第2話
通算。3話目ですね。
【冒険者の集う町】
「パーティメンバー募集中です!今集まっているのは槍使いと片手剣使い、それと弓使いです!」
「パーティメンバー募集中!出来れば回復魔法使える方!」
流石に人が多いな。
正式サービス開始当日なので当然と言ってしまえば当然だが、転移先の最初の町はログインして来たのであろう人でごった返していた。
装備は殆どの人達が初期装備である為に、意図せず同じ服装の集団となっており、何かの祭りでも始まりそうな雰囲気だ。
勿論、祭りが始まる訳では無いのだが皆テンションは高く、周囲の空気が人々の興奮で空気が揺らぎそうである。
「……これは、悠との合流は諦めた方が良いかな」
辺りは一面人、ヒト、ひと。
意識して見ればアバター名は頭の上に見えるのだが、この中から探すのはごめんこうむるし、そもそも俺は悠のアバター名を知らない。正直詰みだった。
「…仕方がない、あいつとは今度リアルで連絡とって「えっ……」……ん?」
ふと、視界の端に俺の事を凝視して固まっている人が見えたので、俺も相手に視線を移してその容姿を観察する。
第一印象は中性的な見た目という事で、一瞬性別に迷ったが恐らく男。身長は165㎝前後で身体の線は細い。金髪の癖っ毛を男にしては長めのショートにしており、何方かといえば垂れ目気味の青い瞳。
口元は呆然としているのかポカンと開いており、そこはかとなく間抜け面だが、ある程度整った顔立ち。
何処と無く、見覚えがある様な無いような感じだったのでアバター名を見てみれば【ユウ】とあった。
……………あっ。
「悠……お前、女性感増したな」
「えっ、嘘だよね……って!【結月】ってやっぱり真尋かい?」
「おう、恐らくその結月真尋だ。今日合流出来るとは思わなかったよ」
「それはそうだけどさ……見た目なんで現実と……いや、何でもない。考え方の違いくらいあるよね……うん」
どうやら何かで自己完結したらしく、何度か頷く悠……もといユウ。それもすぐに終わり、こちらの方に向き直った。
「諦めずに探した甲斐があったよ。取り敢えずは町の店を見てまわりながらフィールドに出ようか。何方に行く?」
「そうだなぁ……俺も良く分からんが、南に行く人が多いから南のフィールドは飽和してるかもしれないな……町の住人達が家に帰っちゃう前に話を聞きつつ、町中を歩こう」
「ん、そうしようか」
そうして取り敢えず適当に歩き出す俺達。しかし話す内容に困る事は無く、歩きながらも会話は続いていた。
「にしても不思議な感じだよ、朝の9時にログインしたのに此方は夜になりそうなんて……体感時間を加速させてるって話だけど、こっちの24時間が現実の6時間とか信じられないよね」
「それな、時差ボケみたいなのがあったら少し辛いな」
そう、この世界は詳しい原理は企業秘密で世間に公開されていないのだが、プレイヤー達の体感時間を操作しているらしく、現実での6時間が此方での24時間、つまり現実での1日は此方での4日となるわけだ。
受験生や営業マンやらが求めてやまなそうな技術だが、今のところTDO以外でこの技術を使う予定は無いそうだ。確かにオーバーテクノロジーじみている技術ではあるのでわからなくはない。
「で、本題の初期ブランチだが…ユウ、お前聖騎士的な構成だろ」
「えっ、何でわかったし」
「知らん」
「会話のキャッチボールぇ……」
そう言いながらユウは、メニューウィンドウを開いて操作を始めた。その途中に思い立ったのかフレンド申請とパーティ招待が飛んできたのでそれを受諾。視界の端にユウの名前と【HP】【MP】【SP】の三本のバーが表示された。上から順に緑、青、橙となっている。
「はい、俺のブランチはこんな感じだね」
そう言って他人にも見える様になったウィンドウを此方に向けてきたので、遠慮なく見させてもらった。
