第3話
季節限定とか、数量限定って言葉は何で魅力的に感じるんでしょうね?
色々と衝撃的な事実が発覚したが、悩んでいても仕方がないと、思いの外早く復帰できた。
ペリドットさんも『結月さんのブランチは少々扱いが難しいかも知れませんが、良く考えて誠意を持って正面から向き合えばきっと応えてくれます。焦らず色々と挑戦してみて下さい』と言ってくれたのだ。
ペリドットさんのお墨付きであるわけだし、頑張ってみようと思う。
そんなこんなで、有益な情報を教えてくれたユウにお礼を言った後に俺達は町を彷徨い、その途中で雑貨屋に立ち寄ってそれぞれ欲しいものを買った。
今は、満月に近い紅い月の月光を浴びながら西の森へと向かって平原を歩いている。
「兎だな」
「兎だね。あっ、逃げた」
「空を飛んでるのは蝙蝠か?全く襲ってこないが」
「うわっ、逃げた兎を野良犬が追いかけてる。でも俺達には襲ってこないんだ」
町の防壁の出入り口で衛兵さんに挨拶をして町を出てきたのだが、どうやら町の防壁周辺にはノンアクティブの動物しかいないみたいだ。全く攻撃を仕掛けてこない。
魔力察知を意識してみてもユウに対してなんとも言えない違和感を感じるだけで良く分からない。
まぁ、本命はもう既に見えている森なので、それからに期待しよう。
「やっぱり夜の森は暗いね、全然先が見えないや」
「あぁ、そして予想通り人も少ないな」
森の目の前まで来たのだが、夜の森は月の光が木漏れ日となって照らしているものの、光は微量で視界は悪い。光源がなければ進むのも難しいだろう。
それを把握した上で俺達は西の森に来たのだが。
「あって良かった光属性魔法と気配察知!〖ライト〗!」
ユウが少々上擦った声で高らかに言うと、ユウの頭上に光の玉が発生した。
その光源は数メートル先ならば難なく見通せるレベルの光を放っており、視界不良という問題は解消されただろう。
それと同時に視界端のユウのMPバーが減るが微々たるものだ。
「おぉっ!本当に魔法が使えたよ!何かテンション上がってくるね!」
「思ったより明るいな、これなら俺の【魔力察知】とユウの【気配察知】で補えば普通に夜の森での戦闘も出来そうだ」
言葉通りにテンションが上がっているのか、早足になるユウについて行く。森に入って若干温度が下がったように感じる湿り気を帯びた空気が心地良い。
それにも関わらず、森に入ってから妙に落ち着かない。
何というか普段感じない違和感を所々に感じるというか、ざわざわするというか……これが【魔力察知】の影響なのだろうか?
「なぁ、結月。多分気配察知が働いてるんだと思うんだけど、違和感を感じるんだ。これってやっぱ敵かな?」
「だろうな、俺もさっきから普段なら感じないような感覚というか……でも、間違いないと思う」
「……行ってみる?」
「異議なし!」
初期装備である木で作られた『初心者のロッド」と『初心者の小盾』を握り締めて違和感の方へと駆け寄っていく。
今はユウの頭上に光の玉がある為に隠密は意味が無いと判断したからだ。
そうして駆けていきーーーーいた。
【ストーンヘッドラビット】
【ストーンヘッドラビット】
「見た目は兎だね」
「名前は頭突きしてきそうだな」
見た目はそのまんま兎で可愛らしいと言っても良いと思う。
そんな敵だっただからか緊張感というものは欠片も無く、そんな呑気なことを話していたらストーンヘッドラビットは此方に気づき、ぴょんぴょんと飛び跳ねて近づいてきた。
人間に襲い掛かってくる兎というのもシュールだが、縄張りに入った侵入者を迎撃しに来たみたいな感覚なのだろうか。
「正直、兎を斬りつけるのに抵抗あるんだけど」
「そんな事言ってると殺られるぞ。ほらユウはそっちの兎な」
「そんなこーーーッ!?」
緊張感のない表情から一変、目を見開き口元を強張らせたユウは即座に中盾を構えた。
ーーーガスッ!と、軽くない音がユウの構える中盾から響く。
その音を聞き、中盾に頭を打ちつけた兎を見た俺は咄嗟にその場から横へと飛び退いた。
ーーーヒュオッ!と脇腹の側を通り過ぎていく兎の質量に、当たった時の事を考えて冷や汗が流れるのを自覚しつつ、すぐさま体制を立て直して小盾を構える。
「〖理力!器用強化ッ!〗」
その状態で、存在を思い出した強化魔法で己を強化する。
これが初魔法なのだが……コスパわるくないか?
