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第5話

物事を検証したりする時って、思考が様々な場所に飛んだりしますよね。

 無味な携帯食料を水で流し込み終えて、俺は気合を入れ直した。

 TDOにも『満腹度』と『口渇度』というのは存在する。例によってマスクデータで数値としては見れないが、空腹や喉の渇きを無視し続けると『空腹』や『口渇』の状態異常に陥るので、定期的に食事をしなければならない。流石に食事後の生理現象は存在しないけれど。


「さて……未だ見ぬパートナーの為に頑張りますか」


 今から行うのは、召喚術を行う為の準備だ。

 ただ【召喚術】を行使するだけならば、アイテムストレージに『魔力石』が存在していれば可能なんだが、それではユウが言っていた様に拒絶されてしまう。

 俺は、それを防ぐ為の方法が何かしらあると思っている。なので今からその方法を模索しようということなのだが。


(とは言っても、どうすれば良いのか全くわからないからなぁ……基本から見直すしかないよな)


 今、持っている情報でほぼ確定しているのは【召喚術】を行使する際に、『魔力石』を消費するという事。

 初期アイテムとして配布された『魔力石』をそのまま【召喚術】に使用したら拒絶されるという事。

 ……それだけだが、だからこそキーワードとなるものは明確である。


(……やっぱ、原因は『魔力石』関連の可能性が一番高いよな)


 メニューからアイテムストレージを開き、そこにある『魔力石×8』の表記を今一度見る。

 これは、『初期配布の魔力石』と『町などで売っている魔力石』に違いがあるのでは無いかと仮定して、町で寄った店で『魔力石×3』を買った為だ。

 魔力石は一個”1000R”と、所持金”5000R”の俺からしたら高級品だったが、迷わず買った。

 それ以外にもポーションや携帯食料も初期配布に追加で買ったおかげで、今の俺の手持ちは”750R”とかなり寂しくなっている……ドロップアイテムが高く売れれば良いのだが。


 話が逸れたが、その結果『魔力石』はアイテムストレージで一纏めになった。つまり、全く同じアイテムだという事が判明したのだ。

 町売りのアイテムは基本的に採取出来るアイテムと同じ物なので、自分で採掘した魔力石も、アイテムとしては『初期配布の魔力石』と同じ物扱いだとわかったのは大きな収穫である。

 つまりだ、俺の持っている『魔力石』自体に問題は無いのだ。どの魔力石も、同じ魔力石なのだから。


 そして【召喚術】そのものにも、問題があるとは考えにくいだろう。

 拒絶してくる召喚獣しか呼べていないとはいえ、召喚の行使自体は問題無く成功しているのだ。原因は【召喚術】を使う前にあると考えて良いと思う。


(”魔力石以外の何か”が必要なのか、もしくは”魔力石自体に何かをする”必要があるのか……このどちらかだと思うんだが……)


 召喚に必要なコストは揃っている、足りないのは拒絶されない為の+αなのだ。


(そもそも何で、召喚獣達は拒絶をするんだ?)


 召喚される前に居場所があって、親や仲間と無理矢理引き離されたとかならば、拒絶されるのはわかる。それならば怒り狂うだろうし、どう頑張ったとしても初対面の印象は最悪だろう。しかしそれは、無いと言い切れる。

 何故ならば、【召喚術】とは言うが、ブランチ説明を解釈する限り、何処からか呼び寄せているというよりも、正確には”生み出している”というほうが正しい筈だから。


□ □ □ □


【召喚術】

『魔力石』を対価として、己のパートナーを召喚する術。


 召喚獣と言われるそれは、主の求める声に応えて、この世に生まれ落ちる術者の分体とも言える存在。しかし、生まれ落ちる前から個の存在でもある。

 相手を理解しようと努力するだけでなく、相手に理解されようとする努力も忘れてはならないのだ。


□ □ □ □


(んー…よく読めば、『魔力石』を対価って表記されてるし、”魔力石自体”をどうにかする方が正しいか?……でも、どうしろと?)