□ □ □ □
ユウ
種族 人間
称号 なし
BP:0
メインブランチ
【剣 Lv1】【中盾 Lv1】【メイス Lv1】【格闘Lv1】【筋力強化Lv1】【身体力強化 Lv1】【精神力強化 Lv1】【回復魔法 Lv1】【光属性魔法 Lv1】【気配察知 Lv1】
控えブランチ
なし
装備
頭:なし
胴:簡素な服
手:なし
下半身:簡素なズボン
足:簡素な靴
右手武器:なし
左手武器:なし
アクセサリー:なし
所持金:5000R
□ □ □ □
「基本的に近接で戦いながら自分で回復も出来る……簡単に言えば、死なずに前線を維持する感じかな?」
「うへぇ、攻撃しても回復しながら反撃してくるとか…キツイな」
「あはは、まぁ昔から殴りヒーラーは結構強いから。で?結月のブランチはどうなのさ?」
「ん?あぁ、ちょい待ち……ほい」
ユウにブランチを見せてもらって俺だけ見せないというのも不自然であり、それに元々見せるつもりであったため、素早くウィンドウを開きユウへと見せる。
「どれどれ?」と、興味深々にそのウィンドウを見たユウの表情は最初に驚愕の色にそまり、次第に微妙なものへと変わっていった。
□ □ □ □
結月
種族 人間
称号:なし
BP:0
メインブランチ
【召喚術 Lv1】【小盾Lv1】【ロッドLv1】【強化魔法 Lv1】【精霊魔法Lv1】【魔力察知 Lv1】【魔力付与Lv1】【魔力操作補助Lv1】【精神力強化Lv1】【器用さ強化Lv1】
控えブランチ
なし
装備
頭:なし
胴:簡素な服
手:なし
下半身:簡素なズボン
足:簡素な靴
右手武器:なし
左手武器:なし
アクセサリー:なし
所持金:5000R
□ □ □ □
「えっと……結月はβテスター達の情報は読んだ?」
何とも言えない様な雰囲気を醸し出して問い掛けてくるユウ。……そこはかとなく嫌な予感がする。
「いや、読んでないけど……何か不味かったか?」
「あー、読んでないパターンか。いや、楽しみ方は人それぞれだし問題無いんだけど……結月のブランチはちょっとクセがあるやつもあるというか、組み合わせがなんと言うか……」
「オブラートに包まないと?」
「……ドンマイ」
「マジか」
一瞬立ち止まってしまった俺に困ったような苦笑を向けてくるユウ。
どうやら俺は始めて早々に暗礁に乗り上げたらしい。個人的には召喚術で呼んだパートナーを主軸に、手助けしながら一緒に戦うイメージでブランチを取ったのだが……。
「えっと、とりあえず何も知らないのはアレだし説明しようと思うんだけど、良いかな?」
「……頼む」
「わかった。まず【召喚術】だけど『魔力石』を消費して召喚獣を召喚する。で、こちらの時間で一週間の間に互いに契約を成立させれば晴れて仲間になる。召喚獣はパーティーメンバー扱いだから最大5体まで呼べるはずって言われてるけど……ここまではいい?」
「あぁ、それは流石に知ってる」
「だよね。で、問題なのはその召喚獣なんだ」
「どういうことだ?」
今のところは俺の知っている情報通りだ。
「うん、βの時に【召喚術】を取った人達がいたんだけどさ。【召喚術】のブランチ取った時に貰えるアイテムって『魔力石』5つだろう?」
「あぁ、俺もペリドットさんから貰ったのがある」
「へぇ、担当はペリドットさんだったんだ。まぁそれは置いといて、だからその人達は始めて早速その魔力石を使って召喚したらしいんだけど……全く懐かなかったらしいんだ」
「……ん?契約が不成立になったって事だろう?それがどうしたんだ?」
契約の事は承知の上だ。
互いの命を預けあう仲になるわけだから気が合うかどうかなども大切なのはわかるし、慎重になるのも頷ける。だから今までの会話に何の問題も無かったと思うのだが。
