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第6話

ずっと検証をする訳にもいきませんからね。

次回には話を進行させたいです。

 手の中にあるのは『魔力石』、より正確に言うならば俺の魔力が周囲に付与された状態の魔力石だ。

 この魔力石は精霊さん達に魔力を吸われていない物で密度は100%、中身パンパンの完全体だ。これに【魔力付与】をしても俺の魔力が入り込む余地は残っていないので、周りに付与されるだけとなる。

 なので俺の魔力を送り込む前提条件として、魔力石の魔力をどうにかして外へと逃す必要があるわけだ。

 外に魔力を逃すだけならば、今の所唯一実績がある精霊さん達に頼むのが確実ではある。精霊さん達も喜んで魔力を吸い出してくれるだろう……消えて無くなるまで。


 それでは本末転倒なので、精霊さん達に頼らずに俺の力だけでどうにかするしかないわけだが、俺に魔力石の魔力を直接操る事は不可能だ。

 先程試した様に、俺は俺の魔力にしか干渉出来ない。魔力石の魔力を精霊さん達の様に吸収する事も無理。


 では、俺以外のものである魔力に干渉するにはどうすれば良いのか……おそらくだが、干渉するだけならば意外と簡単にできると予想している。


「……よし。やっぱり魔力石の”周囲を包んでいる俺の魔力”は操作できるな」


 ーーーーー魔力に干渉したいのならば、同じ魔力を使えば良い。

 つまり、操作可能な俺の魔力を使って、魔力石の魔力に間接的に干渉出来るのではないかと考えたわけだ。

 そこで目を付けたのが【魔力付与】を行って、周囲に付与された状態の俺の魔力、こいつを操作して魔力石に干渉できないか?と。


「ほっ…むっ……はぁぁぁっ……うーん、表面でぬるぬる動いてる感じはあるんだけどなぁ……」


 ーーーーーが、そう上手くはいかないようだ。

 確かに【魔力付与】した俺の魔力は動かせる。それはもう、調子に乗って声が出ちゃう位動かせる。一番楽しかったのは「はぁぁぁっ」と気合いを溜めながらの高速螺旋回転、何故かロマンを感じた。


 しかし、魔力石の中に俺の魔力を移動させるのは無理だった。

 確かに手応えは感じたのだが強い力で押し返される、全く太刀打ちできない。

 例えるならば、今にも人が溢れ出そうな満員電車に1人で乗り込もうとする感じだろうか。足の踏み場も無いそこに俺の入るスペースは無い、諦めて次の電車を待ちましょう状態である。


 ならばと次は魔力の逃げ道を一ヶ所だけつくって、その場所以外から魔力で圧力をかけてみた。

 満員電車で例えるならば、ホームと反対側の扉を一箇所だけ開けて反対側から押し入る……唯の外道だな、それ。

 しかしそれでも失敗。無闇矢鱈に圧力をかけた時よりかはいけそうな気がしたが、結果は気がしただけだった。


「むぅ……いけると思ったんだがなぁ」


 自信がある試みだっただけに、失敗に終わったのは超ショックである……真夜中だが。


 ……こほん、しかし魔力で魔力に干渉するという路線は間違っていないと思う。実際に手応えが無かった訳ではないのだ、干渉はできているが影響を及ぼす所までいっていない状態だと俺は睨んでいる。

 ……そうであって欲しいというのが本音だが。


「魔力がキーワードなのは間違いない……他のキーワードは……」


 何故、俺の魔力は入り込む事が出来ない?

 魔力石の魔力を押している感覚があるのに動かせないのは……力負けしているから。

 じゃあ、その力とは?俺の魔力が魔力石に負けているものは?