 アイテムストレージから『魔力石×8』を全て具現化させ目の前の地面に転がす。

 黒曜石の様な黒い光沢を持ちながらも、光を通せば反対側に抜ける透明さを持つ、拳大ほどの塊であるそれを一つ手に持って様々な角度から見てみる。


□ □ □ □


【魔力石】レア度:1

誰のものとも知れない魔力が集まり合い、強固な塊となった物。


石と名は付いているが、鉱物の類いなどは一切含まれていない魔力の塊。壊れそうになっても元の形に戻ろうとする力がある。

しかし扱い方を知っていれば、固形化した魔力である為、様々な用途に使用できる。


□ □ □ □


「んー……」


 当たり前だが、見た目も説明も店で買った時と何ら変わら無い。色々試してみようと余分に買って来たは良いが、さてこれからどうするか。


「……とりあえず、俺に出来る事を試そう。正直、俺のブランチじゃどうしようもない可能性もあるからな」


 言葉に出すことで頭の中を整理する、気持ちを切り替えて、とにかく手当たり次第に色々と試してみよう。

 今は少しでも情報が欲しかった。


「名前に”魔力”ってついてる位だからな。魔法系ブランチの影響は期待して良いんじゃないか?」


 俺の魔法系ブランチは【召喚術】【強化魔法 】【精霊魔法】【魔力察知】【魔力付与】【魔力操作補助】【魔力魔法】であるが、【魔力魔法】そのものが必須という事は無いはずだ。

 どちらかと言えば、限定的なレアブランチよりも、【召喚術】を持ってる人ならば誰でも習得できるブランチの方が怪しい。


「まずは強化魔法……って、魔力石の何を強化しろと」


 思わず突っ込んでしまったが、強化魔法はステータスを強化する魔法だ。魔力石との関係性は限りなく低いと思う。


「お次は精霊魔法だな……精霊さん、何か出来るか?」


 そう呟いてしまったが、今の俺を思い返してみると虚空に「精霊さん」と呼び掛けている大の男……いや、精霊が実在するのだから問題ない。意識したらTDOを楽しめないぞ、うん。

 しかし呼び掛けも虚しく、特に変わった様子は無い。残念。


 さて、次は【魔力察知】だ。

 魔力石と言う位だからな、意識すればかなりの魔力を察知出来る筈。役に立つかは分からないが、片っ端から試すべきだ。


「…………おぉ、やっぱ魔力の塊だからか?なんとも言えないが、ずっしりと存在のある……ん?」


 存在感の大きい魔力石。

 その所為で気付くのに遅れたが、その魔力石の周りに希薄ではあるが違和感を感じた。


「なんだ?魔力石の混濁した存在感とはまた別な……あれ?この感覚は覚えがあるんだけどな……」


 確かストーンヘッドラビットとの戦闘の時や野犬との戦闘の時も……というより、戦闘の時に良く感じてた気がする。

 様々なエネミーとの戦闘の時に感じてたけど、ユウの魔力ともまた別だし……だとしたら一体何の魔力……って。


 ……魔力石の魔力が少しずつ漏れ始めてる?

 魔力石の周りの違和感に吸い込まれていくように、魔力が空気中に霧散するかのように出ていっている。


「えっ、なんで?」


 慌てて他の転がっている魔力石の方を見るが、そちらの方には何ら変化は無い。変化があるのは俺が持っている魔力石だけだ。

 それも魔力が霧散していくって……放っておいたら消えて無くなってしまう!


 理由はなんだ……他の魔力石にはしていなくて、持っている魔力石にだけしたこと……あっ!


「精霊さんか!」


 思い当たった答えを声に出せば、魔力石の周りがぼんやりと光る。それは精霊魔法を行使した時のロッドの先の光に酷似していた。


「そうか精霊さんか、道理で覚えがあると思った……って、魔力吸うのはやめてくれないのっ!?」


 存在を認知されたからか、何処と無く楽しそうに揺れている気がする精霊さん達。

 しかし、先程から魔力石から魔力を吸う速度が全く変わら無い。いや、徐々に早くなってるか?


