prologue
どうも、鎌木 遊兎と申します。
まだ小説を書くという行為自体に慣れていない者ですが、よろしくお願いします。
受験生達の戦いが殆ど終わりを迎え、気の早すぎる桃が梅の花に混ざって咲いているかもしれないような時期。
まだ肌寒い季節の特に寒い時間である早朝、朝にあまり強く無い俺は友人との約束を果たすために、眼を擦る気力も起きない状態で、唯ひたすらに行列の比較的前の方で佇んでいた。
「……悠、後何分だ?」
「もう後10分きったよ。結月は腕時計とか持ってきて無いのかい?」
「朝の記憶が曖昧でな、顔を洗って歯を磨いて財布と鍵だけ引っ掴んで出てきた事しか覚えて無い」
「…覚えてるじゃん」
「……すまん、意識が朦朧としてたの間違いだ」
「……大丈夫?」
「正直、中途半端に寝るんじゃなかったと後悔してる」
「おいおい…」
ため息を吐くようにそう言った悠は、普段よりも若干落ち着きなく足踏みをしている。
此方を見たり、列の先頭をみたりと心有らずといった感じだ。
こいつは【清水 悠】《しみず ゆう》という小学生からの友人で、大学受験の後に東京に来て一人暮らしを始めたのは【結月 真尋】《ゆづき まこと》……俺と悠だけという事もあり、ちょくちょく会っては暇を潰し合う仲だ。
そして今日は新作のVRMMOである【Tree Diagram Online】を一緒に買いに行くという約束のもとに、こんな寒い朝っぱらから男二人して突っ立っているのである。
肌を刺す様な、冷たく乾燥した空気に包まれても俺の眠気は覚めることも無く、いつシャットダウンするかわからない意識を保つ為に、取り敢えず口を開き言葉を垂れ流す事にした。
「理由無く起きてた訳じゃないぞ、少し前まで受験でin出来てなかったFPSを、またやり始めてたんだけどな?またin率下がるかもってコミュ仲間に伝えたら『引退か?引退なのか?』って言われて……」
「そのままゲームしてたと……FPSゲーの推奨年齢が泣いてるね」
「分隊員がそれを言うか」
「それもそうだね『脳外科医』さん……視界に入ったと思ったらヘッショされてるって何さ」
「おいその呼び方やめい」
「皆そう呼んでいるんだから問題ないだろう?」
そんな下らない事を話しながらも、記憶を引っ張り出すという行為により、脳みそが回転し始めたのか話題は変わりながらも会話は続いていく。
そして、会話が続けば必然的に話題は俺達が買おうとしている【Tree Diagram Online】のものとなった。
「結月はVRMMO自体が初めてなんだよね?」
「あぁ、MMOは少しやった事あるけどな。VRMMOは世間の評価を見た上で買おうとは思えなくてな…10万円以上はなぁ……」
「確かにねぇ……俺は実際に買ったけど、正直少し後悔したもの」
VRMMOというジャンルのゲームは少し前からちょこちょこと出ていたのだ。
それでも今なお、唯のMMOの方が主流だと言えば、どれ位のできだったかわかってもらえるだろうか?
アバターと自身の感覚のラグ、容量の限界によって如何しても狭まるシステムの自由度、同じ言葉ばかり繰り返すNPC、グラフィックの限界etc……これをやる位ならば、画面越しだろうと自由度の高いMMOをやった方がマシというのがユーザー達の総意だった。
……そう、だったのだ。
今回俺達が買おうとしているVRMMOである【Tree Diagram Online】……略して【TDO】は、その総意をいとも簡単にひっくり返した。
最初にTDOが世間の目に触れたのは国内でも有数のゲームの祭典。
そこの一角に『開発中につきアバター固定』の文字が掲げられ、TDOと専用に造られたと思わしきゲーム本機が、5つベッドと共に並べられていた。
他のゲームと違いPVを流していなかった事で逆に目立ち『VRMMOか……』と思われながらも興味半分冷やかし半分でヘルメットの様な本機を被り、ベッドに横になってゲームを始める人達。
ーーーーその瞬間、彼ら彼女らは何処かの町の道の端に佇んでいた。
何が起こったのかわからず、呆然と立ち尽くすプレイヤー達。
そんなプレイヤー達を不思議そうにチラチラと見てくる通行人達。
風が頬を撫でた感覚が全身へ伝わっていき、意識が戻ってきた1人が恐る恐る一歩を踏み出すと、感じたのは普段と変わらない靴裏越しに反発してくる地面の感触。
手を握りしめれば爪が皮膚に食い込み違和感の無い違和感を感じた。
そこからTDOというVRMMOの存在が知れ渡るのに時間はかからなかった。
興奮して戻って来たプレイヤーや、感極まって近くに居た開発陣と思しき人物に握手を求める人、SNSに情報をアップする人など……その様な体験プレイヤー達の様子を見て興味が湧いた人達がプレイして戻ってきては同じ様にと、瞬く間に注目の的となったのだ。
後日にもマスコミやネット、口コミなどでその情報は世界を駆け巡り、更にTDOの公式ホームページが立ち上げられ、ゲーム業界を席捲した。
そんな【Tree Diagram Online】の発売日が今日。
今並んでいるのは抽選で販売第一弾を買う権利を得た幸運な者たちなのだ。
「そんな別のVRMMOをかじったことのある俺から言わせてもらっても、【TDO】は凄いよ。あの現実と区別がつくかどうかも怪しいグラフィックだけでも凄いのに、ゲームシステムも凄いなんてさ」