 質の良さは分からないから、どうしようもない。

 量は完全に負けているが、入り込ませるのに同等の量は必要無い。

 後はーーーー、


「……いけるか?…魔力付与」


 俺はまた【魔力付与】を発動する。

 しかし先程と同じ様に、魔力石に対して【魔力付与】を発動した訳ではない。


 そのまま言えば、魔力石に付与している俺の魔力を対象に【魔力付与】を行おうとしているのだ。

 これが成功して、俺の推測通りになってくれたら少しは光明が見えるはず。


「これは……上手くいったのか?」


 30秒ほどかけて追加の【魔力付与】を行った結果、魔力石を包むベールの光は強くなった様に見える。

 そう、今俺は付与された魔力の”密度”を高めようと試みているのだ。

 魔力石の魔力を引き出したり吸い出したりする事が出来ない以上は、押し出すしか方法はない。

 その押し出す力を強くする方法を考えた結果がこの方法だった。魔力に対応するなら魔力で、密度に対応するなら密度でという至極単純な結論を出したのだ。


「でもこの程度じゃあ、まだ無理だよな」


 試しに色の濃くなった魔力を操作してみると、確かに先程よりは制御が難しくなっている様に感じる、密度が高くなっていると言って良いだろう。

 しかしこの一段階前の状態で、魔力石はうんともすんともいわなかったのだ。


「……とりあえず、制御できる限界までやってみるか」


 もしかしたら魔力石が駄目になるかもしれないが、その時はその時。しくじるは稽古のためとも言うし、取り敢えずやってみよう。


 □ □ □ □


「……ヤバくないか、これ?」


 俺の口から出た言葉は意外と冷静なものだったが、その実内心ではかなり焦っていた。

 あの後から"5分"ほど【魔力付与】を行い続けた魔力石は、それはもう煌々と光っている。直視が難しいレベルに。

 魔力の素人である俺には現状を正しく理解することは出来ないが、本能がヤバいと言っている事だけはわかる。パンパンに膨らんでいる風船に追加で空気を入れていく時に感じる様な危機感を、命の危機レベルまで引き上げたような……つまり、爆発の予感というやつだ。