「ちょっ、ストップ!ストップだって!」


 必須に止めようと呼び掛けるが、止まる気配は全く無い。確か精霊魔法の説明にも”精霊は気まぐれ”って書いてあったし、そういう事なのか?


「あー……まぁ、君達には戦闘でお世話になってる訳だしな……一個位あげても良いか」


 魔力石をそっと地面へと置く。精霊さん達は魔力吸収をやめないが、あげると決めたのだ。問題は無い。

 1000Rだという事は忘れよう。精霊さん達に1000R以上稼がせてもらったと考えれば良いのだ、そうしよう。


 新たな魔力石を手に取り、気持ちを切り替えた。次は【魔力付与】を試してみよう。


 実は、俺はこの【魔力付与】に期待していたりする。

 ユウが、【魔力付与】は生産職が武器や鎧に魔力を付与したり、マジックアイテムを作るのに使用すると言っていたやつだ。

 もしかしたら、魔力石にも何かしらの影響を与えてくれるかもしれないと考えている。


「さてと…【魔力付与】」


 手の平と魔力石に意識を集中させて、【魔力察知】で感じる身体の中にある魔力を【魔力操作補助】を使って魔力石へと送っていくイメージをする。

 すると俺の掌から月のような淡い光が漏れ出していき、魔力石を包んでいった。

 そして時間にして約30秒ほど、俺のMP総量の約2%位を消費した所で魔力石を包む光が安定した様に見えたので、魔力付与をやめて魔力石を見てみる。


「おぉ……」


 変化は如実に表れていた。とは言っても【魔力付与】本来の使い方の一つであるために変化と言って良いのかは微妙だが。

 魔力石は結月のMPを纏っており、光のベールに包まれて淡く光っている。それは手の平サイズの日食のようで、妖しくも綺麗だった。



□ □ □ □


【魔力石】レア度:1

誰のものとも知れない魔力が集まり合い、強固な塊となった物。


石と名は付いているが、鉱物の類いなどは一切含まれていない魔力の塊。壊れそうになっても元の形に戻ろうとする力がある。

しかし扱い方を知っていれば、固形化した魔力である為、様々な用途に使用できる。


※周囲に結月の魔力が付与されている。時間経過で徐々に霧散していく。

□ □ □ □


 アイテム説明も少し変わっていたが、時間経過で元に戻ると書いてある。

 この現象は一時的なものなのだろう。


「うーん……変化は見られたけど、これが必要なのかわからん」


 でも、一歩前進した感はある。焦らずに検証を進めてみよう。


「で、【魔力操作補助】だけど……これは名前通りに魔力の操作を補助するブランチだからなぁ」


 先程の【魔力付与】の時に使った様に、魔法を使ったり魔力を使ったりする時に補助をしてくれるブランチだ。所謂、パッシブ系というやつである。


「……そういえば、魔力石の魔力って操作出来るのかな?」


 ふと疑問に思い、魔力石に意識を集中して動く様に念じてみたが全く反応が無い。


「ぐぐぐ……やっぱり無理か、操作できるのは自分の魔力だけみたいだな」


 はぁ、とため息を吐いて地面へと視線を向ける。視界の端には今も元気良く(予想だが)、魔力石の魔力を吸い上げていく精霊さん達がいた。


 ………………あっ!


「いや!精霊さん達は動かせてるじゃん!」


 正確には吸収しているのだが、動かす事が不可能という仮説は否定された。

 それに、良く考えれば魔力石のアイテム説明にも『扱い方を知っていれば、固形化した魔力である為、様々な用途に使用できる。』と書いてあるのだ。

 召喚術に活かせるかどうかは不明だが、魔力石をどうにかする選択肢がこれで増えた。


「いやぁ、ありがとう精霊さん達。”情けは人の為ならず”ってやつか」


 そんな俺の感謝を知ってか、存在感が少し増した気がする精霊さん達。いや、数が増えているのかな?