【精神力強化】のブランチを取ってMP量を増やしているにも関わらず、そこそこMPが減っているように見えるんだが……いや、レベル1なんて、こんなものなのかもしれない。
俺の身体を薄い青と緑のマーブル模様の光が包み込む。
意識が鮮明化し、体の端まで感覚が行き届いている様に感じた。
そんな俺の変化を気にせずに近寄って来たストーンヘッドラビットは、トッ!と軽い音と響かせ急加速して突っ込んでくる。
このルートだと俺のお腹に頭突きをかまされる事になるがーーーそうはさせない。
「ーーーーッ!」
兎の方へと小盾を構えていた俺の視界に突如、二重丸が出現する。
それは兎の頭突きの軌道上にあり、二重丸の中心部分からそこそこの速さで光の膜の様なものが広がっていく。
俺はその二重丸を瞬きせずに見つめ続け、内円と外円の間の空間に入ったその瞬間!
「ーーーーーーッハ!」
その二重丸を殴り壊す勢いで、小盾を振り抜いた。
それと同時にコーンッ!という軽い音が森の中で響く。
「ッキュ!?」
よしっ!上手くいった!
その軽い音を効果音にして、俺へと向かっていた兎が狙い通りにカチ上げられて、空中で無防備な姿を晒していた。
今俺が行ったのは、小盾を使用した『パリィ』であり、出現した二重丸はパリィのタイミングをアシストしてくれるものだ。
二重丸の内円と外円の間の空間に光の膜が入っている時に、二重丸に小盾を打ち付けるとパリィが成功する。パリィの難易度が上がるほどに光の膜の速さが上がっていく仕様だ。
俺は振り抜いた小盾を引き戻すと同時に、小盾の縁で無防備な空中の兎を殴り飛ばす。
今度はダメージ目的の殴打なので、パリィの時よりも重い手応えと共に兎が勢い良く地面へと叩きつけられた。パリィの後の無防備状態での攻撃なのでクリティカル判定の筈だ。
「ふっ!風の精霊達!攻撃っ!」
そして一息にバックステップをとり、精霊魔法で風の精霊達に攻撃を頼む。
すると、ロッドの先が淡く光ったと同時に兎の近くで風がおこり、土を軽く舞上げながら兎に切り傷を作り出した。
今の俺の精霊魔法レベルでは簡単なお願いしかできない。
レベルが上がれば複雑な指示や威力の高い技、技名を言うだけで魔法が発動など選択肢に幅がでるらしいが。
しかし、そんな低レベルな俺の精霊魔法でも、ストーンヘッドラビットのHPは0にするには十分だった様で、ストーンヘッドラビットの体が光の粒子となって消えていく。
その様子を見て気が抜けた俺は息を吐き出しながら後ろにさがり、木の幹に身体をぶつけてしまった。
「っと、バックステップは危なかったな」
あと少し勢い良くバックステップをしていたら、戦闘中に身体を木の幹にぶつけてチャンスを逃すところだった、危ない危ない。
けれど、今は初勝利という事で喜んで良いだろう。
「セイッ!」
中盾で受け止めて、落下中の兎を初心者の剣で、すくい上げるような顎への一撃を叩き込む。
ユウの方もその一撃で決着がついたようで、光の粒子を背景に此方へと歩み寄ってきた。
「遅かったな」
「誤差の範囲内でしょうにっと、〖ライト〗」
俺の軽口に軽口で返しながら〖ライト〗の追加をするユウ。確かにそこそこ時間が経ったし、効果時間がきれるのだろう。
「まだ初戦だから確証は持てないけど、戦えないことは無いね」
「あぁ、これ位なら連戦もできそうだ。因みに帰り道は把握してるか?」
「いや、してないけどメニューから開けるマップは行ったことのある場所だけ表示されるんだし、それ見て帰ればいいでしょ」
「そっか、マップがあったか。いや、視界にはステータスバー3本が小さく表示されてるだけだからかマップの存在を忘れてたよ」
「まぁ、運営側も敢えて目立たない様にしているみたいだしね。中にはマップ機能を縛ってプレイする猛者もいるみたいで」
会話を続けながら俺達は更に森の奥へと進んで行く。
俺の【魔力察知】はまだまだ反応している。しかもその反応には種類があるのだ。まだ見ぬ敵がいる可能性は高い、期待して良いだろう。
□ □ □ □
最初の戦いの後から数十分程森の中を彷徨っているが何回か戦闘があった。
今までに会った相手は【ストーンヘッドラビット】だけでなく、【野犬】や【血吸い蝙蝠】、【血吸い蜘蛛】に【血吸い草】……振り返ってみると血を吸いたがる奴が多いな。なんか急に怖くなってきたぞ。
