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第7話

遅くなりました。本当に申し訳ありませんでした。

長文は後書きにて。

「それにしても、見事に【召喚術】の考察自体は進んでいないんだね」

「あぁ、まぁ、な?うん」


 自分でもまさかここまで進んでいないとは予想外である。これは魔力石の方から正解を辿るのは厳しいと考えた方がいいだろう。


「正直、【召喚術】に対する手掛りがなんちゃって説明文だけってのが辛い。何でも良いからきっかけが欲しい」


 ユウへ話しかけながらウィンドウを可視状態にする。隣へと移動してきたユウは何を言うでもなくウィンドウを覗き込んできた。


 □ □ □ □


【召喚術】

『魔力石』を対価として、己のパートナーを召喚する術。


 召喚獣と言われるそれは、主の求める声に応えて、この世に生まれ落ちる術者の分体とも言える存在。しかし、生まれ落ちる前から個の存在でもある。

 相手を理解しようと努力するだけでなく、相手に理解されようとする努力も忘れてはならないのだ。


 □ □ □ □


 何度見ても説明文に変化は無い。今までの試行錯誤で説明文が変化するなどという心優しい配慮など欠片も無いのだ。


「……相手を呼び出すことすら出来ないのに、この説明文をどう糧にしろと」

「不親切なんだか親切なんだか判らないよねぇ…」


 憮然とした面持ちで眺める俺に、曖昧な笑みで同意してくるユウと一緒に、暫しの間思考する。

 しかし、試行錯誤して行き詰まった後なので簡単に良案が出てくるわけもなく、討論するような推測を絞り出すこともできずに、ただただ時間ばかりが過ぎていく。

 先程ユウに吐き出してすっきりした頭の中も、またモヤモヤとした状態に戻っていた。


「……わからん」

「ヒントとなるような文を盛り込むには短いしね、俺もお手上げだよ」


 大の字で地面に寝転がって真上に来そうな紅い月を眺めながら脱力し、同時に思わず言葉がもれる。ユウも言葉と同時に両手を上げて、そのまま身体を軽く伸ばしていた。


「やばい、【召喚術】ってワードがゲシュタルト崩壊を起こしそう……召喚って、どういう意味だっけ……?」

「もうしてるじゃないか……えっと、“裁判所などが特定の者に特定の場所へ出頭するよう命ずること”だってさ」

「うん、知ってた」


 そんな事は知っている。ただ、この停滞した空気を何とかしようととりあえず喋ってみただけで…………………………





 ……ん?



「……は?」


 いきなり出てきた裁判所だの、出頭だのといった言葉に間抜けな声を出しながら身を起こし、ユウへと視線を向ける。

 ユウは眼前にウィンドウを開いており、それを横から覗いてみると、某情報まとめサイトが映し出されていた。

 確かにそこには、ユウが言った通りの意味が書いてある。


「日本語としての専門的にはそういう意味らしいね。だけど、日本の西洋儀式魔術用語では【召喚術】であってるっぽいよ、何らかの存在を呼び出す魔法って認識で良いみたい」

「何それ、どういう事?」

「つまり、当てる文字を間違えたまま定着したって事だね」

「えぇ……」


 何というか、ゲシュタルト崩壊のせいで少々変な方向へと話が飛んでしまった。いや、確かに空気の停滞は目論見通りどうなかなったのだが、これは些か予想外だ、困惑しかない。


「……どちらにせよ、呼び出すって認識は間違っていないって事でオーケー?」

「おーけー」

「【召喚術】に対する考察も進んでないって認識でオーケー?」

「OK」

「ちくせう」


 おい、今一瞬にやけたの見逃さなかったからな、発音を変えるだけでこうもヘイトの上昇率が違うとは。

 ユウもユウで流れを変えようとしてくれての行動なのだろうが、今欲しいのは“また一つ賢くなったね!”的な豆知識ではなくて手掛かりなのだ、わりと切実に。


「何なんだよもう……本当にどうしろと……説明文もよく読めばよく読むほど意味不明だしさ……」

「そうしょげないでよ、具体的に意味不明な所は何処なんだい?口に出すだけでも、大分すっきりするんじゃないかな?」


 TDO特有の感情表現の強調により、ズーンと重い空気を纏っている俺を、とりあえず喋らせようとするユウ。

 TDOでは、基本的に感情は脳から直接読み取っているので、初期設定では現実よりも感情表現が豊かになりやすい。

 因みに、初期設定で大幅に調節されている感情は恐怖だ。これは、一般人が獣と戦う等をする為には恐怖の抑制が必要であり、威圧等で恐怖を煽ったりするときにも活用できるかららしい。


