。……リブラはとりあえず、俺が持ってるこの簡易ライトを使ってくれ」


 リブラにポケットに入るサイズの簡易ライトを渡す。前回の旅の後、色々買い込んでおいて良かった。


「私は何を?」


 俺はポケットに入れていた教本を渡す。


「こんな夜中にやる場合、蘇生魔法の呪文の組み換えが必要なはずだ。だが俺の知識じゃそれができない」


「組み換えなくても有効ではありますよ」


「だが、失敗する確率が上がる。……違うか?」


「……そうですね。間違っていません。わかりました、協力しましょう」


 サフィーは頷く。

 俺はホワイトミントの傷の修復に全力を尽くす。

 傷は見た目の割に、すぐ塞がった。やはり場所がいいのか。

 リブラが言った。


「見事なものだな……。それが見たかった」


「何を言ってる。まだ蘇生は始まってもいない」


 俺はサフィーを見る。


「どうだ?」


「この場所であれば……大きく組み替える必要はありません。精霊力が安定している場所なので。むしろ昼よりやりやすいと思いますよ。二、三箇所、術式を変えるべき場所に印をつけておきました」


 呪文の所々に赤線と変更後の文言が書いてあった。


「恩にきる」


「たいしたことでは無いです」


 ペラペラとめくって、箇所を確認する。

 いける。ここしばらく勉強していたおかげで変更の意味がわかる。


「大丈夫そうだ」


「たいしたものですね。タケマサさんはやはり才能がおありです」


「才能なんて概念を俺は信じてない」


 話している場合じゃあない。

 俺は蘇生を開始しようと、横たえられたホワイトミントの前に立つ。


「……ああ、もう結構だ」


 苛立たしげに言った探偵の言葉の意味がわからず俺は首だけそちらに向ける。


「何がだ?」


「もう、やらなくていいと言っている」


「……? 何を言っている」


「せっかく、もう死んでるんだ。わざわざ生き返らせなくて十分だろう」


「……だから、さっきも言ったように……」


 その時になって、俺は、ようやく気がついた。


 探偵と助手が事務所にやってきた時。

 ティルミアが言った。「なんか、生気の無い人だね」と。ホワイトミントに対して。

 それに探偵は、なんて答えた?

 ……「おいおいまだちゃんと生きているさ」……。

 ……。

 ……「まだ」?


 なぜ、まだ、と言ったんだ?



「お前……何者だ」


「ん? 私かね。私は、探偵だよ」


「お前……サフィーの年齢、わかるか?」


 俺の問いに、サフィーが怪訝な顔をする。


「え? 私の年齢、ですか……?」


「ああ。リブラ。あんた言ってたよな。名前と年齢がわかる魔法が使える、と。探偵というライセンスにはそういう能力があると」


「……」


 探偵は、サフィーを見た。

 サフィーが怪訝そうに俺を見る。

 だが、探偵は答えなかった。


「答えられないんだろう。そんな能力は、嘘だからだ」


 探偵は、口元を歪めた。


「どうしてわかったんだね」


「あんたがボスは誰かと問うたからさ」


 そうだ。

 こいつは言ったんだ。事務所で皆を見渡して。「ボスはどなたかな?」と。

 なぜ、名前と年齢がわかる筈のこいつが、そんなことを聞く必要があった?