 魔力察知をより正確にする為に、意識を精霊さん達の集まる魔力石に向ける、するとシステムが魔力石に注目したと受け取ったのか、アイテム説明を勝手に表示してきた。


□ □ □ □


【魔力石】レア度:1

誰のものとも知れない魔力が集まり合い、強固な塊となった物。


石と名は付いているが、鉱物の類いなどは一切含まれていない魔力の塊。壊れそうになっても元の形に戻ろうとする力がある。

しかし扱い方を知っていれば、固形化した魔力である為、様々な用途に使用できる。


※魔力密度97%


□ □ □ □


「また新情報か!」


 魔力密度……確かに先程から精霊さん達に魔力を吸われているにも関わらず、魔力石の大きさは変わら無いままだ。

 そのため、密度が低くなっているという事なのだろう。


「密度が低く……ちょっと待てよ?つまり、あの魔力石にはMPが入る余裕があるという事だよな?」


 MPがパンパンに詰まった状態の魔力石に、全方向から【魔力付与】をしても、周りに付与されるだけだった。

 しかしだ、本来よりも密度が低くなり、魔力が入っていない状態の部分が出来た魔力石に【魔力付与】をしたらどうなる?

 元の形に戻ろうとする性質のある魔力石に、足りない分の魔力を提供したらどうなるのか?


「……精霊さん達、ちょっとごめんよ。……【魔力付与】」


 一応、精霊さん達に断りを入れてから魔力石を掴んで【魔力付与】を行使する。

 すると先程とは違い、包みこむように広がっていた魔力は徐々に中へと吸い込まれていく。新しい発見に胸を躍らせながらも【魔力付与】を続ける事二分程で魔力石を包む光のベールも安定したので、アイテムを識別した。


□ □ □ □


【魔力石】レア度:1

誰のものとも知れない魔力が集まり合い、強固な塊となった物。


石と名は付いているが、鉱物の類いなどは一切含まれていない魔力の塊。壊れそうになっても元の形に戻ろうとする力がある。

しかし扱い方を知っていれば、固形化した魔力である為、様々な用途に使用できる。


※結月の魔力が付与されている。周囲の魔力は時間経過で徐々に霧散していく。

※結月の魔力が占める割合:3%


□ □ □ □


「きたっ!思った通りだ!」


 アイテム説明に、俺が予想していた結果が表示されているのを見て、思わずガッツポーズをとってしまった。

 用途はまだ分からないが、アイテム説明欄に表記されるほどの変化を起こす事が出来たのだ。誰だってテンションが上がるだろう、少なくとも俺は上がった。


「ん?……あっ、そうだよな。これはもう精霊さん達の物だもんな。貸してくれてありがとう」


 興奮していた俺だったが、握っている魔力石に再度、ふよふよと魔力が集まり始めているのを見て精霊さん達から借りていたのを思い出した。

 精霊さん達のお陰で色々と発見出来たのだ、どうぞ持っていって下さい。


「さて、問題は精霊さん達に頼らずにどうやって同じ物を作るかだが……今の俺、冴えてるかも」


 新しい発見が続いてアドレナリンがドバドバと出まくっているのかもしれない、ゲーム内でアドレナリンが作用するのかは分からないが、実際に今の俺は頭が良く働いてくれている気がする。


「……よしっ」


 俺は先程、【魔力付与】をして、周りにMPを纏わせた魔力石を手に取る。

 【召喚術】に関係しているかどうかは、今の所全く分かっていない。

 しかしそれを抜きにしても、俺はこの試行錯誤自体に楽しみを見出し始めていた。

読了、ありがとうございます。


話のストックが切れてしまいました……連日投稿は厳しいかもしれません。


それとは別に初の感想を頂きました。

読者さんの反応が知れるというのは、嬉しいものですね。

「更新頑張って下さい」という一言であっても、「あぁ、楽しみにしてくれているんだ」と嬉しくなります。作者は単純ですのでw

ブクマも評価も、続きを待ってくれている人がいるという事ですからね。


ミスもするでしょうし、無理をする事は出来ませんが、頑張らせて頂きます。

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