「これ以上は無理だな。流石に試してデスペナは嫌だし」


 まだいける、まだいけると最終的に俺のMP総量の約20%が消費され、拳大の石の周りに膜のように張り付いていた。密度は相当なものだと自負できる。


「……維持するのすらキツい、頼むから成功してくれよ」



 ズルズルと固体になりかけている液体を無理矢理動かしている感覚を味わいながらも、全神経を集中させ魔力を操作して、魔力石の魔力の逃げ道を一ヶ所だけつくりだす。

 そして、一気に魔力石にかける圧力を最大にしてーーーーーーーーー


「ーーーーーーーッ!?」


 ーーーーーーーーー光が爆発した。


 衝撃もなければ、熱もない。

 しかし、膨大なエネルギーとエネルギーがぶつかり合っているのが容易に想像できる光の奔流が掌の上で起こっていた。

 目の網膜を焼かれまいと俺は反射的に目を閉じるが、それでも尚視界は明るい。目の前が真っ白になるとはこういう事なのだろう。

 そんな状況でも、魔力石を手離さずに魔力操作を続けている自分を褒めてあげたい。


 そんなことを考えながら少し時間がたち、徐々に光を弱めていった魔力石は完全に沈黙した。時間にして1分前後位か。

 眩い光に目が慣れてしまったからか、暗くなったように感じる周囲をゆっくりと見渡し、思わず張り詰めていた息を瞬間的に吐き出した。


「やっばい、想像以上にやばかった……エネルギー反応凄まじいな」


 もし熱でも発生していたならば、俺は蒸発していたかもしれない。其れ程に凄まじいインパクトがあった。


「……けど、手応えはあった」


 紅い月を見上げていた顔を、手元へと戻す。


 □ □ □ □


【魔力石】レア度:1

 誰のものとも知れない魔力が集まり合い、強固な塊となった物。


 石と名は付いているが、鉱物の類いなどは一切含まれていない魔力の塊。壊れそうになっても元の形に戻ろうとする力がある。

 しかし扱い方を知っていれば、固形化した魔力である為、様々な用途に使用できる。


 ※結月の魔力が占める割合:10%


 □ □ □ □


「成功だ……」


 手で顔を触らずとも口端がつり上がっているのがわかる。我ながら締まりのない表情をしているだろう。


「くぅぅぅぅぅっ!成功だっっ!!」


「よっしゃっ!よっしゃっ!」と拳を握りしめ連続ガッツポーズを決める。

 一人で真夜中なので、無意識に声は小さいものとなっていたが全身から迸る興奮は抑えられない。

 本来の魔力石よりも若干白みがかっているそれは、まだ10%しか送り込めていないと表示されている。

 あれだけの反応があって、俺のMPの20%を使って10%だ。

 しかし、ゼロから試行錯誤しての10%だ。喜びの感情しか湧いてこない。

 はしゃいだって、良いだろう。






「ふぅ……よし、落ち着いた」


 吐息と共に思考回路をリセットし、魔力石の事から一旦離れる。

 実は大分前進したように見えて、あまり状況は進展していない。


「【召喚術】……魔力石を弄っていれば、それっぽい文とか出てくると思ったんだけどなぁ」


 そう、本題の【召喚術】に対する考察は全く進んでいないのだ。

 ちょっと夢中になって魔力石を葬り過ぎた。


「結局手掛かりは【召喚術】のブランチ説明だけ……これは多少都合良く解釈してでも、推測を増やすべきだな」


 そうでもしなければ、完全に行き詰まってしまう。

 個人的な好みによる理由だが、明日の深夜、満月が真上に来た時に【召喚術】を使いたいので、今日中にどうにかしたいのだ。


 □ □ □ □


【召喚術】

『魔力石』を対価として、己のパートナーを召喚する術。


 召喚獣と言われるそれは、主の求める声に応えて、この世に生まれ落ちる術者の分体とも言える存在。しかし、生まれ落ちる前から個の存在でもある。

 相手を理解しようと努力するだけでなく、相手に理解されようとする努力も忘れてはならないのだ。


 □ □ □ □


「むぅ……」


 説明文を何度も読み返す。ゲシュタルト崩壊を起こさない程度に読み返す。


「なんか……引っかかるんだけどなぁ……」


 それが何なのかはわからない、少し煮詰まってきたのかもしれないな。


「……情報をぶちまける相手が欲しい」

「呼んだ?」


 そうそう、ユウ辺りに一旦思考を全部ぶちまけて頭の中を整理したいなぁ、って思ってたんだよ。

 だから丁度良かった……、


「…………」

「…………ふふっ」

「……何時からそこにいた?」

「えっと、興奮状態から賢者タイムに入る頃辺りかな?」

「悪意ある言い回しやめーや」


 俺の突っ込みには反応せずに、携帯食料で自身の口を塞ぐユウ。こいつ……実は【魔力魔法】の時に動揺させられた事を根に持ってるな?