 こいつが俺やチグサの名前や年齢を当てたのは、魔法のおかげじゃない。知っていたからだ。


「それだけかね」


「あんた、ミレナの年齢を知ってるか?」


「知っているさ。あの長寿のエルフは見た目に反して、58歳だ」


 ……。

 やはり、こいつにはそんな能力はない。

 事務所の皆が認識している年齢はそうだが、実際には違う。ミレナは本当は、二百歳をゆうに超えている。


「あんた……」



 考えてみれば。

 感知魔法を使っていたのは。

 今目の前に横たわっている、助手の方だった。

 殺人鬼ライセンスを持っているなら、そんな殺人に関係なさそうな魔法が使える訳がない。

 推理をしていたのも。彼女の方だった。 

 この目の前の男は、ライティングの魔法すら、使えない。

 なぜなら……。



「……殺人鬼は、あんたの方だったんだな」



 ほう、と感心したように息を漏らした。


「これは驚いたな。タケマサくんに気づかれるとはな」


「リブラってのはこいつのことだったんだな。記憶を失っていると言ってたが、本当はこいつが探偵だった」


 ホワイトミント……と今まで呼んでいた女を指差す。


「うむ。ご賢察。惜しかったのは、気づくのが遅すぎたことだな」


「あんた……何が狙いだ。事務所に入り込んだのはなぜだ」


「語る理由はないな。なぜなら」


 フッ


 明かりが……消えた。


「君は死ぬのだからな」


 暗闇から声がする。


 ……真っ暗闇で、かつかつとリブラの足音がした。

 ティルミアの言葉を思い出す。


「殺人鬼は、暗視が使える」


 だから、暗闇でも、見える。

 だからこいつは、廊下で、「明かりなしで」いたんだ。

 ……「殺人鬼同士の戦い」……。

 ティルミアが言っていたのは、こいつのことだった。

 あの時。ティルミアとやりあったのは、この男だったんだ。


「なぜ……チグサを殺した!?」


「別に誰でも良かったんだが、都合よくティルミアくんを酔いつぶしてくれてたんでね。濡れ衣を着せるのにうってつけの状況だった」


「お前の推理は……」


「その女だよ。そっちが「探偵」のライセンスを持っている、本職だ。記憶は失っても能力は本物だったな。吾輩は彼女に推理をさせて結論を受け売っていただけだ。メイリが言っていた探偵とは彼女のことさ。……メイリが戻ってくれば私の正体などバレてしまうのはわかっていたが、くくく。あの女が明日の夜まで戻ってこないのは聞いていたからな」


「……なにが……狙いだ」


「おっと話しすぎたな。君にも死んでもらわなくちゃならない。蘇生師である君が死ねば、ホワイトミントくんも生き返ることがないからな」


 ……。

 死ぬ、のか。

 俺はこれから。


「それが俺を殺す理由か」


「いや、そもそも蘇生師の方は必ず殺せと言われているんでね」


 ……「言われている」?


「誰にだ」


 だが暗闇の中で殺人鬼は鼻白んだように笑った。


「つまらん。妙に落ち着いてるな、君は」


「異世界に来てからこっち、現実感というやつにどこか乏しくてな。危険な世界すぎる。この異世界旅行もいつ死んで終わるやらと思っていた」


 虚勢だが、半分本当だ。


「覚悟が決まっているのは良いことだ」


 覚悟が決まっている、のかどうかはわからない。


「だが、そっちの回復屋は災難だったな。巻き添えで死ぬことになった」


「やめろ。彼女は関係ない」


「吾輩の正体を知ったからな」


 サフィーが、へたり込んだのが音でわかった。

 俺は……殺人鬼相手に何ができるとも思えなかったが、とにかく彼女の方へ寄ろうと走る。

 しかし真っ暗闇な上にどっちにあいつがいるかもよくわからない。

 俺は走ろうとして。

 床に激しくぶつかった。


「……ダメだよおとなしくしたまえ。君の動きなど私からすればスローモーションだ」


 喉に何かが当たっている。刃物か。人の指か。気が動転しているのか、俺は判断がつかない。

 いつの間にか、は、は、という絶え絶えな呼吸が自分の口から漏れているのに気づく。

 ああ、いかにも死ぬシーンっぽいなとどこか他人事のように俺は考える。

 なんてあっさりした最期だ。


「じゃあ、すまんがさよならだ」


 ……。


 喉の感触が消えた。

 次の瞬間。寝かされた俺の視界左のほうで何かが爆発した。

 爆発音はしかし続く音で打ち消される。壁際に寄せられていた机のあたりに何かが激しくぶつかった音だとわかる。


「殺させないよ、タケマサくんは」

 

 へっ……。


「待ちくたびれたぜ、ティルミア」


「……地面に倒れながら言ってもかっこ良くないよ、タケマサくん」



 殺人鬼ティルミアが現れた。

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