「いや、まぁ、そうなんだけど、より正確に言うと召喚したのに無視されたり、逃げられたり、威嚇されたり、中には帰っちゃったり、問答無用で攻撃されたりした人も居たらしいよ。なんというか、契約云々の前に拒絶される事が殆どだったみたい」
「話も聞いてもらえないのか?」
「うん、わかりやすく言っちゃえば『魔力石』を消費してエネミーをポップさせている様な感じだね」
「……原因は?」
原因も無くその様な事になっているのならば【召喚術】というブランチ自体の存在意義が不明になってしまう。そんなブランチを運営側は用意し無いというメタ読みも入っているが、何かしらの理由がある筈なのだ。
しかし、首を横に振られてしまった。
「今の所不明だね。【調教】を持ってた人は1週間もったらしいけど契約は不成立。まぁ極少数の成功例はあるんだけど、根気良く接したり、肉体言語で語ったりと他にも似た様な事をやっている人がいるのに成否が分かれて……やっぱり不明なんだよね」
「そうか……情報、ありがとう」
「いえいえ」
つまり、このまま【召喚術】を使っても結果は見えているということだ。
まぁ、元々俺はすぐに呼ぶつもりは無かったが、これは準備の段階で色々と試行錯誤する必要がありそうだな。
ペリドットさんも最後に『焦らず色々と挑戦してみて下さい』って言っていたし、きっとこの事だったのだろう。
「で、次なんだけど」
「えっ」
思わず声が漏れてしまった俺に「あはは……」と力無い苦笑を向けてくるユウ。えっ、まだ何かあるの?
「これは結月の思考を予測してみたんだけどさ。お前、敵に接近されたらロッドでブン殴ろうとか考えてない?」
「何故わかったし」
「やっぱり……」
【小盾】を取ってるから接近戦もやるつもりなのかなぁってーーーーと推測を語るユウは先程から苦笑したままだ。
確かに、俺は小盾で相手の攻撃をパリィ、つまり相手の攻撃をいなしたり、弾いたりして隙をつくってからロッドで殴るとか考えていた。世の中には杖術というものがある位だし、いけると思ったのだが。
「そのロッドだけど、物理耐久値が凄く低くてね……近接攻撃しようものならすぐ壊れる」
「えっ」
「ロッドは魔術用って事でかなり精密って設定みたい。逆に【杖】っていうブランチもあるんだけど、これは魔法補正がロッドより低い分、物理攻撃も可能な耐久をもってるんだけど、どちらも補正が中途半端なんだよね」
完全に固まっている俺に苦笑を向けながらも、容赦なく現実を突きつけてくるユウ。……いや、ゲームの中だけど。
「た、盾で殴ればいけるだろ……」
「お、おぅ……」
震える声でそう返すのが精一杯だった。正直色々と計画が破綻してきていてやばい。声だけでなく手足も震えてきている気がする。
「……あー、次は【精霊魔法】についての注意なんだけど」
「……まだまだあるんだな?」
「…………」
「泣きたい」
思わずといった感じで顔を逸らすユウを見てそう呟く。恐らく泣いてはいないが真顔にはなっているだろう。
いや、ちゃんと公式のブランチの説明は読んだのだ。
しかしTDOの公式はプレイヤーの想像力を掻き立てたいらしく、直接的な情報はアイテムやブランチの説明文にはあまり書いていない。
なんというか、遠回しな言い方というか曖昧というか……面白いのだが説明文としては微妙なのだ。
【精霊魔法】の説明文を抜粋するとこんな感じだ。
□ □ □ □
【精霊魔法】
自然界に存在すると言われている精霊に己の魔力を対価に現象を起こしてもらう。
精霊は気まぐれな隣人である。
隣人であるからこそ互いに尊重し合わなければならない。
気まぐれであるからこそ、頼もしくもあり恐ろしくもある事を忘れてはならない。
□ □ □ □
確かに言いたい事はわかるのだが…といった感じである。