「……まぁ、あれだよ。【魔力察知】も【気配察知】も忘れる位集中してたし、邪魔する理由も無かったから、どうぞごゆっくりって感じで傍観してたわけさ」

「……まぁ、気づかなかった俺も俺か」


 俺も怒っているわけでは無いしな。時間も惜しいし、本題に入るとするか。




 □ □ □ □



「あー……結月?」

「ん?どうしたんだ?」


 今まで検証していたことや、わからない事などをユウへと垂れ流した俺はすっきりとした気分になっていた。

 それに対してユウは、何処か気まずそうな空気を纏っており、どうしたらいいか迷っている様に感じた。


「えっと、本当に良かったのかい?」

「良いって……何が?」

「だからその、俺に全部情報を話しちゃって」

「……別に構わんが?」


「あー……」と、更に困り顔になるユウに困惑する俺。この検証はユウからの情報があったからこそのものであるというのに。


「えっとね、まず魔力石に【魔力付与】をするって事だけど、これはβの頃から可能だって確認されているんだ」

「あー、やっぱり確認されてたか」


 これは半ば予想出来ていた。

 生産職の方々が【魔力付与】を試す時に魔力石を使っていない可能性の方が低いのだ、当然の結果といえよう。


「でもね。【魔力付与】の重ねがけと、自身の魔力を魔力石に送り込むっていう方法は、βの情報には何処にも無かったんだ。おそらく、正規版から追加されたものだと思う」

「……マジ?」

「うん、マジ」


 唖然とする俺を、割と真剣な表情で見てくるユウ。

 そっか、まだ発見されていなかったのか……正直凄く嬉しい。


「だからこそ、この情報を俺が聞いても良かったのかと少し後悔してる」

「……誰にでも話すわけじゃないぞ?」

「それは結月の事だからわかってるし、信用してくれてるのは嬉しいけどさ……」


 あっ、これはかなり困ってる時の表情だな。それでいて頭をフル回転させている時の雰囲気だ。

 ユウ相手だから損得感情抜きで話しているというのに、変な所で頑固なやつだ。


「……結月、これは俺の予想なんだけどね。多分【召喚術】の拒絶されない方法はβの時点で誰かが見つけていると思うんだ。暫くすれば、掲示板にも情報が載ると思う。」

「……えっ?」


 唐突に真顔になったユウは、いきなりそんな事を言い出した。

 適当な事を言っている様子は無い。それくらいのことが分かるくらいには、ユウとの付き合いは長い。


「でも、βテスター達の情報には載って無かったんだよな?」

「うん、載って無かった。でもおかしくないかい?βの間で【召喚術】を使うのは何も一回じゃ無かった筈だよ、契約失敗しているんだから何度も挑戦するのが普通だと思うんだ」

「……確かに」

「でだ、そんなに何回も挑戦して検証しているのに、1人も正解に辿り着けないなんて可能性はどれ位だと思う?」

「…………」


 言われてみればそうだ。運営だって初期でどうしようもない条件を提示したりしないだろう。誰かしらが発見、実行できるものを用意する筈だ。

 それなのにβテスター達の情報には載っていなかったということは……


「βの情報はあくまでも、βテスターという人間が自身の所有物である情報を提供してくれたものだからね。理由は色々あるだろうけど、テスター達が公開しても良いと判断したものしか載ってない」

「【召喚術】の情報を持っている人は公開しない事を選んだわけか」

「だね。独占したかったのか、後の人達に自分で見つける楽しみを取っておいてくれたのか……まぁ、どんな理由にしろ所有するものとしての当然の権利だよ」

「あぁ、確かにそうだな」


 おっ、ガクッと効果音が聞こえてきそうなリアクションだな。

 いや、まぁ、ユウが言いたい事はわかる。わかった上でこの対応は少し意地が悪いかな。


「……今の結月にも言ったつもりだったんだけど」

「わかってるぞ?」

「……そっか、なら良いや」


 意外とあっさり引き下がるユウに苦笑する。

 こいつは昔からそうだ。俺が骨折した時も真っ先に心配してくれたのに、次の日学校に行った時には、もういつも通りの対応に戻ってたからな。

 最初にβの情報を教えてくれた時にこの情報を話さなかったのも、俺が求めている情報とは違うと判断してくれたからだろう。

 こんなやつだからこそ、本当に友人として付き合い易いのだ。

読了、ありがとうございます。


はい、もしかしたら違和感を覚えていた方もいたかもしれませんが、ユウの考察でした。

あくまでもユウ個人の推測ですので真偽は不明ですが、TDOは一人一人の適性やブランチに差がでるので、検証というのは少々難しくなっているかもしれません。



ここからは少し別の話を。


全体日間ランキング、最高2位。

初期ブーストの影響が大きいのもあるでしょうが、当初細々と書いていくつもりだった作者は、正直戸惑っています。


今現在のリアルが忙しく、頻度の高い更新は厳しいですが、読んで下さっている読者さんの為にも、失踪せずに頑張らせて頂きます。


ブクマ、評価、感想は作者の力となっています。本当にありがとうございます。



……頂いた感想で「エタるなよ?絶対にエタるなよ!?」という芸人特有のフリを一瞬幻視しましたw(ぇ

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