けど、今の所は殺られる事もなく進めている。順調だと言って良いだろう、回復は途中で2本初心者用のポーションを使っただけだし。
「ん?結月、あの場所なんだと思う?」
「何処だ?って、あの場所か。確かにあそこだけ明るいな」
ここから少し進んだ場所に木が生えておらず、月光がさしている空間がある。確かに他の場所とは違う感じだ。
「行くか?」
「もちろん」
それだけ言葉を交わして、その場所へと向かう。あの場所からは【魔力察知】で何も感じないから、警戒は最小限で良いだろう。
「おぉ、なんか凄いね」
そこには倒木があり、その周りの一定範囲には木が生えていなかった、ギャップと言われる空間だろう。
その森の中に出来た小さな空間を月の光が遮られる事なく照らしており、空を見上げれば紅い月と無数の星々が見える。
光と闇が共存しているかの様な、どこか神秘的な場所だった。
「……良いな、ここ」
「確かに良い場所だね。それに安全地帯みたいだから一休みしようか」
どかっ、と地面に腰を下ろしたユウを視界の端に、俺はこの場所一帯をゆっくりと見渡す。
うん、気に入った。安全地帯だし雰囲気的にも落ち着く。この場所ならば良いかもしれない。
「ユウ、俺、この場所に決めたわ」
「決めた?…って、何を?」
疑問符が頭の上に浮かんでいそうな表情のユウからの問い掛けに、思わず口元が緩むのを感じる。確かに言葉が足りなかったな。
「俺、この場所でパートナーを呼ぶって決めた」
「パートナー……えっ?召喚獣かい!?」
目を見開いたユウに口角を吊り上げながら肯定を返す。
元々、召喚獣をすぐ呼ばなかった理由は【召喚術】を使う場所を選ぶ為だったからな。
共にするパートナー達は皆同じ場所で呼びたかったし、パートナーが初めて見る景色は思い出に残る最高のものにしたかったのだ。
……最初の理由はそれだけだったんだがなぁ。
「とは言っても、今直ぐには呼ばない。安全地帯な此処で色々と試行錯誤してみるさ」
マップのマーカー機能を使ってこの場所を登録しながら、肩を竦める。
せっかくユウが有益な情報を教えてくれたのだ、それを有効活用しない手はない。
どうすれば良いか、まだ見当も付かないが精々頑張ってみるとしよう。
「そっか、じゃあ俺はその間に戦闘と休憩を繰り返しますか。ここまできたら最後まで見届けるよ」
ニッ、と笑うユウ。顔立ちが整っているからかそれだけで絵になるという、ちくしょうめ。
「そっか、でもその前に戦果の確認しよう。色々と気になるし」
「おっ、良いね。どれ位ブランチレベルは上がっているやら」
ブランチレベルか……俺が気になると言ったのはドロップアイテムだったのだが、確かに気になる。
よし、最初にブランチレベルを確認するか。
□ □ □ □
結月
種族 人間
称号:なし
BP: 31
メインブランチ
【召喚術 Lv1】【小盾Lv6】【ロッドLv4】【強化魔法 Lv3】【精霊魔法Lv4】【魔力察知 Lv7】【魔力付与Lv2】【魔力操作補助Lv4】【精神力強化Lv5】【器用さ強化Lv5】
控え
なし
□ □ □ □
「えっ、レベル上がるの早くね?」
「うん、20レベルまでは上がりやすいって聞いてだけど、それでも早いね」
【精神力強化】などのパッシブ系ブランチはそのステータスに関わる事をすれば経験値が入るので、アクティブ系ブランチよりもレベルアップする為の必要経験値が多いらしいのだが順調に上がっている。
因みに【魔力付与】のレベルが上がっているのはエンチャント代わりで小盾に使ってみたからだ。
単純に纏った魔力の分、与ダメージが上がっている感覚で使い勝手は悪くない、魔法(殴打)も良い気がしてきた。無駄では無かったのだ。
というか、今のゲーム内時間が午後10時頃だから、現実ではまだ始めて一時間しか経っていないのか。
やばいなこれは、時間感覚が狂うのも遠くない未来な気がする。
「まぁ狩場をほぼ独占状態だし、効率が良かったのかな?でも、他にも光属性魔法持ちや暗視系ブランチ持ちだっているだろうに、まだ誰とも会ってないね」
「それな、いないわけでは無いんだろうけど、会わない位には少ないって事だよな」
最初の戦闘って事で、視界が悪く障害物が多い森は敬遠されたのか?