 閑話休題。


「……まず最初に、魔力石を対価にって書いてあるのに呼んだら拒絶されるとう時点でアレだし、生まれおちるんだか呼び寄せるんだかはっきりして欲しいし、俺の求める声って何さ、召喚術そのもの?それとも叫べば聞こえるのか?しかも説明文の内容は、ほとんどその意味不明な文だけで終わってるのが意味不明」


 一度口を開けば、量は少ないがドロッドロに煮詰まった思考が出てくる。量が無いという事は、思考する材料がそれしか無いことを意味しており、煮詰まったそれを更に煮詰めるしか無いという悪循環に陥っていた。


「おぅ……改めて聞くと……酷いね」

「だろ?いや、検証とかは好きなんだけど、事を起こす時には失敗出来ないってのが辛すぎる。試すことが出来ないから憶測の域を脱しないし、そのくせして情報は0に近いっていう……正直詰んでる感が凄い」


 ウボァという声がリアルに出そうになる事態なんて久しぶりだ。これだけ考えて、魔力石に一工夫必要なんじゃね?位しかわかってない。


「あー……精霊さん達ーおかわりいる-?」

「えっ、結月、目が虚ろだよ!しっかりして!っていうか怖っ!リアルでは見ない表情なのにリアルだから怖っ!」


 ふと横目で見た、精霊さん達が貪り食べている魔力石を見てみると魔力密度が40%程になっていた。精霊さん達は、もはや魔力察知が無くても見えるんじゃないかというくらいには光っている。

 とても喜んでもらえているようだし、気分転換をしたいという気まぐれもあって、魔力石を手にとって【魔力付与】を発動した。


「おぉ……ぬるぬる入るな……抵抗らしい抵抗が無い」


 魔力石自体も、自身の形を保つ為に魔力を欲していたのだろう。水を吸うスポンジなど生温いレベル、例えるなら水槽に水を流し込む位の勢いで魔力がガンガン入っていく。

 何だか少しテンションが上がってきた、この際だ、どんどん入れてしまえ。


「うわぁ……MPバーがえげつない速度で減っていってるよ……結月?……ちょっ!結月ストップ!ストップ!これ以上は不味いって!」


 肩を掴まれて、ぐわんぐわんと揺さ振られて【魔力付与】が中断された事により、ハッと意識が完全に戻ってきた。

 MPバーに目をやれば総量の80%近くが魔力石に吸収されているのにも関わらず、魔力密度は80%を超えたくらい。あのまま魔力付与を続けていたらMP切れを起こしていただろう。


「あっぶねぇ……なんかもう、素直に入っていくもんだから調子に乗ってつい」

「ついでぶっ倒れたらどうすんのさ……」


 苦笑するユウに何も言い返せないまま、魔力石を地面に置いて冷や汗をかく。とりあえず、少し落ち着こう。

 ………………よし。


「すまん、落ち着いたわ」

「ん、で?これからどうするのさ?」

「どうするってもなぁ……」


 正直、堂々巡りする未来しか見えない。現に今もループしかかっているし。

 いっその事、召喚獣に聞くことが出来たら良いのに。何で拒絶するんですかーとか、どうしたら来てくれるんですかーとか、それに対して答えとともに、何かしらの主張や要求をしてくれたら楽なのにな。

 そう愚痴をこぼせば、ユウも笑いながら同意してくれた。


「確かにそうだ、どうせなら結月も主張や要求出来たら良いのにね。私はこんな人ですよとか、こういう召喚獣に来て欲しい的な感じで」

「求人広告じゃあるまいに、あれか?魔力石じゃなくて履歴書でも送るのか?」

「うわっ、ファンタジーや魔法のイメージが崩れ落ちるね、それ」


 愚痴から始まった会話だったが、思いの外想像してみるとシュールで面白く、自然と饒舌になっていき気分も明るくなってきた。気分が回復してきたことにより頭の回転も良くなってきたのか、どんどんくだらない妄想が膨れあがっていく。


「送料はあれだな、召喚術を行使する時に使う魔力」

「身も蓋もない言い方だね……」

「んで、書類選考が通った後は面談だな。これは1週間の契約猶予期間かな」

「…………就活とかまだ先の事だからよくわかんないけど、なんかそれっぽい」


 悪戯を考えついた子供のような笑みを浮かべていると断言出来る俺と、楽しそうに相槌を打つユウ。

 ……うん、先程までの俺は少しばかり根を詰め過ぎていたのかもしれない。楽しまなくちゃ損だよな。


「いや、本当、マジで就活っぽくて笑えるよな。召喚術じゃなくて就活術ってか」

「いや、本当にそれっぽいね……やっぱり結月は凄いよ、俺だったらそんな考え思い付かなかった」

「おい、妄想をがちトーンで褒めるなって、なんか急に恥ずかしくなってきたから」

「え?」

「……ん?」




 ………………………あれ?