「コンセプトが『仮想異世界でプレイヤー個々に無限の可能性を』だからな。プレイヤーの言動やPSなどによって適性や習得可能スキルが変わってくるなんて、どうしたらそんな事ができるのやら」
「【スキル】じゃなくて【ブランチ】ね」
「……どっちでも良くね?」
そう、TDO開発陣は”強スキル構成の固定化などを防ぐ為”という理由でとんでもないシステムを作り上げた。
それが”プレイヤー個々のPSや言動、行動理念やらによって習得可能ブランチやその他適性などに差をつける”というものだった。
しかもブランチは既存のものだけで無く、プレイヤー達次第では新しいブランチが生まれる可能性もあるという徹底振りである。
「楽しみだなぁ。始めたらまずは可能な限り合流して、ブランチの見せ合いだね」
「そうだな。まぁ悠のブランチの構成は予想つくけど」
そんな事を話しているうちに時間は着々と進んでいく。
【Tree Diagram Online】、多くの人の期待を受ける仮想異世界への扉が開くのは遠くない未来の事だ。
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「あー……疲れた」
ーーーーどさっ、と埃が立つのも気にせずにベッドに寝転ぶ。
見慣れないシミひとつ無い天井を眺めながら、まだ慣れていない新居である部屋の匂いを肺一杯に溜め込んで……思いっきり吐き出した。
TDOの正式サービス開始は明日の午前9時からである。
今日はそれまでに今朝買ってきたゲーム機のセッティング、次に脳波を覚えさせてから設定をしてアカウントを作成、その後には公式から公開された”ブランチ一覧”から目ぼしいブランチを探そうと思っていた。
……いたのだが、アカウント作成が終了した俺にそれ以上の事をする気力は残っていないと言って良い。
家に戻って来たのが10時、そして今の時間は10時である。
より詳細を言うとするならば、午前10時に帰宅した後、洗濯だけ済ませてからセッティングを開始、セッティングが終了したのは午後1時半頃。
そして極め付けは昼食やその他諸々を済ませてからの脳波測定、なんと2時間半ずっと動く事も出来ずにひたすら待ち続けた。
正常な脳波を読み取る為らしく、可能な限り何もしないで欲しいと説明書に書いてあったので素直に従ったのだが、流石に疲れた。
脳波測定が終わる頃には午後6時近くになっており、洗濯物を取り込んだり夕食や風呂を済ませた後に身体の情報をカメラを使った上でインプットして、設定やアカウントの作成が終了する頃には午後10時というわけだ。
「…βテスター達の情報は元々見るつもりないけど……ブランチ一覧だけ軽く目を通して、ティンときたやつだけ覚えとこう」
実家の様に家族の声が聞こえない、静まり返った新居に俺の呟いた声が妙に響いて聞こえる。
そんな無駄にホームシック的な感情を煽る状況だが何事も無くネットを開き、TDO公式ホームページへとんでブランチ一覧を開いた。
「うわっ、想像以上に多いな…」
開くとそこには、延々と続いている様に思える文字の羅列があった。
流石に運営もそれだけでは酷だと思ったのか検索機能は付いていたので、それを駆使すれば己の求めるブランチが見つける事ができるはずだが。
第一に選ぶ条件は、”ソロでもある程度楽しめる”ものである。
どちらかといえばゲームを純粋に楽しみたい俺としては、パーティ前提であるとどうしても足並みを揃える必要があるし、人間関係が関わってくる以上は自由に動く事が出来ない。
それは俺の望む所ではないので、普段はソロで活動しつつ、気の合うフレンドと偶に組むというのが最善かなと考えた次第だ。
「【隠密】や【気配察知】……うーん、暗殺者プレイがしたいわけじゃないしなぁ。魔法は使ってみたいけどソロの魔術師は……いやでもなぁ」
口から言葉が漏れているのを自覚しつつブランチを眺めていく。
興味を惹かれるものが無いわけではないが、ソロ前提という事と、どうも主軸ブランチにするにはティンとこなくて、記憶に留めるだけで読み進めていく。
「んー……そういえば適性とかどうなるんだろ……やっぱり初期ブランチが結構影響与える感じなのかな……ん?」
ふと目に留まった一つのブランチ。
「…………召喚術」
妙に惹かれた気がした。
自身の想定していたブランチとは全く違うが、確かにこれならば己の自由に【Tree Diagram Online】を楽しむ事ができるだろう。
何よりも全く先が予想出来ないし、このブランチ関連のイベントもありそうである。
「だとしたら魔法関連ブランチを……後は保険として……」
主軸が決まれば先程まで悩んでいたのが嘘のように欲しいブランチが決まっていく。
正式サービス開始は明日、しかしTDOはもう始まっているのだ。
読了、ありがとうございます。
小説を書くって、難しいですね。
口調でキャラの差別化を図ったり、状況説明と心理描写を混ぜ合わせて、地の文を作ったり、上手く出来ない事ばかりです。
後、誤字脱字も怖いです。
いつの日か、改稿とか出来るようになるのでしょうかね?
頑張って、上達したいものです。
※少々修正を加えました。