理由はわからないが、ラッキーだったと思っておこう。
「BPも大分溜まったな。ついでだしブランチ一覧も見るか?」
「おっ、良いね。必要BPの差で今のブランチ適性が何となくわかるみたいだから、俺と結月の差も気になるね」
成る程、確かにそれは気になる。一種の目安にもなるし情報交換しても良いかもしれない。
ブランチ一覧を開き、必要BP量が少ないブランチ順に並び替える。
おぉ、各属性魔法がずらりと並んだな。
「俺は魔法適性が高いみたいだ、各属性魔法の習得に必要なBPが1って低いよな?」
「えっ、何それ。俺が各属性魔法を覚えるとしたらBP4か3必要なんだけど、【闇属性魔法】にいたっては10必要って何さ。まぁ、【光属性魔法】を習得してるからだろうけど」
「マジか。でも確か、今は初期で覚えてるブランチも少ないから必要BP量って最低限だよな?」
「みたいだね。βテスター達も余程自身の適性と噛み合っているブランチ以外は、後で取る程必要BP量が増えるって言ってたし」
「成る程な……うわっ、近接武器系の必要BPが軒並み高い……何故か打撃系は低めだけど」
「そりゃあ、あれだけ盾で殴り倒してたらねぇ」
成る程、そりゃあ『盾=鈍器』の様な使い方をしていれば適性は上がるか。プレイヤーの行動による適性変化ってやつだな。
そんな事を考えながら、ユウの方を見れば妙にそわそわしていた。ジッと、視線をユウへと向けると気付いたユウが口を開く。
「どうしよう結月、なんか無性に【闇属性魔法】を習得したくなってきた」
「え、適性低いのに?いや、好きにするべきだと思うけどなんでまた?」
「いやね、如何しても属性が間逆の魔法同士を覚えると魔力が反発しあって、ブランチ成長が遅くなるじゃん?……だからこそ皆んな取っていないと思うんだよね」
「……つまり?」
「珍しいって、それだけで魅力的じゃない?」
「わからなくもない」
「だよね」
よし決めたぁーーと、先程まで悩んでいたのにも関わらず、迷い無く指先が動いていくユウ、【闇属性魔法】を習得したのだろう。
光と闇が合わさり最強に見えるって誰かが言っていたし頑張ってほしい。
さて、俺も先程の戦闘で欲しいと思ったブランチがあるからそれを習得して、各属性魔法の適性があるみたいだから、どれか取ってみよーーーーーん?
「……なぁ、ユウ」
「ん?どうしたの?」
俺の声は若干愉快な事になっているだろう。今の俺を占める感情は、困惑と期待。
そんな感情を乗せた視線で、俺はとあるブランチを凝視していた。
ーーーー【魔力魔法】なんてブランチ、あったっけ?
読了、ありがとうございます。
先程ですが、文章評価とストーリー評価に一ポイントずつ入れられていました。
かなり手厳しい評価でしたが、受け止めさせていただきます。
それに、素人の小説を読んで下さっている方がいるとわかっただけでも嬉しかったです。