 …………………………………あれ?





 ーーーーーーーーーなんか、それっぽくね?




「うん?……えっ、うぇっ!?無意識だったの!?」

「え!?いや、だって、えっ!?ありえないだろ!?就活で履歴書だぞ!?ファンタジーで魔法な世界で馬鹿じゃねぇの!?」

「履歴書自身はそこまで重要じゃないだろう!?」

「は?え?は?うん?えっ?はっ!?」

「落ち着いて!」



 □□□□□□



「……すまん」

「いや、まぁ、気持ちはわからなくもないし……」


 取り乱した俺が沈静化するまで数分程かかり、そのまま軽い自己嫌悪に陥っていた。

 いや、言い訳をさせてもらうとするならば、あんなに必死こいて、脳味噌フル回転させて考えていた問題がこんな形で解けそうになっているのだ。嬉しくないわけではないのだが……やるせなさが酷い。

 俺は無言でウィンドウを開き、【召喚術】の説明文を開いた。


 解読開始だ。



 □□□□□□

 □ □ □ □

【召喚術】

『魔力石』を対価として、己のパートナーを召喚する術。


 召喚獣と言われるそれは、主の求める声に応えて、この世に生まれ落ちる術者の分体とも言える存在。しかし、生まれ落ちる前から個の存在でもある。

 相手を理解しようと努力するだけでなく、相手に理解されようとする努力も忘れてはならないのだ。


 □ □ □ □



 この説明文には『生まれ落ちる前から個の存在』、つまりは召喚獣は【召喚術】を行使したさいに誕生する新しい生命にも関わらず、生まれる前から性格や好き嫌いなどがあるということになる。

その上で、術者の求める声に応えてやってくるわけだが、説明文には“相手に理解されようとする努力”もとある。

 ーーーーーーここから、召喚獣も召喚に応じる相手を選んでいると推測できる訳だ。


 では、召喚獣達は何を判断材料として術者がどの様な存在かを判断しているか。

 それは、説明文の情報からして“対価となる魔力石”である可能性が高いだろう。

 召喚獣達からしてみれば、魔力石とは生まれ落ちる為のエネルギーだけで無く、術者から唯一提供されている物であり、情報。

 召喚獣はそれを元に呼びかけに応じているのだ。


 それでは魔力石から読み取れる情報とは何か、魔力以外の何物でも無い。

 魔力とはMPの事、そしてMPとはステータスの【精神力】が多大に影響している。

 簡単に言ってしまえば、“術者の精神がエネルギーとなったもの”、つまりは個人情報の塊なのである。エネルギー名『個人情報』と言ってしまっても過言ではない。

 これ程までに適した判断材料はないだろう。



 ーーーーーーだからこそ、ただの魔力石で召喚された召喚獣達は術者を拒絶した。

 魔力で判断して、いざ生まれてみれば、目の前には全く違う魔力を持った術者がいる。

 故に召喚獣達はこう思うわけである……”騙された”と。

 それはもう初対面の印象は最悪なわけで、お前に応えて来たわけじゃないとなるのは当然の反応だったのだ。


 それを防ぐ為に、術者達は魔力石に、己の魔力で情報を付与する必要があると考えられる。

 結月が魔力石に魔力付与を行った際には、わざわざ説明文にまで『結月の魔力』と追加記載されたのだから、可能性は高いだろう。


 □□□□□□


「……………」

「……………」


 メニューのメモ機能を使いつつ、こじつけ満載ながらもどうにか纏めた仮説。

 合っているかもわからないそれはそこまで長い文章では無くて、しかし懸命に絞り出したものだった。


 身体が震える。

 この湧き上がる感情は抑えが効くような代物ではない。それはユウも同じらしく、俺と同様に身体を振るわせていた。


 目と目が合う。

 その瞳に映るのは紛れもなく同じ感情。

 そして、俺とユウは示し合わせた訳でもなく同士に息を長く吸いこみ、溜めーーーーーーーー





「「こんなのわかるかああぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああっっ!!」」



 どうか、この思いが届きますようにとーーーむしろ聞けやこの野郎とーーー顔には獰猛な笑顔を浮かべながら天高く叫んだのだった。

読了、ありがとうございました。


覚えていて下さった方がいらっしゃいましたら、ありがとうございます。

久しぶりの投稿となりました。なのに溜め回です…申し訳ないです。


今回は、ぐだぐだした友人同士の駄弁りも多少意識してみました。

次回からは、少し展開を早めます。


次の更新は早めに出来るように頑張らせて頂きます!

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