これは運営がわざとこの様な文にしていると公言しているので、どうしようもないのだろう。
「えっと、とりあえず説明するね?」
「……頼む」
「うん、精霊魔法のメリットは精霊にMPをあげて魔法を使うから、基本的には1から魔法を使うよりも少ないMPで魔法が行使できるし、場所さえ合えばどんな属性でも使えるってことなんだけど……これも場合によるんだ」
「あー……周りに精霊がいないとかか?」
「おっ、良くわかったね。例えば砂漠とかで水の精霊に水を出してもらうのは難しいんだよ。
砂漠には水の精霊の数が少ないから、無理矢理行使したら水属性魔法で水を出すよりもMPを大量に消費するし、しかも効果も弱いものになる」
「それは納得できるな。でも、だったら砂漠での精霊魔法は土とか風とか使えば良いんじゃないか?」
場所により、精霊魔法の属性の向き不向きがあるのは納得できる。
だったらその場所に向いている属性を選択してやれば良いだけの話だと思うのだが。
「確かにそうなんだけどね……また例えになっちゃうけど、火山だったら火属性の精霊魔法が場所相性が良いのはわかるよね?」
「あぁ、イメージ的にもそうだな」
「うん。じゃあこれもイメージで良いんだけど、火山に出てくるエネミーに火属性で攻撃ってどう思う?」
そう言われて想像してみる。
炎を纏っているような化け物に対して火属性の魔法を使う……成る程。
「効果は今ひとつってわけか」
「そういうこと。まぁ、これくらいのデメリットがないと【各属性魔法】のブランチの存在意義が無くなっちゃうから仕方ないとは思うんだけど、弱点をつきにくいって事で【精霊魔法】は余り人気が無いかな」
確かに。これは仕方がないと受け入れるしかないだろう、工夫して使いこなせるようになるしかない。
「次は【魔力付与】だけど、これはどういうイメージでとったの?」
「これはエンチャント目的だな。魔力を付与できるなら【精霊魔法】とかで作った炎とかを召喚獣の武器にエンチャントするとかさ。協力技みたいでかっこいいじゃん?」
「……結月」
「……やっぱなんかあるん?」
「あるというか何というか……エンチャント魔法は【各属性魔法】や【精霊魔法】のリーフで基本的に覚えられるんだ」
「……マジ?」
「一応、適正やら何やらで習得出来ない人もいるんじゃないかとは言われてるけど、基本的には覚えられる」
「え……じゃあ、本来の【魔力付与】ってどう使うん?」
「生産職の人が魔法武器や魔法防具、マジックアイテムを作る時に……」
「……そんな説明書いてなかったぞ」
「βテスター達からの情報です……」
……使い方が無いわけではないのだ。
エンチャントとして使えないわけではないし、自分の武器防具を作ってもらう時に協力とかできるかもしれないではないか。だから無駄じゃない。無駄ではないのだ。
「……次のブランチの情報をお願いします」
「う、うん、えっと、【器用さ強化】だけど、これはどうして取ったの?」
「パリィ成功率とか攻撃命中率とかを上げる為に」
「た、確かに、器用さはそういうのにも関係してるしね。良いんじゃないかな?」
「……本当は?」
「……他のゲームよりも攻撃命中率やパリィ成功率はPSに依存するから、器用さは何方かと言えば生産職系の重要ステータスです」
「…………」
「だっ、大丈夫だよ!TDOは無限の可能性があるんだから!結月のプレイスタイルも必ず見つかるって!」
やばい、気を遣ってくれている感満載な言葉が心に痛い。
やはりβテスター達の情報は読んでおいた方が良かったのだろうか。
事前情報は可能な限り見ずに、自身の試行錯誤やフレンドからの情報などで頑張っていこうと思っていたのだが……想像以上に俺のTDOは前途多難な様だった。
読了、ありがとうございます。